みなさん、はじめまして。クリエイティブユニットの市電(@shiden.creative)です。
SOKONIARUと花袋の2人で、2021年8月に結成しました。札幌を拠点に、主に動画制作、写真撮影、グラフィックデザインの制作活動を行っています。
その中で、Instagramのリール動画を制作しはじめたのは、ちょうど1年ほど前からです。
当初は全然違うスタイルで詩の朗読のような動画を作っていたのですが、トレンドを意識するうち、花袋が写真として撮影していた「女性ポートレート」をメインに、音楽に合わせた動画がスタンダードになっていきました。
他にもミュージックビデオなどを撮影していますが、Instagramのリール動画は多くの方に見てもらう可能性を大いに秘めており、短く簡単に視聴できる「敷居の低さ」にも魅力を感じています。
今回は、このリール動画をどのように制作したか、準備~機材・設定~撮影~編集の4パートで紹介していきます。少しでも参考にしていただければ幸いです。
【準備】撮影テーマの大枠を決める
まずは準備編です。「何を撮るか」から機材や設定など基本のポイントについて紹介します。
何を撮りたいか考える
モデルさんをメインに、「秋の夕暮れ」というシチュエーションにノスタルジーを求めていました。…ですが、当日は雨が降ってしまい「秋の雨」にテーマを変更しました。
僕らは大枠のテーマを決めても、事前にシーンや流れなど具体的なことは決めません。ですので、天気が予定と違っても、「その場の雰囲気を楽しんで撮ること」も一つの魅力だと考えています。
なお、動画撮影の参考になるものとして、普段見ている映画やミュージックビデオ、アニメなどの映像作品、他の方のポートレートのリール動画作品などを常日頃インプットしています。
ロケーションを決める
そこまでこだわることはありませんが、撮りたいイメージに合い、かつ、人が少ない撮影しやすい場所を選ぶようにしています。「夕暮れで撮りたい」など時間や光がポイントになる場合は、事前にその時間帯に行ってみることもあります。
今回は夕暮れのきれいな公園を選んだのですが、結果的に雨に。それでも、池や林、遊具などさまざまなシチュエーションがあったことが助けとなりました。
モデルさんを決める
当初はInstagramで他の方が撮影していた方をチェックして探すことが多かったです。最近はフォローしていただいた方やメッセージをいただいた方を中心にお願いしています。
撮影内容は漠然としか決まっていないのですが、モデルさんのイメージから撮影シチュエーションを決める場合が多いです。今回お願いした方は自由に動くタイプで、雨の中でもしんみりせずにはしゃぐというのは彼女の持つイメージから生まれたシチュエーションです。
モデルさんとの情報共有はしすぎない
一般の方に動画のモデルをお願いする場合、演技は難しいので、“自然体”を引き出すためにあえてコンセプトなどは伝えません。「彼女感のあるものを撮影します」という大枠だけを伝え、あとは服装のイメージのみ打合せをします。
服装は、風景に合わせた“写り映えのいい色”を選んでもらうようにしています。今回であれば、紅葉の赤が映えるよう意識した服装にしてもらいました。
【機材・設定】臨場感を出すためのセッティング
機材はAF性能がよく暗所に強いものを選ぶ
- カメラ:動画ではAFの性能を重視しています。また、夕方や夜など暗い時間帯の撮影をよくするため、暗所での強さも大切です。今回は、AF性能に優れ・暗所にも強い Z 9を使用しました。
※静止画は、Z 6IIでも撮影しています。
- レンズ:普段は24~70mmの標準域を使用しています。今回は、主観的な臨場感を味わってもらえるように、人の視野に近い焦点距離であるNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sをメインに使いました。
- NDフィルター:シャッタースピードを1/50秒に固定する上で、露出調整のために常に使用しています。普段はND16~32の可変式フィルターを使用し、状況に合わせてND値を調整します。
- ジンバル:ブレを抑えた安定した撮影をしたい場合は、ジンバルを使用。ただし、手持ち撮影も多いです。手持ちの場合、ブレによって「撮影者の存在を感じる=臨場感」を表現できると考えています。ジンバルと手持ち撮影を組み合わせることで、手持ち撮影の動画がアクセントとなり、飽きさせない表現としても生かせます。
設定はシネマライクになるフレームレートに
- 画質設定:4K or フルHD
- フレームレート:24p。24pは映画のような、30pはテレビのような日常感があると一般的に言われており、シネマライクな世界観を表現するために24pに設定しています。
- 撮影モード:マニュアル
