こんにちは、フォトグラファーのFujikawa hinano(@nanono1282)です。
私は、日常と非日常の中にある曖昧さや感情を丁寧に表現したいと思って撮影しているのですが、その“曖昧さ”を表現するための要素の一つとして「玉ボケ」があります。特に私はシンプルな被写体を際立たせたいときや、非現実的な表現をしたいときに玉ボケを入れることが多いです。
玉ボケとは…?
- 「点光源」という光(街灯や木漏れ日など)をぼかすことで丸い玉のようなボケになる。
- F値などによって、玉ボケの大きさが変わる。
今回は、写真の表情を豊かにしてくれる「玉ボケ」について、基本とシチュエーションごとの撮り方のポイントをじっくり紹介したいと思います。フィルムとデジタルの両方で撮影していますので、お持ちのカメラでぜひ試してみてください!
玉ボケになる「点光源」の探し方
玉ボケを撮るには、まず「点光源」を探す必要があります。
左の写真のようにキラキラと葉に反射した光一つ一つが点光源です。これをぼかすと右のようにきれいな玉ボケを写すことができます。
また、逆光状態の木漏れ日は身近な玉ボケポイント。地面に木漏れ日を見つけたら、上を見上げてみてください。キラキラした葉を背景にし、手前の枝にピントを合わせると右の写真のような玉ボケを簡単に撮ることができます。
他にも、ガラスの反射や水面のきらめき、夜の街明かりなども玉ボケができる点光源です。
玉ボケ撮影の基本の4ポイント
続いて、ボケの基本要素。以下の4つを満たすほど大きくボケます。
- F値を小さくする
- 焦点距離を長くする
- カメラと被写体の距離を近づける
- 被写体と背景を遠ざける
なお、フィルムの場合は写真を見るまで実際のボケ具合はわかりません。ですが、ファインダーをのぞくと「どこにピントが合い・ボケるか」が見えますし、この4つの基本要素を理解するとどういう玉ボケになるか予測できるようになりますよ。
1.F値を小さくする
左:F8、右:F2
光が当たっている花畑を見つけて、同じ位置からF値を変えて撮影しました。F8に比べてF2のほうが、背景の光が当たった部分が大きな玉ボケになっています。今回のように点光源(光の反射)が多くある場合、被写体を真ん中に配置すると玉ボケで囲むことができ、被写体が際立ちます。
光の粒がきれいに残るF2~2.8がオススメ
左:F2、右:F1.4
今度はF1.4まで小さくしました。F値が小さいほど大きくボケるのですが、F2は玉ボケの形がはっきりわかるのに対して、F1.4ではボケが溶け合っています。
また、同じフィルムでシャッタースピードをそろえたため、F1.4のほうが少し明るくなっています。好みによりますが、個人的には光の粒がわかりやすく、暗部が効いているF2のほうが好きです。玉の形状を残したい場合、経験上F2~2.8が確実だと思います。
2.焦点距離を長くする
左:24mm、右:50mm
同じ位置から同じF値(F2.8)で、24mmと50mmのレンズで撮り比べをしました。どちらも背景の葉がボケていますが、50mmのほうの玉ボケがより大きくなっています。
必ずしも大きくボケればいいというわけではなく、表現したいことに合わせた使いわけが大事です。右の50mmは一つの被写体にフォーカスして際立たせたいとき、24mmは風景の中にいる被写体をとらえるときのアクセントとして玉ボケを生かすのが効果的だと思います。
3.カメラと被写体の距離を近づける
左:被写体と遠い、右:被写体と近い
同じ50mmレンズで被写体の位置は変えず、撮る側が動いて距離を変えた場合、被写体と撮影者が近いほど点光源である木漏れ日の玉ボケも大きくなります。寄り引きの使いわけは、先ほどの焦点距離の考え方と同じです。
4.被写体と背景の距離を遠ざける
左:被写体と背景が近い、右:被写体と背景が遠い
同じ50mmレンズで、被写体と撮影者の距離を変えずに保ったまま、背景との距離を変えました。撮影者と被写体との距離とは逆に、被写体と背景の距離が遠いほどボケます。
左:被写体と背景が近い、右:被写体と背景が遠い
これは同じ枝の部分を抜き出したものです。右のほうが大きくボケて、玉のサイズも大きいのがわかります。
なお、被写体と背景の距離を離す場合、写りこむ要素が増えるので背景の整理が必要です。
シチュエーションごとの玉ボケの撮り方
「玉ボケのある写真が撮りたい」と思ったときに、まずは撮る場所を考えましょう。玉ボケができるシチュエーションを狙わないと、思った通りの写真を撮ることはできません。
【植物】晴れた日中に光の反射や透過を探す
光が反射する植物や木漏れ日は、玉ボケを最も撮りやすい被写体です。晴れた日中に、近くの公園や家の庭などで見つけることができます。
屋上に茂る植物の中に、赤い印象的な花を見つけました。
