教えてフォトグラファー – 光・露出・構図を意識して魅力的なポートレート写真を撮る1dayフォトレッスン

教えてフォトグラファー – 光・露出・構図を意識して魅力的なポートレート写真を撮る1dayフォトレッスン

フォトグラファーが撮影初心者にマンツーマンでレクチャーする1dayフォトレッスン。今回は【ポートレート】です。

フォトグラファー・酒井貴弘さんを講師に迎え、どうすれば撮影環境を生かしてイメージ通りの写真が撮れるのか教えていただきます。なお、今回は酒井さんが共同運営をしているオンラインコミュニティ「アマカラ写真部」とコラボしてレッスンを行いました。

 

レクチャーいただくのは…酒井貴弘さん

酒井貴弘さん

酒井貴弘さん
@sakaitakahiro_

モデルさんの魅力を引き出したポートレートが魅力のフォトグラファー。広告写真や企業案件、写真教室など幅広く活躍。

 

今回コラボする「アマカラ写真部

フォトグラファーの酒井貴弘さんと神戸健太郎さんが共同で運営するオンラインコミュニティ。「もっと写真が上手になりたい」「楽しみたい」という人たちが集まり、交流している。写真課題や講評、ゲストとの対談イベントやコラボフォトコンなどを実施。部員数は約100名(2021年6月時点)。

 

レッスンを受けるアマカラ写真部の美花さん

美花さん

丸木美花さん
@mikapudding

音楽の動画配信や撮影をしたいと購入したカメラで、写真にも興味を持ちはじめ2021年2月にアマカラ写真部に入部。写真歴は約8か月。人を撮るのは今回がはじめてで、普段は近所を散歩しながら花や空などを撮影している。

 

 

ポートレート撮影のレッスンをはじめる前に

美花:普段はオートで撮っていて、設定についてよくわかっていません…。最近「F値」や「ぼかす」というワードを知ったくらいで、まずは基本の使い方から知りたいです。
そして、憧れの酒井さんに教えてもらえるということで、物語を感じられたり、肌の質感や温度感が伝わる写真を自分でも撮れるようになれれば…と期待いっぱいで来ました。

酒井:ポートレート撮影にはいろんなノウハウやテクニックがありますが、まずはちょっとしたところを気をつける・意識するだけで写真が大きく変わることを実感して、今後自分でも考えたりもっと楽しんで撮影するきっかけにしてもらいたいと思います。

― 今回は2人とも、酒井さん愛用のZ 6II+NIKKOR Z 50mm f/1.8 Sを使って、ポートレート撮影のレッスンをしていただきます。

 

レッスン① 明暗差のある室内で「光」「露出」をつかむ

―この日は、くもり時々雨ということで、室内でレクチャーをすることになりました。

 

教えてフォトグラファー – 光・露出・構図を意識して魅力的なポートレート写真を撮る1dayフォトレッスン

 

酒井:外はくもりですが窓からは光が入るので、「窓際」を使ってまずは自由に撮影してみてください。設定も美花さんの思う通りで大丈夫です。

 

教えてフォトグラファー – 光・露出・構図を意識して魅力的なポートレート写真を撮る1dayフォトレッスン

 

美花:どうやったら明るく写せるのか不安はありますが、やってみます。

 

[美花さんのレッスン前の写真]

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花


 

酒井:顔が黒つぶれしている写真が多いですが、シックでいいものもありますね。どういう雰囲気で撮ろうと思ったんですか?

