京都を中心に活動するフォトグラファー澤村洋兵さん(@yohei_sawamura)。独特の空気感で切り取るポートレートやスナップを得意とし、SNSの総フォロワー数は10万人以上。投稿すればたちまち数千ものいいねがつきます。
何がそれほどの共感を呼ぶのか。彼のフォト・ライフスタイルに迫ります。
仲間の存在が写真のきっかけに
―写真はいつから始められましたか?
澤村:30歳から始めました。26歳からカフェで店長兼料理長をやってたのですが途中で凄腕のシェフが入ってきたんです。なので料理は任せてしまって、自分の時間を空けて何か新しいことをしようと思ったんです。ちょうどその頃コーヒーブームが来そうだなと感じてたのでコーヒーの勉強を始めました。
ただ、味についてはなかなか表向きにお客様に伝えるのが難しかったので見た目としても伝わる何かをしたいと思いました。ラテアートを勉強・練習することにして、ラテアートの世界大会も目指すようになりました。
その時たまたま当時のラテアートの世界チャンピオン山口淳一さんと知り合ったのですが、その人が写真を撮るのが好きで。
その方と話をしていたら大会出場には審査してもらうためにラテアートの写真が必要って知らされて、その流れで写真についても相談してたら 「どうせ写真撮るならちゃんとしたカメラ買おうよ。それで写真部しようよ!」って話になって。
その時その方とボクを含めて4人いたんですけど「やろうやろう」って話になって。その時決めた写真部のルールが【Instagram1日1投稿】だったんです。それを機にカメラを買ってInstagramも本格的に始めました。それが30歳の時。4~5年前ですね。
ちょうど国内の一部では流行り始めた頃なのかな。 仲間4人で1日1投稿でいいねとかフォロワーとか競いあうのが最初はとにかく楽しかったんです。
―一緒にできる人がいると楽しさも増しますよね!
澤村:そうなんです。やってるうちに写真にどんどんハマっていきました。
波に乗ることで、自分の写真表現の幅が広がる
澤村:たまたまその頃ポートレートの写真展を見る機会があって、それで興味が湧きポートレートも撮るようになりました。
―その写真展がきっかけでポートレートにのめり込み出したんですね
澤村:そうですね。元々は木村伊兵衛さんやアンリ・カルティエ=ブレッソンが好きだったこともあり、スナップに憧れてたんですけどポートレートを撮るようになってから他とは違う自分に合った楽しさがあることに気付いたんです。
―他とは違う楽しさとは、具体的にどういったことでしょうか?
澤村:ポートレートは撮ってるうちに自分のイメージしている写真にモデルさんのパワーが加わって想像を超えてくるんですよ。自分の100%を超えてくる面白さってのがあって、自分が撮ってるのか撮らされてるのか、モデルさんとの勝負の要素も入ってくる。それがとにかく楽しくて。
これは初めて自分から声をかけたモデルさんで、今でも大好きな写真の一つなんです。
―モデルさんの目が印象的ですね
澤村:すごく目に力のあるモデルさんだったので、その目を強調させるためにどうしたら良いかいろいろと調べまくりました。三白眼になるように撮影したり、トリミングしたり。そうした試行錯誤の上にできた写真がこの写真です。
―トライアンドエラーを繰り返して出来上がった作品なんですね!どういったモノから作品作りの発想を得ているんですか?
澤村:元々写真展に行くのがすごく好きで、そういうところからインスピレーションを貰ってるのはあるかもしれません。最初の頃は、真似したわけではないけど後から見返すと、誰かの作品に似てることもある。笑
でもそれって最初はいいことなのかなって思っていて、いろんなところから得てきたインスピレーションをここや!って瞬間に混ぜ込んで生まれるのが自分の写真なんじゃないかなぁと。普段の習慣は自分の作品にも無意識に現れているような気がしますね。
―最近はポートレート作品と言うよりはスナップが多い印象なのですが、何か意識されてることはありますか?