- F値:F2.8~F8。基本はF2.8とし、引きではF8程度にして背景を生かすことがあります。今回は開放F1.8のレンズを使用し、前ボケをつくるときや顔の寄りなどでF2以下にしました。
F2以下で撮影
- シャッタースピード:1/50秒で固定。フレームレートの2倍分の1秒がちょうどいいとされています(24pであれば1/50秒、30pであれば1/60秒)。
- ISO感度:ノイズが出ないようISO3200以内。なお、白とびを避けるため、写真同様暗めに撮影します。
- ピント合わせ:被写体が中心にくる画が多いため、AFエリアモードは「ワイドエリアAF」(+人物被写体検出)に設定。フォーカスモードは、コンティニュアスAF(AF-C)で追従させます。
- 横位置/縦位置:常に横位置で撮影しています。機材の関係が一番の理由ですが、縦動画に比べて壮大な構図を展開して見せられるのが魅力でもあります。
【撮影】編集しやすいよう、さまざまな画角で収める
流れを事前に組み立てずに撮っていくため、編集のことを頭に入れて、場面を変えたカットを多めに撮影し、素材を極力多く用意することがポイントになります。
撮影は、その場で湧いたイメージを具現化
僕らのスタイルとして、SOKONIARUが撮りたい画を見つけ、花袋が人の顔が映えるライティングや背景を考慮した画角を提案しながら撮影していきます。
今回は急な雨で不安もありましたが、モデルさんがふと傘をさして外に出た際、背景に少しだけ晴れ間が見えて光が差しこみました。その瞬間、「この子は今日、晴れを呼ぶ子なのかな」とイメージが湧いたんです。
撮影を開始した直後、「晴れを呼ぶ子」と着想したシーン。
この後「どんどん晴れていったらいいな」という願いと、実際の天気がマッチしてくれて、撮影の終盤では本当に雨が上がり。徐々に晴れていくという風景を、心情的なものと一緒に見せられたらいいなとイメージしながら撮影していきました。
メリハリを出すカメラワーク
特に意識しているのはメリハリで、完成動画で寄りと引きの画が続かないように、撮影段階で寄り引きなど変えながら撮る、同じシチュエーションでも寄りと引き2パターンずつ撮影するなどしています。
こちらが、実際の撮影風景です。
写真と動画での撮り方の違い
元々写真を撮っていた花袋が気づいたのが、「撮影者は動かず、モデルさんに動いてもらう」のは「写真を撮る人の感覚」だということ。動画では、撮影者自らが動き、モデルさんにも動いてもらうことで、よりメリハリのある画になります。
主なカメラワークの使いわけ
- 寄り×水平アングル:主観・彼氏視点を表現。
- 寄り×ローアングル:主観とは別で、変化をつけたい、視線を誘導したい…など。
傘を下ろすシーンは、ローアングルで空を入れた構図にすることで、晴れていくのが見た方に伝わりやすくなります。
- 引き:客観的な視点。アングルは全景を入れるか、空を広くするかなど目的次第で変えます。
引きのカットを入れることで、近い距離感の画が続く中でのアクセントになり、かつ笑顔が多いカットの中で孤独や寂しさを感じる画となり、深みが増す効果が出ました。
動画のアクセントになる撮り方
ここからは、動画のアクセントとなるような魅せるシーンの撮り方を紹介します。
臨場感を出す独特な揺れ
冒頭シーンは、「揺れ」が意図的なものです。ジンバルで手ブレを抑えるよりも手持ちで揺れを出すことで、被写体と撮影者の関係性が表現でき、リアルさ・臨場感が出ると考えています。
ボケからのピント合わせ
写真では、「ピンボケ」は失敗ととらえられがちですが、動画ではピンボケからピントが合うまでの一つの流れを表現として見せることができます。この撮り方をする際は、地道にテイクを重ね、ピントの合う位置を探っています。
モデルさんに走ってもらう・動いてもらう
僕らがよくお願いする撮り方です。モデルさんとの距離感や撮影位置によって、関係性や性格の表現ができるシーンになると考えていて、今回はモデルさんが前に小走りすることで「無邪気さ」を伝えることができたと思います。
走ってもらう場合、顔にピントがいくようテイクを重ね、AFのタイミングを理解していくことが大切です。また、走りながら撮る際に1/50秒では少しブレますが、臨場感を出す効果として生かしています。
トランジションとしてカメラを回す
カメラを回転させるのは、編集に頼らないトランジションとして意識的に行っています。撮影時点では「次はこのシーンをつなぐ」とまでは明確にはイメージしていませんが、編集の際につながりのいい「傘から身を出す」シーンを選択しました。
水たまりの反射やビニール傘越しの撮影
撮影時の環境を生かすことも大切です。今回は、雨ならではの「水たまり」でリフレクションを撮りたいとすぐ思いつきました。
