はじめまして、hakana(@haro_hakana)です。四季の花をメインの被写体として、シルエットで表現したり、人と花を組み合わせたフラワーポートレートを撮影したりしてTwitterで発信しています。
私は、花の写真にボケを取り入れることで、夢と現実の間や、記憶の中にある景色を表現できると考えています。特に「前ボケ」は、その曖昧な世界観を表現するのにぴったりです。
今回は、そんな「前ボケ」を生かした花写真の撮り方と、表現のアイデアをお伝えしたいと思います。
前ボケとは…?
前ボケとは、ピントを合わせる被写体とレンズの間にあるものがボケて写ることです。上の写真はどちらも同じ花畑ですが、右は手前の花を前ボケにして撮りました。前ボケの効果で、写真全体がふんわりとして、主役の花に目がいく写真になっています。
ボケを生かした花写真の基本
前ボケを生かした表現の前に、まずは前ボケ・背景ボケを含めた「ボケ」の基本から。基本の考え方は前ボケも背景ボケも同じです。
【ボケの基本】やわらかくぼかす3条件
使用するレンズや設定、被写体からの距離によって、写真のボケ具合は変化します。やわらかいボケをつくるには、以下の3つのポイントが重要です。
- 中望遠~望遠レンズで撮る
- 開放F値で撮る
- レンズの最短撮影距離で撮る
1.中望遠~望遠レンズで撮る
焦点距離が長くなるほど前景や背景のボケ具合は大きくなります。はじめてボケを生かした花撮影に挑戦する場合は、焦点距離120mm以上のズームレンズがオススメです。木に咲く花や花壇の真ん中など、近寄れない場所に咲く花を引き寄せることができます。
上の写真は、周囲の花に埋もれるように咲く2輪を、ズームレンズで引き寄せて撮影しました。前後のボケと圧縮効果で、肉眼では見ることのできない華やかな世界を表現できたと思います。
被写体との距離感とボケ具合の感覚がつかめてきたら、中望遠単焦点を使ってみましょう。単焦点のシャープな描写と、小さいF値の明るくふんわりとしたボケ味で、より表現の幅が広がります。
2.開放F値で撮る
左:F16、右:F4.5
F値が小さいほど被写界深度が浅くなり、被写体の前後がボケやすくなるので、基本的にレンズの開放F値で撮影します。上の写真は、同じ焦点距離でF値を変えて撮影しました。開放F値で撮影したほうが背景のボケ具合が大きくなり、中心の梅に目がいきやすくなっています。
3.レンズの最短撮影距離で撮る
左:被写体から離れて撮影、右:レンズの最短撮影距離で撮影
レンズの最短撮影距離とは、ピントを合わせることができる最も短い距離のこと。レンズと被写体の距離が近いほど背景がボケやすくなるので、なるべく最短撮影距離まで近づいて撮るようにしています。
この距離はレンズごとに違うので、持っているレンズがどこまで寄れるか把握することが大切です。ズームレンズの場合は、望遠端で最短撮影距離まで近づくと、最も背景をぼかすことができます。
また、最短撮影距離よりも手前はすべてボケるので、前ボケを入れた画づくりもしやすいです。
レンズの極力近くに前ボケ用のものを入れて、最短撮影距離付近で主役にする花を探して撮ると、前後のボケが溶け合うような優しい光景が生まれます。
前ボケで記憶の中のような世界を表現する
ボケをつくる基本のポイントを踏まえて、前ボケを入れた花写真を撮影してみましょう。天候や時間帯、カメラの設定、前ボケにする花の種類や色を意識すると、イメージ通りの世界観を表現できます。
【時間帯・光】夕方の光を逆光でとらえる
時間帯や光の向きを工夫することで、前ボケの描写をより効果的に見せることができます。
- 時間帯:日没10~20分前くらいのオレンジ色のやわらかい光が、花を優しく演出してくれます。私が一番好きな時間帯です。
- 光の向き:逆光で撮ることで全体に光が回り、白昼夢のような曖昧な世界を表現することができます。基本的にローアングルで撮るので、夕方の斜めからの光が逆光でとらえやすいです。
【設定】ピクチャーコントロールでメリハリをつける
時間帯や風の強さによっても変わりますが、前ボケをつくるときは下記を目安に設定しています。
- 撮影モード:マニュアル。ボケをつくるために開放F値にし、花は風でブレやすいのでシャッタースピードもコントロールします。また、白とびを防ぐため、露出を少し暗めにするのもポイントです。
