こんにちは。新潟在住の写真愛好家、yuki(@sty830)です。
写真をはじめた頃は、新潟の四季を追いかけるように風景写真を撮る日々でしたが、SNSをきっかけにポートレート撮影もするようになりました。その経験から、最近では風景写真とポートレートの両方の特徴を生かした「風景ポートレート」という撮影スタイルが自分らしい形に。
今回は、新潟の秋の風景「コスモス畑」を題材に、僕のこだわる「風景ポートレート」の写真についてお話ししたいと思います。
風景ポートレートを撮るためのポイント
撮ってみたいロケーションが決まっても、いきなり大自然を前にすると景色に圧倒され、どう撮ったらいいか迷ってしまうと思います。
そこで、まずどんなことをすると作品イメージをつかめるのか、僕が習慣化していることを紹介していきます。
ウォーミングアップで記念写真的に撮る
「定番」といえる写真を記念撮影のように数枚気楽に撮ることからスタートします。「定番」=「見たままの景色を見たままに写す」という感覚で、自分なりの画づくりや演出などのオプションは入れません。
ロケーションとなじみながら、その日の環境や空の特徴を理解し、モデルさんとのバランスも考えていきます。このとき、選択の幅を広げるという意味でズームレンズはすごく便利です。
また、必ず写真をモニターで確認します。
上の写真は、緩やかな傾斜の地形です。肉眼では気にならなかったのですが、写真で確認して傾斜に気づき、この角度での構図はあまりよくないことを事前に把握できました。
ウォーミングアップをすることでリラックスでき、撮りながらいろんなアイディアが浮かんできます。「定番をあえて撮りたくない」という人もいると思いますが、僕は定番の4、5枚先に「自分らしい1枚」があると考えています。
さらに動画撮影も効果的
必ず動画を撮ることをルーティンにしています。ロケーションを画面越しに確認でき、目視とは違う魅力を見つけ出し、ロケーションになじんでいける感覚になれるんです。
把握した環境で自分なりに画づくり
風景やコスモスの咲き方などを把握したところで、モデルさんにポーズをお願いして画づくりをしていきます。
撮影中に見つけたコスモスがきれいに咲くエリアに。ここは、雲が合わせやすい場所でした。遠くに見える街並みを少し入れ、風景の左への流れと人の向きを合わせています。もし逆を向いていたら、すごく重い印象を与えることになると思います。
続いて、きれいな空と雲のよさが伝わるように空を広くした構図に。モデルさんの仕草も上向きにお願いし、かつコスモスのラインを水平から外すことで動きを感じられるようにしています。
こちらは「生き生きとした自然」のイメージを大切にしました。そのため人の優先順位を下げていますが、人がいないとスケール感がわかりにくいので、優先順位が低くても大切な役割を担っています。
風景をよく観察したおかげで、置かれている環境を生かして画づくりができました。
一つに固執せず撮影の可能性を広げる
いい光や雲が理想の位置にいる時間はかなり短いので、一つのポーズ・構図にこだわりすぎてしまうと、いくつのもチャンスを失いかねません。自分のタイムスケジュールではなく、自然の時の流れを意識します。
ロケーション内を移動しながら、順光と逆光を切り替えてモデルさんのディテールを写すパターンやシルエットにするパターンを撮ったり、寄り引きやアングルを変えて風景を広く写したり空のみを写したり、さまざまなバリエーションを撮影していきます。このとき、「これがあればなんとかなる」という信頼のおけるズームレンズ を1本持っていくのがオススメです。
また、明確な理由を持って撮ることで、より伝わる写真になると思います。
「雲の流れと動きを撮りたい」
動きのある雲の魅力をわかりやすく表現できるように、モデルさんには動かずに、雲が左下に流れていく方向へ体の向きを合わせてもらうようにお願いしました。
「木と人のかわいいバランスを撮りたい」
逆光で木がシルエットになることから、わかりやすい動きのシルエットが撮れるようにお願いしたところ…手を広げてくれました。
このような撮影をしながら、作品のイメージの引き出しを増やしたり、バリエーションを広げるようにしています。
理想のロケーション撮影のための準備と画づくり
先ほどは、日中だったので撮る時間にある程度余裕があったのですが、夕焼けや朝方など限られた時間にこそ魅力的になるロケーションもあります。
その理想のロケーションで撮るためには事前準備と、モデルさんを入れて撮るまでの画づくりが大事になります。
魅力的な時間帯を調べてイメージを練る
まずはしっかりリサーチして、今もっとも魅力的なロケーションと時間帯を選択することからスタートです。ネットはもちろんですが、撮りたい季節以外にも訪れ、実際のスケール感や太陽の位置などを確認し、どのように撮るかイメージします。
撮影イメージ
「夕暮れの街明かりを見下ろす、高台に咲くコスモス畑」