雨の降る中での水たまりは、人の輪郭がわかりづらいため、動きを取り入れることで“人”として認識させることを考え、フレームアウトする動きをお願いしました。反射面にはAFが合わない場合が多いので、マニュアルでフォーカスを合わせています。
透明なビニール傘も雨ならではで、“傘越し”というフィルターとして活用できます。動画の中では、傘をくるくると回してもらうという動きも足しています。
普段から、鏡やガラス越しの画を取り入れることで、アクセントとすることが多いのですが、短い動画の中でも飽きさせない工夫の一つだと考えています。
なお、何か越しで撮る際、AFで一度ピントを合わせた後にフォーカスロックして撮影しています。
モデルさんの表情や仕草を引き出す
「この仕草やシチュエーションがあったら女の子がかわいいな」というイメージが頭の中にあり、彼氏が彼女を撮っているような、撮影者の存在を感じる主観的な表現を取り入れています。
なお、イメージしたシチュエーションなどは具体的にはモデルさんには伝えません。伝えてしまうとモデルさん側も考えてしまうので、自然体のままでカメラを回している感覚です。
モデルさんを自然体で撮るためのポイント
モデルさんは緊張することが多いのですが、自然体を撮るためには、撮影するこちら側が全開でおもしろいことをしています。片方がボケて、片方が突っこんで、笑ってもらうという芸人スタイルです(笑)。
モデルさんのアドリブも入ることが多いです。カメラを回していないときにモデルさんが遊びでやった動きなどをもう一度やってもらったり、オフショットを動画内で使うこともあります。そういった作り方のため、「誰かがどこかで見たことがある風景」「記憶の片隅」を感じるような動画になるのだと思います。
指でハートを作るシーンはオフショットです。自然体で素敵だったので採用しました。
指示を出すケース
笑顔とは逆にシリアスな表情などは「真顔でお願いします」と指示しています。モデルさんは俳優ではないので、単純な指示のほうが受け止めてもらいやすいです。また、「こっちを見て」など、目線の動きについてよく指示をします。
走ってもらうときも「振り返って!」など常に声をかけながら撮影しています。
【編集】音楽とのマッチングを重視
リール動画では、10秒など極力短くまとめるようにしています。1カット2秒程度で切り替えることも多く、短い時間でどれだけ画を見せられるかもポイントです。ただし、短くすればいいというわけではなく、BGMとの一体感がとても大切です。
※編集は、Adobe Premiere Proで行っています。
Step1 曲を決める
BGMとして入れる曲は、毎回撮影した動画を一通り見ながら、イメージに合う曲を探していきます。今回は、歌詞とリンクしているように感じたSOKONIARUが制作に携わった曲を使用しました。
https://www.instagram.com/reels/audio/490540642600805/
普段は、Instagramのリールで使用されている曲で「いいな」と思ったものを使用することが多いです。ちなみに、大滝詠一さんや杏里さんなど最近使用している80’sのシティポップは2人の趣味です。
Step2 曲に合わせて動画をつなぐ
撮影した動画はトータル1時間分ほどありましたが、短い再生時間でまとめる上で、最初にキーとなるシーンを複数ピックアップし、パズルのように組み立てていくやり方をしています。そこから曲にはめてみて「違う」と思ったら外し、「必要」だと思ったシーンは後から再度選びます。
特に水たまりのシーンがキーだと考えました。雨と紅葉を効果的かつ同時に画に入れることができ、今回の動画を象徴する場面となりました。
入れたい動画を選んだ後は、ブレを含むカメラワーク、モデルさんの仕草が曲の音に共感覚でハマるよう意識して、シーンを曲にのせていきます。また、各2秒程度と短い動画をつなぐ上で、シーンが変わるごとにモデルさんの表情が違うものになるよう意識し、含みをもたせるようにしているのもポイントです。
同じ場面をもう一度出す見せ方
以下の2シーンは、前半に出てきたものと同じシチュエーションをあえて後半でも入れています。全体のまとまりを出すつなぎとして、このような編集にしています。
今回、曲と徐々に晴れていくというイメージを表現する上で、45秒の動画になりました(公開したリールでは前半と後半に分割しています)。10秒程度より長くする際には、飽きないように場面の色の転換の多さ、寄り引きなど構図のバリエーションをバランスよく配置することで、メリハリを意識しています。
大事なラストシーン
動画の印象や余韻を決める「終わり」にどんなシーンを持ってくるかも大切です。上がこの動画のラストシーン。「徐々に晴れていく」という流れで、画面が白くなっていく様子で「晴れ」を表現しました。実際には撮影中にISO感度を手動で上げて背景を白くしています。
