フィルムで夜にポートレートを撮ってみよう!撮影の基本ポイントと表現の仕方

フィルムで夜にポートレートを撮ってみよう!撮影の基本ポイントと表現の仕方

はじめまして! 増田彩来/sara(@sara_photo_912)です。写真家として活動していて、フィルムメインで写真を撮っています。写真もフィルムも大好きです! 実は最近、69本現像から帰ってきました(笑)

フィルム写真の中でも今回は、「夜のポートレート」の楽しさや魅力をお届けしたいと思います。

 

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S
FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S
FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S
FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S
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フィルム写真の魅力は、目で見た世界とは全然違う別の世界を見せてくれるところです。

粒子感やブレ・ボケは、目では見えませんよね。もちろんそれは、昼間でもデジタルでも共通する部分はありますが、夜には「夜のフィルムの世界」があって、私は大好きです! 特に冬の夜は、イルミネーションがきれいで、マフラーやコートで季節感も出るので、「撮りたい!」という気持ちが強くなります。

この記事では、夜にフィルム撮影するための基本ポイントと表現の仕方について、紹介したいと思います。

 

夜にフィルムで撮影するための基本

「フィルムで夜撮影できるの?」「写る?」と思う方が多いのではないでしょうか。

実は、撮れます! むしろフィルムの質感でしか撮れない夜の写真があるんです!!

 

フィルムで夜撮影が難しいと思われがちな理由として

  • ISO感度が高いフィルムがあまりない
  • 暗くてぶれやすそう
  • どう撮っていいかわからない

…などなどかなと思います。

 

この対策が以下の2つです。

  • 街明かりなど光源を探す
  • F値とシャッタースピードの調整で明るく写す

夜撮影で一番大事な「光源」の生かし方

人を撮る上で「どう見せるか」は大事ですよね。そのためには光をどう当てるかが重要で、夜は特に光源を探しながら撮ることを意識しています。光を探して撮るのは昼間も同じですが、夜は太陽が出ないかわりに、街灯や車のライトなどの「いろいろな種類の太陽がある」と思いながら撮っています!

 

順光の場合は、光と顔の向きを考える

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S
FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S
FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

 

上の写真はISO400のフィルムで、左手前に光源がある場所で撮ったものです。光に顔を向けることでしっかり顔が写りますが、光源と反対を向いてしまうと顔が黒くつぶれてしまいます。私は顔をシルエットにするのも好きなのですが、どう見せたいかで顔への光の当て方を考えてみましょう。

顔をしっかり写したい場合の露出は、顔の一番明るい部分を基準に合わせるのがコツです。

 

 

逆光の場合は、シルエットが浮かび上がるように

背景からの光源で逆光になる場合、周囲の明るさで撮り方や写り方が変わります。

 

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S
FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S
FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

 

撮る場所が暗いときは人がシルエットとして写ります。左は横顔が浮かび上がっていい雰囲気ですが、右は何が被写体かわかりづらいと思います。顔の向きだけで、かなり違いますよね!

 

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

 

明るい場所では顔全体がしっかり写るので、横顔はもちろん正面を向いていても大丈夫です。上の写真では、後ろからの街灯の光を利用して、髪の毛が少し透けてきれいに明るくなるように撮りました。

 

…こんな感じで、光源を探しながら撮ることを一番意識しています。

実は、最初のうちは全然考えていなくて、「ファインダーから見えるんだから写ってるでしょ!」と撮ったら、「黒つぶれしてる」ということがよくありました。目で見えても、街灯が一つだけの路地と繁華街では明るさが違うんですよね。その光の度合いを意識するようになってからは、黒つぶれなどのミスが減って、夜の撮影がもっと楽しくなりました!

