NICO STOP初登場となるフォトグラファー高橋伸哉さん。
親子でカメラを片手にアメリカ西海岸をロードトリップしました。
父親である伸哉さんの視点、長女ひなたさんの視点から二回に渡って旅の記録をお届けします。
はじめまして。フォトグラファーの高橋伸哉(@s.1972)です。
旅の連載記事や風景、ポートレート撮影、書き物の仕事なんかをやっていて、国内だけでなく海外にもよく行く。この1年でプライベートも含め13カ国を旅した。いろいろな国ごとの文化や価値観などに触れて、大変勉強になる経験だった。
今回は、日本列島を勢いよく飛び出してアメリカの西海岸へ。ロサンゼルスからサンフランシスコを車で往復1500km、しかもノープラン。ホテルや行き先はその日に決めて、そのうえ長女と初の親子旅というなかなかてんこ盛りな内容だ。
今回の旅に大学生の娘を誘ったのは、就職したら長期の休みも取れないだろうと思うのと、親子でアメリカ西海岸のドライブ旅なんてそうできるものでもないと思ったからだ。そして何より、親子共に生粋の映画好きである。映画の都・ハリウッドに娘と行けたら最高だと思い、誘ってみた。映画も海外も好きな娘は、もちろん快諾である。
だけど、正直不安もたくさんあった。ノープランでちゃんと旅ができるのか?場所によっては治安がとても悪かったりするので、娘を無事に日本に返せるだろうか?……などなど。それに、”往復1500キロをノープランでロードトリップ”だなんて旅慣れた感を出しているが、実はこの親子英語が喋れない。いわば無謀なチャレンジャーなのだ(笑)。
それでも親子旅を実行したのは、経験に勝るものはないと今までの旅で実感していたからだ。娘にも何かを感じとってもらえれば、人生の財産になるであろうと思う。個人的には、地域によって全く異なるアメリカの空気感を映し撮ってきたい。外国はどこも特色が違って面白いけど、特にアメリカは人種や文化のるつぼであり、州や町によって雰囲気が全然違って、そこが面白いのだ。
今回の旅のお供は、nikonのZ 7一台のみ。色々なカメラを所有しているが、初めて買ったフィルムカメラはニコンのFM2、初めてのデジタルカメラもニコンのD80である。そういう意味でもニコンには絶大な信頼を置いているので、今回も満足できる写真が撮れるであろうことは旅の前からわかっていたようなものだ。
娘には、Nikon D3500を持たせた。軽量コンパクトでグリップも握りやすく、初めてでも使いやすいカメラである。娘は芸術学科でアート全般に興味があり、休日に写真展に行ったりするくらい写真にも関心がある。「今後は写真もたくさん撮っていきたい」と言っていたので、今回の旅ではカメラを持たせて、各々の目線でアメリカを切り取ってみることにした。
フリーウェイやジャンクフードに、アメリカの洗礼を受ける
まずはロサンゼルス空港に到着、ハーツレンタカーまで車を借りに行く。正直走るまで少し不安であったが、嫌な予想は的中。ナビに従って走っていたら、乗るつもりのないフリーウェイにいきなり走ってしまった。ダウンタウンのフリーウェイはとにかく車の交通量が多くて、慣れてない人は車線変更だけでも大変だ。その上、日本と交通ルールも異なる。
娘は不安そうだが、ここは父親としてしっかりしなければならない。鼻歌かまして余裕のフリである。
念願のハリウッドを大満喫
ロサンゼルスでは色々と遊びに行ったけど、特に興奮したのはやっぱりハリウッドだ。とにかく2人共、自分が好きな俳優達の手形や足型に興奮してワイワイと楽しんだ。
自分は、ロバート・デニーロという名俳優が小学生の頃から大好きである。娘がデニーロの手形を発見して教えてくれた時は、胸の鼓動が速まるのがわかった。デニーロと同じ地に立って、自分の手と彼の手形を合わせる。なんといっても40年近くファンなわけだから、これには感無量であった。
歩くだけでも映画の看板や映画に関するようなお店が並んでいて、とても楽しい。よくテレビで見かける、Mount Leeにある”Hollywood”の文字を目にした時は「ああ、ようやく実物を見れた」と、心の中で達成感のようなものや興奮が入り混じっていた。
映画に出てくるような遊園地を楽しんだサンタモニカ
ルート66の最終地となるサンタモニカも格別だった。海辺といい、小さな観覧車といい、アメリカの古き良き時代の雰囲気がある観光地で、家族連れやカップルが多い。もちろんフォトグラファーとしては、遊園地や海岸を含め夕暮れのサンタモニカをノスタルジーに撮影してみたいので、場所だけ把握して夕暮れに訪れる。
ここで初めて柵もガラスの扉も窓もない観覧車に乗るのだが、それがとても楽しくて(おまけに何周もしてくれる)子供のようにはしゃいだ。だって、観覧車の窓がないんですよ。日本でそんなのは乗ったことがないし、開放感があって最高だった。