美花:色鮮やかな写真が好きで「明るくかわいい感じ」に撮りたかったので、絞り優先オートでF値を一番小さくしてみたのですが。窓を背景にするとどうしても顔が暗くなってしまって、窓が横にくる位置に変えて撮ってみたものの、やはり明るく撮れませんでした。

酒井:これは狙ったわけではないんですね。では「光」と「露出」からレッスンしていきましょう。まずは、設定が適切か確認していきますね。

 

教えてフォトグラファー – 光・露出・構図を意識して魅力的なポートレート写真を撮る1dayフォトレッスン

 

設定のポイント

背景が明るい場合、絞り優先オートでは「ISO感度」と「露出補正」の調整が必要です。特にJPEGで撮る場合は、撮影時点で好みの明るさになるようにしましょう。

  • ISO感度:オートにすると黒つぶれや白とびしないように自動で変わるため、イメージ通りにならない場合は手動設定に切り替えます。今回は暗い室内のためISO1000に設定。
  • 露出補正:逆光の場合、標準露出では顔が暗くなりやすいので、イメージした明るさになるようプラスにします。
  • ピクチャーコントロール:JPEGで撮る場合、「ポートレート」にしておくとやわらかく表現できます。
  • ホワイトバランス:カメラが自動で判別する「オート」でOKです。

 

教えてフォトグラファー – 光・露出・構図を意識して魅力的なポートレート写真を撮る1dayフォトレッスン

― 設定を調整して再度撮影する美花さん。

 

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

 

美花:露出補正を+2以上にしたら、かなりイメージに近づきました。

酒井:逆光では、明るくするとやわらかい印象になります。ただ、顔にはどうしても陰ができてしまうので、顔や体の向きを変えてみましょう。

 

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

 

美花:顔を横に向けると、目元や口元を明るく写せました。

酒井:瞳にピントが合っていないのがおしいですね。 広い面積を検出する「オートエリアAF」でも「瞳AF」にするか、「シングルポイントAF」に切り替えましょう。意図的に瞳以外に合わせる場合もあるので、僕はシングルポイントAFのほうを使っています。

 

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

 

美花:シングルポイントAFでピント位置を指定したら、しっかり瞳にピントが合いました!

酒井:レッスン前に比べて、表情も明るくていいですね。

美花:クールな表情も素敵でしたが自然な笑顔が撮りたかったので、ダジャレを言ってみました(笑)

 

表情を引き出すコツ

コミュニケーションが難しいと感じる人も多いですが、難しい場合はとにかく「いいな」と思うことを純粋に口に出してほめてあげてください。そうするとモデルさんも自信を持ってカメラの前に立てて、緊張がほぐれていきます。

 

教えてフォトグラファー – 光・露出・構図を意識して魅力的なポートレート写真を撮る1dayフォトレッスン
教えてフォトグラファー – 光・露出・構図を意識して魅力的なポートレート写真を撮る1dayフォトレッスン

 

酒井:今は背景が白くとんでいるので、次は部屋の雰囲気を生かしてみましょう。ポートレートは、環境も含めて世界観を考えるのが大事です。

 

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

  

酒井:窓が横にくるようにすると光量を抑えられて、部屋の落ち着いた雰囲気を生かすことができます。このとき、光が入る位置とモデルさんの立ち位置も大切で、窓より後ろに立つと直接光が当たらず全体に光が回り、窓からの光が横から当たる位置では陰影がはっきりします。

美花:顔の明るさが全然違います!

酒井:ちなみに暗い室内では照明をつけたくなると思いますが、室内照明ありなしで撮ってみましょう。

 

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

左:自然光のみ、右:自然光+室内照明

 

美花:照明をつけると顔にオレンジの光と窓からの白い光の両方が当たっています。

酒井:照明の光の色が混ざってしまうと扱いが難しいので、基本は自然光で撮るようにしましょう。

 

レッスン①を終えて

美花:「外も中も暗いのに撮れるのかな」と思ったのですが、設定や位置・顔の向きなど光の当たり方次第で、顔の明るさや質感が変わることに驚きました。大きなライトが必要なのかと思っていたのですが、窓とカーテンと露出調整だけでできることにびっくり。梅雨の時期でも明るい写真が撮れることがわかったので、他でも応用してみたいです。

 

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

雨の日のアンニュイな横顔になるように、顔の明るい部分と背景がとばないように光を意識しました。

 