光を反射した奥の葉を玉ボケにして赤い花を際立たせるため、F値を小さくし、被写体にぐっと近づいて撮影しています。真上の太陽光を反射するため、どの角度からでも玉ボケは作れるので、被写体がより際立ち、背景が単調にならない位置を探すのがコツです。
また、見上げて木漏れ日を撮るとき、木がうっそうと茂る場所では光と被写体の露出差がとても大きく、露出調整が大事です。この場合、明部と肌の適正露出の中間に合わせると、白とびや黒つぶれがなくちょうどよく写すことができます。
雨上がりも植物に注目
晴れでも雨上がりの日は、植物に水滴がついている場合があります。この水滴が光に当たるとキラキラと輝ききれいな玉ボケを作ることができるんです。上の写真はくもの巣に水滴がついているのを見つけて、手前の明るい部分を玉ボケにしました。
【街明かり】道路沿いから信号や車のライトを撮る
玉ボケを撮りやすいシチュエーションのもう一つが街明かりです。特に道路沿いや歩道橋の上からは、信号や車のライトなどの色味も加わり表情が豊かになります。
夜撮影の設定は、明るさを確保するためF値を開放近くにし、ISO感度は800~1600(フィルムの場合はISO800)を使うと安心。シャッタースピードは1/30秒程度なら手ブレせずに撮れます。
また、イルミネーションの明かりも玉ボケにしやすい光源です。上の写真では、イルミネーションが向かい側のガラス面に反射しているのを見つけ、玉ボケにしました。ガラスへの反射や透過した点光源でも玉ボケはできるので、それを生かすと表現の幅が広がります。
なお、手前に人を写したい場合、人が暗く写る可能性が高いです。大切なのは被写体にも光が当たる場所を探すこと。スマホのライトなどで照らして、被写体の明るさを確保するのも有効です。
【室内】ガラス小物の反射を取り入れる
外でなくても玉ボケは撮影できます。このとき、世界観の中に玉ボケをうまく取り入れるポイントになるのがガラスの反射です。特にお店の中では、照明の下にあるガラス製のものに玉ボケができやすく、上の写真ではガラスの花瓶に反射した光を玉ボケにしました。明るい室内ならISO400あれば十分撮影できます。
ガラスの反射は見逃しやすい光源ですが、ささやかな玉ボケは世界観を演出するエッセンスとして効果的です。
また、ガラスの玉ボケは自宅でも撮影できます。これはすりガラスの表面に光が当たり輝いているところを玉ボケにしました。部屋に飾っている花など何気ない被写体も、玉ボケにより存在感がより一層際立ちます。
【水面】きらめきは水のゆらぎが大切
幻想的な世界観を表現できる水面のきらめきの玉ボケは、他に比べて難しいですが、以下の条件がそろうと撮れる確率が上がります。
- 波(水面にゆらぎ)がある(湖やプールでも)
- 光が水面に強く当たる場所を狙う
きらめきを見つけたらすぐ撮れる状況にしておくことが大事なので、その難しさも含めて楽しんで挑戦してみてください。
加えて、フィルムの場合は明るすぎ/暗すぎると玉ボケと被写体の両方を写すのが難しくなるので注意が必要です。海であれば、日中は明るすぎるので、朝日や夕日など時間帯で調整できる光がオススメ。方角により朝日か夕日かが変わるので、事前に調べてから行きましょう。
左:湖、右:プール
海以外で水のきらめきを撮りやすいのが湖やプールです。
湖は、風があれば水面にきらめきができ、湖畔を周回して光の向きに合わせて場所を変えやすいという特徴があります。
プールでは、モデルさんに少し動いてもらうと波を作れますし、撮影者がプールサイドを動けば玉ボケの位置を変えられます。また、モデルさんがプールの中に入ると顔の奥にきらめきを配置できるので、海よりも自由度が高いです。ビニールプールが用意できれば自宅でも再現できますよ。
玉ボケの表現力をアップさせるアイデア
ここからは応用編です。各シチュエーションでできる玉ボケ+αで、自分の表現したい世界観をつくるアイデアを紹介します。
ガラスに水滴をつけて玉ボケにする
ガラスやラップ、窓やビニール傘など透明なものに霧吹きで水をかけると、自宅でも簡単に被写体の手前に玉ボケが作れます。この作例はお風呂場で撮ったものですが、天井のライトが手前の水滴に当たるようにして、モデルさんにピントを合わせて撮影しました。
このとき、真正面からではなく、斜めから写すとガラス表面の水滴が玉ボケになり非現実感が強まります。左のほうは生っぽさが魅力ですので、表現したいことに合わせて使いわけてみましょう。
こちらはレンズ表面についた水滴が玉ボケになったものです。小雨でレンズが濡れてしまったのですが、それを生かして暗い時間の風景の中にアクセントを加えました。
街明かりの玉ボケの中に表情を加える
夜はさまざまな光源が玉ボケになりますが、玉ボケ+αを考えると、ドラマチックな演出ができます。
上の写真では、街明かりをバックに線香花火を写しました。大きな玉ボケに、弾ける火花が表情を加えています。変化をつけたいとき、玉ボケと異なる光を合わせて遊んでみるのも楽しいです!
