写真を撮るように楽しむポートレートムービーの撮り方

こんにちは。フォトグラファーの酒井貴弘(sakaitakahiro_)です。

僕は普段、広告や雑誌などで主に人物に関わる撮影をしており、以前にもNICO STOPでは写真撮影でのポートレートに関する記事を書かせていただきましたが、今回はポートレートムービーということで一つの映像作品を制作しました。この作品を通してフォトグラファーから見たポートレートムービーの魅力を皆さんにお届けできればと思います。

 

 

NIKKOR Z 85mm f/1.8 S

ポートレートムービーの魅力

写真の表現手段は視覚のみのなので、一瞬の表情を切りとったり、いかに一枚の中に物語を作れるかなどが大切になってくると思っています。

同じカメラを使う表現手段でも映像は写真とは違い、動きや音やストーリーなど組み合わせた総合的な表現手段です。
例えばシナリオを作って物語を表現したり、動きやカットなどを使って展開で表現をしたり、音楽を使って世界観を作ったり。
伝えられる情報量が多く、写真一枚では見せられないような世界観や奥行きを表現できることが映像の魅力だと思います。

AI NIKKOR 85mm F2

その映像ならではの面白さを生かして今回ショートフィルムのような一つの物語を作って表現することにチャレンジしてみました。自分の表現したいことや、自分の撮りたい世界観をどうやって撮れば見ている人に伝わるのかという所を特に気をつけて撮影をしてみたので、僕が映像制作をした過程を一緒にみながらそのポイントをお伝えしていきたいと思います。

ポートレートムービーのポイント:事前準備編

①テーマを設定する

写真でもテーマは設定すると思いますが、特に映像だとしっかりとしたテーマ設定があることでより作品を作りやすくなります。テーマによって流す音楽やカット割りが全く違ってきたりするので、しっかりとテーマ設定をすることで、後々決めることが明確になり判断がしやすくなります。 

テーマの決め方としては、例えば僕だったら海や光、風など、自然を感じる場所が好きなので、そういう表現をこの作品でも取り入れたいと思い、今回は「海辺を舞台にした一人の女の子の成長と旅立ちの物語」というテーマにしました。
このように好きな物から決めたり、コンセプトから決めたりと色々な決め方があると思うのですが、この最初の段階でしっかりとテーマを決めておくことが大切になります。

NIKKOR Z 85mm f/1.8 S

②絵コンテ、字コンテを制作する

まずは全体の構成を考えていく上で絵コンテを作りました。
今回の場合は先に音楽を決めていたので、頭の中で音楽に合わせて映像を再生しながら絵コンテ上に落とし込み、全体の流れを把握するようにしました。
この絵コンテを作っておくと、それを見ることで当日の撮影がスムーズに進んだり、撮り忘れ防止などにも役立ちます。
またその絵コンテをモデルさんにも見てもらうことで、同じビジョンを共有でき、一つの作品の完成を目指してモデルさんと一緒に作っていくことができます。僕も絵は下手なのですが、上手く書こうとせずに何をしているのかが伝わることが一番大事なので、絵コンテはがんばって作っておいた方がいいと思います。

 

③モデルを決める

テーマに沿ってイメージを作り、そのイメージに合ったモデルさんを選びます。
イメージに合うかどうかを決めるのは難しいかもしれませんが、今回の判断基準の一つとしては映像の中で風を使った表現もしたかったので、髪の毛の動きが出るような髪の長さもモデルさんを選ぶ判断基準になりました。そういった形で絵コンテに沿ったイメージのモデルさんを探してみましょう。

NIKKOR Z 85mm f/1.8 S

 

モデル探しについては、NICO STOP過去の記事をご覧ください。

④音楽を決める

今回はまずテーマを決めてから、そのテーマに合う音楽を先に選び、その音楽に合った構成を考えました。もしできるならば先に音楽を決めてから撮影することがおすすめです。

今回のようなセリフのないポートレートムービーは耳から入ってくる情報が音楽しかないので、見ている方はその音楽をベースに映像を見ることになります。そのため音楽に合わせてシーンの長さや展開作りを考える必要があります。こういったイメージを撮るような場合は音楽を先に決め、その音楽のテンポに合わせた尺で撮影することで、後々困ることがなくなると思います。

ちなみに今回使用した楽曲は、ロイヤリティフリーの音楽や効果音をダウンロードできる「Artlist(アートリスト)」というサイトのものを使用しています。他にもロイヤリティーフリーの楽曲を扱っているサイトがいくつかありますので、みなさんもお好みの楽曲を探してみてください。

今回の映像では風や光などを感じられる映像にしたかったので、音楽もそれを意識し透明感のあるイメージの音楽を選びました。

AI NIKKOR 85mm F2

⑤場所(ロケ地)を決める

テーマに沿った場所を決めます。この時に大事なのは写真と違い撮影が長時間になることもあるため、できるだけ人がいない、静かな落ち着いて撮影ができる場所がおすすめです。
また特に動画だと三脚を立てて長時間撮影することにもなるかもしれないので、人の迷惑にならないように、入ってはいけない場所には入らない、許可を取らないといけない場所は許可をとるなどマナーには注意して撮影しましょう。

AI NIKKOR 85mm F2

[Point]
ロケ地の使用許諾に関しては、スチール撮影とムービー撮影で許諾の種類が異なる場合がありますので事前に撮影予定のロケ地をインターネットなどで調べてそれぞれの管理窓口などに確認を取ってみましょう。