とても楽しかったけど、アメリカならではのスピード感で振り落とされそうになり、ロクな写真が撮れなかった(笑)。一方娘の方は自分よりはるかに冷静で、俺が落ちないかヒヤヒヤしてたらしい。
遊園地を満喫し、再度フリーウェイに乗ってサンフランシスコまで車を走らせた。
映画「ミルク」の舞台を求めてヘイトアシュベリーへ
サンフランシスコに到着したら必ず行きたかったのが、ショーン・ペンが出演していた実話の映画「ミルク」の舞台地にもなったヘイトアシュベリーだ。ヒッピーの聖地ということもあり古着屋が多く、娘ぐらいの年齢の子にはたまらなく魅力的に映るらしい。
映画「ミルク」は、自らがゲイだと公表し、同性愛者で初めて公職についた活動家ハーヴィー・ミルクを描いた映画。「自分らしく生きよう」と思わせてくれる、自分も娘も大ファンの作品だ。ショーン・ペンが好きなのももちろんあるが、実話を元にした物語だからこそ、現地の雰囲気を味わってみたかった。
娘は古着屋に直行して(それが楽しい年頃である)あれこれと物色している。その間、俺は写真を撮るわけなんだけど、スナップを撮る場所としてはとても楽しい。ギター弾きの雰囲気あるおじさんがいたり、ヒッピーな服装でたむろってる若者がいたりと、街並みも含めて歩く人々がとても画になる。ただ、ナイフを持ってゴミ箱を漁ってる男がいたりしてちょっと焦った。
そんな風にサンフランシスコのダウンタウンだったり郊外の有名な観光地であったりを、数日使ってたっぷりと遊んだ。
夕陽に浮かぶゴールデンゲートブリッジをじっくり撮影
この日は、夕陽を狙ってゴールデンゲートブリッジに。
サンフランシスコという街は年間でも40日ほどしか雨が降らない地域であり、とにかく天気が良い。普段猛スピードで車を走らせる人達も雨の日はノロノロ運転になるというから、いかにサンフランシスコが晴天続きなのかがわかるだろう。なので必ず夕暮れは美しい茜色だったりする。
日本にいた時に写真で見たゴールデンゲートブリッジは、夕暮れの中で写っているものが多く、どれもとても美しかった。自分もそういった夕焼けを撮りたい。
人気の観光地でもあるので駐車場はいっぱい、フォトグラファーもたくさんなので、早めに到着して良かった。夕暮れを待ちつつ、そんなに気軽に訪れられる場所でもないので、明るいうちから構図を考えて、気持ちの良い青空とゴールデンゲートブリッジの写真を撮ったりしていたらあっという間に時間が過ぎる。この橋に執着心を燃やしていた俺としては、娘に「ま、撮影は1時間ぐらいかな」と言ったものの、同じ場所で3時間ぐらい同じ構図を撮り続けるという意味不明なことをしていた。
娘は待ってる間にこの日泊まるホテルを考えてくれたり、とてもしっかりと役割をこなしてくれていた。おまけにこの旅でわかったけど、英語のやりとりもできてた。さすがは現役大学生である。耳が良い。
サンフランシスコでは、連日の運転や移動で疲れも少し溜まってきていたので、映画に出てくるようなモーテルに2連泊したりして身体を休めた。
そんなゆったりした時間の中、夜の街を歩いてふらりとおいしそうなお店に入ったり、初めの不安な気持ちから、娘も自分もとても成長している感じがなぜか心地よく。長女と二人でこんな異国の地で歩くことは今後はもうないのかなと思うと、少しは人生について語り合いたくなるものであるけど、なぜかそれも照れくさく感じたりするものであったりするから親子の関係というのは不思議である。
爽やかな風を感じるビッグサーで旅の締めくくり
サンフランシスコからロサンゼルスへの帰りは、誰もが一度はそのルートで走りたいと願うという西海岸の絶景を見ながらの1号線のドライブである。有名なドライブコース「ビッグサー」を走りながら、起伏の激しい山々や、岸壁に激しく打ち付ける波を見たりして楽しんだ。
ひたすらに続く道を風を感じながら走る。とても気持ちよく、気分がすごく良い。夕暮れが近くなってきたので、休憩がてら途中で車を止めて海辺を歩く。たくさんの鳥達が休憩している。娘もなんだか楽しそうに走る。その走り方は小さい頃に俺を追いかけてた走り方と何も変わらなくて少しセンチメンタルな気分にもなり、この旅に親子で来て良かったなと感じた。
いつも自由すぎる父親であり、子供のようにワガママでもあるから、娘はこの旅では大変だったかと思う。でもきっとこんな旅はなかなかできないし、いつかいい思い出になることは間違いないと思う。
初めてのアメリカのドライブ、西海岸の親子ロードトリップ。色褪せることのないようにそっとシャッターを押して、また歩き出す。そんな旅だった。
Photo Gallery by Shinya Takahashi
Edit:Anco Oshita
Supported by CURBON