みなさん、はじめまして! 富山県在住のフォトグラファー・イナガキヤスト(@inagakiyasuto)です。普段は家族の写真や、「富山の本気」をテーマに地元の風景を撮っています。
富山県は、標高の高い場所では9月から紅葉の見頃になり、平地では11月までと長い期間紅葉を楽しむことができるんです。今回は、富山県から長野県にかけて連なる北アルプスを貫く「立山黒部アルペンルート」へ、「富山の本気の紅葉」を求めて地元旅をしてきました。
※こちらの記事は、2020年10月14日に撮影したものです。
立山黒部アルペンルート(公式HPより)
立山黒部アルペンルートとは?
標高3000m級の北アルプスを駆け抜ける、総延長37.2km・最大高低差1975mの山岳観光ルートです。
今回は、①立山駅をスタートし、②大観峰でロープウェイに乗り、紅葉とロープウェイが狙える③黒部平と、日本一の高さを誇る④黒部ダムを目指しました。
- ①立山駅 乗り物を乗り継ぎ、雲上を目指す
- ②大観峰 紅葉した山肌をロープウェイで突き進む
- ③黒部平 360°の紅葉撮影を満喫!
- ④黒部ダム 大迫力の放水を全身で感じる
- 【事前準備】山での紅葉撮影の持ち物
- Photographer's Note
①立山駅 乗り物を乗り継ぎ、雲上を目指す
黒部ダムまでは、立山駅からケーブルカー⇒バス⇒トロリーバス⇒ロープウェイ⇒ケーブルカーと数々の乗り物を乗り継いで向かいます。立山黒部アルペンルートには紅葉時期に何度も来ていますが、黒部ダムに行くのははじめてです!
移動と滞在で約7時間はみておきます
立山駅~黒部ダム間は往復約4時間、滞在時間を3時間と考えると、少なくとも7時間はみておいたほうがいいと思います。そのため、6時台や7時台の始発など早い便で移動するのがオススメです。土日祝日は駐車場やチケット売り場がかなり混み合うため、到着自体お早めに。平日でも1時間前には到着しておいたほうが安心です。
※時期により、始発時間が異なります。
美女平からバスに乗り換え、徐々に標高が上がっていきます。途中車内アナウンスがあり、日本一の落差350mの「称名滝」など見どころを紹介してくれました。行きでは、進行方向の左側の席に乗ると見えやすいです。
バスの中での撮影のコツ
まずは、窓側に座るのが大きなポイントです。そして、ガラスに極力レンズを近づけることで反射が写るのを防げます。
その他の設定は、
- F値:風景全体をきれいに写すためF8以上に。シャッタースピードを稼ぎながらISO感度も低く抑えたいので(ISO400以下)、F値は大きくしすぎないように。
- シャッタースピード:1/400秒以上にしておき、バスの揺れが少ないタイミングを狙う。
近い位置の木々はぶれやすいので、基本は遠くを狙いますが、あえてぶれさせて動感を出すのも一つの手です。また、きれいな風景が見えた瞬間に撮れるように、上記のセッティングはすませておきましょう。
ここはすでに標高1900m以上。大きなカーブをくねくねと曲がっていきます。バスの中から広大な湿原「弥陀ヶ原」を一望できる場所に。一面茶色に染まり、眼下には雲が広がっていました。もう雲の上まで来たんですね!
ですが、さらに上には暗雲が。天気がいいと立山や剱岳が見えるんですが、雲に隠れて見ることができず。正直「今日は大丈夫かな?」と不安になってしまいました…。
②大観峰 紅葉した山肌をロープウェイで突き進む
標高2300mを超える大観峰に来ると、その不安は一気に晴れました! 色づいた山肌と雲間から差す光の組み合わせがとてもきれいで、何回もシャッターを切ってしまいます。
山の紅葉撮影を楽しんでいると、ロープウェイがやってきました。乗りこんで、今回の目的地の一つ「黒部平」に向かいます。標高1800m台の黒部平は、立山連峰の雄大な大パノラマと散策が楽しめる場所です。
大観峰から下へと紅葉に突っこんでいく感じはすごく迫力がありました! 乗客のみなさんも写真や動画をバシバシ撮られていました。
約7分で黒部平に到着。山肌の紅葉を間近に見ることができます。建物の隙間からのぞく紅葉がとても美しくて、額縁効果を狙ってみました。
③黒部平 360°の紅葉撮影を満喫!
