写真家が伝えたい単焦点レンズのススメ! ボケ表現や距離感をつかむと、写真がもっと楽しくなる

写真家が伝えたい単焦点レンズのススメ! ボケ表現や距離感をつかむと、写真がもっと楽しくなる

こんにちは、フォトグラファーの櫻子(@sako_photo)です。

普段はポートレートや風景をメインに撮影しています。素敵なブルーの写真を集めるInstagramアカウント「Today's Blue Collection」を運営したり、ニコンプラザ東京のワークショップ「First STEPS」では講師も務めています。

 

突然ですが、みなさんは単焦点レンズとズームレンズのどちらを使っていますか?

 

写真家が伝えたい単焦点レンズのススメ! ボケ表現や距離感をつかむと、写真がもっと楽しくなる

 

2023年にNICO STOPがSNS上で行ったアンケートでは、単焦点派が多い結果でした。
なぜ単焦点レンズを使っている方が多いのか…。それは、写真の楽しさがより広がるからだと私は考えています。

今回は、「単焦点レンズ」の特徴や魅力についてお話ししたいと思います。

 

写真家が伝えたい単焦点レンズのススメ! ボケ表現や距離感をつかむと、写真がもっと楽しくなる

 

そもそも単焦点レンズとは?

写真家が伝えたい単焦点レンズのススメ! ボケ表現や距離感をつかむと、写真がもっと楽しくなる

 

レンズには、「単焦点レンズ」と「ズームレンズ」があります。

“28mm”のように一つだけ記載されているのが、焦点距離が固定の「単焦点レンズ」、“16-50mm”のように範囲が記載されているのが焦点距離を変えられる「ズームレンズ」です。

 

単焦点レンズとズームレンズの特徴

【単焦点レンズ】

  • 焦点距離が固定のため、写す範囲を変えるには自分が動く。
  • 開放F値が小さいため、ボケやすく、暗いところでも明るさを確保しやすい。

【ズームレンズ】

  • 焦点距離を変更できるため、同じ位置からでも写す範囲を変えられる。
  • 開放F値が単焦点レンズに比べると大きい。
    ※「NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR」の場合、16mmのときに開放F3.5、50mmのときに開放F6.3と、焦点距離が長くなるほど開放F値は大きくなる。

単焦点レンズの魅力は、表現の幅が広がること

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はじめてレンズ交換式のカメラを購入する場合、レンズとセットのものを選ぶ方が多いと思います。そのキットレンズは、ズームレンズが多い印象です。

私も元々はズームレンズを使っていましたが、単焦点レンズを使うようになってから、ボケややわらかい表現を楽しめるようになったり、撮るときの距離感をつかめるようになりました。

 

 

Point.1
開放F値が小さく、豊かなボケ・やわらかい表現ができる

初心者向けのズームレンズは、開放F値が3.5以上のものが多い傾向にあります。それに対して単焦点レンズは開放F値が小さく、大きなボケを生かしたやわらかい表現ができます。

 

Z fc、NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR
Z fc、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)
Z fc、(左)NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR、(右)NIKKOR Z 40mm f/2(SE)

同じ位置から、焦点距離40mmで撮影。左:ズームレンズ・F5.6、右:単焦点レンズ・F2。

 

上の2枚を比べると、F値が小さいほど背景が大きくボケ、主題である手前の花が際立っています。開放F値2の単焦点レンズで撮影した右の写真は、すぐ後ろの花までボケていますね。

F値が大きいほど全体がくっきりと現実的に、F値が小さいほど主題以外がボケて幻想的なイメージに近くなると考えています。

 

また、開放F値が小さい単焦点レンズは、夜や室内など暗所撮影にも活躍します。

 

Z fc、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)/撮影地:渋谷ヒカリエ スカイロビー

Z fc、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)/撮影地:渋谷ヒカリエ スカイロビー

 

暗所ではシャッタースピードを上げられずブレたり、ISO感度を上げすぎてノイズが出たり…という心配があります。F値を小さくできると、ISO感度を上げすぎずに手ブレしないシャッタースピードを確保できるため、手持ちでも夜景をきれいに写せるんです。

 

 

Point.2
距離感がつかめるようになる

「焦点距離が固定」ということがネックになっている方も多いかもしれません。私自身も、写真をはじめた頃にそういった懸念はありましたが、実際に使ってみると、“自分の感覚”を優先して写真を撮れるようになっていきました。

 

Z fc、NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)
Z fc、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)
Z fc、(左)NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)、(右)NIKKOR Z 40mm f/2(SE)

 

単焦点レンズは、自分が被写体に近づいたり、離れることで、寄りも引きも撮影できます。「こういう構図で撮りたいから、自分はここに立とう」と距離感がつかめてくると、撮影の楽しさがより一層増しました。

単焦点レンズを選ぶポイント

「単焦点レンズ」と言っても、たくさんの種類があります。

広角・標準・望遠とは?

