2023年10月に発売された、ヘリテージデザインが象徴的なフルサイズミラーレス「Z f」。そのコンセプトは「愛しさを形に」です。
Z f のことが気になっていたという写真家・国分真央さん(@mao_kokubu)にお使いいただき、「愛しさ」を写真という形にすることについて、おうかがいしました。
はじめまして、国分真央です。
普段は山梨の自然風景を撮影したり、家でプロップスタイリングをして物撮りをしたり、近くを散策して惹かれるものを見つけては撮影しています。
一輪の花や、友人の仕草、建物に差す光など…。さまざまな愛しく思う目線を、写真で伝えられたらと考えています。
今回は、「愛しさ」を写真という形に残すことについて、お話ししたいと思います。
「愛しさ」を写真という形に
「愛しさ」という感情は形がなく、日々変化し、成長していくものだと考えています。
そして、その時その時の愛しさを写真に残し、後から見返したときに見方が変わっていることもあれば、何気ない写真でも愛しさが生まれることもあります。
写真は、自分の感情の変化を感じることもできるのです。
愛しいものを撮るときに大切にしている「空気感」
私の中で「愛しく思う瞬間」や「惹かれる写真」は、「空気感」が伝わる写真です。特別な場所ではなくても、日常の何気ない場所に存在しているものです。
春の訪れを感じる梅の花ですが、暖かさの中に冬の名残を感じます。
撮影の合間、モデルさんが手を温めている何気ない瞬間に、愛しさを感じました。
空気感が伝わる写真を撮るために
その場の空気感や温度感と呼ばれるものが伝わるように、いつも意識しています。
こちらは「冬の温度感」が伝わってくる写真です。
雪の降る日に何気なく木々を見ていると、冬の風になびく葉が繊細で美しく感じました。構図は特に意識していませんが、家に帰って見てみると「冬の切なさ」を感じました。
空気感や温度感を伝えるために、以下を無意識的に行っています。
- 被写体の最もきれいに見える部分を探し、色のバランスを考える
- 一見、被写体を撮っているようで、全体像も大事に
- 一番いいものと一番いいものを足して、空間こみで1枚に
毎回撮影した写真の反省点を自分の中で整理していて、その反復のおかげで自然に身についていった感覚です。
ここからは数点を例に、どのような思考で「この1枚」を撮影したかを紹介したいと思います。
「何を魅せたいか」を主題に写真を撮ることが大切だと考えています。ポートレートを撮る際には背景とモデルさんの服装や色のバランスを考え、構図以外にも伝えたい空気感を意識して現像をしています。
ポートレートではモデルさんの表情の瞬間も大切にしているので、いい表情の瞬間はバストアップ程度で撮ることも多いです。
買ってきた花を家でよく撮影するのですが、カラフルで軽さのある被写体なのであえて背景は黒にし、被写体を際立たせることを意識しています。イメージとして、写真というより絵画の雰囲気にも寄せたかったので、重厚感のある雰囲気に近づけるために、総合的に見て粒子感を足しました。
雪が降るくもりの日、窓越しのブルーモーメントの色とランプの黄色で、青×黄色の対比を強調させ、少しシネマチックな雰囲気に。手を写すことで、人肌の質感や、何気ない刹那的な動作を引き立てたいと考えました。現像でランプの黄色を強調するなど、総合的に表現しています。
表現したかったのは、少しずつ暖かくなる春のやわらかい雰囲気や、ごはんの合間のひととき。湯気を写すことで温度感の伝わる空気感を目指しました。
表現に+αを持たせる現像では、特徴的な色味に寄せることなく、フラットな色合いにしています。一つ前の写真では現像で個性を持たせましたが、こちらの写真は個性よりもフラットな空間・何気なさを表現したいと考えたからです。
モノクロならではの表現
色のバランスを見ているとお話ししましたが、モノクロでも撮影します。モノクロ専用の写真集を作るくらい、実は好きです!
