フォトグラファーが自らテーマを考え、心の赴くままにシャッターを切る…ここでしか見られない「WEB写真集」。第4回は、21世紀生まれの写真家・葵さん(@aoii6327)です。
普段フィルムカメラで撮影を行う葵さんに Z fcをお渡しし、「青」と「ポートレート」をキーワードにした作品を撮影していただきました。
Photographer's Note
私は、言葉ではうまく言い表せない、言葉では的確に表現できない感覚や景色を写真で表現し、「同じように世界を見ている人に伝わるといいな」という想いで写真を撮り発信しています。今回は「青」と「ポートレート」というキーワードを始点に、作品テーマを考えました。
この作品は広い意味では「夏」を再現しています。
私は夏の日の雨が過ぎ去った後の、気だるい暑さを感じつつも、どこか冷たく不思議な気持ちになる感覚に惹かれます。その世界観は、水槽でぽつり何だか虚ろな様子で泳いでいる金魚と、その水槽の風景に似ている気がします。このイメージを「透明感のある冷たい青の雰囲気」の中で表現することを試みました。
世界観をつくるために大事なこと
- ロケーション:開けた空と水のある河川敷が、金魚が泳いでいる姿の表現や余白を出すためにぴったりな場所です。この日は雲ひとつない青空で、開放感や清涼感の表現にとても生かされています。
- 髪型や衣装:髪はふわふわと巻いた感じにして金魚の尾びれを表現。衣装は透明感を出すためと世界観に合う「白い金魚」をイメージして、白いワンピースを用意してもらいました。
- モデルさんとのコミュニケーション:撮影の最初は慣れてもらったり、お互いの空気感を合わせていくために、近くで会話しながらシャッターを切っていきます。その中で、今回表現してもらいたい世界観などを伝え、お互い自由に動きながら感覚の赴くままに撮影し、一緒に理想をつくり上げていきます。
こちらは、撮影開始直後の写真。会話している中で撮影したオフショットです。
魅力を写し出すためにはしっかり想いを伝える
モデルさんには自分を繕わずにありのままに近い姿でいてほしいので、私から見て「あなただから撮りたい空気感がある」ということと、「撮るのが私だからこそ、無意識に体に現れる何かがあることが理想」ということを伝えます。また、ふとした瞬間に訪れる理想の姿を逃さないように、常に意識をモデルさんに向けています。
「透明感のある冷たい青の雰囲気」の表現のポイント
静寂な世界観をつくるには、表情に大きな変化はつけずに、目線や撮るときの角度で表現することが大切です。
イメージを伝えて目の表情や仕草を引き出す
目の表情や動きを引き出すために、どんな空気感・どんな気分でいてほしいかを伝えます。
左の写真では「哀愁を含んだ虚ろな瞳で世界を見てほしい」と、右の写真では「自然の中で息継ぎをするようなイメージで」と伝えました。
不安定な切り取りや動きで、不思議さや違和感を抱かせる
少し不思議な違和感を抱く世界観、そして金魚が虚ろにゆらゆらと体を動かしている様子も再現するため、あえて不安定な切り取りや動きのある写真を入れています。モデルさんには静寂を意識してもらっているため動作は大きくないのですが、カメラワークや自然の風の力を生かしました。
こちらは空の中で泳いでいる瞬間をイメージした1枚です。あえて顔を写さない不思議な切り取り方をし、ローアングルで髪と服を太陽に透かして透明感を出しています。今回のレンズは、逆光時に光が優しくほわっと写り、思い通りの雰囲気を表現できました。
最初と最後は不思議さを与える構成に
先ほどの写真は写真集のラストに入れたものですが、最初や最後に特に不安定さのある構図の写真を選ぶことで、「もっと知りたくなるようなはじまり方」と「不思議さの余韻のようなものを残した終わり方」ができます。興味を持って見はじめてもらい、見終わった後はもう一度見たくなったり、何かが心に残る感覚を味わってもらえたらと考えました。
想像が膨らむ余韻のある切り取り方
写真(特にデジタル写真)は、写実的に世界を写すことができるがゆえに、作品表現として “伝えすぎてしまう”ことがあると思っています。そのため、見る人に与える「余白」を大切にしています。