F値とシャッタースピードで明るさを調整

明るく写すためには、F値やシャッタースピードなどの設定やレンズ・フィルムの選び方も大切です。

 

レンズ交換ができる一眼レフで、開放F値が小さいレンズを使う

  • カメラ:F値やシャッタースピードを調整できる一眼レフが夜撮影向きです。私はNikonのFM10を使っています。
  • レンズ:開放F値が小さい単焦点レンズがオススメです。開放F値が1.4のAI Nikkor 50mm f/1.4Sをメインに使っていて、中古なら1万円台で購入できます。
  • F値:小さいほど光を取りこむため明るく写せます。開放F値を基準にして、どこまで背景のディテールを写したいかで調整します。
  • シャッタースピード:フィルムのISO感度に応じてシャッタースピードで露出を調整。しっかり構えてがんばれば、1/30秒程度まではぶれずに撮れます。カメラに露出計がある場合は、確認しながら調整しましょう。

 

 

フィルムはISOが高いほど暗さに強い

ISO感度が高いほど暗い場所でも安心なので、オススメはISO800のフィルムです。

 

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

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「Lomography Color Negative 800」で撮影した写真

 

私は、ISO800の中でも割安な「Lomography Color Negative 800」を使うことが多いです。他の方の写真を見ていて「CineStill 800T」がずっと気になっているのですが、高価なのでまだ手を出せていません(笑)
※「CineStill 800T」の写りについてはこちら

 

 

低感度フィルムでも明るく写すコツ

日中から撮影していて、「予定してなかったけど、このまま夜も撮りたい」ときってありませんか? でもISO800のフィルムを持っていないし、カメラの中にはISO100や200の低感度フィルムが入っている…。私はISO200の「Kodak GOLD 200」をいつも使っているんですが、そんなときは押し切ります!!

 

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

 

押し切る方法は…シャッタースピードを遅くする。上はISO200で撮った写真です。背景の光源で明るさを確保しつつ、シャッタースピード1/30秒で撮りました。しっかり意識して構えれば、1/30秒は問題なくぶれずに撮ることができます。このとき被写体側がぶれないように、撮りたいタイミングが見つかったらモデルさんに「ストップ」と言っています。

 

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

 

同じくISO200のフィルムで、シャッタースピード1/8秒で撮りました。手持ちでは1/15秒くらいからブレが出はじめるんですが、「ブレをどう生かすか」を考えるのも夜撮影の楽しさです!

〈表現のポイント〉
この写真はブレによって、その先の動きが想像できると思います。先のストーリーが見える…静止画だけど「静止画を超えたもの」にするための要素として、私はブレをよく使っています。

【基本編】光源と場所の雰囲気の生かし方

ここからは、いろんな光源を生かした夜撮影のバリエーションを紹介していきます。

夜と言っても外だけでなく、室内もいい雰囲気です。光源はその場所の特徴にもなっているので、「光源=その場所の雰囲気を生かすこと」につながります。

車のライトで人を際立たせる

私がよく使う光源ランキング1位…それは車のヘッドライトとテールライトです。

ヘッドライトは白、テールライトは赤と色が違うので、写真の雰囲気としてどちらが合うかで使いわけます。

 

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

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この写真はヘッドライトと街明かりを生かしました。小さいF値にすると白い玉ボケがきれいにできて、しかもかなり明るいので撮りやすいんです。

写真を見るときは光がある部分に目がいくので、顔の位置に車のライトがくるようにしました。そうすることで主役の人が際立ちます。

 

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

 

今度は車のテールライトを生かしてみます。写っていない手前にある車のテールライトの光で照らされた瞬間を撮ったので、全体的に赤くなりました。テールライトを生かす場合、信号待ちで車が止まって、ブレーキライトも加わると撮りやすいです。

〈表現のポイント〉
「誰かを待っているような、探しているようなイメージ」で撮影しました。赤い光が少し不安げな雰囲気とマッチしていると思います。

お店特有の光で雰囲気を変える

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

 

街中で撮る場合、明るいお店の照明を生かすのもオススメです。車と違って動かないので、じっくり撮れます。

コツは、順光やサイド光として顔や体に光が当たるように立ち位置を調整すること。特に人を見せたい場合は、背景をシンプルにするのもポイントです。

 

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

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この写真は、手前にあるお店のピンクの照明を生かして、順光で人に当たるように写しました。街はいろんな色の光が溢れているので、探してみるのも楽しいですよ!