焦点距離によって写る範囲が異なり、その広さによって「広角・標準・望遠」とわけられます。まずはその違いを覚えましょう。

 

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  • 標準:人の見ている景色に近い写り方
  • 広角:周囲を広く写せる
  • 望遠:遠くのものを大きく写せる

焦点距離としては、35mmくらいまでが「広角」、70mmくらいから「望遠」、その間が「標準」という目安です。

 

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※フルサイズで70~135mm程度の焦点距離を「中望遠」とも呼びます。

 

なお、フルサイズやAPS-Cサイズなどセンサーサイズによっても画角が変わります。

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Z 5、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)
Z fc、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)
(左)Z 5、(右)Z fc、(左右とも)NIKKOR Z 40mm f/2(SE)

左:フルサイズ、右:APS-Cサイズ

 

40mmレンズの場合、フルサイズでは40mmですが、APS-Cサイズでは1.5倍(ニコンの場合)された60mm相当になり、画角が狭まります。レンズを選ぶ際、お持ちのカメラのセンサーサイズを確認しておきましょう。

焦点距離による写り方の違い

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実際に広角~望遠まで、写り方・特徴の違いを紹介します。フルサイズのカメラで、20mm・28mm・40mm・50mm・85mmの5本を撮り比べてみました。

 

  • 広角20mm:広大な風景や空を広く写す際に最適です。また、被写体との距離が取れないときにも広角は活躍します。右の写真は、自分を含めた影を写したのですが、広角だからこそ全員画角に収めることができました。広角は遠近感が強調されるという特徴があり、影の伸び方もおもしろいです。

 

Z 5、NIKKOR Z 20mm f/1.8 S
Z 5、NIKKOR Z 20mm f/1.8 S
Z 5、NIKKOR Z 20mm f/1.8 S

 

  • 広角28mm:風景の中で人を撮りたい場合に適しています。旅先で絶景と一緒に人を写したいときにぜひ持っていきたいです。特に奥行きのある風景で撮影すると、ロケーションの魅力が引き出されます。

 

Z 5、NIKKOR Z 28mm f.2,8(Special Edition)
Z 5、NIKKOR Z 28mm f.2,8(Special Edition)
Z 5、NIKKOR Z 28mm f.2,8(Special Edition)

 

  • 標準40mm:少し動くだけで、寄りも引きも撮りやすいです。焦点距離が長いほどボケやすいため、広角レンズよりもボケを生かせます。また、片手でカメラを持って、もう片方の手で花を持ったりして撮る際、手元や背景もちょうどよく写る印象を受けました。

 

Z 5、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)
Z 5、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)
Z 5、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)

 

40mmは多重露出撮影にも向いている

Z 5、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)

Z 5、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)

 

寄り引きで構図を決めやすい40mmは、人物も風景もいい距離感で撮影できます。そのため、多重露出撮影で人と風景を重ねると、バランスがいい仕上がりになります。
>多重露出については、こちらで詳しく紹介しています。

 

  • 標準50mm:標準といえば50mmが基準と考えられています。肉眼で見た印象に近い焦点距離で、食べ物や人物などをナチュラルに写すことが得意です。また、引いても自然な見た目で写ります。右の写真では、広角の場合は遠近感が強まり建物のほうが強調されがちですが、50mmでは見たままの印象で切り取ることができました。

 

Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S
Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/撮影地:本庄デパートメント
Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/(左)撮影地:本庄デパートメント

 

  • 望遠85mm:望遠は見せたい部分をより大きく写すことができます。焦点距離も長いため大きくボケることも特徴で、幻想的なイメージで撮りたいときにも使いたいレンズです。また、奥行きがある場所で撮影した場合、遠景が近づいたように大きく写る「圧縮効果」があります。花やポートレート撮影はもちろん、街中で撮るときに使用すると、標準とは違った写りを楽しめます。

 

Z 5、NIKKOR Z 85mm f/1.8 S
Z 5、NIKKOR Z 85mm f/1.8 S
Z 5、NIKKOR Z 85mm f/1.8 S

 

こんな特殊レンズもある!

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単焦点レンズの中には、特殊な性能を持ったレンズがあります。その一つがマイクロレンズです。被写体にかなり近づいてもピントを合わせることができ(最短撮影距離が短い)、画角内に被写体を大きく写すことができます(被写体と撮像素子に写る像の大きさが同じになる「等倍撮影」)。

 

Z 5、NIKKOR Z MC 50mm f/2.8
Z 5、NIKKOR Z MC 50mm f/2.8
Z 5、NIKKOR Z MC 50mm f/2.8

 

肉眼では見ることのできない細かい部分をクローズアップしてくれるこのレンズ。草花の内部を撮ると、おしべやめしべの細かい模様や、花びらや葉っぱの模様まではっきり写ります。まるで顕微鏡をのぞいているようで、知らない世界に連れて行ってくれるワクワクがあります。

はじめての1本にオススメな標準単焦点

「標準」の焦点距離は自然な見た目で撮影できるので、日常のちょっとした思い出を撮影したい方には特に使っていただきたい単焦点レンズです。

 