イルミネーションライトで玉ボケを添える
玉ボケのシチュエーションは意図的に作ることもできます。これは、月のライトを手に持ち、星のイルミネーションライトを玉ボケにして幻想的な雰囲気を演出しました。
イルミネーションライトは100円ショップでも販売しています。フィルムの場合、ISO800で真っ暗になる前の時間帯であれば、イルミネーションライトの明るさだけでも撮影できます。
玉ボケだけの写真は想像力を刺激する
被写体を入れず、ピントを一番手前の位置にしてどこにも合わせないと、玉ボケだけの写真を撮ることができます。このような抽象的なカットは、複数で組むときの1枚として入れると写真を見た人のイメージが膨らみ、全体としての世界観を強調できて効果的です。
どんな色味のものをぼかすかで印象が変わるので、街明かりや植物、すりガラスやスパンコール生地など、好きな色や質感を探してみると新しい発見があると思います。
機材によってボケ具合も変わる
玉ボケはレンズによっても出来方が異なります。そこで今回は以下の2つのセットで、F2にそろえて比較してみました。
- ミラーレス+現行レンズ:Z 6II+NIKKOR Z 50mm f/1.8 S
- ミラーレス+オールドレンズ: Z 6II+AI Nikkor 50mm f/1.4S
※本記事では、もともとはフィルムカメラ用に作られた、マニュアルフォーカスのレンズをオールドレンズと呼んでいます。
左:現行レンズ、右:オールドレンズ
同じF2で、現行レンズは円に近いですが、オールドレンズは多角形のボケになっています。これは絞り羽根と穴形状の関係で、羽根枚数の少ないオールドレンズのほうが角ばっているんです。角ばっているのもかわいいですよね。
さらに色味を見ると、現行レンズに対してオールドレンズのほうが色あせた印象を受けます。レンズによって玉ボケの出方・雰囲気も変わるので、ぜひいろんな組み合わせを試してみてください。
Photographer's Note
「玉ボケを撮ろう」と常に意識しているわけではありませんが、「ここは玉ボケが出そうだから入れてみようかな」という選択肢の一つであり、きれいに玉ボケが出たときは、目で見たとき以上の世界が見られてかなりテンションが上がります! 特にフィルムカメラで撮ると曖昧な描写になり、脳内イメージが拡張される感覚があります。
玉ボケはできる条件さえわかれば、手軽に取り入れることができる表現の一つです。まずはスナップで、家の周りの玉ボケになりそうな場所を探してみてください。デジタルカメラをお持ちでしたら、どんなふうに出るのか試してみて、慣れてきたらフィルムカメラでどんな描写になるか…とステップアップするとコツがつかみやすいと思います。
今回、普段以上に玉ボケに着目してスナップやポートレートを撮りましたが、「自分が見た感動を写真で誰かに伝えたいとき、その魅力を際立たせてくれる」という玉ボケの可能性を改めて感じました。伝えるための手段や方法が豊かになるほど、写真は伝わりやすくなります。玉ボケはもちろん、そのときの表現に適した引き出しを持てるように、私もさらに新しいことに挑戦していきたいと思います。
Model:hara(@harapeco.o0)、MiYaBi(@myb__611)、松浦稀
Supported by L&MARK
FE2
Nikkor S Auto 5cm F2
Nikkor-N Auto 24mm F2.8
AI Nikkor 50mm f/1.4S
製品ページ※Z シリーズカメラでNIKKOR Fレンズをご使用するには、マウントアダプターFTZを装着する必要があります。
※フォトグラファーの作品性を尊重して機材を選択・撮影しています。
※AI改造済みのNikkor S Auto 5cm F2およびNikkor-N Auto 24mm F2.8でなければ、FE2に装着できませんのでご注意ください。
Fujikawa hinano
Instagramで作品を投稿。グループ展やメディア執筆など、幅広く活動中。「日常と非日常の中にある曖昧さ、そして感情を丁寧に表現したいと思っています」