- カラーのよさ:色があることで、温かさや冷たさなど温度感を感じやすいと思います。人間の目は普段から色のある世界を見ているので、臨場感という点でも共感を生みやすいと考えています。
- モノクロのよさ:色がない分、密接かつシンプルなので、写真を撮る上では「撮る人の視線」がより伝わりやすいです。また、「光と影」の関係性を客観的に見ることができ、被写体を見極める経験としても鍛えられると考えています。
特にモノクロでは「光と影」が構図になりうる要素なので、光と影のバランスがいいもの/光と影のバランスが取れそうなものを中心に撮影することが多いです。「おもしろい」と感じる被写体もモノクロで撮りたくなります。
カメラやレンズに求めること
求めるのは、「操作性」「描写」「持ちたくなるデザイン」です。
特に迅速に操作設定ができることで、撮影のクオリティ(モチベーション含む)と、瞬間瞬間を逃さず機会損失を減らすことを求めています。
今回は、ずっと気になっていた Z f で撮影をしてきました。
Z f のお気に入りポイント
- デザイン:持ち出すモチベーションが高まり、肩からぶら下げていても素敵なデザインです。
ファッションとの相性
Z f はデザインや重量感から無骨な印象を受け、ボーイッシュな服装に合うと感じました。私はシャツ・ミリタリージャケットに合わせることが多かったです。あえて花柄のワンピースに Z f の無骨さでギャップを効かせたコーディネートもいいと思います。
人工皮革部分を張り替えて色を変えれば、普段着る色合いに合わせたり、差し色として選ぶのも楽しそうです!
- 操作性:元々フィルムカメラF3を使っていたので、なじみのある操作系で親しみやすかったです。シャッタースピードのダイヤルもいつも通りの感覚で使えました。撮影時に悩むことも少なく、操作性はかなりよかったです。そして、モニターが大きめで撮影がしやすいと感じました。
- レンズと描写性:AFの速さ、正確性が優れていました。
メインで使用したNIKKOR Z 40m f/2(SE)はスマートで Z f とのバランスがいいです。低価格ながら描写がとてもよく、クリアな印象を受けました。
NIKKOR Z 28-75mm f/2.8も使用しましたが、描写やAFの操作性など申し分なかったです。F2.8のボケ感がちょうどよく、ポートレートや風景などさまざまなロケーションで活躍できそうです。
- モノクロ:「モノクロで撮りたい」という感情の高まりを維持しながら、レバーですぐ切り替えられるのは大きなメリットです。
設定したピクチャーコントロール「モノクローム」は階調が繊細で、光と影のバランスがよかったです。
カメラも「愛しいもの」に
カメラは長く使う派で、共に闘ってくれる仲間のような存在です。相性がよければ、最大限に長く使いたいと思っています。「物を長く愛すること」は機材への信頼感・親密感も生まれますし、操作に慣れれば慣れるほど、自身の表現に忠実になれると考えているからです。
Z f は見た目も素敵ですし、スペックも申し分ないので、大袈裟かもしれませんが「自分の作風を今後作ってくれるパートナー」になる可能性があると考えています。
Photographer's Note
学生時代に絵画が好きで油絵を描いていたのですが、携帯(ガラケー)で好きな写真が撮れたときにおもしろみを感じ、写真を撮るようになりました。
油絵の制作工程に対して、写真は一瞬で作品が仕上がります。そこがおもしろさであり、難しさでもあります。自分が納得できるまで追求していく気持ちや、好奇心などが原動力となって続けられていると思っています。
また、いろいろなものに興味を持つことは表現の幅にもつながるので、常にさまざまな方向への興味を持ち続けることが写真を続けられている理由の一つです。
<好きなもの>
- 音楽:音楽を聴くと、過去によく聴いた時期を思い出して今の自身の成長を感じられたり、音から色や風景を頭で思い起こして想像の世界を形にしてみたい気持ちが湧き上がります。音楽は写真表現によい影響を与えていると感じます。
- 読書や文章を読むこと:「言葉」を頭で整理することで、表現したいことや大切にしたいことなどを思い返すことができ、今の作風につながっていると思います。
形がないものは想像力が膨らみやすく、創作活動の糧になっています。
写真や表現の前では、いつも自由な心でいたいと考えています。
カメラを自分のお金ではじめて購入して撮りに出かけたときの気持ちや、はじめて自分が好きだなと思えた写真を撮れたときの気持ちなど…。写真に対して雑念のない、自由で透明な心を守っていきたいと思います。
Model : mami(@_____mami20)、南条葉月(@nanjo_hazuki)
国分真央
映像制作会社や写真事務所を経て独立。2020年に東京都から山梨県に移住する。書籍の表紙や広告写真、CDジャケットなど幅広いジャンルで活躍中。独特な色合いと自然が溶けこむような写真が特徴で、独自の世界観を作り上げる。