フィルムで撮る花のポートレート写真 - 花の「瞳」「表情」「感情」をとらえる

フィルムで撮る花のポートレート写真 - 花の「瞳」「表情」「感情」をとらえる

SNS投稿やフォトコンテストなど、これまでNICO STOPでピックアップした読者の方のフォトライフをご紹介します。今回は、フィルムで優しく、やわらかな花の表情を写し取る、久莉さん(@kuri_sss303)。久莉さんの代名詞にもなっている「花」の写真はどのように撮られているのでしょうか?

 

みなさん、はじめまして。久莉といいます。身の回りの風景や四季の花を、フィルムとデジタルで撮影しています。フィルム写真は、記憶の中の色との相性がとてもいいと感じていて、見た人にも懐かしい空気感を届けられたらと思っています。

 

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100
F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100
F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100
F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM C200
F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM C200
F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM C200

 

今回は風景の中でも身近な「花」を、フィルムで撮ることの楽しさや、ポートレートのように魅力を引き出す撮り方について、自分なりにご紹介できたらと思います。

 

使用フィルムと基本の撮り方

フィルムは自然な発色のC200と業務用100

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100


普段は外で絞り開放付近でよく撮るので、フィルムは感度の低いFUJIFILM C200と業務用100を使っています。発色が自然なので、記憶の中の光景ともなじみやすいです。

 

天気に合わせたフィルムの使い方

自然な写りが好きで、もともとC200をメインにしていましたが、今は晴れの日には業務用100を使うようになりました。C200は晴れの日にはもちろんのこと、くもりや雨でも使えます。明るさが心配な方は、くもりや雨の日はISO400のフィルムでもいいかもしれません。

 

くもりの日にFUJIFILM C200で撮影
晴れの日にFUJIFILM 業務用100で撮影
左:くもりの日にFUJIFILM C200で撮影、右:晴れの日にFUJIFILM 業務用100で撮影

 

 

フィルムの質感と逆光で優しい雰囲気を描く

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100

 

花のやわらかい印象ともマッチする、フィルムのやわらかい描写。さらにふんわりと優しい雰囲気で切り取るために以下のことを意識しています。

  • レンズの絞りは開放付近で
  • 太陽自体を入れると光が強すぎるので、「逆光」の光だけを入れる
    ※太陽で目を傷めないように気をつけながら撮影します。

 

また、現像&データ化は、写真屋さんで「おまかせ」や「明るめ」とお願いして、自分で特に手を加えることはないです。

「人を撮るような気持ち」で花の魅力を引き出す

「花」は、花であることでもうすでに十分きれいなのですが、「人を撮るような気持ち」で向き合うことで、そのきれいさをより大切に撮って残したいと思っています。

「しべ」=「瞳」と考えて、好きな表情を探す

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100

 

フィルムは枚数に限りがあるので、シャッターを切るまでにいろいろな角度から花を観察します。少し向きが変わると花の表情も変わり、そして視線を感じ…花の「しべ」を「瞳」だと思うようになりました。

 

撮影をするときは、家の近所を散歩しながら視界に花が入ると近寄っていき、まず花の瞳だと感じるしべを探します。そして、しべを中心にいろんな角度から花を見つめ、好きな表情をとらえた瞬間にシャッターを切ります。

 

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM C200

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM C200

 

上の写真の花も散歩中に見つけました。きれいに花が開いて、しべがよく見える一輪を中心に。ピントを合わせ、玉ボケが入る位置を探しきらめき感をプラスしています。

花の形が映えるアングルを探す

人を撮る場合、アングルを変えることで新たな魅力に気づくことがあると思います。

花を撮る場合も同じで、のぞきこんだり、真横から見たり…。いろんなアングルから見つめてみると、花や葉の形などそれぞれの個性が見えてきて、その花の魅力をより写真で表現できる気がしています。

 

下からのぞき、空を背景に花の色彩を際立たせる

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM C200

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM C200

 