 

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

 

周囲が暗い場合は、光源を背景にすると人はシルエットになります。入口の光に加えて、公衆電話の光で人をほのかに照らしているのもポイントです。

〈表現のポイント〉
公衆電話の受話器を持ってもらい、物語のワンシーンをイメージして撮りました。お店の照明を取り入れる場合、見せたいのが人であれば寄り、空間であれば引き…と画角も使いわけます。

 

お祭りでは屋台や提灯の光を生かす

屋外の光源がある場所として、特別感があるのが「お祭り」です。屋台や提灯の明かりなどで光が溢れていて撮りやすい上に、かわいい光が多いので、ぜひ行ってみてほしい場所です!

 

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

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お祭りの空間は全体が明るいので、顔が暗く写る心配はあまりなく、光源をどう写真に取り入れるかを意識します。上の写真では、提灯が集まるやぐらと人が中心にくるようにして、主役の人が際立つように画づくりしました。

 

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

 

この写真は、水あめを食べている口元にフォーカスしました。透けてキラキラしたものは逆光気味に撮ると、透明感やきらめきがより伝わりやすくなります。

〈表現のポイント〉
一番見せたかったものは「水あめのきらめき」なので、目などは入れないようにしました。食べている人を主役にする場合は目も写したほうがいいと思います。「何を写したいか」で取捨選択をして、写したいものが際立つように光源を生かすことが大切です。

室内の照明で落ち着いた雰囲気に

自宅やカフェなど室内で照明を生かすと、外とは違って落ち着いた雰囲気の写真が撮れます。

 

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

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カフェで撮影した1枚。店内は全体が明るいので、照明を画角に入れなくても開放にすればISO100や200でも十分撮れます。F値を小さくすることで、店内がぼけて人が際立つ効果もあります。このとき、眼鏡に照明が反射して瞳が見えなくならないように注意しています。

〈表現のポイント〉
照明はやさしいオレンジ系だったので、ほっこり・リラックスというイメージ。お菓子やドリンクをうまく使って、かわいく撮るのも楽しくてオススメです!

 

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

 

こちらは、あえて暗い部屋の中で撮りました。カメラにISO100のフィルムが入っていたこともあって、F1.4にしてぶれないギリギリの1/15秒で押し切りました。奥の壁に映っている影は、窓際にあるキッチンが街灯に照らされてできたものです。とてもきれいだったので取り入れてみました。

〈表現のポイント〉
ドアからの明かりを入れることで、ここ以外にも部屋があることと、顔のオレンジの光がどこからきているかがわかりますよね。「この主人公がどんな場所にいるか」がより想像できるようになります。

日没後のブルーアワーで情感豊かに写す

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

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日が沈んでからの30分間の、夜になっていく時間が大好きです。空の青さと、フィルムの雰囲気や粒子感が本当に合うので、みなさんもぜひ撮ってみてほしいです!

 

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

 

このときは窓からちょうど月が見えて、人はあえてぼかしてシルエットにしました。この時間帯はISO200や400でもしっかり写せます。

 

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

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上の写真では、夜に染まっていく街を背景にしました。窓のフレームを入れることで、「さっきまで部屋にいたけど、外で気分転換している」のような流れや空間を想像できるようにしています。

〈表現のポイント〉
私はニュアンスや雰囲気、ストーリーなどその場で思ったことを伝えた上で、ファインダーをのぞきながらモデルさんと一緒に“その先”をつくっていきます。「つくったものを演じてもらう」というよりは、「その瞬間に生み出していく」感覚です。

 

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S
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今度は窓ガラス越しに空の青を生かしました。明暗差がある場合に特に気をつけているのは露出です。繊細さを出すため、人が黒つぶれしないギリギリの露出に。露出計で測る場合は、背景に合わせて少し明るくするのがコツです。私はこの時間帯によく撮るのですが、ISO200のフィルムでF1.4・1/30秒という組み合わせを基準にしています。