撮影ポイントのまとめ

  • 光:自然光で撮る。また、光の当たり方で顔の明るさが変わるため、窓とモデルさんの位置を調整する(逆光では顔が暗く、サイド光では陰影がはっきりする)。
  • 露出:イメージした写りになるように補正。逆光などの条件で顔を明るく写したいときはプラス補正に。
  • ピント:瞳にピントを合わせる場合は、瞳AFかシングルポイントAFにする(瞳以外にも合わせる場合はシングルポイントAFに)。
  • モデルさんとのコミュニケーション:「いいな」と感じたことは純粋に口に出す。

 

ステップアップのために

酒井:光を自分のイメージする表現にどう生かせるかまで考えることが大切です。

 

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 酒井貴弘

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 酒井貴弘

カーテンから少し顔をのぞかせ、顔に光を当てて明るく写す。

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 酒井貴弘

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 酒井貴弘

明るい窓を背景に、あえて暗くして横顔のラインが見える表現に。

 

なぜ明るく撮りたいのか、あえて暗く撮るのか…という選択を自らして、光を選んで使えるようになると脱初心者の一歩になります。

 

レッスン② カーテンを生かした表現にチャレンジ

酒井:では次は、カーテンを絡めて撮ってみてください。

 

教えてフォトグラファー – 光・露出・構図を意識して魅力的なポートレート写真を撮る1dayフォトレッスン

― 椅子を置き、モデルさんをカーテンの中に入れる美花さん。


酒井:椅子は意外ですね。

美花:モデルさんも立ちっぱなしだったので、休憩も兼ねて使ってみようかなと。

酒井:そういう気づかいは大事ですね!

 

[美花さんのレッスン前の写真]

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

 

酒井:1枚目は独特な世界観で結構好きなんですが、どんな写真を撮ろうと思ったんですか?

美花:カーテン越しに顔を撮ろうと思ったのですがうまく透けず…。その後はカーテンの間からのぞく感じを撮りたかったんですが、どう構図を決めたらいいかわからず、斜めにしてみました。

酒井:なるほど。ではまず「カーテンからのぞく」からレッスンしましょう。手のかけ方はいいニュアンスだと思うのですが、斜めにした意図がないならまっすぐ撮りましょう。

 

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

左:モデルさんを中央に配置、右:モデルさんを左側に配置

 

酒井:このほうがシンプルにモデルさんに目がいくと思います。さらにモデルさんの位置を中央から左側に寄せるとまた印象が変わりますよ。

美花:たしかに中央でまっすぐ撮るとモデルさんの存在感が際立ちました。左側に寄せて写すと世界観の中のモデルさんという印象ですね。

酒井:余白を意図的にあけるとバリエーションが出せますし、見た人が想像する余地ができて、作品に広がりが生まれます。

 

教えてフォトグラファー – 光・露出・構図を意識して魅力的なポートレート写真を撮る1dayフォトレッスン
教えてフォトグラファー – 光・露出・構図を意識して魅力的なポートレート写真を撮る1dayフォトレッスン

 

酒井:次は「カーテン越し」ですね。まずは思い切り近づいて、カーテンの透けている部分を見極めます。縦位置で構えてカーテンの流れを意識して、透けている部分に瞳が来るようにするとどうでしょう?

 

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 酒井貴弘

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 酒井貴弘

 

美花:こういうのが撮りたかったです!

酒井:では、やってみましょう!

 

教えてフォトグラファー – 光・露出・構図を意識して魅力的なポートレート写真を撮る1dayフォトレッスン

 

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

 

酒井:瞳だけではなくて、手をカーテンに触れるように入れるとニュアンスが加わります。

美花:瞳の近くに指が入ると、さらに雰囲気が出ました!

