こんにちは! フォトグラファーのKoichi(@Kfish1882)です。自然風景や街並みを生かしたポートレートを撮影していて、前回の記事ではリフレクションの撮り方を紹介しました。
私の好きなシチュエーションの一つに「雨」があります。雨の日は街に人が少ないので撮影しやすく、普段と違う光景に出会えるチャンスです。濡れた路面のリフレクションや雨粒に反射する光などで、世界がいつもよりキラキラと鮮やかに見えます。
今回は、雨を生かしたポートレート撮影の基本と、魅力的に切り取るアイデアを紹介します。
雨ポートレート撮影の事前準備
傘をさしている分スペースを取るため、撮影は周囲に人が少ない場所で行います。モデルさんの服装・髪型や、撮影者の機材・持ち物にも雨ならではの配慮が必要です。
【服装】レフ板効果のある明るい色のもの
雨の日は昼間でも日差しが少なく薄暗いので、モデルさんの服装は白や水色など明るい色がオススメです。レフ板効果で顔色を明るく見せる効果もあります。また、ポーズや動きによって裾が濡れて汚れる可能性があることを事前に伝えておきましょう。
髪型は、一つに束ねたり三つ編みにしてもらうと湿気による乱れが気になりません。
【雨具】撮影シーンに合わせて傘を使い分ける
モデルさんの表情や仕草、背景の色や光を生かしたい場合は透明なビニール傘。引きで撮る場合は、鮮やかな色の傘を選ぶとアクセントになります。
透明なビニール傘は、雨雲の隙間からさす光を取りこんで明るく写すことができるので、はじめての雨ポートレート撮影にオススメです。街中など明るい背景で撮る場合は、ビニールの部分が白とびしやすいので傘に露出を合わせます。
※ビニール傘を使ったポートレートの撮り方はこちら 。
鮮やかな色の傘は、ポツン構図や顔を写さず傘をポイントにして撮る場合に効果的です。上の写真は、しっとりとした渓谷の空気感を切り取るために離れた場所から撮影していますが、赤い傘のおかげでモデルさんの存在感も出ています。
傘以外の雨具を生かした画づくり
傘以外にもレインブーツやレインコートなどの雨具を準備すると、手元や足元も印象的に切り取れます。鮮やかな色やかわいい柄のついたものなど、アクセントになるものを選びましょう。
【機材】F値の小さいレンズで明るく写す
- カメラ:防滴性能が優れたものを選びましょう。Z 7IIは特に防塵防滴性能がいいので、撮りやすさを優先して傘をささずに使用しています。さす場合はレンズまわりが暗くならない透明なビニール傘が撮りやすいです。 カメラ用のレインカバーは、万が一の豪雨に備えて持ち歩いています。
- レンズ:寄りの表情や雫を撮る場合は50mm単焦点、風景をダイナミックにとらえてポツン構図で撮る場合は14-30mm広角ズームを使います。暗いシーンでの撮影が多くなるので、なるべくF値の小さいレンズがオススメです。なお、レンズの前玉に雨粒がつくのを防ぐために、レンズフードをつけています。
その他の雨対策として、機材を拭いたり、モデルさんに使ってもらうためにタオルを複数枚用意します。また、濡れたタオルを入れたり、機材やカバンを雨から守るために、ビニール袋も何枚か持っていると便利です。
基本編:雨撮影の設定・時間帯と編集のコツ
【設定】光量や雨量でシャッタースピードを決める
基本的に暗い状況での撮影になるので、背景や雨粒の描写をコントロールしつつ、露出を得ることがポイントになります。
- 撮影モード:マニュアル。背景に合わせてF値を設定し、シャッタースピードで雨粒の描写や明るさをコントロールします。
左:F1.8、右:F8
- F値:撮影場所が暗い場合や背景・雨粒をぼかす場合は、開放F値で撮影します。背景や雨粒をしっかり写したい場合は、F2以上に絞ることが多いです。
- シャッタースピード:雨粒を写し止める場合は、周囲の明るさや雨量に合わせて1/50~1/125秒を目安に設定します。上の写真は暗い状況だったので1/50秒に。暗めの背景を選んで街灯の近くで撮影すると雨粒が見えやすくなります。
ストロボ撮影をする場合は、通行人がいないことを確認してモデルさんの背後からスピードライトを発光させると雨粒を写し止められます。
その他の設定
- ISO感度:ISO200以下を目安になるべく低く設定。シャッタースピードを遅くしても明るさが足りない場合は、上限ISO400で調整します。
- フォーカス:基本的にAFで問題ありません。前ボケを入れたり傘越しに表情を狙うときは、MFの方が撮影しやすいです。
【時間帯】周囲の色や光の向きを意識する
雨の中での撮影は写真の色味が沈みがちなため、時間帯ごとの色や光を取り入れて画づくりするのがポイントです。
植物や人工物の色を入れて印象的に切り取る
昼間の雲で覆われた空には光がうっすらと全体に回るので、陰にならない場所で被写体が立体的に浮かび上がる顔の角度や撮影位置を見極めるのが大切です。また、色の鮮やかな植物や人工物を取り入れると、雨の光景を印象的に切り取ることができます。
