新たな表現を発見できる接写ポートレート – 中望遠マイクロレンズで、細部に宿る美しさをクローズアップ

新たな表現を発見できる接写ポートレート – 中望遠マイクロレンズで、細部に宿る美しさをクローズアップ

こんにちは! フォトグラファーの酒井貴弘(@sakaitakahiro_)です。
これまでポートレート撮影の基本や表現の仕方について紹介してきましたが、今回は思い切って視点を変えた撮影についてお話ししたいと思います。

…みなさんは、「マイクロレンズ」でポートレート撮影をしたことがありますか?
マイクロレンズは、“マクロレンズ”とも呼ばれている接写ができるレンズです。花の撮影などで使う印象が強いですが、僕はポートレートでもクローズアップフィルターを単焦点レンズにつけるなど、表現の一つとして接写を取り入れることがあります。クローズアップすると、肉眼では見えない新たな世界に出会えてとてもおもしろいです!

 

今回は、中望遠マイクロレンズNIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR Sを使い、接写表現の楽しさや撮影のポイントを紹介してきたいと思います。

 

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

 

ポートレートにおける中望遠マイクロレンズの魅力

クローズアップで、肉眼では見えない世界を写せる

このレンズの最短撮影距離は0.29mと非常に近距離でもピントが合い、最大で被写体を撮像素子に写る像の大きさと等倍に写せます。愛用しているZ 6IIの撮像素子が約3.6cm×2.4cmなので、片目だけを画面いっぱいに写すこともできます。

 

Z 6II、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S
Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
Z 6II、(左)NIKKOR Z 50mm f/1.8 S、(右)NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

 

左はNIKKOR Z 50mm f/1.8 S(最短撮影距離0.4m、最大撮影倍率0.15倍)で、右はNIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR Sで、それぞれのレンズの最短撮影距離から撮影した写真です。最短撮影距離は0.1mほどしか違いませんが、これだけ写る範囲が変わり、マイクロレンズの描写はとてもインパクトがあります。肉眼ではここまで大きく瞳は見えないので、ファインダーをのぞいているとすごく新鮮です。

 

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

 

また、接写はアングルや撮影位置によって写り方が大きく変わります。
先ほどの真横からに対して、上の写真ではほんの少し角度をつけましたが、瞳がより際立ちました。瞳に映る風景まで見えてきます。

 

瞳の中の映りこみに注意

接写するときに瞳の前に立つと、撮影者自身が映りこみます。このとき、白い服など明るいものを着ていると、悪目立ちする可能性があることを覚えておきましょう。黒い服なら反射を抑えられます。

 

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

 

今度は、半歩だけ後ろに下がってみました。まゆ毛や鼻、髪の毛など要素が増え、被写体の雰囲気がより感じられます。

「接写」と言っても、写す範囲や写し方で印象が大きく変わるため、何を伝えたいか/表現したいかに応じて調整することが大事です。

 

接写で中望遠マイクロレンズを選ぶ理由

マイクロレンズは最大撮影倍率が同じでも、標準や中望遠など焦点距離が違うものがあります。その中で、ポートレートに中望遠がオススメな理由は「撮影距離」です。例えば、NIKKOR Z MC 50mm f/2.8の最短撮影距離は0.16mと短く、等倍で撮るにはモデルさんにかなり近づく必要があります。その点、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR Sは0.29mでも等倍に写せて、モデルさんとの距離も確保できるんです。

 

 

中望遠単焦点として、大きなボケと圧縮効果を生かせる

このレンズは接写だけでなく、105mmの単焦点レンズとしても活用できます。

 

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

 

上の写真はF2.8で撮影しましたが、背景が望遠により大きくボケることでモデルさんが際立ち、街中でも非現実的な描写になりました。

 

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

 

また、離れた場所からでも、モデルさんを主役にした写真を撮ることができます。
上の写真は歩道橋に立つモデルさんを下から撮影していますが、表情や仕草までしっかりわかりますね。圧縮効果で奥にあるビルを引き寄せ、存在感のある写真に仕上げました。

標準単焦点では人がすごく小さく写ってしまいますが、中望遠であれば街中で高低差を生かした撮影ができ、バリエーションを増やすことができます。

 