酒井:今度はピントを指に合わせてみましょう。開放F1.8にしていると思いますが、顔のディテールを残すためにF2.8程度に少し絞ります。

 

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

 

美花:印象が全然違います! どんな感情なのか、想像が膨らみますね。

 

レッスン②を終えて

美花:カーテンの使い方に悩みましたが、寄ってみると透けている位置がはっきりわかり、瞳の印象が強くなりました。顔の位置や手の向き、ピント位置でも印象が変わり、とてもおもしろかったです。ピントと明るさの調整が大変だったので、反復して身につけたいと思います。

 

撮影ポイントのまとめ

  • 構図:カメラを傾けるとモデルさんより傾きに目がいくため、まっすぐ構えて撮る。
  • モデルさんの位置:中央に配置すると存在感が際立ち、左右に寄せて余白をつくると世界観の中に溶けこむ。
  • カーテン越し:思い切り近づくと透けている位置がわかり、瞳をピンポイントで狙える。
  • 手のアクセント:手を入れると写真にニュアンスが加わり、手にピントを合わせて瞳をぼかすと想像が膨らむ写真になる。

 

ステップアップのために

酒井:家にもあるカーテンは、応用の利く表現アイデアの一つです。手にフォーカスしたいときは、いいバランスになるように指の曲げ方や手の角度なども意識しましょう。また、落ち着いた空気感の写真はモノクロとの相性もよく、撮影後の編集も表現の幅を広げるステップになります。

 

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 酒井貴弘

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 酒井貴弘

 

 

~ カーテンを使った撮影の応用編 ~

教えてフォトグラファー – 光・露出・構図を意識して魅力的なポートレート写真を撮る1dayフォトレッスン
教えてフォトグラファー – 光・露出・構図を意識して魅力的なポートレート写真を撮る1dayフォトレッスン

 

酒井:少し難易度が上がりますが、今度は遮光カーテンのほうを使ってみてください。

美花:わかりました…。酒井さんすみません、顔の部分だけをあけてカーテンの両端を持ってもらえますか?

酒井:また意外な撮り方ですね。

 

[美花さんのレッスン前の写真]

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

 

美花:いっぱい光を集めたら“ふんわり太陽のように明るい写り”になるかなと思って試してみたのですが…。

酒井:光が強くて白とびしてしまいましたね。遮光カーテンは部屋に入る光をコントロールできるので、シックな雰囲気にするときに生かせますよ。

 

教えてフォトグラファー – 光・露出・構図を意識して魅力的なポートレート写真を撮る1dayフォトレッスン
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 酒井貴弘
(右)Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 酒井貴弘

 

酒井:顔の右側だけに光が当たる位置に立ってもらうと、暗闇の中にモデルさんが浮かび上がってかっこいい写真を撮れるんです。このとき、後ろのカーテンをあけて光のラインを入れると、アクセントになります。

美花:スタジオでなくても、ライティングしたような写真が撮れるんですね!

 

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

 

美花:後ろの光が入るとトンネルの中みたいなクールなイメージだったので、手を入れてかっこいい感じでお願いしました。

酒井:手にポーズをつけたのもいいですね! 光を当てる部分、暗くする部分を意識しながら、見せたいところをよりフォーカスする意図で撮れると、さらに印象深い写真になります。

 

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 酒井貴弘

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 酒井貴弘

 

美花:すごくドキっとしました。アクセサリーの雰囲気も生きていますね。

 

レッスン③ 花を使って世界観をつくる

酒井:室内の最後は、小物として「花」を使ってみましょう。2種類の花を用意したので、自由に使って撮ってみてください。

美花:実はやりたかったことがあるんです!

 

教えてフォトグラファー – 光・露出・構図を意識して魅力的なポートレート写真を撮る1dayフォトレッスン

―と言って、花をレンズから目いっぱい離した位置でかざす美花さん。

 

[美花さんのレッスン前の写真]

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

 

酒井:前ボケにしたかったんですね。

美花:そうなんです。花の前ボケを撮ってみたくて、CDジャケットのようなアーティスティックな写真にチャレンジしてみました。でも思ったより花の主張が強く、全体も重めな印象になってしまいました。

酒井:前ボケを入れる場合、レンズから遠いと花のディテールが残ってしまうんです。レンズに近いほどボケるので、思い切り近づけてみましょう。大きくぼかしたいときはF値を極力小さくするのがコツです。それにソファや背景がシックなので、寄って撮ることで重たいイメージを和らげながら、モデルさんの表情や雰囲気を強調できます。

