カラーグレーディングのはじめ方 -自分の世界観を色味で再現しよう

カラーグレーディングと聞くと難しい映像編集の作業という印象がありませんか?
たしかにカラーグレーディングは色味に関わる非常に奥深い分野ではありますが、実際にチャレンジしてみると少しの編集でも作品全体の印象を大きく変えることが出来ます。

今回の記事では、写真では出せている自分の好きな色味を動画でも再現したいと思っている方に向けて、PhotoshopやLightroomと同じAdobeのアプリケーションであるPremere Proを使ったカラーグレーディングの方法をお伝えします。

 

前回に引き続き、ミュージックビデオやファッションムービー・企業広告など数多くの作品を手がけており、ムービーだけでなくフィルム等でのスチール撮影でも活躍しているMovie director/Photographerの松永つぐみさん(@x_fanpyx_fanpy)に淡くやわらかなトーンの中に、繊細な心のゆれや輝きを感じさせる映像を仕上げるには、撮影後にどのような色味の調整をして独自の世界観を作り上げて行ったのかをおうかがいしました。


作品のテーマは、日常の中にある「いのち」。
普遍的な何気ない風景の中に息づく生命の躍動を、フィルムライクなテイストの映像で表現しています。使用したオールドレンズは以下の4本です。

AI NIKKOR 35mm f/1.4S
AI NIKKOR 50mm f/1.4S
AI NIKKOR 85mm f2
AI Micro-NIKKOR 105mm f/2.8S

カメラ:Nikon Z 6II
マウントアダプター:FTZ II
エッジを柔らかく表現する為にパールセントフィルターを全シーンにわたって使用。

色味を表現したいイメージにチューニング

「カラーグレーディング」とは、撮影した映像を自分の思い描く色味に調整していく作業のこと。映像作品全体の色彩のトーンやイメージを変えることができるので、クオリティの高い作品に仕上げるためには欠かせません。プロが制作するほぼすべての映像作品には、このカラーグレーディングが施されています。

松永さんの作品でカラーグレーディング前とカラーグレーディング後ではどのように印象が変わるかを見てみましょう。

カラーグレーディング前
カラーグレーディング後

左:カラーグレーディング後、右:カラーグレーディング前

カラーグレーディング前
カラーグレーディング後

左:カラーグレーディング後、右:カラーグレーディング前

カラーグレーディング作業の前後ではかなり印象が変わってきます。

 

カラーグレーディングとは?

作品全体の色彩を完成イメージに近づけていく作業のことで、作品のテイストやトーン・世界観を表現するために細かい色味調整をしていく作業です。
カラーグレーディングを施せば、自分の目指す色味や世界観を再現してフィルムライクな色味を表現することも可能です。

撮影時に注意しておくべき設定について

今回は、外部モニターを使用せずにカメラボディ内部で撮影が完結できるピクチャーコントロール「フラット」で撮影したデータでグレーディング作業を行います。

 

ピクチャーコントロール「フラット」とは?

シャドー部からハイライト部まで幅広く情報を保持した映像になります。撮影した映像を積極的に調整、加工する場合に適しています。

 

ワンランク上のグレーディングをするには

Z 6IIに外部モニターを取り付けて撮影をすることで、より多くの色情報を持っている「RAWデータ」や「Logデータ」を使用してカラーグレーディングを行うことも可能です。

RAWデータとは?
明暗情報がほとんどそのまま保存される生データのこと。撮影後でも細かい調整ができる為グレーディングにおいて非常に扱いやすいデータ形式です。

Logデータとは?
RAWデータから色調・彩度・階調を処理した圧縮データのこと。RAWに比べてデータ容量が軽く、階調も広いためグレーディングでの色味調整が可能です。

どちらのデータ形式も、色情報が多いグレーディングに適したデータですのでピクチャーコントロール「フラット」よりも更に細かい色味調整をしたい方はチャレンジしてみてください。

作品を仕上げる中でのカラーグレーディングとは

ではここからは、実際にPremiere Proでカラーグレーディングをしていただいた松永さんにお話を聞いていきたいと思います。

 

―「カラーグレーディング」は、松永さんにとってどんな意味をもつ作業ですか?

