みなさん、はじめまして。フォトグラファーのi_dauyu(@i_dauyu)です。普段は、ストリートスナップをメインに撮影していて、中でも雨の日に撮りに出かけるのが好きです。
雨を撮るようになったきっかけは、ネットで見かけた「雨の日に写真を撮ると、普段とは違うきれいな写真が撮れる」という記事。そこからぬれた路面を利用したり、傘を持った人を記号的にミニマルに切り取るようになり、雨にしか現れない光景を撮るようになりました。
今回は、雨が降る街の中からおもしろい光景をどうやって見つけて切り取っていくのか、そのプロセスを紹介していきたいと思います。撮影地は、新橋~神田の間。もちろんこの場所に限らず、人が行き交う街中であれば十分撮影することができます。
- 街と人を撮るときの機材と設定
- 傘をさす人を都市風景のアクセントにする
- ぬれた路面反射で不思議な世界を写し出す
- 傘をさす人を記号的にミニマルに切り取る
- 夜のしっとりした雰囲気で情緒的に写す
- 【番外編】雨の日の持ち物
- Photographer's Note
街と人を撮るときの機材と設定
- レンズ:街中で情報量を絞って切り取るには望遠ズームがオススメ(NIKKOR Z DX 50-250mm f/4.5-6.3 VRは、35mm判換算で75mm~375mmの焦点距離)
- F値:全体にピントが合うようにF8以上
- シャッタースピード:歩行者をとらえられるスピードに。長さのある望遠レンズは安定させにくく手ブレしやすくなるので、余裕を持って設定 (今回は焦点距離105mmで1/500秒程度)
- 構図:高層ビルが立ち並ぶ街は縦に長いので、縦構図で撮ったほうが収まりがいい
最初のうちは、連写して撮った写真を見返すとタイミングをつかむ練習になります。僕の場合、ベストタイミングをどうも連写ではとらえにくく、狙いすましてシャッターを切るようになりました。
傘をさす人を都市風景のアクセントにする
雨が降る街には傘をさした人が現れ、晴れのとき以上に風景のアクセントになります。特に横断歩道を渡るときがオススメです。
撮影場所
新橋駅と虎ノ門駅の中間。ビルが立ち並び、東京らしい閉塞感のある雰囲気を出せます。
横断歩道を高い位置からとらえるために、まず歩道橋を探します。歩道橋からは道路の真ん中の位置を撮ることができます。
ビル群をバックに、傘をさした人をポツンと構図でとらえる
左の写真が歩道橋からの景色です。正面のビルの窓がズラーっと規則正しく並んでいるところや、巨大な壁がそびえ立っているような迫力が特徴的で、望遠ズームレンズで引き寄せるとその迫力を強調できると思いました。
構図は上に空を入れるかどうかですが、東京らしい「空が窮屈」な空気感を出すために、空を入れずにズームして、ビルで画面の大半を占めるように。下側は信号待ちの車が入るように赤枠の画角にします。
撮影チャンスは信号が変わる直前
通行人が1人でポツンといる瞬間を撮りたいので、人の数がまばらになる横断歩道の信号が点滅し出すタイミングに特に集中します。1人だけ歩いてきたのを見つけたら、信号待ちの車や通行中の車と人がかぶらない瞬間を見計らってシャッターを切ります。
こちらは失敗例です。人が複数いますが、車に重なってしまい人に目がいかず、ごちゃごちゃした印象になってしまいました。うまく撮れなかった場合は、次の点滅するタイミングを待って再チャレンジします。
うまく撮れたのがこの1枚。実は2人写っていますが、右側の人は車に重なった瞬間だったため黒い服の人だけを際立たせることができました。雨の中でずっと待つのも大変なので、複数人いても1人だけが車に重ならないタイミングを狙うのも一つの手です。
こちらは、別の歩道橋から撮った写真です。シンプルに人が真ん中に来た瞬間を狙って撮影しました。歩道橋を見つけたらとりあえず上ってみましょう! そして、道の真ん中をフレーミングできるように立ち、横断歩道を渡る人のタイミングを狙ってシャッターを切れば、ポツンと傘をさした人がいる写真を撮ることができます。
水平垂直をしっかり補正
左:編集前、右:編集後
ビル群を背景にする場合は、水平垂直を意識します。左の編集前は、わずかですが奥のビルが傾いていました。補正することで、主役である傘をさした人により目がいきやすくなります。
ぬれた路面反射で不思議な世界を写し出す
雨が降り続くと路面全体がぬれ、反射を利用した写真を撮ることができるのも雨撮影の醍醐味です。
撮影場所