〈表現のポイント〉
背景をぼかすことで、曖昧さや感情の不安定さなど、揺れ動く感じを表現しています。窓ガラス越しでは、手や指の表情を生かすのもポイントです。

【応用編】夜ポートレートをもっと自由に

夜の街を歩きながらその場の環境を生かすのも楽しいですが、自分の好きな空間をつくり上げるのも大好きです。ここでは、私なりの撮影アイデアを紹介したいと思います。

小道具を使って、自分の世界観をつくる

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S
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FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S
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街中で花や風船を使って撮影しました。夜景をバックにしたスナップでも、小物が加わることで非現実感が生まれ、作品性が増します。

まわりが暗いので、小物の色は白や赤など明るいものほど映えてアクセントになります。あえて暗い色の花を選んで、同化させるのも世界観があって好きです。

光源を用意して、光と影を自在につくる

スマホのライト機能を使う

フィルムで夜にポートレートを撮ってみよう!撮影の基本ポイントと表現の仕方

 

夜撮影の隠れた味方が、スマホのライトです! 「ここで撮りたいけど、光源がないから暗くて撮れない」というときに活躍してくれます。私は、「フェンスの影を出したい」というときによく使いますね。

撮るときは、光らせた状態で先にピントを合わせて設定を調整し、決まったらシャッターを切ります。

 

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

 

こちらが実際に撮った写真です。目とフェンスの影を強調したかったので、情報量を削るため、後から編集でモノクロにしました。

注意点としては、もともと光源がなくて暗い場所なので、ISO感度は高いほうが安心です。このときはISO400でギリギリでした。

 

 

カメラのフラッシュ機能を使う

デジタルではおなじみですが、光量が足りないときに便利なのがフラッシュです。コンパクトフィルムカメラには内蔵されているものが多いですよね。私は普段から、一眼レフとコンパクトフィルムカメラの2台持ちで撮影しています。

 

L35AD

L35AD

 

上の写真は光源のない場所で、フラッシュを使うことで夜空の色を写すことができました。

フラッシュは立体感が薄れて“のっぺり感”が出るのですが、フィルムの場合それが逆によかったりします。フラッシュありなしで撮って写りの違いを見てみると、どういうときにフラッシュを使うと合うかつかめてくると思います。

 

手持ち花火を光源にする

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

FM10、AI Nikkor 50mm f/1.4S

 

夜の海で撮影する場合、光はほとんどありません。そのとき「花火」が光源になるんです。

真っ暗な時間よりも、日が暮れて30分以内のブルーアワーがベストタイミング。空にも明るさがあり、ISO100でも写せます。海辺には空が反射して、青色が美しいです!

Photographer's Note

記事を読んでいただき、ありがとうございます! 夜をフィルムで切り撮る楽しさを、私なりにたくさん詰めこみました。

 

私がフィルムをはじめたのは、中学3年生のときに知り合いに「FM10」をもらったことがきっかけでした。はじめてファインダー越しの世界を見たときに、「映画の世界」を見ているような、目の前の世界なのに違う世界を見ているような、そんな感覚に惹かれたからです。

夜には「いろいろな種類の太陽」があって、夜にしか写せない世界があると思います。この記事を読んで、「フィルムで夜のポートレート撮影に行きたい!」と少しでも思っていただけたら、本当にうれしいです!!

 

 

Model:るか(@rk19_photo)、せー(@__ks_se_)、misaki(ぼるぞい)(@borzoi.m)、雛子(@shuji_gallery)、山田ジャンゴ(@jango___st)、sara(@saraitokyo)、JURI(@juri_ringo7
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FM10

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20190523173946

AI Nikkor 50mm f/1.4S

製品ページ
増田彩来/sara

増田彩来/sara

2001年生まれ。東京を中心に活躍する写真家。企業広告、アーティスト写真、CDジャケットなどのスチール撮影などを行う。2020 年に表参道ヒルズ同潤館にて初の個展「エクランに沈む」を開催。映像作家としての活動をはじめ、第2回Fellows Film Festival審査員特別賞受賞。自主制作映画『ブルーバーズの詩』やアーティストのミュージックビデオの監督・撮影を務めるなど活動の幅を広げている。