この動画を前半と後半に分割した際の前半のラストがこちら。元々の動画の中盤で、「まだ晴れないな」→「晴れてほしいな」という想いを込めたシーンです。
Step3 フィルムライクな仕上げ
最後に、カラーグレーディングやフィルター追加によって、レトロ感のあるフィルムライクに仕上げていきます。
- カラーグレーディング:コントラストをつけながらも黒部分を持ち上げ、フィルムライクに。明度を上げず、きれいすぎないようにしています。また、シャドウ部分をやわらかくすることで温かみ、やわらかさを演出しています。
左:編集前、右:編集後
- フィルター:レトロ感を出すため「8mm film」「film粒子」のフィルターを追加します。また、光が漏れたような表現の「ライトリーク」を一貫して使用しています。曲とのマッチングを重視し、音楽の転換に合わせて使用することが多く、1本の動画内で多用しすぎないようにも気をつけています。なお、ライトリークは無料でダウンロードできるサイトもあるため、まずはそちらを活用してみてはいかがでしょうか。
ライトリーク
こちらが、編集して完成したリール動画です。
Photographer's Note
Instagramのリール動画は、誰でも創造性を発揮し、影響を与え続け合える、素晴らしい場だと思います。
短い時間に情報が詰まっているため、見ることでインプット→作ることでアウトプットするサイクルを、短時間で回数多くできることも魅力だと考えています。まずは、見てインプットからでも十分ですので、リール動画をチェックしてみてもらいたいです。
今回は突然の雨でしたが、今までなかった条件でとても新鮮でした。普段は室内で撮ることはないので、室内や水族館など、シチュエーションの幅を広げていきたいなと、雨撮影を経験してより思うようになりました。
そして今考えているのは、SNSにとどまらず、「展示会をしたい」ということです。
SNSで多くの方に認知してもらってきているのですが、札幌で活動しているのに札幌の方に認知されていないというドーナツ化のような現象が起きていて…。地元の方にも知ってほしいという想いがあり、映像の展示会のようなことを今後したいと考えています。
動画撮影にNikon機材を使ってみて
動画のカメラにはAF性能と暗部の強さを求めているとお話ししましたが、今回使用した Z 9はその点が非常に優れています。まず驚いたのがAF性能です。「ここに合ってほしい」という場所にフォーカスをしっかり合わせてくれます。また、雨で暗めなシチュエーションでしたが、暗部でもノイズを感じられないほど繊細な描写ができました。そして、忠実な色再現は“つくられた感じ”がなく、「リアルを写している」と感じました。カラーグレーディングなど編集でも扱いやすかったです。
レンズはNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sを使用しましたが、単焦点ならではのボケ具合が前ボケを起用したシーンで大きく力を発揮し、鮮明さに魅力を感じました。
実は今回、機材トラブルでジンバルが使用できず、すべて手持ちで撮影しました。あえて「手ブレ」を出そうとも思っていたのですが、使っていくうちに手ブレのことを忘れるほど。走って撮っても、めまいがするようなブレもなく、動画として問題になるブレはありませんでした。
操作性については、機体は大きく重さはあるものの安定感があります。各種ボタンやダイヤルなども使いこむほどになじんでいく感覚でした。また、チルト式液晶モニターはローアングル撮影にとても便利です。Z 9の液晶モニターは縦位置でも上下に動くため、縦動画の撮影にも大きな助けになると感じました。
なお、Z 6IIでスチール撮影も行いました。写真と動画はそれぞれの延長線上にあると考えています。動画のシチュエーションから写真を生み出せますし、写真を撮影している際に「いいシチュエーションだな」と動画撮影がはじまることもあり、相乗関係にあります。
スチールにおいて、上の2枚の写真のような前ボケや玉ボケは動画よりもインパクトを強く残し、見る人を惹きつける効果が大きいと感じています。今回使用した Z 6IIは人の目で見る色彩に近く、編集する際に撮影時の情景を思い出させてくれました。撮影時に色を誇張させるものも多いですが、リアルを写している点が、後からの編集で「自分の色を入れるスペース」として大きな舞台を広げてくれます。
Model:ふうか(@enoki_noko_)
Supported by L&MARK
※スチールは Z 6II+NIKKOR Z 24-70mm f/4 Sで撮影しています。
市電
SOKONIARUと花袋の2人によるクリエイティブユニット「市電」。札幌を拠点に映像、写真、グラフィックデザインを中心とした制作活動を行う。