京橋にあるビル群の中の十字路。ここの路面は風景を反射しやすいです。
撮影したのは、本当になんでもない道です。赤丸で囲んだマンホールの近くに立ち、通行人の邪魔にならないようにカメラは胸の前に構えてライブビューで撮影しました。目線より下げて、奥の反射が写るようにします。
反射面のどこに人が来ると目立つかを考える
まずは試し撮り。1枚撮ってみると、左のように写りました。人の反射をこの中に入れるときに、どの位置に入れたら伝わりやすいかを考えます。僕の場合、空が反射した場所に人が来るの狙うことが多いです。人影は黒くなりやすく、ビルの反射と重なるとまぎれてしまうので、明るい空の反射と人影でコントラストを作るようにしています。F値はぬれた路面全体が写るようにF8にしました。
要素が多い場所では望遠で情報量を絞る
街中で撮る場合は余計なものが入りやすいので、すっと人影に目がいくように、中望遠付近で情報量を絞って撮るのがオススメです。今回は50mm(35mm判換算75mm)で撮影しました。
撮影後に反転して、反射した人影を際立たせる
傘をさした人が空の反射面に来た瞬間をとらえたのがこちらの写真です。これは編集で上下反転させています。
反転前が左の写真です。反転により、反射面の人影に自然に目がいくようになります。また、白線やマンホールなどが普段とは逆なのに画としては成立して見えるので、不思議な印象を与えることもできます。このとき悩むのが、実際の足を入れるかどうかです。反射面がにじんでいて、ぱっと見て人だとわかりにくい場合は、実際の足を入れることで「人」ということが伝わりやすくなります。
こちらは、先ほどよりも離れた場所を歩いている人の反射を写しました。人の距離感を変えるだけでも写真の印象が大きく変わるので、いろんなパターンを試してみるとおもしろいと思います。
雨の編集は「青」を強調
左:編集前、右:編集後
「雨」には「青」や「冷たい」というイメージがあるので、全体を青みがかったように調整するのがポイントです。そこに暖色のライトが写りこんでいると、写真のアクセントになってくれます。また、反射部分のシャツやビルの壁などのディテールがわかるように露出を上げています。
ネオンの反射を生かすと美しい光景を切り取れる
こちらは、水がたまった路面にググっとフォーカスした写真です。雨粒でできる波紋をネオンの光の反射と組み合わせることで、美しい光景を切り取ることができます。地面スレスレでは波紋が見えにくくなるので、しゃがんで胸の前にカメラを構えて撮影。ネオンが水面に映りこんでいるところを画角にできるだけ入れこむようにして、波紋のいい形が撮れるまでひたすらシャッターを切りました。
左の写真は立って撮影したものです。しゃがんだときに比べると奥行き感がなくなりました。波紋とネオンの美しい反射を撮るには、カメラ位置を見極めることが大切です。
傘をさす人を記号的にミニマルに切り取る
雨ならではの「傘」は、さす人の特徴を隠すため記号的に見えると感じています。そして、街を歩いていると、幾何学模様が特徴的な建物を見かけることも。この二つを組み合わせることで、非現実的な雰囲気のミニマル写真を撮ることができるんです。
※「ミニマル写真」について詳しくはこちら
撮影場所
日本橋の近く。古くからある建物や特徴的な外観の建物が立ち並びます。
撮影位置は左の赤丸で囲んだ木の下で、奥の茶色の壁を望遠で狙います。望遠レンズの強みの一つが、人の邪魔にならない場所から撮りたい場所をピンポイントで狙えることです。
編集まで見据えて何色の傘がいいか考える
この建物を見たとき、望遠レンズで左の写真のように切り取れば、規則性のあるところに一か所だけ変化を作れるなと思いました。規則正しく並んでいる中に変化があると、その部分に視線を誘導できます。
ここに傘をさした人が重なれば、傘にすっと目がいく写真になると考えました。建物の隙間を編集でコントラストを強めて黒くしようと考えていたので、黒との対比が際立つビニールか白の傘を待ちました。
トリミングの可能性を残した上で撮影
人が通るのを待って撮ったのがこちらです。この段階では足まで写しています。撮影時はこのほうがいいと思っていたのと、後からトリミングも検討できるようにしました。
編集する中で、足を入れずによりミニマルにしたほうが非現実的でいいと感じたので、最終的にトリミング。その際、背景が茶色の壁だけになるようにしつつ、傘をさす人の右手が中途半端に切れないように気をつけました。