黒部平駅にはパノラマテラスがあり、高い位置から紅葉とロープウェイが行き来する風景を堪能できるんです。では私も、早速撮影をはじめたいと思います!
テラスから見ると右側の斜面がきれいに色づいていたので、そこをしっかり入れつつロープウェイをアクセントにしました。山の斜面に雲の影がかかり、紅葉している部分だけにきれいに光が当たった光景が印象的です。
こちらは、きれいな紅葉だけが写るように縦構図にし、ロープウェイが真ん中に来たタイミングを狙いました。上から「空と山」「紅葉」「ロープウェイ」と見どころを三分割し、ロープウェイを真ん中にして構図を安定させています。
ロープウェイ撮影のコツ
動く被写体なので、構図を決めておいていい位置に来るのを待ちます。F値は風景全体を写すためにF8~11に、シャッタースピードは1/200~1/400秒あればとらえられます。ロープウェイは20分に1本程度と頻繁にやってきて、ゆっくり動くので十分狙えると思います。
駅から地上に出ると、テラスとは景色が違って見えます。特に真っ赤なナナカマドに目を奪われました。そのナナカマドを生かして、奥に小さく写るロープウェイと斜面の紅葉を包みこむように切り取ってみました。
今度は、ロープウェイがナナカマドの上を移動している感じを出したかったので縦構図に。赤いナナカマドは黄金比を意識してフレーミングしました。黄金比は1:1.618の美しい比率と言われていて、構図に取り入れると安定しやすくなります。
高山植物エリアがあり紅葉散策も楽しめます
黒部平庭園から階段を下ると、自然の中でさまざまな高山植物を見ることができる「高山植物観察園」につながっています。ずっと奥まで進むこともできますが、30分もあれば十分散策を満喫できて、スニーカーでも大丈夫です。
見上げると真っ赤なナナカマド。間から見える太陽を真ん中に配置して、広角端で葉が中心に集まるように。F16と絞り光芒をしっかり写しました。
足元にも色づいた葉が。石段では、枯れ葉のじゅうたんの中に1枚真っ赤な葉が存在感を放っていました。その存在を際立たせようと広角端でパースをつけながら、奥へと視線がいくように写しました。
黒部平には1時間半ほど滞在しましたが、紅葉とロープウェイのコラボにめちゃくちゃテンションが上がりました。美しすぎて、時間が許せばずっと撮っていられるくらいです。そして高山植物観察園では、より身近に紅葉を感じられて、360°包みこまれる感覚でした!
④黒部ダム 大迫力の放水を全身で感じる
黒部平の紅葉を堪能した後は、もう一つの目的地「黒部ダム」へ。
ケーブルカーを降りてトンネル内を歩いているときから、ゴーという放水の音がして期待感が高まります。
トンネルを抜けると、壮大な風景が目の前に!
ダムの大きさや風景のスケール感がすごすぎて、自分がいる場所やまわりのサイズ感がよくわからなくなります(笑)
黒部ダムでは、10月15日まで観光放水が行われていて、この日は無事見ることができました。
こちらはダムの真上の通路。しぶきが上がってできた水のアーチに光が当たって、とてもきれいでした。
ダムに一番近い展望台から撮ると、ものすごい水しぶき。放水の勢いが伝わりますか? レンズについた水滴をブロアーで飛ばしながら撮影しました。
この水しぶきに太陽の光が当たって虹ができていました。しかも2本!
