はじめまして、蒼井志保(@aoi_shiho_)です。
ポートレートや水の写真を撮影し、SNSを中心に発信しています。特に反響がある水の写真は、写真でしか表現できない、水の一瞬の形のおもしろさや美しさに惹かれて撮りはじめました。揺れる水面も飛び散る雫も、同じ形は二度となく、シャッターを切るたびに新しい発見があります。
この記事では、防滴に配慮された Z 5とNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sを使って、水を美しく撮影する方法を紹介します。また、水の写真は多重露出で他の写真と組み合わせることで、幻想的な世界をつくり出すこともできます。写真の選び方や重ね方のコツもお伝えするので、ぜひ試してみてください。
水の魅力を表現するポイント
水の質感や動きを表現するには、「光の向き」とカメラの「設定」が重要です。
【光】トップ光と半逆光を使いわける
透明な水の美しさを表現するためには、基本的に屋外の自然光で撮影します。オススメの時間帯は12~14時前後で、撮り方によって光の向きを使いわけるのがポイントです。水の主な撮り方には「器に溜めた水を撮る場合」と「空中の水を撮る場合」の2種類があります。
トップ光で「器に溜めた水」の動きや透明感を強調
器に溜めた水は、真上から照らすトップ光+俯瞰で撮影すると、器の底に映る影によって水面の動きと透明感を表現することができます。俯瞰での撮影はカメラや自分の影が映りこみやすいので、チルト式のモニターで確認しながら撮影位置や角度を調整しましょう。
半逆光で「空中の水」のきらめきや立体感を出す
空中の水を撮るときは、斜め後ろから差しこむ半逆光で、きらめきと立体感を引き出すのがポイントです。流れ落ちる水に影ができて、ハイライト部分の輝きが際立ちます。ローアングルでとらえて背景を空などシンプルにすると、水の形がより見えやすいです。
【設定】水の動きと清涼感を表現する
水の“動き”と“清涼感”を出すには、「シャッタースピード」と「ホワイトバランス」の設定が大切です。
シャッタースピードで水の動きを調節する
水の動きに合わせてシャッタースピードを設定して、水の形を写しとめます。
左:1/1000秒、右:1/3200秒
水の揺らぎや波紋は1/200秒、流れる水や水中の気泡は1/1000秒が目安です。グラスなどで水を飛ばして撮る場合は、1/2500~1/3200秒程度で水の軌道を描きます。
ホワイトバランスで青みをプラスする
左:オート、右:色温度設定(4000K)
色温度設定で4000Kにして、写真全体に青みをプラスし水の清涼感を表現します。撮影時からホワイトバランスを設定しておくと、色の方向性が定まるので編集作業がしやすいです。
その他の設定
- F値:水の形をくっきりと写すために、F5~8程度に絞ります。
- レリーズモード:連続撮影で、形を変える水の一番きれいな瞬間をとらえます。
水撮影に適した機材
水滴が飛ぶため、防滴に配慮された機材が安心です。さらに、手を水に入れたり水を注ぎながら片手で撮影することが多いので、軽さやコンパクトさも重要。今回使用した Z 5は水の撮影にぴったりでした。レンズの焦点距離は、画面に手を入れて写したときに適度な余白ができる50mm程度がベストです。
【編集】水の透明感と質感を引き出す
編集前
水の魅力を写真で表現するには、編集の工程も大切です。ここでは上の写真を例に、透明感と質感を引き出すコツを紹介します。色味はホワイトバランスで寒色に寄せているので、さらに色合いを微調整してイメージに近づけていきます。
※編集ソフトはLightroomを使用しています。
- 露光量とハイライトを上げて、写真全体を明るくします。
- コントラストを上げて立体感を強調し、ぬるっとした水の質感を引き出します。
- テクスチャを40程度に上げて、水面の動きや気泡を際立てます。
- 水の写真に重要な青色と水色を、カラーミキサーで個別に調整します。今回は背景が水色だったので、色相を少し緑色に寄せて、爽やかで透明感のある色味に仕上げました。
左:編集前、右:編集後
全体を明るくしたことでツヤと透明感が引き出され、音が聞こえてきそうな臨場感も生まれました。水は透明なので、背景に色味が左右されます。写真ごとに自分の好きな色を見つけていくことが大切です。