傘の存在感を際立たせるコントラスト調整
左:コントラスト調整前、右:コントラスト調整後
編集では、隙間部分のコントラストを強めました。調整前に比べて、傘が際立っているのがわかります。最初に考えたイメージを写真で表現することができました。ちなみに青いプレートが気になるかもしれませんが、今回はアクセントになっていたので残すことにしました。編集時はそういった点も意識しています。
こちらは、窓が特徴的な建物を生かしたミニマル写真です。窓の明かりと人がいる付近以外を黒くつぶし気味にして、非現実感を強調しました。明るいエリアに人が来たタイミングで撮るとシルエットになるので、それを狙ってシャッターを切っています。
日本の街並みは情報量が多くミニマルな写真を撮るのが難しいのですが、文字がない場所や幾何学模様を意識して探すようにすると、段々とそういう場所に目がいくようになると思います。
夜のしっとりした雰囲気で情緒的に写す
夜になると街灯がぬれた路面に反射して、街の美しさが増します。
そんな街並みの中に歩いている人の後ろ姿を入れるだけでストーリーを感じる写真を撮ることができます。真っ暗な時間もいいのですが、オススメなのは「ブルーアワー」と呼ばれる日が沈んだ直後の青く染まる時間帯です。
撮影場所
神田駅と新日本橋駅の間。路地裏の看板やネオンが、昭和な雰囲気を醸し出します。
日の入り直後の18時頃。左の写真の黄色で囲んだ場所の奥が路地になっていて、赤丸の位置に立って路地にカメラを向けて撮りました。
路地の看板群でフレームづくり
左:黄色で囲んだ位置から見た路地、右:赤で囲んだ位置から見た路地
黄色で囲んだ位置では、左上の写真のように何もさえぎるものがないのですが、望遠レンズの圧縮効果を生かせていません。赤丸で囲んだ場所では、右上の写真のように手前に看板が入ります。下に入れて情報量を増やすことで、その場の雰囲気がより伝わると感じました。さらに、人が通るところに看板や建物の壁で四角のフレームを作ることができました。後はそこに人が通るのを待って、“パズルの最後のピースをはめたら完成”というところ…。
傘をさした人が看板群の中に収まる瞬間を狙う
上の写真が最後のピースがハマった瞬間です。
左のように人の足が看板に少し隠れるタイミングから撮っていき、後で一番いいタイミングで撮れたものを選びました。足がしっかり見えることで人が際立ち、奥行き感も出ています。また、ビニール傘が街の光でふわっと輝き、雨の印象が強まりました。
夜の路地とビニール傘は相性抜群
日本的な雰囲気のある路地は、特にビニール傘との相性がいいと感じています。海外の人から見てもビニール傘は日本ならではのもののようで、日本らしさを強く出したいときはビニール傘を積極的に狙っていくのもいいと思います。
【番外編】雨の日の持ち物
雨の日の撮影では、最小限の物だけを持っていきます。
- 防水機能付きのバックパック
- カメラ
- レンズ
- 傘
傘をさしながらの撮影になりますが、ぬれても大丈夫なようにバックパックには防水機能があると助かります。
今回は、電車で移動するときに邪魔にならないように折りたたみの黒い傘にしましたが、ビニール傘を使う場合もあります。黒い傘をさして撮る場合は、光が透過しないのでシャッタースピードをほんの少し遅くして明るさを調整しています。
Photographer's Note
「雨の日に写真を撮る」ことは、晴れた日に比べると大変なことのほうが多いです。でも、その大変さを上回るほどに、雨の中で撮る楽しさがあります。普段なんでもないと思っていた場所も雨にぬれて、傘を持った人が通るだけで、途端に「撮りたい」と思う場所になるからです。
ここで紹介した撮り方は、最初は難しいものもあるかもしれませんが、ぜひ一度試していただけたらうれしいです。さらに、透明なビニール傘で出かけると、水滴を使ったり、ソフトフィルター代わりにした写真を撮ることもできるので、アイデア次第で雨の日の撮影のバリエーションが広がっていきます。
雨ならではの光景とアイデアをかけ合わせれば、きっと雨の日に写真を撮るのが楽しくなるはずです!
Supported by L&MARK
i_dauyu
大学在学中にサークル仲間の影響で写真に興味を持ち、2017年に祖父から譲り受けた一眼レフカメラで撮影するようになる。ストリートスナップを中心にInstagram、Twitterへ積極的に作品を発表。中でも雨の日の写真が注目を集めている。