雲間から光がさしている場合は、光が顔に当たるようにモデルさんにお願いします。視線の方向に少し抜けをつくり、先にあるものを見る人に想像させる構図に。あいた部分に花の前ボケを入れて彩りをプラスしました。
彩りを足す前ボケ(A)/被写体/視線の先の抜け(B)。鮮やかな色の前ボケを入れる場合は、カメラ目線だと手前がごちゃついた印象になるので、視線をそらして情報を分散させることが多いです。
暗い場所から明るい場所にカメラを向けると、前景とモデルさんがシルエット気味になり光が当たった部分の色が際立ちます。
上の写真のように、大きな木などアクセントになるものの間に立ってもらい、シンメトリー構図をつくるとインパクトのある写真になります。逆光で撮影するときは、特にビニール傘が白とびしやすいので、背景に木の枝などを重ねた上で、傘の露出を優先しましょう。
街中で撮影するときは、アクセントになる色や柄のついた壁・看板を探します。
上の写真は、路地で見つけたかわいい看板に注目しました。並んだ提灯の光が顔に当たる位置に立ってもらい、表情を浮かび上がらせています。看板と表情に目がいくように、上のあいたスペースは提灯の前ボケで埋めました。
街明かりを生かして幻想的に写す
夜は街のネオンや街灯で光と色を取り入れます。濡れた路面やガラスの反射を生かすと、さらに幻想的な世界を表現できます。
街明かりで撮る場合でも、光源の場所や光の向きを読むことが重要です。
上の写真では、左斜め上にある明るい看板の光が当たるように顔の向きをお願いしています。光の色もポイントで、顔に当たる光は透明感が出るように白っぽい色。背景は赤や青などカラフルな光が写る場所を選んで、写真を華やかに演出しました。開放F値にすることで背景のごちゃつきが抑えられ、ネオンの玉ボケでよりドラマチックになります。
濡れた金属の手すりなどを前ボケにすると、プリズムを使用したようなアート写真になります。普段と少し違った雰囲気を気軽に楽しむことができるのでオススメです。同じシチュエーションで人と傘をぼかすと、傘の色がアクセントになり雨の夜の空気感が伝わる1枚になりました。
【編集】明暗差を強調して立体的に仕上げる
左:編集前、右、編集後
雨の日はフラットな光になるので、撮る時点で見せたい部分に光を当てて、編集では明暗差を強調することが大切です。色味は基本的に寒色・暖色の中間にすることを意識しています。色の偏りが出ないように色別に彩度を調整しながら何度も見直して仕上げます。
上の写真の場合は、モデルさんの顔に雲間からさす光が当たるように撮影。編集でハイライトを下げてシャドウを上げることで、肌の血色感を保ちつつ明暗のメリハリをつけました。
中級編:雨アイテムや濡れた地面を生かす
ここからは、雨の要素をさらに生かした表現のアイデアです。まずは、雨アイテムや濡れた地面を生かした撮り方を紹介します。
【アイテム】レインブーツや傘をポイントにする
手元や足元に寄って想像が膨らむ1枚に
レインブーツなどのアイテムや雨の雫を主役にして、足元や手元などのパーツを切り取ると、雨の雰囲気が強調されて想像が膨らむ1枚になります。
レインブーツをポイントにする場合は、ツヤが出るように足の角度を調節してもらうと、濡れた感じが伝わってより効果的です。
右の写真は、湿度の高い空気感と雨によって落ちた花びらの儚さを表現しました。花びらの流れの先に足を置いてもらい視線を誘導し、レインブーツや地面に光が入る角度で撮影。あいた部分を近くに咲いていた花の前ボケで埋めることで、散る前の姿が想像されて花びらの儚さがより感じられます。
また、したたる雫も雨ならではのフォトジェニックな被写体です。水滴は大きいほど落下速度が速いので、雫は1/125~1/250秒と少し速めに設定します。
上の写真は、提灯からしたたる雫をポイントにして、手元をドラマチックに切り取りました。雫に光が入る位置から撮ることで、ツヤ感を引き出すことができます。
傘や濡れたガラスをフィルターにする
透明なビニール傘や濡れたガラス越しに撮影すると、ソフトフィルターを使ったようなふんわりとやわらかい描写になります。
傘フィルターは、かける部分を自在に調整できるのもポイントです。
左のように表情の一部を隠すようにすると、どこかミステリアスな印象に。開放F値で大きくぼかすと傘についた雨粒が玉ボケになり、しっとりとした雰囲気が引き立ちました。
右のように全面を傘で覆う場合は、光の反射を生かして見せたい部分に目がいくように画づくりします。撮影者の立ち位置によって反射の位置が大きく変化するので、ファインダーをのぞきながらベストな角度を探しましょう。
寄って撮る場合のピントは、基本的に目や花などポイントになる被写体に合わせます。傘フィルターを使う場合はAFが迷子になりやすいので、MFで合わせると確実です。
上の写真は、待ち合わせのシーンをイメージして電話ボックス越しに撮影しました。電話ボックスのガラスと外の景色の層を意識することで、奥行きが生まれて映画のワンシーンのような1枚に。車のライトや信号機の玉ボケ、雫のきらめきがよりドラマチックに演出します。