きらめきと躍動感を感じる水の撮り方
水は撮り方によってさまざまな形や質感を表現でき、身近な物で楽しめるのも魅力です。ここでは、カメラ・レンズ以外に使う物と撮影方法を紹介します。
用意する水の入れ物
水の清涼感を出すために、青色の器や青空を背景にして撮ることが多いです。器(背景)の色や素材によって水の質感が変わるので、イメージに合わせていろいろ試してみてください。
- 青いビニールプールや容器(プラスチック製のタライなど)
- 銀ボウル
- 画用紙(白)
- ガラス瓶(無色透明)
ビニールプールは直径約60cm、容器は直径約40cm、銀ボウルは直径約25cmのものを使用します。画用紙は四つ切サイズ(540mm×380mm)ですが、大きいほど撮影しやすいです。
水面のきらめきや気泡を撮る
最も手軽ではじめての方にオススメなのが、水面や気泡の撮影です。上の写真はビニールプールに水を張り、シャッタースピード1/200秒で揺れる水面を撮りました。容器や水面を動かして波をつくってもいいですが、真上から霧吹きで水をかけると、細かく波打ちきらめきも増します。
手の中に水を注ぐと、手のひらの凹凸によって水の波紋や泡立ちに変化が出て、ツヤ感もより感じられます。ビニールプールの上に手を出してもらい、ジョウロで手に水を勢いよく注ぎ、止めた瞬間にシャッタースピード1/200秒で撮影しました。飛び散った水が光に照らされて玉ボケができ、躍動感ときらめきが感じられます。
こちらは、水を深めに張ったタライの中で手を動かし、大小の気泡をつくって撮りました。大きい気泡をつくるには水をたたくように手を入れ、小さい気泡をつくるには水中で手を上下に動かしたり、水を勢いよく注ぐのがコツです。手を動かしながら撮るので、シャッタースピード1/1000秒程度で写しとめます。
広がる波紋で静けさを表現
波紋が広がる水面は、波打つものとは違う静かで落ち着いた雰囲気です。容器の半分くらいまで水を張り、手に少し水をつけてシャッターを切る瞬間に手を振ると、大小の波紋をつくることができます。手に水をつけすぎると波紋が多くなり圧迫感のある写真になるので、少量で波紋の広がりが見えるように余白をつくって撮るのがポイント。シャッタースピードは1/200秒が目安です。
また、波紋をつくった後に容器を少し揺らすと、右の写真のように水面の動きと波紋が合わさり、躍動感やきらめきがプラスされます。
同じ波紋の写真でも、容器を変えると印象が大きく変わります。
上の写真は、銀ボウルに水を1滴落とした瞬間を、シャッタースピード1/200秒で切り取りました。銀ボウルは光を反射しやすく水の動きがわかりやすいので、少しのゆらめきも神秘的に写すことができます。光の反射が強い部分と弱い部分があると変化がついておもしろいので、斜めからボウル内に光が入るようにしてみましょう。
画用紙の上に水を注ぐと、立体感のある波紋をつくることができます。
コツはグラスなどに水を入れて、30cmくらいの高さから静かに注ぐこと。水が画用紙に広がった瞬間をとらえるため、1/2500秒と水中の波紋よりも速めのシャッタースピードで撮影します。光は半逆光で陰影を強調し、斜め上からのアングルで波紋の形と立体感の両方をとらえました。余白部分に水を入れたグラスなどを置くと、質感の違う光と影が加わり写真のアクセントになります。
空中で水の動きをとらえる
落ちていく雫の形は肉眼ではとらえにくく、写真ならではの表現だと感じます。コロンとした雫の形を出したい場合は、ガラス瓶などに少量の水を入れてゆっくりと傾け、シャッタースピード1/1000秒程度で撮るのがコツです。上の写真は背景を空にして水の形を見えやすくし、レンズに透明な袋を被せて水滴をつけて、余白を埋めるように玉ボケをつくりました。
小物を活用したアイデア
水の透明感を大切にしたいので、アイテムも光を透過する物(ガラス小物・風船)やペットボトル、水と相性のいい青色の雑貨がオススメです。ここでは、それらを活用したアイデアを紹介します。
透明な小物を水に浮かべる
上の写真は、ビー玉と宝石の形のプラスチックを水に浮かべて撮影しました。撮る前に水を揺らしたり上から水を注ぐと、小物の輪郭が歪んで見えておもしろいです。水に浮いた小物は不安定で、一瞬ごとに様子が変化するので、連写でいろんな表情をとらえましょう。