 

松永:感情や臨場感、雰囲気などの表現をするうえで、自分の好きなトーンや色味に寄せていくのがカラーグレーディングです。同じ撮影データを使っても、カラーグレーディングでシャープなイメージになったり、かわいい雰囲気になったり。作品の印象が全く違ってくるので、私にとっても大事な作業のひとつですね。

今回は、日常の中で感じられる「いのち、生命力」をテーマに映像作品をつくりましたが、なるべくビビットな色味を抑えて。太陽の柔らかい日差しを感じるような、柔らかくてやさしい印象になるように調整しています。

カラーグレーディング前
カラーグレーディング後

左:カラーグレーディング後、右:カラーグレーディング前

 

―カラーグレーディングを考慮して、撮影時に気を付けておくポイントはありますか?

 

松永:私の場合は撮影した素材に対して色味を考えることが多いですが、撮影している時はなるべく色の濃いものは避けたり、うるさい色のものを入れないようにしたりなどは意識していますね。ただ、それらが必要だと思えばもちろん撮影しますし、その場合はカラーグレーディングで色味を抑えています。

例えば、抜けにつつじが見切れているこのカットではつつじのピンク色が目立ち過ぎないように緑草の色味を立たせてカット全体でバランスを取るように調整しています。

カラーグレーディング前
カラーグレーディング後

左:カラーグレーディング後、右:カラーグレーディング前

 

―色味の調整で使用するソフトと、最初にやることを教えてください。

 

松永:使用しているソフトは、Adobe Premiere Proです。
カラーグレーディングにはDaVinci Resolveなどのソフトを使用しているクリエイターもいますが、私はすべての作品をPremiere Proで編集しています。

カラーグレーディングの最初の工程としては、カット編集で一通りカットを繋いだ後に、全体のトーンを整えるカラーコレクションの作業をします。
Premiere Proの「Lumetriカラー」というカラー調整ツールを使って、ホワイトバランスや全体の明るさ、彩度などの補正を行います。

 

カラーコレクションとは?

ホワイトバランスやカラーバランスの調整のほか、複数の映像の色彩を補正してトーンを統一させる作業のことで撮影した素材を自然な色味に整えることを目的としています。

 

[Point]
Premiere Proでは、画面上部にある「ワークスペース」から「カラー」を選択すると色編集に適したインターフェースで作業することが可能です。

※今回使用したものは、Premiere Pro バージョン22.4.0です。

カラー調整ツール「Lumetriカラー」とは?

「Lumetriカラー」とは、カラーコレクションやカラーグレーディングに必要な様々な機能をまとめたツールです。「基本補正」「クリエイティブ」「カーブ」「カラーホイールとカラーマッチ」「HSLセカンダリ」「ビネット」という6つの項目があり、調整したい素材を選択してから各パラメーターを変更することで動画にエフェクトが適用されます。
特に「基本補正」「カーブ」は調整次第で色味の雰囲気を大きく変える事ができるので、それぞれの項目について簡単に説明をしていきます。

 

・基本補正
後述のLUT(ルックアップテーブル)の適用をサポートし、パラメーターの調整で露出や照明への他の技術的な修正を行います。主にカラーコレクションの作業で使用するパラメーターがまとまっています。

 

・カーブ
基本補正やクリエイティブだけでは調整しきれない色味の微調整をカーブを使って直感的にできるパラメーターです。赤・緑・青の各カラーチャンネルを個別に調整できる「RGBカーブ」のほか、彩度調整・色相調整・輝度調整ができる「色相/彩度カーブ」がまとまっています。

実践1:「Lumetriカラー」で基本的な色調を補正する

―カラー補正の第一歩となるホワイトバランスは、どのような設定をしていますか?

 

松永:色温度は、撮影時にカメラの方で設定しています。だから、ホワイトバランスについては、必要なシーンがあれば調整するといった感じで、あまり大幅には動かしていないと思います。

 

―そのほか、具体的にどのパラメーターを変更することが多いですか?