ランタンの明かりで見せたい部分を強調する
暗い場所では、ランタンで光源をプラスして見せたい部分だけを照らすのも効果的です。温かみのある光でレインコートの柄や口元の表情が浮かび上がり、光を透過したビニール傘の前ボケもアクセントになりました。
【地面】水たまりのリフレクションを狙う
水たまりのリフレクションも雨ならではの光景です。建物の角を中心にして、地上と地面で二分割構図をつくり上下左右をシンメトリーに。ローアングルから広角レンズでとらえると、パース効果で建物の立体感が引き立ち、よりダイナミックに表現できます。また、窓の多い明るい建物を選ぶのもポイントです。中央のモデルさんが窓の光に照らされて際立ち、明暗差で映りこみもくっきりします。
※リフレクション撮影のポイントについて、詳しくはこちら。
応用編:スピードライトや多重露出を活用する
雨の中での撮影に慣れたら、スピードライトやカメラの多重露出を活用すると表現の幅が広がります。
【ストロボ撮影】バックストロボで幻想的な世界を写す
バックストロボとは、スピードライトを遠隔操作してモデルさんの背後から発光させる撮影方法のこと。光が当たった部分の雨粒がキラキラと描写され、写真ならではの幻想的な世界を描けます。
リモートフラッシュとして使えるSB-5000
SB-5000は、電波制御が可能なスピードライトです。Z 7IIでリモート発光させるには、ワイヤレスリモートコントローラー WR-R11bもしくはWR-R10(販売終了)が必要です。
※Z 7IIのリモートフラッシュについて、詳しくはこちら 。
シャッタースピードを雨が止まる速さ(このときは1/50秒)に設定し、ISO感度400~200(このときはISO400)を目安に下げていくと、スピードライトの光が当たっている部分以外が暗くなりきらめきが引き立ちます。
上の写真のように、ライトアップされた場所を背景にすると広範囲の雨粒が写り、中央のモデルさんへ視線を誘導する効果もあります。
スピードライトの注意点
人の多い場所でのストロボ撮影は迷惑行為になるので、周囲の様子を十分確認して使用します。また、濡れたスピードライトは感電の危険性があるので、濡れた手で直接触らないようにビニールなどで覆った状態で操作しましょう。
【多重露出】非現実的な世界観をつくり出す
バックストロボではモデルさんの周辺の雨粒しか写りませんが、多重露出を活用すれば、1灯のスピードライトで画面全体に雨粒を写すことができます。
※多重露出を使った作品づくりについて、詳しくはこちら。
ベースの左の写真は、なるべく暗い場所を選んでモデルさんの周囲だけをバックストロボとランタンで照らしています。重ねる雨粒の写真が際立つように、縦構図で上部をあけて撮影しました。
重ねる右の写真は、カメラにスピードライトを装着して、真っ暗な夜の空に向けて発光させて雨粒を玉ボケで写したものです。
写真の明るい部分が優先される比較明合成で重ねると、全体に雨粒を写しつつ主役が際立つ幻想的な1枚に。童話「マッチ売りの少女」のような世界が現れました。
Photographer's Note
雨はテンションが下がったり、撮影に行く気力がなくなる方も多いと思いますが、実は見慣れた場所でも新しい発見をするチャンスです。写真を通じて雨の日をエンジョイできるようになったら、人生が倍楽しくなると思いませんか? 新しい表現や出会いを探し続けることで、自分にしか撮れない写真を見つけることにもつながると思います。
最近私が出会ったのは、新しく購入したNIKKOR Z 50mm f/1.2 Sです。バックストロボ撮影など、強い逆光でもフレアやゴーストが出ることなく、シャープに描写されていて感動しました。F1.2の明るさと超高速AFで、真っ暗な場所でも気づくとピントが合っています。まるでその場の空気を丸ごと切り取ったような色再現と、被写体が飛び出しているように見える立体感、なめらかで美しいボケなど……言い出したら切りがないほど魅力が詰まったこの1本で、確実に世界が変わりました。これからこのレンズでどんな光景に出会えるのか、とても楽しみです!
※撮影は新型コロナウイルス感染拡大防止に配慮した上で実施しています。
※新型コロナウイルスの感染症対策に十分にご留意いただくとともに、政府、自治体など公的機関の指示に従った行動をお願いいたします。
※三菱一号館美術館の写真はプライベートで撮影したものを掲載しています。
Model:Mai(@mai_kimonogram)
Supported by L&MARK
Koichi
岐阜県高山市出身のフォトグラファー。東京を中心に風景とポートレートをメインで撮影。「心に響く写真」をコンセプトに、日常を切り取る。デジタルカメラでの作品づくりに加え、フィルムカメラやオールドレンズも収集し、常に新しい写真の楽しみ方を模索している。