形が印象的な赤い花を、前ボケを入れてのぞきこんだようなイメージで撮りました。くもりで空が白く写ったおかげで、花の赤と緑の濃い色が際立ち、個性的な花の形も生きています。

下からのぞきこむような目線で撮ると、花を見つけて目があったような感覚になれておもしろいです。

 

 

花を真横から観察して、葉や茎の形状に注目する

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100

 

かがんで花を真横から見つめると、葉っぱや茎の流れに目が留まります。

このときは、花と同じくらいの目線にかがんで背景を観察して、いいラインの出るところを探しました。葉や茎の形を残す程度に絞り、陰影や流れを出すことで、背景が一面緑でも窮屈な印象になりません。

 

 

画面の対角線上に花を配置してより生き生きと

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100

 

画面の対角線上に花を配置して見上げるように撮ると、青空へ向かっていくような生命力を感じる写真になります。

表現したい雰囲気に合わせて背景を変える

風景の中で花の魅力を際立たせるには、背景の写し方も大切です。

フィルムではAI Nikkor 50mm f/1.4で撮影していて、背景の写る範囲がほどよく、F値が明るいのでボケもつくりやすくて、花の撮影に向いているなと感じます。

 

玉ボケで楽しそうな雰囲気を演出

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM C200

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM C200

 

花の背景にツヤのある葉があったので、開放できれいな「玉ボケ」に。このように、光の当たったツヤのある葉や、陽の光が漏れる木を背景に入れると玉ボケをつくりやすいです。

濃い緑の背景の中で、薄い色の花が浮かび上がり、きらきらと花が楽しそうな雰囲気になりました。このふんわりとした玉ボケの描写は、オールドレンズならではの写りでとても好きです。

 

 

あえて暗い背景で、明るい被写体を際立たせる

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100

 

路地を歩いているときに、水がたまった場所に浮かぶアジサイを発見。スポットライトのように光が当たってきれいだったので、より花が目立つように背景を暗くしました。背景との対比で、花の色と水の透明感が際立っています。背景を暗くして撮るときは、草や木が生い茂った場所や建物の影を入れるのがポイントです。

 

 

背景を白い空だけにして花を強調する

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100

 

花の佇まいがきれいだったので、くもり空を背景にして他に情報が入らないように撮影しました。花びらの鮮やかな色や真っすぐな茎が強調されて、花の魅力が全面に伝わります。

花の顔の向きから「感情」を演出する

花の「表情」の観察と同時に、花の向きから「感情」も想像します。そうすることで花をより身近に、生き生きと感じられるんです。想像した感情に応じて、合う背景の雰囲気も変わってきます。

 

花の感情とそれを生かす背景

背景はその場の環境を生かしつつ、表現する印象によって以下のことを意識しています。

 

上向きの花⇒ポジティブ

明るい笑顔を見せるように咲く上向きの花は、色味のある背景や玉ボケを入れて明るい雰囲気にします。

 

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100

 

下向きの花⇒ネガティブ

うつむくように下を向く花は、なめらかなボケで落ち着いた感じを表現することが多いです。

 

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM C200

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM C200

 

また、上から垂れ下がっている花でも明るい色の場合、ポジティブな印象としてとらえます。向きと色で、どんな印象を感じるかが大切です。

さまざまな天気で花の表情を切り取る

晴れた日の散歩中や雨上がりの庭など、花は身近な環境にあるからこそ天気によって変わるいろんな表情にも出会うことができ、撮るたびにどんどん惹かれていくような気がします。

 

晴れの日は順光で、花の色をはっきり写す

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100

 

晴れた日は光を背にして順光で撮ると、花の色がはっきりと出やすいです。空の青に花の色が映えて、伸び伸びしているように見えます。

 

 

雨上がりの花は、近寄ってみずみずしさを表現

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM C200

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM C200

 

雨が弱くなったのを見計らって出かけたときに見つけた花。しずくを蓄え、透けるような花びらに惹きつけられました。

雨上がりはできるだけ近寄って、みずみずしい花びらを写すようにしています。フィルムは、雨上がりの湿度の高い空気をしっとり淡く写し取ってくれる気がして好きなんです。

 

