みなさん、はじめまして。フォトグラファーのChez Mitsu(シェミツ/@chez_mitsu)です。普段はスイーツなどを撮影しています。
趣味のスイーツ作りを写真に残しておきたくて撮りはじめると、日常を過ごす家の中でも、光やスタイリングで素敵に見える瞬間があることに気づきました。スイーツを食べているときの幸せな空間、スイーツ自体のかわいらしさを見てくださる方に伝えられたらと考えています。
今回は、スイーツの中でも「ケーキ」写真の楽しさや撮り方のポイントを紹介したいと思います。
ケーキ作りで大事にしているのは「季節感」
その季節のイメージする色や花から連想して作ることが多いです。
今回は、春らしさを感じるケーキを4種類作りました。気持ちのいい天気、たくさんの花が咲き世界が色づいていく、そんな春の芽吹きをイメージするとパステルカラーのケーキを作りたくなります。
(左上)桜の花を敷き詰めたようなミルクレープ
(右上)ミモザカラーをまとったマンゴーとキウイのレアチーズケーキ
(左下)春の桃色ロールケーキ
(右下)ネモフィラがそよぐ涼しげなバタフライピーティーのケーキ
魅力的なケーキ写真を撮るためのポイント
ケーキには、カットケーキとホールケーキの主に2種類あります。まずはそれぞれの撮影ポイントを覚えましょう。
カットケーキの撮影ポイント
カットケーキは、小さくてかわいらしく、断面が見えるのが大きな特徴です。
光がきれいな場所に置いて、断面やフルーツなどどこが好きか・どの角度が美しいかを観察してみましょう。上の写真ではミルクレープの層に惹かれ、中央に置いて際立たせました。
ケーキだけではシンプルすぎると感じた場合、インテリアや花、カトラリーなどを添えると華やかになります。ケーキ自体小さめなので、奥に背の高いものを置いたり、花を大きく入れたり、配置の自由度が高いです。
ホールケーキの撮影ポイント
ホールケーキは、丸いフォルムを強調するために、まず日の丸構図で撮るのがオススメです。
切りわけると断面を見せることもでき、切りわけたカットケーキと一緒に撮影するとバリエーションも広がります。まずはホールそのものを撮影し、切りわけた後にいろんな置き方を試してみてください。
さらに、以下のステップで考えていくとケーキをより魅力的に写すことができます。
- 寄り引きやアングルで、見せたい部分を強調する
- 光でケーキの魅力を引き出す
- スタイリングで世界観をつくる
寄り引きやアングルで、見せたい部分を強調する
《寄り引き》
寄ってディテールを見せるか、引きで全体像を伝えるか、何を見せたいかで撮影位置を決めましょう。
左:寄り、右:引き
- 寄り:ケーキのどこが気に入ったかが伝わりやすくなります。左の写真では、ゼリーの中に浮かぶエディブルフラワーを強調するように、マイクロレンズで寄って撮影しました。
- 引き:ケーキ全体やテーブル全体の様子が伝わりやすいです。複数並べたり、テーブルコーディネートを生かす撮影に適しています。
覚えておきたい構図
左:C字構図、右:S字構図
寄り引きと合わせて、構図もポイントです。左の写真のように寄る際、皿を見切らせる「C字構図」にすると、より主題に目がいきます。引きで複数撮る際、右の写真のように「S字構図」で配置するとバランスがよくなります。
《アングル》
奥行きが出るか、平面的に写るか、アングルによっても印象が変わります。
左:水平、右:斜め上
- 水平:実際にテーブルに座ったときのような自然な見え方で、ケーキの断面がよく見えます。
- 斜め上:光と影がバランスよく写り、奥行きや陰影が感じられます。
左:上から見下ろす、右:ローアングル
- 上から見下ろす:盛り付けやテーブル全体を見渡せます。平面的になりがちですが、角度を少しつけたり、花で前ボケを加えるなどの工夫で奥行きが出ます。
- ローアングル:ケーキがダイナミックに感じられます。
アングルに合わせて、最もよく写る位置や光が当たる位置に、断面など“見せたい部分”がくるように配置するのがポイントです。上の写真では、二つのケーキの置き方を変えることで、断面と上の生地の部分と両方を見せています。
