みなさんは、オールドレンズで撮影をしたことはありますか? どこか不確かな写りのオールドレンズは、中古のため安価で、気軽に楽しめるのも大きな魅力です。
そこで今回は“1万円以内”のオールドレンズを中古店で購入。ミラーレスカメラ Z 5に装着して、フォトグラファーに撮り比べをしていただきました。
※本記事では、フィルムカメラ用に作られたマニュアルフォーカスのレンズをオールドレンズと呼んでいます。
はじめまして。フォトグラファーのsugar(@sugar25)です。
私は、物語を感じる写真や遊び心のある写真が好きで、デジタルカメラにオールドレンズをつけた撮影もよくしています。
オールドレンズは、完璧に整った描写ではないのが好きなところです。もちろん、とても優秀なレンズもたくさんありますが、個体ごとに色味が違ったり、崩れた玉ボケやものすごいフレア・ゴーストなどが出たりする、おもしろいところが魅力だと思っています。価格が非常にリーズナブルなのもいいですよね!
今回は「1万円以内」のレンズを探し、実際にどのような写りが楽しめるのかポートレート撮影をしてきましたので、ぜひご覧ください!
1万円以下のレンズを探しに中古カメラ店へ
1万円以下ということで、お目当てはジャンク品。中野駅近くにある「フジヤカメラ ジャンク館」にやってきました。
安価なものはテーブルの上やボックスの中に置かれ、状態のよいものはショーケースの中に並んでいます。
Nikonのオールドレンズがありました!
ショーケースの中の商品は、店員さんに鍵をあけてもらい、出してもらいます。
商品は、キャップを取って状態を確認することができます。
今回は不確かな写りを楽しみたい目的もあるため、レンズ面のくもりなども気にせず、選んでいきました。このとき実際にカメラに取り付け、店内照明などを逆光で試し撮りすると、描写やフレアの出方などをある程度確認できると思います。
こちらが今回の戦利品です。
- AI Nikkor 28mm F3.5S
- new Nikkor 50mm F2(Ai改造品)
- AI Micro-Nikkor 55mm f/2.8S
- AI Nikkor 135mm F3.5
- Ai Zoom Nikkor 28-85mm F3.5-4.5S
税込みで3000円台~8000円台で購入できました。状態などによりますが、開放F値が2未満のものは1万円以上する傾向のようです。
お店の方によると、Nikonなどのメーカーで安価なレンズはすぐ売れてしまう場合が多いとのこと。出会いを楽しむように、見つけたレンズをお迎えしました。
ポートレートでオールドレンズ5種を撮り比べ
早速、購入したレンズの撮り比べです。今回はフルサイズのミラーレス Z 5に取り付けて、ポートレート撮影をしてきました。
※ Z シリーズカメラでNIKKOR Fレンズをご使用するには、マウントアダプターFTZやFTZ IIを装着する必要があります。
撮影イメージは、オールドレンズの雰囲気を生かしたいと思い、「レトロ&ポップ」にしました。
AI Nikkor 28mm F3.5S
背景を生かしたポートレート撮影で活躍する広角レンズ。さまざまなロケーションで撮影をしてきました。
<レンズ仕様>
最短撮影距離:0.3m
質量:約220g
フィルターサイズ:52mm
広角は、奥行きを出したいときや狭い場所での撮影に適しているレンズです。左の写真では、線路を入れることによって、広角ならではの奥行き感を出すことができました。
こちらは狭いホームで撮影。モデルさんとの距離が近くても28mmで背景を生かしつつ、いい距離感で写せます。
変化をつけたくて、持参した空きペットボトル(キャップと底を切り取った状態)越しに撮影。広角によってレンズまわりのペットボトルが写りこみ、独特な世界観を表現できました。
オールドレンズは、逆光で光を取りこむほど変化を感じやすいのが特徴です。そして、このレンズでびっくりしたのが、独特なゴースト・フレア。上の写真は純粋に逆光で撮っただけなのですが、レンズ内のくもりのせいなのか、おもしろい描写になりました。
こんな写りははじめてで、とてもワクワク。これこそオールドレンズの魅力だと思いました。
AI Nikkor 28mm F3.5Sの活用ポイント
コンパクトで使いやすいレンズ。「背景やロケーションを生かしたい」「全体を広く撮りたい」ときにちょうどいい焦点距離で、開放F値3.5で十分です。
new Nikkor 50mm F2