 

松永:主に「基本補正」の「トーン」と「カーブ」の項目ですね。「トーン」では、コントラストとシャドウ、たまにハイライトを。あとは、普段から明るめに撮ることが多いのですが、少し暗めに撮影した場合はシャドウを上げて、コントラストを下げるといった補正もしています。

あとはカットごとに必要に応じて、「カーブ」の色相/彩度カーブを変更することが多いですね。たとえば、特定の色味について彩度を下げたいときには、該当する色をスポイトで抽出して、「色相 vs 彩度」を動かしてみたり。同じように、特定の色味を違う色相を変更したい時には、「色相 vs 色相」を動かして調整します。

実践2:LUTを適用して、作品の雰囲気を一括で変更

このようにカラーコレクションで全体的な基本的なトーンの方向性を決めたら、あとはシーンごとに細部を調整していきます。このとき、シーンごとに個別に各パラメーターをひとつずつ調整していくことも可能ですが、設定箇所は数えきれないほどあります。

そこで活用したいのが、LUTです。これは、あらかじめ各項目の設定をプリセットしたもので、詳細設定をする必要がないので、誰でも簡単にカラーグレーディングを行えるお役立ちツールです。Premiere Pro」にあらかじめ登録されているLUTのほか、メーカーサイトなどからダウンロードして使用することも可能です。また、オリジナルのLUTとしてご自分のお好みのLUTを登録することできます。

 

―松永さんは、普段からLUTを使われていますか?

 

松永:はい。この作品でも、以前に自分でつくったLUTを全体に適用しています。

トーンの調整やLUTを適用する時には、「調整レイヤー」を使用して編集素材全体を一括で色味調整をすると作品全体のイメージを統一することができるのでおすすめです。

LUT適用前
LUT適用後

 

調整レイヤーを使用するには、プロジェクトパネル下部にある「新規項目」のタブから「調整レイヤー」を選択して、プロジェクトパネル内にできた「調整レイヤー」の素材をカット編集した撮影素材より上のレイヤーに配置します。

[Point]
調整レイヤーとは?
ビデオトラックに配置しただけでは何も起こりませんが、調整レイヤー自体にエフェクトをかけることでそのレイヤーの下にある全てのレイヤーに対して一括でエフェクトを適用することができます。主に、複数のクリップに対して同じエフェクトを一括で適用したい時に使用します。

作品全体を好きなトーンに調整ができたら、次は各カット毎に個別に気になる箇所を調整する作業に入っていきます。

実践3:シーンごとに調整して世界観を完成させる

―LUT適用後に調整した箇所を、具体的に教えていただけますか。

 

松永:実は、皆さんが思うほど多くの項目をいじってはいないんですよね。たとえば木漏れ日のシーンでは「基本補正」はまったく変更していません。ただ、緑色の出方が狙っていたイメージより強く出てしまっていたので、「色相/彩度カーブ」の中にある「色相vs彩度」に少しだけ変更を加えています。

LUT適用前

LUT適用後

グレーディング後

 

松永:一方蜘蛛の巣にクモが這っているシーンは、作品の中でもかなり設定を調整している箇所ですね。もともと奥のツツジの色と緑が強めに出ているのが気になっていたので、「色相/彩度カーブ」の「色相 vs 彩度」で緑とピンクの彩度を抑えたほか、「色相 vs 色相」緑の色自体を青から黄色ぎみの方向に寄せるなどの調整をしています。

LUT適用前

LUT適用後

グレーディング後

また、このシーンでは「色相/彩度カーブ」にあわせて「基本補正」も微調整をしており、コントラスト・ハイライト・シャドウの設定を変更して全体のトーンを整えています。

 

松永:海岸で水面を撮影したこのシーンも、全体のトーンが淡いのに対して、草の緑色だけが鮮やかに映って浮いてしまっていたのが気になったため、全体と馴染ませるために「色相/彩度カーブ」の「色相 vs 彩度」で緑色の彩度を抑えました。

LUT適用前

LUT適用後

グレーディング後

上達のコツは、目指したい世界観の作品をお手本にすること

Premiere Proはほかにも、カラーグレーディングに必要なさまざまな機能がパッケージされています。たとえば、「クリエイティブ」の項目の中にある「Look」は、撮影した素材の上から適用させるフィルターのようなもので、細かな設定などをしなくても作品のトーンをガラリと変えることができるため、まずは手元にある動画で効果を試してみるのもおすすめです。

とはいえ、「機能がたくさんあって初心者にはハードルが高いのでは?」と心配する声もあるかもしれません。そこで、こんな質問を投げかけてみました!