光でケーキの魅力を引き出す
ケーキの特徴によって、適した光の向きが異なります。
主に撮影するのは「斜光」と「半逆光」の2方向。明るさを調整しやすく、立体感が出る光の向きです。実際にミルクレープと透明なゼリーケーキで、それぞれ撮影してみました。
- 斜光:光の当たった部分の色がきれいに出て、斜め後ろに伸びる影で立体感が生まれます。
左のミルクレープは、色や層がきれいに写し出されました。一方、右の写真のゼリーケーキでは、光の当たった生地部分はきれいに見えるものの、ゼリーの透明感は出し切れていません。
- 半逆光:ゼリーなどの透明感が際立ちます。一方で、光の当たらない前面は陰になるため、右のような透明部分のないケーキではシックな印象になります。
このように、どこを見せたいかで光の向きを考えます。
なお、色や透明感をきれいに出すには、午前~昼頃の時間帯がオススメです。光が強すぎると、白っぽくなり色がきれいに出ないため、レースカーテンなどで調光するか、少し暗めに撮るようにしています。
スタイリングで季節感や世界観を演出
雰囲気のあるケーキ写真を撮るには、スタイリングは欠かせません。
写りを確認しながら自分の好きなものを置いていくのですが、主題が曖昧にならないよう、色数や小物の数を多くしすぎないことがポイントです。
- 花で季節感を表現:花を組み合わせると、季節感や華やかさを表現できます。カトラリーや旬のフルーツもマッチしやすいです。花には生花や造花、ドライフラワー、ハーバリウムなどがありますが、造花を使う際はプラスチックの質感が出ないよう奥に置いたり、ぼかすなどの工夫をしましょう。
- 2~3色程度でまとめる:華やかさを演出しながらも、色数を抑えることで統一感が出ます。家のテーブルの色や質感がイメージに合わない場合は背景紙(画用紙でもOK)を使うのがオススメです。なお、ケーキを複数並べて撮るときに色数が多くなってしまう場合、右の写真のように一つの皿の中に置くとまとまりが出ます。
皿は白かガラス製がオススメ
色数を抑えるために、皿は白か透明なガラス製を選んでいます。白であればレフ板効果でケーキが明るくなり、ガラス製なら光を透過してきれいです。
光と影も空間を構成する要素
花や小物だけでなく、光と影の表情もスタイリングのポイントになります。例えば、上の写真で左上にアクセントとして入れた影は、窓枠にインテリアとして置いているワインボトルです。写真の右下では、桜の影が雰囲気よく空間を埋めてくれています。
光と影は「奥行き」をつくることもできます。
上の写真は奥から光がさす位置関係で、手前右側に影を入れました。明るいところに目がいくので、主題→奥の明るい部分へと視線の流れができます。特にこの写真は光と影のみで、他にものを置いてないのでその効果が顕著ではないでしょうか。
さらに“美味しそう”に見せるために
一つのケーキの中でも美味しそうなポイントをクローズアップしたり、動きを出すことで「食べること」をイメージでき、実際には味のわからない写真でもより美味しそうに感じられます。
①特に気に入ったところに光を当てる
この写真では、ミルクレープの層に光が当たるようにし、マイクロレンズでできるだけ寄って撮りました。層の色や断面図がきれいに描写され、食感まで想像できます。
このとき、桜の花の間のイチゴの下に注視してもらうために、前ボケを入れました
②一部をすくう・食べたようにして臨場感を出す
上の写真は、ケーキを取りわけている様子です。動きのある写真になり、「これから食べるんだ」とこの後の展開を想像できます。
ケーキごとの特徴を生かした撮り方
断面が美しい、中にクリームやフルーツが入っている、透明部分がある…など、ケーキごとに特徴があり、撮影のポイントも異なってきます。
今回は、4種類のケーキそれぞれの特徴を生かした撮り方を紹介します。
①ミルクレープ