Z fc、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)

Z fc、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)

 

人も遠くの景色もナチュラルに写るので、見返すとそのときの思い出が鮮明に浮かんできます。

 

【オススメのレンズ】

では、実際にオススメしたいレンズを紹介します。
カメラは、日常や旅先での撮影がメインの方に最適なAPS-Cサイズを想定しています。
※焦点距離は1.5倍になります。

 

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APS-Cサイズのミラーレスカメラ Z fcとオススメのレンズ

 

オススメ① NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)

APS-Cサイズのカメラに取り付けると42mm相当になります。引きやすいので、人と風景を一緒に写したいときに特にオススメです。左の写真では、人・花・そして空と、いいなと感じたものをすべて画角に収めることができました。開放F値2.8と十分にボケる上に、非常に小さくて軽く、首からぶら下げていても負担にならないので旅行にもぴったりです。

 

Z fc、NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)
Z fc、NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)
Z fc、NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)

 

オススメ② NIKKOR Z 40mm f/2(SE)

APS-Cサイズのカメラに取り付けると60mm相当になります。F2により大きくボケ、注目した被写体をより際立たせたいときに力を発揮します。夜や室内など暗所でも安心して撮影できるのもうれしいポイント。小さく・軽いので、どこにでも持ち歩けるレンズです。

 

Z fc、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)
Z fc、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)
Z fc、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)

 

どちらもとてもオススメなのですが、単焦点レンズがはじめてという方には、42mm相当になる28mmのほうが風景を広く入れられて、旅行などで使い勝手がいいと思います。

 

Z fc、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)

Z fc、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)

 

なお、2本とも逆光耐性コーティングはそこまで優れていないため、強い逆光時にはフレアやゴーストが発生する可能性があります。これは逆にオールドレンズのようにやわらかい描写として生かすことができます。

単焦点レンズで距離感をつかむポイント

最後に、焦点距離が固定な単焦点で距離感をつかむ方法です。

ベストだと感じる距離感は人によっても、被写体によっても異なるため、距離を変えて撮ってみて写真を見ながらしっくりくるかを判断していくことになります。

いいと感じる距離感が徐々にわかってくると、どんどん撮影が楽しくなりますよ!

 

Z fc、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)
Z fc、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)
Z fc、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)
Z fc、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)

 

上の写真では、桜の木の下に立ってもらい、私が遠くから・近くからと距離を変えて撮影していきました。それぞれによさがあるのですが、人・桜・空を最もバランスよく写せたのは真ん中の写真です。ちょうど月が出ていたので、物語性のある1枚になったと思います。

Photographer's Note

単焦点レンズの魅力、伝わったでしょうか?

実は私がはじめて買ったレンズはズームレンズでした。ズームレンズにもしっかりよさがあって、立ち位置を変えなくても画角を調整できるのは便利ですよね。

 

Z fc、NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR
Z fc、NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR
Z fc、NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR

左:16mm(24mm相当)、右:50mm(75mm相当)

 

それからしばらくズームレンズを使っているうちに、「ちゃんと自分で距離をつかんで写真を撮りたい」と思うようになったんです。そして実際に標準単焦点レンズを使ってみると、好きな距離感がわかるようになり、やわらかい表現の魅力も知り、写真がどんどん楽しくなりました。

 

Z fc、NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)

Z fc、NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)

 

みなさんもぜひ、単焦点レンズにチャレンジしてみていただきたいです!

 

Nikon機材を使ってみて

今回、APS-Cサイズのミラーレスカメラ「Z fc」の新色ブラックを使いました。一緒に写真を撮りに行った友人から「フィルム?」と言われることが! 本当にフィルムカメラのような見た目で、被写体としても撮りたくなるカメラです。

 

写真家が伝えたい単焦点レンズのススメ! ボケ表現や距離感をつかむと、写真がもっと楽しくなる

 

操作性は、シャッタースピードやISO感度などダイヤルで調整できるので、シチュエーションごとに「どの数値がいいか」という知識も身につくと思います。もちろんシャッターボタンを押すだけのオートモードもあるので安心です。写りに関してはとにかく鮮明で、色を忠実に再現してくれるように感じました。

レンズはNIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)・NIKKOR Z 40mm f/2(SE)とも本当にどちらもオススメしたいです。オールドレンズのようなデザインで、Z fcに取り付けるとフィルムカメラにしか見えません! 小さくて軽いので、私は2本とも持ち歩きたいです。

 

 

協力:本庄デパートメント
Model:ちゅん(@tune_tune_t)、mari(@chouchou.mariee
Supported by L&MARK

 

 

櫻子

櫻子

埼玉県本庄市出身のフォトグラファー。透明感のある、儚い雰囲気をテーマに作品を制作。地元や旅した地域の魅力発信にも力を入れている。青くて素敵な写真をフィーチャーする「Today’s BLUE Collection」の運営や、講師活動なども行っている。