グラスで水の軌道を描く
水を入れたグラスを振ると、空中の水の動きがまるで魔法のようです。シャッタースピードは1/3200秒程度に設定して、一瞬の水の形を写しとめます。逆光でグラスを持つ人はシルエットにして、光を透過するグラスと水を際立たせるのがポイントです。背景を空だけにするために、高台や海岸など開けた場所で、できるだけローアングルで撮影します。
※周囲に人がいないか確認してから撮影を行いましょう。
グラスの形はいろいろ試しましたが、ワイングラスのような脚つきだと遠心力が働いて、水をうまく動かすことができます。振るときのコツは、グラスの下のほうを持ち、腕は固定して手首だけを動かすこと。勢いよく振ると水の軌道は一筋の線に、ゆっくりと回すと上の写真のように水の軌道も円を描き、空中で弾けるように写ります。
背景や質感で季節感を演出する
水の写真は清涼感があり夏らしい印象ですが、今回は秋と冬を意識した写真を撮ってみました。
上の写真は、秋らしさを意識して夕日をバックに撮影したものです。夕方の海岸で頭より高く腕を上げて、太陽の光がグラスに映るように。グラスを大きくゆっくり回してもらうことで、オレンジに染まる水を広範囲に広げたのがポイントです。
続いて、冬をイメージした写真です。窓につく結露を表現したくて、画用紙にスポイトで大小の水滴をつくりました。水滴は画用紙にすぐ染みてしまうので、透明なフィルムを敷いています。斜光で水滴に陰影をつけてぷっくり感を表現し、丸い形がわかるように俯瞰気味で撮るのがポイントです。
こちらは、グラスに入れた水を画用紙に勢いよく注ぐことで、氷の鋭い冷たさを感じる1枚に。半逆光で飛び散る水滴の影が画用紙に映るようにして、画用紙をメインに切り取りました。
多重露出で世界観をつくり上げる
水の写真を使って多重露出をすると、一瞬の儚さやきらめきを表現することができます。
今回は「冬のあたたかさ」をテーマに、Snapseedという画像調整や合成ができるスマホアプリで、4枚の写真を重ねてみました。
重ねる写真を選ぶときに意識すること
- ベース:重ねる写真に干渉しすぎないように、輪郭がふわっとした写真を選ぶのがコツです。今回は、壁に映った窓の写真をベースにしました。
- 2枚目:人や動物、建物など、作品の主役になるシルエット写真を取り入れます。コントラストが強く余白が多いほうが、存在感がありつつ重ねやすくてオススメです。ここでは、あたたかさを表現するために夕日を背景にしたシルエット写真を選びました。
- 3・4枚目:水の写真を重ねて空気感を演出します。左の写真は、ガラスにつけた雫をあえてピントを外して撮り、雪のようなふんわりとした描写に。右の写真は、ホースを上に向けて細かく水が飛び散る様子を写し、ダイヤモンドダストのようなきらめきを表現しました。
4枚を重ねたのがこちらです。記憶の中のような曖昧なシルエットに水の玉ボケが重なり、雪の日にあたたかい部屋の窓辺で誰かのことを思い出すような、想像が膨らむ1枚に仕上がったと思います。
Photographer's Note
水はとても身近な存在ですが、撮るたびに新しい発見や驚きがあり、日々の中で観察して試行錯誤することがとても楽しいです。最初は防水性能を備えたスマートフォンで撮っていましたが、撮影を続けるうちにより立体感と動きのある水を高画質で撮りたくなり、今はカメラで撮ることが多くなりました。
今回、Nikonの機材をはじめて使いましたが、とても軽くて片手での撮影もしやすく、撮って出しから色がすごくきれいで撮影がより楽しく感じました。
この記事をきっかけに、みなさんに水の写真の魅力や撮影の楽しさが伝わればうれしいです。水面の撮影などは、水とカメラと容器さえあればどこでもできるので、ぜひ試してみてください!
水の撮影で注意すること
- 水を撒く場合は、周囲に人はいないことを確認して撮影する。
- 機材は防滴に配慮されたものを使用する。
- 水面を俯瞰で撮影する際は、水への落下防止のためにストラップを短く持つ。
- 手や機材を拭くためのタオルを数枚準備しておく。
Supported by L&MARK
蒼井志保
水の写真やポートレートなど撮影しTwitterを中心に発信している。水の一瞬の動きやきらめきをとらえた透明感溢れる写真や、水とシルエットを重ねた物語を感じる多重露出作品は反響を呼んでいる。