今回特に撮りたかったのが、こちらのイメージです。
街の方角に夕陽が沈むため、夕暮れのコスモス畑を狙いました。街に明かりが灯りはじめ、かつ夕暮れの明るさも少し残る時間帯は15分ほどと貴重。上の情景をイメージし、街明かりを玉ボケにすることは決めていました。
先に風景のみで設定を決める
仕上がりをイメージして、設定や構図を決めていきます。目の前の風景とカメラに写る風景を見比べて印象の違いを確認する意味でもとても重要です。なお、暗い場合など手ブレが心配な時は三脚に固定します。
- レンズとF値:遠い街明かりを大きく玉ボケにするため、望遠でF値を極力小さく。手持ちが開放F4の24-70mmと開放F1.4の105mm単焦点だったので、よりF値が小さく望遠の105mmを選択しました。
- シャッタースピードとISO感度:ISO感度が上がりすぎないようにしつつ、シャッタースピードも確保できるよう調整。このときは、1/500~1/800秒程度、ISO2000~6000程度に。
- 露出:街明かりが白とびしないように露出を調整してアンダー気味に。暗めに写るコスモスの部分を編集で対応します。
- ホワイトバランス:編集で調整する前提で、オートで撮影。
構図で重要なのは自分や見た人にとって心地いいこと
結果的に三分割になることは多いですが、四隅や山、木の位置、玉ボケやコスモスの状態のいい場所を選択しながら構図を調整していきます。雲がきれいな夕空であれば、構図の半分以上が空になる選択をしたと思います。
人の位置や仕草で風景の魅力を引き上げる
設定や構図が決まったらモデルさんに入ってもらい、風景の魅力がさらに際立つように画づくりをしていきます。
まずは右側に入ってもらいます。上の写真は玉ボケが一番多くきれいに写る撮り方で、手の動きも玉ボケに重ならないようアシストするイメージです。
こちらは手前のコスモスをクローズアップして大きな前ボケを配置するため、人が左になるよう調整しました。
事前にイメージを共有することが大事
なお、服装などの打ち合わせは撮影と同じくらい大事で、数分しか撮れない条件では事前のコミュニケーションが大切です。
- 共有イメージ:「いつもの見慣れた景色の中で仕事帰りにふらっと散歩でもしている」ようなリラックスした雰囲気
- 撮影中の指示:離れた位置から大きな声を出すとまわりの迷惑になるので、自然な流れで数枚撮り、手の振りと顔の角度を変えてまた離れて数枚撮る…という流れ
- 服装:コスモスや玉ボケとかぶらない、風景に対して違和感のない色合い。腕の動きを取り入れるため、袖のタイトなもの
服装は、ナチュラルに写したい場合、季節に合ったものが一番です。ただ、自然界に完全な黒はないので選択しません。編集を考えると、桜の時期にピンクや青空の下で青系は、風景の編集に合わせて服の色も変わる可能性があるので避けたい色です。
予想と違ってもその時だけの風景を楽しむ
事前リサーチをしっかりしても、当日の天気などでイメージした風景が撮れるとは限りません。
この日は「朝靄の中のコスモス」を狙って早朝の高原へ行きましたが、予想以上に霧が出ていて、しかもコスモスはまだ一部だけが咲いている状態。
そんなときは「別日に撮ろう」と引き返すのではなく、その日その時のいいところを見つけて気持ちを切り替えて撮ることが大切です。このときは、予定していた広角から望遠での寄りの撮影に切り替えました。
霧でほぼ真っ白だったので、「広い風景の中に佇む人」ではなく、「人とコスモス」を主体に撮影しました。
ポイントは、限られたコスモスをいかに有効に構図に取り入れるかです。その場で画づくりを考えていくため、手持ちでカメラ位置やアングルを変えていきながら、コスモスの配置の流れが心地よく目に入るような位置取りや、霧におおわれた空が退屈にならないような割合を探ります。三分割など定型の構図を意識しつつも、空やコスモスの入り方を調整していきます。
イメージを固めておくのは大切ですが、いろんなパターンを想定して、予想外の状況でも切り替えられる余裕はいつも残しておくようにしています。「風景を楽しみ、四季を感じる!」という気持ちを持つことで、まわりがより見えてくると思います。
限られた時間の中では、アドリブ力が大切
アドリブ力を養うためには、最初にご紹介したように一つのポーズや構図に固執せずにいろんな可能性を探りながら撮影することが大切です。
また、普段から他の人が撮った写真でも「自分ならこう撮りたい」「どうしてこのアングルなんだろう?」と考えるようにしています。想像することで、自分の中でのバリエーションを増やす練習にもなります。
見せたいものや表現に合ったレンズを選ぶ
風景ポートレートでは、「ロケーション」と「時間」、そして「アドリブ力」が大事なのですが、自分が持っているレンズの特性を把握しておくことも大切です。
奥行きを出すための中望遠単焦点
上の写真は広角24mmで撮ったもの。広大なエリアにポツンと人がいてスケール感が出ますが、ロケーションのよさが伝わりづらくなっています。