澤村:撮りたいものは全然変わっていません。ほんとはなんでも撮りたいんです。全ジャンル。
でもその時の波に合わせて撮るジャンルが変わることはあります。波乗りみたいなものだと思ってて、近くにいい波がいたらすぐ乗っちゃう。いいタイミングでコーヒーブームという波が来たから乗りましたし、それをいかに乗りこなせるかが楽しい。なのでどんなジャンルでもいいのが撮れそうな波がきたら全力でトライします。そうやって身に付けていくのも好きなんですよね。
―波に乗るのを意識すると、自分の好きな写真から離れてくことはないですか?
澤村:ないですね。全部好きなので。笑 どんどん好きな写真の幅は広がっています。
なんでもない時に撮れるのが「自分らしさ」
―澤村さんの写真ってポートレートもスナップも、個性的な雰囲気があるように見えるのですが、普段撮影する時にはどんなこだわりがありますか?
澤村:こだわり。。。なんだろ。
でもカメラは常に持っていたいですね。自分のライフスタイルの中で撮れる写真って一番自分らしいと思うんです。あ、自分らしく自分らしい写真を撮るっていうのがこだわりなのかもしれません。
車で実家にちょろっと帰る時とか、手も空かへんし絶対撮るタイミング無い!って時以外は常に何かしらのカメラは持っています。
―常にカメラを持っていて、どんな時にシャッターを切りたいと思いますか?
澤村:一つ大きいところで言うと「光」ですね。
光はかなり意識はしてて、陰影は大好き。どこの位置からどう撮ったら光がどう入るとかはかなり意識してる気がします。 写真の中で見せたいポイントにちゃんと光が当たってて、無意識に人がそのポイントを見てしまうような写真にしたいんですよね。
例えばこの写真だとモデルさんのメイクと横顔の綺麗さを伝えたいという気持ちがありました。
あえて少しだけ壁から離れてもらってその綺麗な横顔の影を壁に映し出して横顔の綺麗さを強調しています。
あとは大切な人がテンション上がってる時かな。ボク、「究極の記念写真」も撮りたいと思ってるんですよ。
―究極…?
澤村:そう、究極です。旅行で観光地に行ったりするときって誰でもいい背景を探して記念写真を撮ると思うんですけど、それをめちゃめちゃいい感じに撮る。
どこに来ててそこはどんな雰囲気なのかとかがわかるような写真を思い出ごと撮りたくなるんです。
―今まででよく撮れたと感じる記念写真はありますか?
澤村:これとかでしょうか。初めて一緒に道頓堀きましたー!って感じの写真。
これよく見てください。よく旅行者がやるみたいにグリコのポーズにあわせて満面の笑みでの写真ですがグリコの看板の上にも光の絵が入ってるんです。モデルさんの左上にも本当の太陽の光が入ってます。ちゃんと狙って撮りました笑
完成度の高いザ・記念写真をイメージしています。
何を写したいかで機材は変わる
―最近はなんのカメラやレンズを使ってますか?
澤村:いろんなカメラ・レンズを使うんですけど、最近はZ 7を好んで使っています。握り心地が良いし、シャッターの感覚も気持ち良い。ストレスを感じずに撮影にのぞめるんですよね 。最初は慣れなかったんですけど。
―どういった部分が慣れなかったんですか?
澤村:本来は渋い色味というかくすんだような写りが好きだったんですけど、ニコンの Z シリーズってめっちゃ透明なんです。真水みたいな。
例えば最近のお気に入りの写真はこのシリーズの写真です。
本当はこういう透明感のある感じ苦手だったんですけど、このカメラは透明感のある感じが得意なんだっていうの気がついてから、自分らしいクリアな写真っていうのを追求してみました。
クリアな写真といえばアイドルの写真集かなと思って20冊くらい買いました笑
―20冊ってすごいですね!
澤村:でもそのおかげで自分の写真の幅も広がったと思ってて、今ではよく使ってるのがZ 7かな。自分の幅を広げてくれたって意味で感謝もしてる。
―なるほど。よく使ってるレンズについても教えてください!