普段から50mm単焦点のオールドレンズで撮ることが多いので、このレンズには安心感を持っていました。
<レンズ仕様>
最短撮影距離:0.45m
質量:約220g
フィルターサイズ:52mm
50mmは距離感的にモデルさんのかわいさをいちばん引き出せるレンズだと思っています。
引きの構図では、歪曲などなく縦横バランスよく撮れます。
また、F2と明るいので背景もしっかりとボケてくれました。なめらかすぎず、味わい深いボケ感はオールドレンズらしさではないでしょうか。右も開放で撮影した写真。ボケ方のクセは開放で撮るとわかりやすいのですが、背景の玉ボケなどを見ると若干ブレるようなボケ方をしていますね。
そして、逆光での写りが上の写真です。このレンズは自然なフレアでやわらかい印象でした。
new Nikkor 50mm F2の活用ポイント
ちょうどいいサイズ感と重さ。F値が小さくボケ表現もでき、引きでも寄りでも対応できる、ポートレート撮影でバランスのいいレンズです。
AI Micro-Nikkor 55mm f/2.8S
実は、カメラをはじめたての頃はデジタル用のマイクロレンズで花や雫ばかり撮っていました。ポートレートではなかなか機会がなく、しかもオールドレンズというのは初です。
<レンズ仕様>
最短撮影距離:0.25m
最大撮影倍率:1/2
質量:約290g
この日のモデルさんのネイルがとてもかわいかったので、マイクロレンズでクローズアップ。
普段あまり着目しないところにもフォーカスし、いつもと少し違った作風になったかと思います。F2.8で近距離撮影による、豊かなボケも魅力ですね。
今度は瞳をアップに。コンタクトレンズの模様や目の血管まで鮮明に写り、オールドレンズということを忘れてしまうほどでした。
AI Micro-Nikkor 55mm f/2.8Sの活用ポイント
ボリューム感のあるレンズではあるため、「とりあえず持っていこう」というより、「クローズアップ撮影をする」と決めているときに持っていくのがよさそうです。
オールドレンズなのでフォーカスはマニュアルです。ピント位置で印象が大きく変わるので、しっかり意図したところに合わせる必要があります。
AI Nikkor 135mm F3.5
望遠135mmは、デジタルでは使用することがあります。モデルさんが浮き出るような立体感や臨場感を出せるのが好きなポイントです。
<レンズ仕様>
最短撮影距離:1.5m
質量:約400g
フィルターサイズ:52mm
望遠特有のボケと立体感を生かしながら、F3.5と明るすぎないF値のおかげで白とびせず、背景の海の青さがきれいに出ました。
モデルさんと距離を取って撮影すると、背景は広めに写りながらもボケるため、主役が浮かび上がり臨場感も生まれます。
こちらは逆光で撮影した写真。コントラストが強すぎず、ふんわりした光がオールドレンズらしいと感じました。光が当たっている砂がキラキラしていてきれいです。
AI Nikkor 135mm F3.5の活用ポイント
望遠は、モデルさんと距離の取れる場所で表現の幅が広がるため、街撮りや広い花畑などに連れ出したいレンズです。狭い室内や距離の取れない場所には不向きかなと思います。重量感があるため、撮りたいシチュエーションをよく考えた上で持っていきましょう。
Ai Zoom Nikkor 28-85mm F3.5-4.5S
オールドレンズのズームを使うのは今回がはじめてです。F値は気になりますが、広角~望遠まで1本でカバーできるのはすごく便利ではないでしょうか。
<レンズ仕様>
最短撮影距離:0.8m
質量:約510g
フィルターサイズ:62mm
立ち位置を変えず、焦点距離を変えて撮影した写真。28mmの広角端で下から撮るとかっこいい仕上がりになります。ポートレートでありがちなのは、最初離れて撮っていても段々と寄りたくなること。ズームでは焦点距離を変えるだけなので、とても楽でした。
こちらの2枚は、ズームレンズだからこそスムーズに撮れた写真です。
建物前がすぐ横断歩道になっている場所で、撮影者は建物前まで行けない状況。通常なら広角と望遠の2本を使いわけるシチュエーションですが、横断歩道の向こう側から焦点距離を変えることで、動きのあるシーンを素早く撮り切れました。
Ai Zoom Nikkor 28-85mm F3.5-4.5Sの活用ポイント
重量感があり、望遠でレンズを繰り出すと重さでピント合わせに少し手間取りました。マニュアルフォーカスのため、焦点距離を変えるたびにピントを合わせ直すのを忘れないように。慣れは必要ですが、使いこなせれば撮影できる場所に制約があるシチュエーションでも活躍してくれます。F値は広角では気になりませんが、望遠ではもう少し明るければ表現の幅が広がるかもしれません。