“思考する余白”があることで、その人なりの視点で自由度高く解釈できる。想像力を膨らませて咀嚼することを楽しんでもらい、その先で人に何かしらの影響を与えられたとしたら、それは表現を続ける私の理想です。
不思議さのある構図で余白をつくるときには、余韻を残しつつも不快感を抱かせないように注意しています。そのためには、三分割構図や日の丸構図などを利用します。
左の写真では三分割構図の交点にモデルさんが来るように。右の写真では日の丸構図で顔を入れて、体を含めて対角線を意識。思い切ったフレーミングやアングルにしながらも、安定した構図を取り入れることで、“不快”ではなく“不思議さ”を感じてもらいたいと考えています。
「透明感のある青」に編集で仕上げる
最後に編集で仕上げます。フィルム風にしようとはせず、デジタルでしか出せない透明感を出すことを最も意識しました。
編集前
私はデジタルの写真はVSCOで編集しています。
- プリセット:青が緑寄りになり、肌のトーンも上がりきれいに見える「C1」を+3.0で。「冷たい青」は表現したいのですが、冷たすぎないように緑寄りにします。
- コントラストと明るさ:透明感を出すためにコントラストを大きく下げます。それに伴い暗くくすんで見えるため明るさを上げ、明るすぎる部分がないようハイライトを調節します。
- 色温度:「冷たい青」の最終調整。肌がくすみすぎないように注意しながら色温度を下げていきます。
左:編集前、右:編集後
イメージした「透明感のある冷たい青の雰囲気」を表現できました。編集においても、どこか不思議さを感じさせながらも、不快感のない仕上りを意識しています。
Z fcを作品撮りに使ってみて
普段デジタルカメラをあまり使わないのですが、撮影中はとにかく鮮明で撮って出しとは思えない色合いに感動していました。フィルムカメラのファインダーに慣れているからこそ Z fcの解像度の高さに圧倒されながら、それを生かした撮影を楽しみながら行えたと思います。
特に肌の色を理想的に写してくれました。ファインダーやモニターに映る像はクリアで、見ている世界よりも明るく、透明感も増したように感じました。
レンズはNIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)を使いましたが、人を撮るのにとても相性がよく、寄りも引きも思い思いの構図で切り取ることができます。
顔のアップの写真では瞳の細かく艶やかな描写がわかると思いますが、そういったものを収めるのは実は難しく、今回理想通りの写真に仕上がって満足です。
私は「こんな視点もあるんだ」と感じてもらったり不思議さや違和感などを持ってほしくて、さまざまな角度からカメラを向けるのですが、バリアングルのある Z fcは特にいろんな角度からの表現がしやすかったです!(フィルムカメラではいつも無理をしたり、おかしな体勢で撮影することが多いので)
そして、フィルムカメラのような見た目が何よりかわいいです。
作品撮りでは実は見た目も重要で、普段は小さいフィルムカメラを使っていますが、以前がっしりしたデジタル一眼レフを使ったときはモデルさんとの打ち解け具合がかなり違いました。その点 Z fcでは、モデルさんと一緒に「フィルムカメラみたいだよね!」「かわいい!」と盛り上がりました。
また、シャッター音が出ない設定にもでき、モデルさんがシャッター音を意識せず、変に決まっていない自然に近い表情を収められたと思います。
ダイヤル操作などフィルムカメラと同じ感覚で使うことができましたし、理想の写真に近づくことができて、撮影していてとても楽しかったです。
※機材名が入っていない、Z fcを撮影した写真は Z 5+NIKKOR Z 50mm f/1.8 Sで撮ったものです。
Model:三浦翔子(@shokomiura_)
Supportedy by L&MARK
葵
高校1年生でフィルムカメラをはじめ、SNSを中心に写真を発表し、写真展など積極的に活動。「高校生フォトグラファー」として注目を集め、三ツ矢サイダーとのタイアップ企画をはじめとする広告撮影など、幅広く活躍している。