澤村:やっぱ単焦点が好きです。解像感はもちろん、いい意味での不便さも。どうしてもこの画角で撮りたいからって狭いところで壁にめり込むぐらいの勢いで撮影したりするのが撮ってるー!って感じがして好きです。
―わかります、単焦点だとかなり無理な体勢で撮らなければいけない時がありますよね。
澤村:ズームレンズだとリングを回せばいいだけなんですけど、そういう事じゃなくて今どの焦点距離だからどんな写真が撮れるのかってのを理解・意識しながら撮影するのが大事なんじゃないかなって思います。
例えばほぼ同じ距離で撮影した2枚。左の35mmの写真を見るとポージングや場所の雰囲気込みで全体的に視線が行きやすい。
対して右の50mmで撮影した写真を見るとモデルさんの表情に集中して目線が行きやすい。
そういう感じでどういうふうに見て欲しいかを考えながらレンズ選びをします。
―中望遠レンズは使わないんですか?
澤村:85mmとかも使いますけど、あんまり多くはないですね。 モデルさんと同じ空気感にいたくて、そうすると35~50mmくらいがちょうど良い。 同じ空気感というか間合いで撮影しているとモデルさんとガッチリ意識が合う瞬間を感じたりして、
―ポートレートのお話の時におっしゃっていた自分の100%を超えるという言葉に通じますね!
澤村:そうですね、声を張らなくてもいい距離で会話しながら撮影するとふたりだけの深い世界に入り込んでいったりすることができるんです。そういう間合いを作るのには35~50mmくらいのレンズが一番いい気がします。
自分の100%は他人に伝わる
―SNSの総フォロワー数が10万人を超える澤村さんですが、ご自身にとってズバリ、SNSってどういう存在でしょうか?
澤村:難しい質問ですね。笑
例えるなら「ファッション」は近いかなーって思います。
―ファッション!どう言った部分でそう感じられますか?
澤村:ファッションっておしゃれな方がいいとかモテたい服を着たいとか、ぶっ飛んだセンスのものでもいいし普通でもいいし、別にダサくてもいい。全然自由なんだけど人に見られるコトだからなんか気にしちゃったりして。
SNSも同じで、本当に自由。自由なんだけど誰かに見られるからなんか気にしちゃったり。見て欲しいけど自分中心でいいところがファッションみたいじゃないですか?
―そう言われると、確かに近い気がします。
澤村:いい服買ったらすぐ着たいと思うように、カメラ買ったりいい写真が撮れたりしたらすぐインスタにあげたいと思っちゃいます。
―なるほど。どうやったらそういう自由な投稿に共感してもらえるようになるんでしょうか
澤村:100%自分で「いい」と思う写真を投稿し続けること。そしたらいつもと違った雰囲気のものでも共感は生まれると思う。 例えばこの写真とか。
この時まで笑顔っていうのを撮ったことがなかったんです。その頃のインスタグラムの流行としても笑顔のポートレートってほぼなかったんですよね。
―そうだったんですね!?
澤村:そうなんです。でもこのモデルさんは絶対笑顔が素敵や!って思って、ためしに笑顔撮ってみたらやっぱいいやん!ってなって、そのまま初めて笑顔を投稿してみたんです。
そしたらその時の平均の3倍のいいねがついて、やっぱり自分が良いと思ったものって良いと思ってくれる人もいるんやなって思って。 そこからは日常のライフスタイルをなんでも投稿しています。 もちろん、どの写真も全部100%好きなんです。
もっと自由に
―最後に、今写真を撮っている人たちに、メッセージをお願いします。
澤村:SNSで写真を発表することを始めて悩んでる人の話を聞くことが多いので、そういう方に伝えたいのですが、もっと気楽に、ファッションだと思って自由にやってみてほしいですね。
統一性が必要、とか周りのことも気にせずに自分に素直でいられれば自分らしい写真が撮れると思うんです。そうやって、自分が良いと思う写真をどんどん撮っていってほしいです。
大事なことは写真を好きでい続けることじゃないかな。写真が大好きで、自分が良いと思う写真を妥協せずに撮り続けてゆけば、きっと上手くなるし、誰かもきっと共感してくれるはず。
Edit:高澤けーすけ(@saradaregend)
Supported by CURBON
澤村洋兵
美容師、和食料理人、バリスタ、珈琲焙煎士など様々な職業を経験してきた異色のフォトグラファー。
それぞれの職業で培った感性と器用さを武器に、ポートレートから風景、カフェ写真など幅広く活躍している。