ショートケーキも同様ですが、断面の美しさが際立つように、アングルやケーキの置き方を意識します。
他のケーキに比べて見た目がシンプルなので、同系色のイチゴやマカロンを盛り付けたり、花や小物を置くことで華やかにしました。皿は白を選び、光を反射させてケーキ下部が暗くならないようにしています。
②ロールケーキ
ふわふわのスポンジやクリーム、中のフルーツの瑞々しさを表現するのがポイントです。そのためには、断面をしっかり見せること。花やフルーツを置いてやわらかさや瑞々しさを取り入れるようにしています。
また、同じ形のケーキが複数あるので、1列にして奥行きを出したり、ジグザグに並べたり、いろんなバリエーションで撮影できます。小物などを配置してオリジナリティを出しやすいケーキです。
③ゼリーケーキ
ゼリー部分のあるケーキは皿もガラス製にし、後ろからの光で透明感や輝きを演出します。ゼリー部分が際立つように、なるべくシンプルなスタイリングにするのもポイントです。上の写真では、カラーイメージのミモザを入れていますが、あくまでケーキが目立つようにさり気なく配置しています。
こちらの青いケーキは、ゼリー部分に加え、青のグラデーションも見どころ。ゼリー部分が際立つよう半逆光で撮り、グラデーションの色がきれいに出るよう斜光で撮り、複数の写真で見せるとケーキの美しさがより伝わります。色が特徴的なので、皿や小物は光を透過できるものやシンプルなものにすると統一感を出しやすいです。
美味しく・華やかに魅せる編集のポイント
編集では、目に優しく、繊細さや透明感を出せるように心がけています。
※編集にはLightroomを使用しています。
編集前
- コントラスト/シャドウ:明暗差が大きい状況で撮影しているため、この二つを下げて、影が黒くなりすぎないよう調整。
- 露光量:白とび・黒つぶれが起きないように、写真ごとに微調整。
- 彩度:下げて優しい雰囲気にします。
- 色温度:主題の色によりますが、今回のピンク色のケーキでは色温度を寒色寄りに、色かぶり補正をマゼンタ側にして、ピンク色をほどよく強調しました。
- 明瞭度/シャープ/ディテール:光を多く取りこむ場所で撮影し、やわらかすぎる印象の場合に、少し上げて質感を出します。
左:編集前、右:編集後
これらの調整により、美しく華やかなケーキ写真に仕上がります。
ケーキ撮影の準備
最後に、ケーキ撮影のための機材や設定のポイントについて。光と影を生かして撮影するため、明暗差の大きい状況を想定しています。
【機材】明暗差に強いカメラ+標準~中望遠の単焦点
- カメラ:ダイナミックレンジの広いカメラが、明暗差の大きい中でもディテールをしっかり描写してくれます。室内撮影ではサイズや重量はあまり気になりませんが、カフェや庭では軽量・コンパクトなものが撮りやすいです。
使用したミラーレスの Z 7IIは、フルサイズながら持ち運びが楽で、明暗差の大きい状況でも繊細に描写してくれます。チルト式モニターのため、手を伸ばして上から撮るのも楽です。
- レンズ:明るい単焦点レンズなら、室内の暗い場所でも対応でき、開放F2程度で生活感のあるものもぼかせます。主題を強調できる標準~中望遠が適しており、最短撮影距離の短い寄れるレンズがより撮りやすいです。
今回は、NIKKOR Z 50mm f/1.8 SとマイクロレンズNIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR Sを使用しました。標準レンズでは自分が見ている世界を自然な見え方で切り取り、マイクロレンズではケーキのシズル感や美味しそうなポイントをクローズアップできます。
- 三脚:基本は手持ちで寄り引きやアングルを変えながら撮影しますが、切りわけたり、すくっている瞬間の写真を一人で撮るには三脚が必要です。また、三脚を使うと、構図を決めてから画角内の配置を変えやすく、光量が少なくてシャッタースピードが稼げない場合にも役立ちます。
左:ケーキを取りわける様子、右:三脚に固定した状態で配置などを調整して撮影