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100

 

背景を暗くして、水滴が白く見える位置で撮るのもきれいです。

アジサイは、満開のボリューム感を出したい場合は少し離れて全体をぼかさず撮りますが、どこかに着目する場合は近寄って見せたいところ以外を大きくぼかします。

 

雨の日の撮影のコツ

傘をさしながら撮るのは難しいので、私は雨が上がるのを待って撮ることのほうが多いです。途中降り出したり、雨の中で撮るときは、暗くならないように透明な傘をさしています。

 

 

フラットな写りになるくもりの日は、花や茎の形で動きを出す

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100

 

くもりの日はやわらかい光が花の質感を表現してくれます。フラットな印象にもなりやすいので、花の形や茎の動きを写真に取り入れて、変化が出るようにするといいです。

4枚の組写真で表現するときは、場面展開を意識

Twitterで写真を4枚投稿するときは、

  • 上に空が大きく写ったものや明るい色を
  • 下に海や濃い色の写真を

置くことが多いです。

 

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100
F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100
F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100
F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM C200
F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、(左上・右上・左下)FUJIFILM 業務用100、(右下)FUJIFILM C200

 

今回撮影した写真を「花時間」をテーマに組んでみました。

空を見ている花の時間、空を見ていない…花の時間を終えようとしている花。それぞれの時間をイメージしています。また、いろんな背景の写真を入れることで、次々と場面が展開して「旅をしている」ような視線の流れになったらいいなと考えました。

Photographer's Note

もともとカメラは苦手意識が強かったのですが、ふらっと出かける散歩の際に親のコンデジを持ち出してみると予想より難しくなく、きれいに写っていてうれしくなりました。

 

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM 業務用100

フィルムで花を撮りはじめた頃の写真。

 

それからいろんな方の写真を拝見して、オールドレンズのゴーストやフレアに興味を持つように。ミラーレスにオールドレンズで撮っていましたが、フィルムの描写に憧れて3年ほど前からF3を愛用しています。

 

フィルムの撮影スタイル

フィルムで撮る花のポートレート写真 - 花の「瞳」「表情」「感情」をとらえる

 

  • カメラ「F3」:見た目がかっこよく、頑丈で遠慮なく外でも使えます。巻き上げやシャッターを押すときの感触も気持ちよくて、絞り優先モードもあるのでファインダーの景色に集中しやすいです。
  • レンズ「AI Nikkor 50mm f/1.4」:背景がほどよくまとまり、明るくてよくぼけるので、主役を際立たせたいときに重宝しています。
  • ストラップ「Acru」:クッション付きで、長時間首にかけていても疲れないのでお気に入りです。

 

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM C200

F3、AI Nikkor 50mm f/1.4、FUJIFILM C200

 

今の私にとって写真は、撮ったときの気持ちや温度まで思い出させてくれる本当に大事なものとなりました。

特にフィルムは現像したときに、撮影した光景ともう一度出会うような感覚が好きです。撮ったときの記憶が遠くなってきた頃に写真が届き、懐かしく新鮮な気持ちで、もう一度自分の写真と向き合えるんです。失敗して落ちこむこともありますが、それでもすごく楽しくて、フィルムカメラをしばらく触っていないとそわそわするくらい…。

 

そんなふうに、いろんな感情を与えてくれるフィルムで、身近な風景や花をこれからも撮っていきたいです。

 

花の魅力的な表情を写すポイント

  • 「しべ」=「瞳」と考えて好きな表情を探す
  • 花の形が映えるアングルを探す
  • 表現したい雰囲気に合った背景を選ぶ
  • 花の向きで感情を表現する
  • 天気によって変わる表情を切り取る

 

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20190523173947

F3

20190627184814

AI Nikkor 50mm f/1.4

久莉

久莉

フィルムとデジタルで身近な風景や四季の花を撮影し、SNS上で発信している。フィルムならではの風合いが生きた花の写真は、ポートレートのように生き生きと魅力が表現されている。