 

教えてフォトグラファー – 光・露出・構図を意識して魅力的なポートレート写真を撮る1dayフォトレッスン

 

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

 

美花:ふんわりボケて、すごく素敵な雰囲気になりました。

酒井:モデルさんの近くに前ボケを入れると視線を誘導する効果がありますし、全体に前ボケを入れるとベールをかけたような幻想的な表現ができます。

 

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

左:顔の近くに入れた前ボケ、右:顔にかかるように入れた前ボケ

 

美花:顔にボケをかぶせるのも好きです。それに、立っているときよりも距離が近くなってモデルさんの表情もよくわかるので、 「かわいい」「素敵」と心の声がたくさん漏れてしまいました(笑)

酒井:思ったことはどんどん口に出したほうが、お互いに撮影のテンションが上がっていくと思いますよ!

 

教えてフォトグラファー – 光・露出・構図を意識して魅力的なポートレート写真を撮る1dayフォトレッスン

 

美花:実はもう一つやってみたいことがあって。

 

―モデルさんの顔の近くに花をちりばめる美花さん。

 

[美花さんのレッスン前の写真]

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

 

酒井:しっとりした雰囲気でいいと思うのですが、イメージ通りに撮れましたか?

美花:もっと明るく華やかに撮りたかったです。

酒井:ここは光が届かない位置でどうしても暗めに写ってしまうので、窓際で撮りましょう。

 

教えてフォトグラファー – 光・露出・構図を意識して魅力的なポートレート写真を撮る1dayフォトレッスン
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 酒井貴弘
(右)Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 酒井貴弘

 

酒井:光が入る場所で撮ると、花本来の明るさを写すことができます。美花さんは真上から平面的に撮っていましたが、奥行きを意識して花からモデルさんに視線が向かうようにしてみるとどうでしょう。片目を隠すと、もう片方の目が際立ちます。

 

教えてフォトグラファー – 光・露出・構図を意識して魅力的なポートレート写真を撮る1dayフォトレッスン
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
(右)Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

 

美花:華やかさを出すことができました! 視線を合わせながら撮ると、モデルさんの息づかいまで感じられてドキドキします。

酒井:イメージに近づきましたね。改善点を挙げると、ボケが大きくて花の面積も広く主張が強いので、少しF値を絞って花の量も調整してみるといいと思います。

 

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

 

酒井:バランスがよくなりました!

 

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

 

美花:服も素敵だったので、横位置でも撮ってみました。

酒井:いい雰囲気になりましたね。せっかくなので、先ほどの花の前ボケを加えてみましょう。

 

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

 

美花:めちゃくちゃ素敵です!

 

レッスン③を終えて

美花:光の当たり方を変えるだけで“鮮やかな発色”を実現できたので、光を常に意識することの大切さを実感しました。また、花という要素が増えたことで構図を考えるのが難しかったです。

その中で、酒井さんがモデルさんと一緒に作品づくりをする過程を間近に見られて、勉強になることばかりで。特に「目を閉じてから少し開けて」とリクエストすると、余計な力がとれて目の印象がまったく違って見えたことに驚きました!

 

撮影ポイントのまとめ

  • 前ボケ:極力レンズに近づけ、開放F値にするとベールのようにふんわりぼかせる。
  • 光:被写体を鮮やかに写すには、光が入る場所で撮影する。逆にしっとり撮るときは、光が届かない位置で。
  • 花の配置:モデルさんの目を強調するために片目を花で隠すなど、見せたい部分が際立つように配置する。なお、花は存在感があるため、写しすぎやぼかしすぎには注意。

 

レッスン④ 外では背景や余白まで意識する

― 雨がやんだのを見計らって、屋上での撮影にチャレンジです。

酒井:背景は手すりとビル群ですが、好きな位置で撮ってみてください。体が写るように引いて撮る意識でお願いします。

 

教えてフォトグラファー – 光・露出・構図を意識して魅力的なポートレート写真を撮る1dayフォトレッスン

 