ちなみに、太陽と反対方向に虹ができることを知っていると見つけやすいです。
山肌の黄色や赤で色づく部分をやさしく包みこむ幻想的な光景。美しさのあまり時間を忘れてシャッターを切っていました…。
立山黒部アルペンルートは、乗り物を何度も乗り換えながら移動するのが大変ではありますが、一つのルートの中でいろんな風景に出会うことができます。今回は青空の紅葉風景に加えて、「虹」まで見られて本当に幸運でした!
その感動をかみしめながら、また2時間かけて立山駅に戻ろうと思います。
山で紅葉を撮るときのポイント
- 空や山のバランス:雲が印象的な時などは空を多く入れる場合もありますが、紅葉をメインで見せるために、空の割合を少なめにするのがポイントです。
- 構図:ファインダーをのぞいて直感的にいいと思ったバランスで撮るようにしています。迷ったときに、三分割や日の丸など構図の基本に当てはめてバランスを考えます。
- 光のとらえ方:順光では紅葉の色がしっかり出ますし、逆光では葉を透かして紅葉を印象的に撮ることがきます。ロケーション全体を見せたいときは順光、紅葉だけを見せたいときは逆光を選ぶことが多いです。
- 山にかかる霧や影:紅葉に限らず霧や影は雰囲気が出るので取り入れたいポイントです。山では雲の位置が近い分、影がしっかり出るので、平地では出しづらい表現ができます。
【事前準備】山での紅葉撮影の持ち物
標高のある山の撮影では、必要な持ち物をチェックしておくことも大事です。
今回の持ち物
- バックパック+カメラクリップ
- カメラ+レンズ
- CPLフィルター(円偏光フィルター)
- ブロアー
- 防寒着
バックパックは、『山と道』というブランドの「MINI」がとにかく軽くてよく使っています。服装は、平地との気温差が10度以上あるので長袖は必須。山の上は天候が変わりやすいので、雨具もあったほうが安心です。
カメラはクリップでバックパックに固定
『Peak Design』の「キャプチャー」というカメラクリップをバックパックに取り付けて、ここにカメラを装着します。そうすると両手があくので、足場が不安定な場所などでも手を使って安全に進めますし、長時間首から下げて痛くなるということもありません。
紅葉を色鮮やかに写すためのCPLフィルター(円偏光フィルター)
CPLフィルターは反射光を抑え、被写体が持っている本来の色味を写すことができます。今回の旅ではずっとつけた状態で撮影していました。
左:CPLフィルターなし、右:CPLフィルターあり
CPLフィルターを使うと、紅葉を鮮やかに写すことができます。1段ほど減光されるので、普段より少し明るめに設定するのがポイントです。
広大な風景撮影に欠かせない広角&望遠レンズ
自然風景を撮る場合は、スケール感を強調するための広角と部分的にクローズアップするための望遠をカバーできるレンズを持っていくようにしています。この旅では、NIKKOR Z 14-30mm f/4 SとNIKKOR Z 24-70mm f/4 Sの2本を使いましたが、どちらも写りがいい上に、軽いのが気に入りました。普段は単焦点を使うことも多いのですが、山など荷物を減らしたいシーンではとても助かります。
Photographer's Note
普段も遠くからですが立山連峰をよく見ていますが、紅葉のベストタイミングで行くことができて、あらためて立山の美しさに感動しました。
お気に入りの1枚
地上からロープウェイを見上げるのも醍醐味です。黄色に染まる手前の木々で山とロープウェイを包みこむようにして、ロープウェイが青空に入ったタイミングを狙いました。紅葉と青空のコントラストがお気に入りです。
「立山黒部アルペンルート」は標高差があり、場所ごとに紅葉の見頃が違います。実は今回行ったときには落葉が始まっている場所もありました。
こちらは最も標高の高い「室堂」 。吸いこまれるような青空にダイナミックな風景が映えます。ここの紅葉の見頃は9月~10月上旬で、すでに木々は色あせていました。水面のリフレクションなど美しい風景を撮れる大好きな場所なので、来年はもう少し早い時期に「室堂の本気の紅葉」を撮りに行きたいと思います!
※こちらの記事は、2020年10月14日に撮影したものです。<
協力:立山黒部貫光
Supported by L&MARK