- F値:開放F値。F4.5以下ならきれいにボケます。
- シャッタースピード:1/200~400秒でメインの花がブレないように、風の強さによって調整します。
- ISO感度:クリアに写すためISO400を上限に設定。夕方は大体ISO400にします。
- フォーカス:MF。AFにすると前ボケにしたい部分にフォーカスしてしまうなど、狙い通りの場所にピントを合わせにくいです。
- ピクチャーコントロール:編集で明るくしたときにふんわりしすぎないように、カスタムピクチャーコントロールで「オート」をもとに明瞭度+1、コントラスト+1、色の濃さ(彩度)+1にしています。
Z 50の「カスタムピクチャーコントロール」機能についてはこちら
左:編集前、右:編集後
左が撮って出しの状態で、右が編集後です。ふんわりとした写真が多いので「明瞭度を下げて撮影していますか?」とよく聞かれますが、逆に撮影時はカスタムピクチャーコントロールでくっきりとした描写にしています。最終的に編集で明るくやわらかい写真に仕上げますが、元の写りがしっかりしていないと全体的に締まりのない印象になるので、撮影時にメリハリをつけておくのは大切です。
【被写体】密集して咲く小さい花を選ぶ
花自体を前ボケにすると、写真全体をやわらかい雰囲気で表現できます。特に花が小さく花びらが開くものは、密集して咲くことが多いので、前後の並びを生かして前ボケをつくりやすいです。春先は梅や雪柳、もう少し暖かくなったら桜、菜の花、かすみ草などがオススメです。
左の写真が梅で、右が菜の花です。ピントを合わせる花は、木に咲く花の場合は撮る位置からしべが見えるものを、足元の花は周りよりも背の高い一輪を選ぶとより存在が際立ちます。
【画づくり】前ボケや光を生かす構図とアングル
前ボケを生かして花を魅力的に演出するには、構図やアングルも重要です。
構図は日の丸構図をよく使います。主役の花を中央に配置して、画面の下半分にまんべんなく前ボケをちりばめることで、主役の花に注目が集まります。写真のネモフィラのようにまとまって咲く小さい花は、特にこの撮り方が効果的です。
メインの花に前ボケが重なると印象が薄くなってしまいますが、逆光の状況では意識的に重ねることもあります。逆光の強い光と前ボケが合わさることで、優しい色合いが画面いっぱいに広がり、神秘的な世界を見せてくれるのです。
背の低い花や草を前ボケにするため、基本的にローアングルで撮影します。また、ローアングルにすることで、低い位置から注ぐ夕方の光を画角に入れやすく、背景が抜けるので花の存在感が引き立ちます。
撮影するときは、花よりも低い位置にカメラを構えて前ボケにするものを先に見つけ、少し先に視線を向けて主役にする花を探します。
【表現】前ボケの色や質感で印象を変える
前ボケにする花が揺れていると、ボケる部分が増えて画面全体がベールをまとったような描写になるので、風を待って撮影してみましょう。
上の写真は風で揺れた白い花を前ボケにしました。ブレた部分の薄いボケが写真全体に広がり、かすみがかった記憶の中の一場面のような雰囲気になっています。このとき、前ボケの濃い部分がピントを合わせた被写体に被らないようにすることが大切です。
花が風で揺れると前ボケの位置のコントロールが難しいのですが、シャッターを切ってはモニターで確認して、理想的な位置のカットを採用します。
また、前ボケの色は、葉の緑も含めて2~3色にするとかわいらしい印象になります。特に左のポピーはまとまって咲く上に花の色が豊富なので、このような写真を撮りやすいです。
1色だけの場合は、メインの花と色をそろえると、統一感が出て落ち着いた雰囲気になります。
花の前ボケを生かした撮影のアイデア
風景やポートレートを撮影する際にも、花の前ボケを入れることで、写真のアクセントになります。
「フィルムの感光」を前ボケで表現
花びらが厚くて色が濃い花の前ボケを大きく入れると、光が透けないため色が強く出る範囲が広くなり、感光したフィルム写真のように写ります。フィルムのノスタルジックな表現に憧れて、デジタルで再現できないか…とこの方法を思いつきました。
上の写真は、風に揺れる彼岸花を前ボケにして撮影しました。感光風の写真は、メインを引きの画にして、あえてピントをあまくするほうが記憶の中の景色のようになっていいと思います。