[美花さんのレッスン前の写真]

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

 

美花:どこをどう切り取ったらいいか全然わかりませんでした。ビルがいっぱいで悪天候だったので「雑踏の中で強く立っている」イメージにしようと、モデルさんには仁王立ちしてもらいました。


酒井:まず、何となくの余白や傾きは避けて、手すりを水平に&モデルさんを中心に配置するだけですっきりします。傘も生かし切れていないので、肩にかけるように傘をさしてもらったり、傘で遊んでもらったりすると、写真に動きが出ますよ。

 

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

 

美花:水平や中心配置を意識するだけで変わりますね! モデルさんが傘で遊んでくれたので、露出をプラスにして明るく写してみました。

酒井:よくなりましたね。では、次はアングルと背景の写り方についてです。ここは顔とほぼ同じ高さに手すりやビル群が集まり、背景が詰まった印象になってしまうので、カメラのアングルを変えてみましょう。可動式液晶モニターを使えば、上から撮るのも楽ですよ。

 

教えてフォトグラファー – 光・露出・構図を意識して魅力的なポートレート写真を撮る1dayフォトレッスン

― ハイアングルで撮影する美花さん。

 

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

左:アイレベル、右:ハイアングル

 

美花:高い位置から少し見下ろすように撮ると、ビル群が上にずれて奥行きが出ました。

酒井:傘の背景が白い空からビル群に変わるので、傘も見えやすくなってアクセントとして利いてきます。同じように手すりがある川沿いなどでも背景整理の仕方は応用できますよ。

 

教えてフォトグラファー – 光・露出・構図を意識して魅力的なポートレート写真を撮る1dayフォトレッスン

 

酒井:この屋上には椅子があるので、活用してみましょう。安全を確認した上でモデルさんに乗ってもらい、さらにローアングルで撮ると背景を空だけにできます。

 

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

 

美花:ビル群の背景とは違って、気持ちいい解放感が出ました。

 

 

教えてフォトグラファー – 光・露出・構図を意識して魅力的なポートレート写真を撮る1dayフォトレッスン

 

酒井:さらにモデルさんに腕を上げてもらって、上方向への意識を高めてみましょう。

 

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花
Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

 

酒井:縦位置にすると視線が上にいくので、上に余白をあけると大空の中で風を感じている雰囲気が強まります。画面いっぱいにモデルさんを入れると躍動感も出ますよ。

美花:余白の使い方やポーズで、こんなにも写真は変わるんですね!

 

レッスン④を終えて

美花:背景の切り取り方でまったく違うイメージの写真になることに驚きました。背景に意図を持つこと、そのためには撮影位置やアングルを変えたり、考えながら動いて撮ることが大切なんだと実感できたので、今後に生かしたいです。

 

撮影ポイントのまとめ

  • 背景:水平垂直を意識するとすっきりまとまる。
  • アングル:カメラを構える位置とアングルで背景を整理する。遠くにあるビル群などが背景の場合、ハイアングルで見下ろすように撮ると背景の写る量が増え、ローアングルで撮ると空の量が増える。
  • 余白:広い余白をつくると解放感が出て、余白を減らして画面いっぱいにモデルさんを写すと躍動感が出る。

 

ステップアップのために

酒井:意図を持って「余白」を使えるようになると、さらに表現力がアップします。

 

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 酒井貴弘

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 酒井貴弘

 

例えば、ビル群を背景にする場合でも縦位置で上をあけると、空模様にモデルさんの心情を思い浮かべるような、見る人の想像をかきたてる写真になります。

 

Photographer's Note

ポートレート撮影のレッスンを受けた感想

美花:普段オートで設定を意識してこなかったのですが、光や撮りたいイメージに合わせて調整することの大切さを体感しました。明るい光が当たった写真や陰影がついた写真は、大がかりな機材やライトが必要だと思っていたのですが、自然光で立ち位置や方向を変えるだけで撮れてしまうことに驚きましたし、それが自分にも撮れたことに感動の連続で。できることが増えると、写真を撮る楽しさも倍増しますね。