 

―松永さんが初めて「Premiere Pro」を使ったときの印象や、機能を使いこなすためのコツを教えてください。

 

松永:私も使い始めた当時は、何をどう設定すればいいのか何も分かりませんでした。Log収録もしていなかった状態で、当然、LUTも使えませんでしたし。でも、「色味が乗りすぎてしまった動画を、どうにかして淡いトーンに調整したい!」という思いが先行して、知識もスキルもないながら試行錯誤を繰り返していましたね。

分からないながらも「Lumetriカラー」のいろいろなパラメーターを実際に触ってみるうちに、しばらく動かしていると、「あ。なんとなくわかってきたかも?」と思う場面が増えていって。それと同時に、「自分の表現したい方向性は淡いトーンで、そのためにはシャドウを上げると良いのかもしれない」など、自分なりに調整のコツが見えてきたんです。

だから、カラーグレーディングに初めて挑戦する方も、心配しないで大丈夫です! ご自身で少しずついじっていくと、「あ、このトーンはいい感だな」とか、「次はこれを試してみよう」など、発見やアイデアがどんどん見つかっていくはずです。

 

―では最後に、世界観づくりのヒントなど、読者へのメッセージをお願いします。

 

松永:ムービーでもミュージックビデオでも、好きな写真家の作品のトーンや雰囲気からイメージをふくらませて、具体的な世界観を考えることが多いですね。そして、こういったイメージは具体的にもっていたほうが絶対にいいと思っています。

だから皆さんも、好きな写真家がいたら、まずはその方の作品が醸し出す雰囲気やトーンを目指してみることをおすすめします! 実際に参考にしたい作品と見比べながら、その方向性に向かって、各設定をあれこれ試してみてほしいです。とても実りのあることだと思いますし、何より、「自分の好きな世界観に少し近づいた!」といった感覚を味わうのはとても楽しいはずです。ぜひとも挑戦してほしいですね。

【募集終了】フィルムライク動画撮影&編集ワークショップ に参加しよう!

 

これから動画撮影をはじめたい方や最近はじめた方向けに、記事では伝えきれなかった細かな設定や動画撮影のノウハウを学べるワークショップを開催します。

「動画撮影編」と「動画編集編」の2部構成にて、実際に講師にアドバイスをしてもらいながら楽しく動画撮影を学べるイベントです。その場で撮影を楽しめる会場をご用意してお待ちしております。

 

開催日時:2022年7月15日(金)

開催場所:【東京 町田】みんなの古民家 "Tokyo Heritage"

定員:15名

参加費:無料

応募期間:2022年6月8日(水)〜2022年6月29日(水)

講師紹介

MONA

MONA

2013年に結婚式の撮影からカメラマンとしてのキャリアをスタートし、550組の結婚式に携わる。2019年上京と同時に独立。『カメラを通して人生を温める』をコンセプトに掲げ、ウェディングフォトを中心に撮影を行いながら、雑誌や取材、広告、youtube撮影など幅広く活動。趣味としても日頃感じたことを動画にして発信している。飾りすぎず、気取らずありのままの空気を切り取るのが得意。

 

pitaco

pitaco

Vook 教育事業部所属 & 動画編集講師 ← 保育園栄養士 ← TV報道番組AD。映像クリエイター向けコンテンツプラットフォームVookにてセミナーやイベントのディレクションを担当。女性コミュニティや自治体、大学などで講師活動を積極的に行う。「スマホでできる動画編集」を軸に、幅広い層にVlogの作り方などを伝えている。

 

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※この記事は、2022年5月13日に取材したものです。