花をフィルターにしてポートレートを撮る
花の前ボケをフィルターにしてポートレートと組み合わせるのもオススメです。花を手で持ってレンズの前にかざして撮るので、使用する花は花屋さんで事前に用意しましょう。かすみ草など、小さい花が枝にたくさん咲く種類や、コスモスのように花びらが透ける花を使うと、ポートレートに合う繊細な前ボケがつくれます。
上の白と黄色の前ボケはどちらもかすみ草、下のピンクとグリーンの前ボケはコスモスの花と葉です。花フィルターならではのまだらな色合いで、おぼろげで儚いイメージを表現しました。前ボケにする花の色は、背景に咲く花とリンクさせると統一感が出ます。
このように花と人を一緒に撮る場合でも、メインはあくまでも花にしたいと思っているので、人の顔が隠れるように花やボケの位置を調整しています。
前ボケでシルエット写真に立体感を出す
日没後30分以内の、空に明るさが残っている時間帯は、花のシルエットと空のグラデーションを撮影できます。ふつうに撮ってもきれいなのですが、そこに前ボケを加えると、平面的なシルエット写真に奥行きが生まれ、静まり返った世界の空気感を表現できます。空の色と花だけでシンプルに構成するため、周囲に物がない海のそばで撮影することが多いです。
シルエット写真で前ボケを取り入れる場合は、大きくぼかしすぎるとただの影に見えてしまうので、花の形がわかる程度に少し絞ります。上の写真はF3.2で撮影しました。
人×花のシルエットで物語を感じる情景に
前ボケ写真ではないのですが、人と花をシルエットで写すのもオススメです。人が入ることで、より感情や物語を感じる写真になると考えています。顔の輪郭や手の動きがわかりやすいように、横向きのポーズで撮影するのがコツです。
春の暖かい空気感をつくる編集のコツ
春先に咲いていた梅の花の写真を例に、春の日差しのような暖かさと華やかさを引き出す編集の工程を紹介します。編集ソフトはPC版のLightroom CCです。
編集前
Lightroom「ライト」編集画面
1.白とびを防ぐため暗めに撮影しているので、露光量+0.5~+1、黒レベル+20~+25にして全体を明るく調整します。
2.シャドウ+20前後、ハイライト-8~-10にして明暗差を抑えた上で、コントラストを+20前後に上げて、少し全体を引き締めるのがポイントです。
Lightroom「効果」編集画面
3.明瞭度+20前後、かすみの除去+10前後にして、全体にメリハリをつけます。
Lightroom「HSL/カラー」編集画面
4.黄色が強く感じたので色相のレッド・オレンジ・イエローを下げて、梅のピンク色や日差しの暖かさを表現するためマゼンタを少し上げました。さらに、左端にある葉の緑を差し色にするためにグリーンも上げています。
Lightroom「明暗別色補正」編集画面
5.最後に暖かい日差しをイメージしてハイライトに赤~黄色の色味を足し、シャドウにも赤みを加えて全体を明るく華やかにまとめます。
左:編集前、右:編集後
花自体の色合いだけでなく、ハイライトやシャドウにも色味を加えることで、春らしい空気感を表現できました。コントラストや明瞭度、かすみ除去をマイナスにすると簡単にふんわりとした写真になりますが、「写真の芯」がなくなってしまうように感じます。なので、私はあえてプラスにして、光や色合いで花の優しさや、やわらかさを表現するようにしています。
Photographer's Note
花は記念日に贈ったり、贈られたり、人を笑顔にする存在です。また、見ると心が落ち着いたり、安心感を与える効果もあると思います。私自身、これまで花にたくさん助けられてきました。
そんな花を撮影して作品を発表し続けることで、どこかで誰かの心を癒やしたり、助けになれたらいいなと思っています。
春は、桜や雪柳など好きな花が咲くのでとても楽しみです。みなさんもカメラを持って身近な花を撮ってみてください。ボケを取り入れて思い通りに表現できると、撮影がどんどん楽しくなりますよ。
Supported by L&MARK
hakana
花と人を写したフラワーポートレートを中心に、四季の花を主役にした写真を撮影し、Twitterで発信している。淡いボケを生かした優しい表情や、シルエットでとらえた幻想的な世界など、花の魅力を引き出したさまざまな表現が魅力。