同じ場所で、望遠で撮影したのがこちら。先ほどより、ロケーションの奥行きが伝わりやすくなり、人の存在を含めて印象がかなりよくなりました。
このとき、人の頭上の抜けにも注意します。左の写真は頭上と道がかぶることで奥行き感がなくなり、スケール感が伝わりにくくなってしまいました。ほんの少しの角度や位置でもかなり印象が違うので、レンズ特性と合わせて構図も意識しましょう。
バリエーションを出すためのズームレンズ
ズームレンズは、ウォーミングアップ撮影や同じ場所でいろんな可能性を探るときに使っていて、特に限られた時間の中でその場で画づくりを考えながら撮るときに重宝しています。
風景ポートレートでは撮影者とモデルさんの距離が離れるため、単焦点での移動にも限界があります。そのとき、ズームレンズはレンズ交換なしで寄り引きができますし、風が強い日などレンズ交換したくない状況のときも便利です。
光や描写の仕方でレンズを変える
時間で風景への光の入り方は大きく変わり、それによって使うレンズの選択も変わってきます。
- 太陽が雲などに隠れて光が弱い場合:やわらかい光を生かすため、望遠でピント範囲を少なくし、ボケ部分を多くする
- 直射日光の場合:オールドレンズ50mmを使い、フレアやゴーストを生かしたファンタジーなテイストの撮影にする
ただ、オールドレンズは強すぎる逆光には耐えられないため、日差しの強い夏や冬などは避けることが多く、春や秋のやわらかい日差しのときに使うことがほとんどです。また、描写がクリアすぎない分、桜や紅葉など要素が多くなる風景をなじませてくれる…という特性も生かすことができます。
撮影時の「意識」のマイルール
風景ポートレートの撮影でさらにバリエーションを増やす方法として、技術以外の「意識」を変えていくことも大きな変化をもたらします。
自分以外の視点を想像する
「自分が撮りたいイメージ」を撮影するのが中心ですが、モデルさんとコミュニケーションを取り話しながらアイディアを出していくこともあります。さらに、写真を見てくれる人の立場になり、「こんな構図も見たいだろうな」…と想像するようにしています。
上の2枚は、下の写真の坂の反対側から撮ったものです。
見てくれる人の中には「坂の反対側から見上げる構図や、センター配置を外した構図も見たいのでは?」と考えました。撮ってから気づいたのですが、この写真を見た人は「青空だったらもっと魅力的になる」と思うかもしれません。
一度の撮影で、撮影者・モデルさん・写真を見る人の「三つのアプローチ」をすることで、新たな気づきが生まれ、作風を広げるきっかけにもなります。
理想は「撮影者を感じさせない写真」
撮り方・考え方についてお話ししてきましたが、目指すところは「撮影者を感じさせない写真」です。
できる限り撮影者の演出や技術を感じさせずに、さりげなく自然に撮ること。念入りに準備し、練りに練った1枚でも「たまたまこの写真を撮ることができた!」というナチュラルな感じで伝えられたら、心にすっと入りこめる1枚になるのではと思っています。それが僕の中でのベストであり、いつも心がけていることです。
そのために大切なのは、違和感をなくすことです。風景の中の人の配置はもちろん、背景の上下左右の切り方、水平などを居心地いい雰囲気にすることで、より自分のイメージに合う仕上がりになります。
風景に溶けこむように撮るには、人の顔は全面に出さない
モデルさんの顔が全面に出てしまうと、肌の質感や透明感など風景とは違うところに意識がいってしまうので、後ろ姿や横向きで撮影しています。
モデルさんとの距離感も大事で、関係性がラフすぎても、思い入れが強すぎてもいい距離感にはなりません。ファインダーの中にいるモデルさんとして、冷静に見つめることが重要だと思います。
Photographer's Note
ここ最近は、「写真を撮りに行く」のではなく、「その風景のベストを見に行く」という考えが強くなり、行動や選択が大きく変わりました。
それからは、「すごい!」「さすが!」と言われる1枚を狙うのではなく、「この場所に行ってみたい!」と言われるような1枚が撮れたらうれしいと思うようになっていきました。「風景の中におじゃまする」という意識でロケーションを大切にし、「より価値ある景色へと育てていく」という気持ちでいつも撮影に臨むことを忘れないようにしています。
ぜひみなさんも、写真に夢中になれる瞬間を自分自身でたくさん選択して、いつまでも写真を続けられる刺激と成長を求めていただければと思います。「撮ること」だけが目的の写真ではなく、手段であり衝動である「写真」をいつまでも楽しんでいきたいですね。
Supported by L&MARK
yuki
新潟県出身、在住の写真愛好家。豊かな自然の風景写真のほか、ロケーションを活かしたポートレートも撮影する。新潟の色鮮やかな四季を追いかけながら、日々写真愛好家として活動中。