【設定】露出調整で自分好みのイメージに
- 撮影モード:絞り優先オートでOKですが、慣れてきたらマニュアルで露出を自分好みに調整してみましょう。
一部にだけ光が当たっている上の写真では、暗部に露出を合わせると白とびし、明部に合わせると手前のミモザのディテールが失われてしまいます。マニュアルであればその間で露出を調整でき、ハイキーやローキーにも仕上げやすいです。
なお、光の美しさを表現する上で、撮影時点でちょうどいい露出にしています。このとき、太陽の直接光や皿への反射光などが強い場合には、白とびしないように注意が必要です。
撮影時点で露出補正を行うこともあります。上の写真では露出をプラスにして、光や粉砂糖の部分がふんわりやわらかい印象にしました。白いものが際立つよう、暗めな背景を選んでいるのもポイントです。
- F値:主題を強調するにはF4以下で他をぼかし、テーブルや室内全体を見せるにはF8程度に設定します。花など小物も一緒に入れる場合、小さくしてもF2以上がボケすぎず雰囲気が出ます。
左:F2.5、右:F8
- シャッタースピード:手ブレしないスピードを確保し、取りわける様子など手を入れて撮る場合は1/100秒確保できていれば十分です。ただ、速すぎると粉砂糖がふんわりかかる様子は表現できないため、試し撮りなどでイメージに合うシャッタースピードに設定しましょう。
- ISO感度:自然光が入る時間に撮る際は100を基本に、暗い時間でISO感度を上げる場合も400程度を上限目安にしています。
- ホワイトバランス:JPEGで撮影する場合、美味しく感じられるように暖色寄りにするのがオススメです。
Photographer's Note
私は「花とスイーツ」を撮ることが多いです。花もケーキも手に触れたら壊れてしまいそうな…そんな儚げな印象があり、食べたり・枯れるまでの時間は限られていて、刹那の輝きを写真で残すことに魅力を感じています。
また、ケーキを作ること自体が好きなのですが、季節の花と合わせたり、光を浴びてまた別の見え方を知ったり、撮ることでケーキの魅力にさらにハマりました。
撮る中で気づいたことですが、光も季節によって印象が変わります。光の強い夏は黄色や赤を少し帯びた印象で、冬は光が弱まり寒色系で影とのコントラストも低い。春は、冬から少しずつ明るくなり、パステル調で影とほどよくコントラストがある。季節の花や光を生かしてケーキの世界観を考えるのは、いつも新鮮でとても楽しいです。
そもそも、家の中でケーキ写真を撮りはじめたのは、新型コロナの外出制限がきっかけでした。今では外出しやすくなったので、ピクニックに出かけているような写真や、花畑の中でのスイーツ撮影、人を入れた撮影など、多角的に表現していきたいと考えています。それに、出かけた先の風景やスナップ撮影もはじめていきたいですね!
ケーキ撮影にNikon機材を使ってみて
今回使用した Z 7IIはダイナミックレンジが広く、明暗差の大きい条件でも、うっとりするような美しい写真が撮れました。特にハイライトの抜け感や暗部の階調がきれいで、春の光やケーキのゼリー部分がしっかり描写できています。
レンズはNIKKOR Z 50mm f/1.8 SとNIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR Sを使用しました。
50mmはボケ感がやわらかく美しく、ピント面はくっきり描写されます。最短撮影距離が0.4mと寄れるため、ケーキ撮影にもってこいです。
105mmのマイクロレンズは、ケーキの断面やグラデーションなどの細部を見せることができます。画角いっぱいにケーキを写せる上にAF精度が高く、小さな世界でも撮り逃すことがありません。
Supported by L&MARK
Chez Mitsu
フォトグラファー。その瞬間の想いをこめて、花とお菓子の作品を発表している。光とスタイリングによる美しい写真が注目を集め、雑誌やWEBメディアなどで取り上げられている。