 

撮影中のテンションが上がる「Z 6II」

教えてフォトグラファー – 光・露出・構図を意識して魅力的なポートレート写真を撮る1dayフォトレッスン

 

酒井さんが愛用されているZ 6II+NIKKOR Z 50mm f/1.8 Sのセットをお借りしました。初のフルサイズは、シャッターの音や感触が「シュパッ!」と気持ちよく、モニターがとにかくきれいで撮影中のテンションが上がります。

このレンズを使うと、私でもふんわりきれいなボケをつくることができ、光が当たると繊細な質感で描写できたり1本でさまざまなニュアンスが出せました。透明感のある肌感に近づけてうれしかったですし、ツヤ感やマットやダークなど、どんな雰囲気も表現できることに驚きました!

 

今回、酒井さんの撮り方を間近で見て、動きながら撮る位置やアングルを変え、ものすごい速さで素敵な写真が撮られていくことに、ただただびっくりしました。

特にモデルさんとのコミュニケーションが印象的で、声をかけながら時には具体的に自分がポージングをしたり、モデルさんが戸惑うことなくスムーズで、見ていた私も撮影の時間がとても楽しかったです。

人を撮るのははじめてでしたが、ぜひまたチャレンジしたいと思います!

 

美花さんが選ぶベストショット

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

 

美花:光の調整・ピント合わせ・構図など教えていただいたものを全部合わせた、これまでの自分では絶対に撮れなかった写真です。瞳の表情と光が幻想的で、想像力をかきたてられるところが気に入っています。

 

酒井さんが選ぶ美花さんのベストショット

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/photo by 美花

 

酒井:一番最初のレクチャーをする前に撮ってもらった1枚をあえて選びました。美花さんは意図せず撮った写真ですが、表情と光の当たり方がいいバランスで、ミステリアスな雰囲気を出しています。「こういう写真をどうしたらもう一度撮れるのか」というところを理解して、狙って撮れるようになってほしいと思います。

 

ポートレート撮影のレッスンをしてみて

酒井:改めて、カメラの使い方を理解することが大切だと感じました。美花さんは頭の中に撮りたいイメージはあるのですが、そのイメージにつなげる方法を知らないだけで。露出の合わせ方など撮り方を覚えるとかなり撮りやすくなっていたと思います。次のステップとしては、「どう撮りたいか」を考えながら光を選んだり構図を考えたりして、「なんとなく撮った」から卒業することが必要だと感じました。

また、ポートレート撮影ではモデルさんとのコミュニケーションが大事です。初心者の方はモデルさんを撮るときに緊張すると思いますが、慣れていないモデルさんの場合はモデルさん側も緊張してしまいます。まずは自分が心を開くところから。「うまく撮らなきゃ」と意識しすぎず、自分が楽しんで心を開いて接するとモデルさんも打ち解けやすくなります。

 

教えてフォトグラファー – 光・露出・構図を意識して魅力的なポートレート写真を撮る1dayフォトレッスン

 

今回のレッスン中、美花さんは終始すごく楽しそうに撮っていたのが印象的でした。「楽しい」が写真の一番の魅力なので、みなさんもたくさん楽しんで、自分が撮りたい写真に近づいていってほしいと思います。

 

 

※新型コロナウイルスの感染症対策に十分にご留意いただくとともに、政府、自治体など公的機関の指示に従った行動をお願いいたします。

Model:コヅエ(@cozue_52
協力:アマカラ写真部
Supported by L&MARK

 

 

20190523173955

Z 6II

製品ページ ニコンダイレクト
20190523173952

NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

製品ページ ニコンダイレクト
hiro

酒井貴弘

長野県生まれ。東京在住のフォトグラファー。ポートレートを得意とし、広告写真や企業案件、ポートレートなどの撮影案件から雑誌掲載、WEBメディアでの執筆、写真教室やプリセットのプロデュースなど幅広く活躍。SNSでは約2年間で総フォロワー10万人を超えるなど、SNSでの強みも持っている。