接写ポートレートのポイント

ここからは、マイクロレンズで人を接写するときのポイントを解説していきます。どんな撮影でも基本となる「ピント・ボケ」「光の向き」ですが、写る範囲が狭い接写では影響がより強くなります。

 

主役は何かでピント位置・ボケ具合を調整

ピント位置で瞳の印象が変わる

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

 

上の2枚はいずれも瞳を写したものですが、左はまつ毛に、右は瞳表面にピントを合わせました。開放で撮影していますが、まつ毛と瞳のわずかな距離の差でもボケが発生してくるんです。瞳を正面から写すときは特にピント位置に注意しましょう。

 

 

雰囲気に合わせてボケ具合をコントロール

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

左:F11、右:F4.5

 

今度は、髪の毛に寄って撮影しました。
左のF11でも前後がボケてきますが、絞るほど質感をしっかり描写できます。一方、右はピントの合った髪の毛だけを際立たせ、前後の大きなボケでやわらかい雰囲気を表現しています。

 

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

左:F10、右:F3.2

 

こちらは、首筋をF値を変えて撮影したものです。
左は肌や髪の質感がはっきりわかり、生っぽく、しっとりとした雰囲気を強調できました。前後をぼかした右の写真は、しっとりの中にもやわらかさが感じられます。

写る範囲が狭い分、ボケ具合によって雰囲気が左右されるので、普段以上にピント位置やF値調整を意識的に行いましょう。

 

接写時の設定のポイント

  • F値:表現に合わせて設定しますが、マイクロレンズは撮影距離によって開放F値が変わります。このレンズでは撮影距離∞でF2.8~最短撮影距離でF4.5と被写体に近づくほど大きくなるため、距離を変えるたびに露出調整が必要です。
  • シャッタースピード:望遠はブレやすいので、1/100秒(1/焦点距離)以上は確保できるように。このレンズは手ブレ補正が搭載されていますが、ボディ内の手ブレ補正もONにして、念には念を入れておきましょう。
  • ISO感度:近距離になるほど開放F値が大きくなるため、ISO感度で適正露出に調整します。
  • フォーカス:シングルポイントAFで、主被写体に合わせます。

 

光を取り入れ、画角内に明暗差をつくる

続いては「光の向き」です。基本の考え方は通常のポートレート撮影と同じですが、近づき、かつ写る範囲が狭くなるため、光の影響がより顕著になります。

 

 

順光:弱めの光が正面から当たれば、肌の質感がはっきり描写され、生っぽく写すことができます。

 

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

 

ただし光が強い場合、近い分だけ撮影者の影が顔に重なってしまう可能性があるため、注意が必要です。

 

 

サイド光:明部と暗部がしっかりわかれてメリハリをつけられるので、接写の中では撮りやすい光の状態だと思います。

 

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

 

指などで意図的に明暗差をつくれるので、接写でもモデルさんの仕草がとても大事です。

 

 

逆光:顔の中心部分は暗くフラット気味になるため、明るい輪郭を入れて、画角内に明部と暗部をつくるのがポイント。やわらかさと透明感を表現できます。

 

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

 

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

 

上の写真にように思い切り光を取り入れると、非現実感が強まります。このレンズは逆光耐性に優れているので、繊細に描写できました。

 

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

 

また弱い逆光状態では、顔に陰ができるのを生かして、しっとりした雰囲気を表現することもできます。このときは背景との明暗差をつくり、暗部の顔のほうを際立たせているのがポイントです。

 

 

半逆光:やわらかさがありながら、立体感も出せる光の向き。通常のポートレート撮影では、この光をよく使う方も多いのではないでしょうか?

 

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

 

接写では、逆光のときと同様に明暗差を意識して、「光」を感じられるようにします。
上の写真では、顔の奥側が明るくなるようにモデルさんには少し上を向いてもらい、手前側に向かってなめらかに肌の色を写せるように画角を調整しました。

 

マイクロレンズによる表現のアイデア

ここからは接写を生かした表現についてです。写る範囲が狭く要素が少ない中で、+αのアイテムを使ったアイデアを紹介していきます。

花でアーティスティックに

ポートレートの定番小物の「花」ですが、接写では花自体の存在感が強くなるので、選び方も大事です。
花の印象で写真の雰囲気が決まるため、オシャレなものを選びます。なお、ボリュームが出てしまうと、顔の前に置いたときに花と人のどちらにもピントを合わせるのが難しくなるので注意しましょう。