オールドレンズを選ぶときの注意点
私は普段、ネットオークションで状態がよいものを購入することが多いのですが、価格優先でジャンク品やワケあり品を買う場合は、店舗で実物を確認するのがよいと感じました。なお、価格は使用頻度を考えて判断することをオススメします。
【チェック項目】
- カメラに取り付けられるレンズか:ミラーレスにオールドレンズを取り付けるにはマウントアダプターを介しますが、NikonのFTZやFTZ IIが装着できるのはAiレンズかAi改造品のみ。お店の方に確認して、カメラへの装着が可能なら取り付けられるかチェックしましょう(フジヤカメラでは、カメラへの装着もOK)
- 外観は使用に耐えうる状態か:傷やへこみだけでなく、リング部がワケありの場合もあります。実際に動かして問題ないかを確認。
- 内部の確認:レンズにくもりやホコリ、傷やカビなどがあるケースが多いです。それらはライト(スマホのライトでも)でレンズを照らすことで確認できます(フジヤカメラでは、スタッフの方に言うとペンライトを貸していただけます)。
クリアな描写を求めるなら何も異常がないに越したことはないですが、個性として楽しむならあえてワケあり品を選んでもよいかもしれません。
Photographer's Note
今回の5本は非常にリーズナブルで、「ちゃんと写るのかな」という不安もありましたが、実際に使ってみると、正直ジャンク品だとは思えないほどしっかりした写り。その中でも、逆光で光を多く取りこんだときには、フレアやゴーストなどの出方の違いにワクワクしました。すべてのシチュエーションでクセが強い描写だと飽きやすいのですが、今回の5本はメリハリがあったのが好印象です。
お気に入りの1本「AI Nikkor 28mm F3.5S」
5本の中で特に気に入ったのが「AI Nikkor 28mm F3.5S」です。オールドレンズはやはりフレアやゴーストに惹かれるのですが、このレンズは見たことのない描写で、かわいらしく感じました。レンズ内にくもりのあるワケあり品ですが、それが功を奏したのかもしれません。
レンズは表現したいシーンによって適したものが違いますが、デジタルでこれだけ種類をそろえようとすると、大変な金額になってしまいます。オールドレンズであれば、不確かさはありますが、気軽にいろいろなレンズを試すことができ、自分に合った焦点距離域を見つけやすいメリットがあります。
その日の気分によって「今日はいい光が出てるからこのゴーストで表現したい」「今日はこのボケで」と選べるのも魅力です。「ボケの違い」とは言っても微妙に違うだけだったりもしますが、その「微妙な違い」にこだわりたくなるのが、オールドレンズに惹かれる理由でもあります。
ワケあり品でも撮影には影響しない場合があることがわかり、今後はさらに安価なジャンク品にも着目してみたいと思っています!
Nikon機材を使ってみて
カメラは、フルサイズミラーレスの Z 5を使用しました。重さはまったく気にならず、自然と手になじむ感覚。グリップがしっかりしているので、重量感のあるレンズでもホールド感があり、女性でも扱いやすいカメラでした。操作がほとんどタッチパネルでできるのはとても便利です。
今回の写真はJPEGで撮影しましたが、撮って出しはそれぞれの色味が忠実に出ていて、白とびや色つぶれもなく、現像がとてもしやすかったです。
Model:古川なな(@nanaxu_u)
協力:フジヤカメラ
Supported by L&MARK
AI Nikkor 28mm F3.5S
new Nikkor 50mm F2
AI Micro-Nikkor 55mm f/2.8S
Ai Nikkor 135mm F3.5
Ai Zoom Nikkor 28-85mm F3.5-4.5S
※ Z シリーズカメラでNIKKOR Fレンズをご使用するには、マウントアダプターFTZやFTZ IIを装着する必要があります。
※new Nikkor 50mm F2はAi改造済みでなければ、FTZやFTZ IIに装着できませんのでご注意ください。
sugar
2007年、オーロラの旅をきっかけに写真をはじめる。物語を感じる写真、幻想的な写真、遊び心のある写真を好んで撮影している。共著に『「ポーズ・光・色」が最高の表情を作り出す ポートレート写真術』がある。