ポートレートムービーのポイント:撮影編

①ポージングや表情について

写真でもモデルさんがイメージを作りやすいように撮影するのは同じなのですが、映像の場合、演技という側面がより強くなります。
写真でいうポーズを作るというよりも、動きや表情を含めた演技になってくるので、今どういう感情なのか、どういうシチュエーションでいるのか、などモデルさんの中にイメージを作りやすいように伝えてあげるとより動きやすかったり表情を作りやすかったりすると思うのでイメージを丁寧に伝えるといいと思います。

NIKKOR Z 85mm f/1.8 S

②インサートカットを撮る

映像ではモデルさんがずっと写っていると色々な情景が見せずらく物語の広がりも見せずらいので、人物の撮影だけに集中し過ぎず、その場の風景やイメージ的な光や水などのインサートカットをとっておくと表現の幅がより広がります。
インサートカットの素材としてはモデルさんの手や目や髪の毛の毛先などのパーツや、あえてぼけた映像や、抽象的な映像を撮っておくというのもイメージを膨らませるものになるのでそういったものもおすすめです。

AI Micro-NIKKOR 105mm f/2.8S

AI NIKKOR 85mm F2

③カメラワークについて

カメラワークも表現したいテーマに沿って選択することが大切だと思います。
僕の今回のテーマはショートフィルムのような海辺の女の子の物語なので、見ている方がカメラワークに目がいくような動きはやめようと思い、あまり激しい動きのカメラワークを避け、距離感をある程度取るように撮影することで、その子の物語をそっとそばで見守っているような視点を意識しました。

AI NIKKOR 85mm F2

動画ならではの表現方法

動画ならではの表現方法は様々あると思いますが、今回の映像の中で用いた三つをご紹介したいと思います。

①「引き」のバリエーション

一つ目は寄り引きのバリエーションです。
同じシーンでも寄りのカットと背景がわかるような引きのカットを撮っておくと、状況説明もでき、より情景が伝わりやすくなります。
例えばバス停で座っているところから外を眺めるシーンでは、「バス停に座っている引きのカット」と「外を見る動きの寄りのカット」を組み合わせることで、状況説明をしつつ動きがあるシーンを作っています。
引きと寄りを一連の流れを組み合わせることで一つの物語を展開できるのは映像ならではの表現方法です。

NIKKOR Z 85mm f/1.8 S

②「スローモーション」の活用

二つ目はスローモーションです。
これは写真ではできない表現です。スローモーションを使うことで肉眼では見れない世界を捉えることができ、表現の幅が大きく広がります。
スローモーションの撮影方法としては、撮影時のフレームレートの設定を60fpsや120fpsにしておくと、編集の時にスローモーションにしても滑らかな動きにできます。
特殊な機材や特殊なソフトを使わなくてもフレームレートの設定で簡単にスローモーションにできるのでぜひチャレンジして欲しいスキルです。

NIKKOR Z 85mm f/1.8 S

③マニュアルフォーカスを使って「ピントで遊ぶ」

三つ目はマニュアルで撮影をして”ピントで遊ぶ”です。
オートフォーカスで撮った方がピントは合いつづけますが、あえてピントをずらしたりピントで遊ぶことで、絵の中にピントの動きが生まれたり、ぼかすことで鮮明に見え過ぎずイメージ映像に近いものが撮れたりするので表現の幅が増えたりします。
ピントが合ってないところから被写体にピントを合わせると、ピントの動きでも見せたいものを引き立てることができたりもします。

AI Micro-NIKKOR 105mm f/2.8S

映像撮影に便利な機材

軽くて扱いやすい一脚

今回は三脚ではなく一脚を使い、より動きやすい装備で撮影しました。
ブレない映像を撮るためにしっかりした三脚を用いることも大切ですが、逆に動き回りながらのアクティブな撮影では使いづらい場面もあります。
そういう時は動きやすく、持ち運びやすい一脚がおすすめです。
今回の撮影では「Velbon EXUP-53」を使用しました。

NIKKOR Z 85mm f/1.8 S

曖昧さとアナログ感を演出できるオールドレンズ

映像でもオールドレンズを使用すると独特の風合いが出るのでおすすめです。

今回映像の構成として、バス停でこれから旅立ちを待つシーンは現在という意味合いでデジタルのレンズでとっています。逆に過去の回想のイメージのシーンではアナログ感や少し曖昧さを出す為にオールドレンズで撮っています。あえてオールドレンズを使うことでピントもマニュアルになり、写り方もデジタルのレンズよりは鮮明にならないのでアナログ感を感じる演出や映像の質感を作りやすくおすすめです。

AI NIKKOR 85mm F2

あとがき

僕はいつも写真を撮っていることが多いのですが、今回ポートレートムービーの作品にチャレンジしたことで、僕自身が写真では撮らなかった表現を発見することができ、また物語を描きながら映像を制作することで、写真とはまた別の角度からより表現のことを考えられるようになりました。

この映像制作の経験やそこで得たものが、今後写真を撮る時や写真を考える上でも、よりよい作品作りに繋がると思うので、自分自身の幅を広げる為にも、自分自身の世界観を深める為にも映像表現にぜひチャレンジしてみてはどうでしょうか。

とはいえ、映像を始めようとすると難しいと感じることも多いと思いますので、今持っているカメラでも、撮影のついでにまずは15秒や30秒の映像を撮ってみるなど、気軽な所からでも始めてみるといいと思います。自分自身の表現の幅も広がると思うので、まずは一歩踏み出してみるのもいいのではないでしょうか。

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