 

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

 

左はアクセントカラーとして赤を取り入れ、顔にぴったりつけることで、人と花の両方を写しました。瞳の近くに花を配置することで、瞳へと視線がいくようにしています。
右の写真では開いた花を生かすため、横を向いて花と口が同じ距離感になるようにしました。目を写さないことで想像がふくらむようにし、逆光で透かすことで透明感を出しています。

花を前ボケにしてソフトフィルターに

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

 

接写は肌の質感まで写るため生々しくなりがちですが、花を前ボケにするとふんわりとやさしく表現できます。
ソフトフィルターでもいいのですが、花は透け具合でグラデーションができたり、色を生かしたカラーフィルターにもなり、応用が利くアイテムなんです。

 

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

 

こちらは、花の付け根の緑の部分まで入れました。複数の色が混ざることによって、幻想的な世界観を演出できます。
片手でカメラを持ち、もう片方の手で花をレンズに極力近づけて撮るのですが、手ブレしないようにしっかり構えましょう。

アクリル板+水滴でみずみずしさを表現

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

 

こちらは、アクリル板に水滴をつけて撮った作品です。先ほど前ボケに使った白い花も入れて、みずみずしさを表現しました。
水滴は顔から離れるほどボケてしまうため、顔にぴたっとつくように持ってもらいます。水滴だとわかるように写しつつ、アクリル板の角度を調整して下にいくほどボケるようにして、メリハリをつけています。
なお、接写では写る範囲が狭いため、アクリル板も小さいもので大丈夫です。

アクリル板+リップクリームで光のムラをつくる

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

 

同じアクリル板に今度はリップクリームを塗り、指で伸ばしました。そうすることで、光がにじみソフトフィルターのような効果が生まれます。指で伸ばすとき、あえてムラをつくるのがポイントです。

 

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

 

上の2枚は、指で伸ばしたリップクリームに沿って、アクセサリーで反射した光がにじんでいます。まるでぶらしたような描写になり、静的な印象の強い接写にも動きが加わります。

 

接写では、アクセサリーは重要なアイテム

目や指を寄って写す際、アクセサリーがあると目を引くポイントになります。物理的な立体感や陰影によるメリハリも出せるのでオススメです。

また、印象的なアイメイクをしてもらったり、ラインストーンをあしらったり、メイクにもこだわると作品撮りがより楽しくなると思います。

 

Photographer's Note

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

 

中望遠マイクロレンズによる接写ポートレート、いかがでしたか?
瞳や指先など細部に注目することで、新たな表現の可能性が広がります。

 

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

 

特に「瞳の表情」を意識するようになるのではないでしょうか。
目を開ける/閉じる、開け具合を変える、伏し目がちにするなど“微妙な違い”が、クローズアップされて“大きな違い”として表れてくるんです。この接写を経験することで、普段の撮影でも細部まで意識がいくようになり、表現が豊かになると思います。

この記事を読んでマイクロレンズに興味を持ったみなさん、ぜひ接写ポートレートに挑戦してみてください!

 

NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR Sを使ってみて

まず、最短撮影距離で瞳を写したときのインパクト。すぐに接写の魅力にはまります。大きなボケと描写力で、接写はもちろん中望遠単焦点としても申し分ないです。

また、ポートレートでは中望遠単焦点をメインに使う方も多いと思いますが、「中望遠マイクロレンズ」という選択肢もありだと感じました。

 

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

Z 6II、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

 

105mmの単焦点レンズでは最短撮影距離が1m程度だと思いますが、このレンズは0.29mまで寄れるので、「中望遠の描写であともう少し寄りたい」が実現できるんです。

接写表現ができることに加えて、“撮影距離を気にせず使える中望遠”として、まだまだ表現の可能性を秘めていると感じました。

 

 

Model:吹雪(@fubuki_f114
Supported by L&MARK

 

 

hiro

酒井貴弘

長野県生まれ。東京在住のフォトグラファー。ポートレートを得意とし、広告写真や企業案件、ポートレートなどの撮影案件から雑誌掲載、WEBメディアでの執筆、写真教室やプリセットのプロデュースなど幅広く活躍。SNSでは約2年間で総フォロワー10万人を超えるなど、SNSでの強みも持っている。