どうして今、フィルムカメラが人気なのでしょう? 今回はフィルムカメラユーザー3人に愛用カメラとお気に入りの写真を持ち寄ってもらい、フィルムカメラへの熱い想いを語ってもらいました。フィルムカメラとの出会いからはじまり、フィルムならではのおもしろさ、レンズのこだわり、撮影後の楽しみ方まで…。3人のリアルボイスを通じて、フィルムカメラの魅力に迫ります!
kimJuさん(@place_flat)
韓国出身のフォトグラファー。東京を拠点にプロとして活動している。フィルム歴17年。
うめざわさん(@ume44)
学生時代からの趣味が高じて本業の傍らフォトグラファーとして活動。フィルム歴4年。
Kanai megさん(@kanaimeg)
フォトグラファーとしてだけでなく、モデルとしても活躍。フィルム歴7年。
フィルムカメラをはじめたきっかけは?
―今フィルムカメラがブームになっていますね! みなさんがフィルムカメラをはじめてみようと思ったきっかけは何だったんですか?
kim:私は韓国出身なんですけど、カメラをはじめた十数年前はフィルムの方がスタンダードだったんですよ! 学生でも手の届く中古カメラを探して歩いて、巡り合ったのが「FE」でした。使い勝手やフィーリングが合ったんです。
うめざわ:それからずっと使っているんですか?
kim:実は数年前に動かなくなってしまったんですけど、本当に愛用してきました。その後に購入した「F80」の方は今も現役ですよ。より気軽に撮りたいと思って買ったんですけど、旅行ではよく使ってますね。
うめざわ:私が初めて買ったのは、FEの後継機種「FE2」です。学生の頃からデジタルカメラは持っていたんですけど、SNSでいいなと思う写真を見ていたらフィルムカメラで撮っている人が多くて…。そこからフィルムに興味を持って「ほしい」と思うようになったんです。それが4年くらい前で、FE2は今もずっと使っています。操作方法はネットで調べてすぐ覚えられたので、抵抗なくはじめられましたね。
Kanai:何でこのカメラを選ぼうと…?
うめざわ:見た目の部分が大きいですね! それと露出計が決め手です。ファインダーをのぞくと左側にメーターがあって、標準露出からどれくらい上か下か針で示してくれるので直感的にわかるんですよ。そこが気に入って買いました。
kim:私もです! 針は楽でいいですよね。
Kanai:私は針じゃない「FM」を使っていますよ! LEDで+(オーバー)か-(アンダー)かが表示されるタイプなんですけど、使っている途中で動かなくなってしまって、今は露出計なしでフィーリングだけで撮っているんです。撮ってみたら「案外撮れるじゃん」って思って、そこからは自分の感覚だけでシャッターを切っています。
kim・うめざわ:すごい!
kim:実は私、もともとはFMが欲しかったんです。学生の頃、韓国ではFMが“名機”としてみんなの憧れだったんですよ。当時は手が届かなかったんですけど。
Kanai:そうなんですか!?知らなかった…。私は写真部に入っていたんですけど、フィルムカメラの知識は全然なくて。部でフィルムカメラを買い足すとなって中古カメラ屋さんに行ったときに、このカメラと出会いました。「シャッターを切るのに電池がいらない」と店員さんから教えてもらって衝撃を受けたんです。なぜかロマンを感じて! FMはマニュアル専用でデジタルカメラとは別物だったんですけど、不安よりワクワクの方が強かったです。
うめざわ:何年前くらいのことですか?
Kanai:7年前くらいですね。まだフィルムカメラが今のように流行る前で、若い人が中古カメラ屋さんに行くこと自体がレアだったみたいです。お店の人もびっくりしてましたね。
kim:今はすっかりフィルムブームですよね。韓国にも独自のSNSやブログがあって、日本よりも少し前からフィルムカメラが人気なんですよ。
Kanai:世界的にブームなんですね!
うめざわ:フィルムブームは純粋にうれしいですし、もっと流行ってほしいですよね。フィルムは種類がどんどん減って値上げも定期的にあるので、むしろもっと流行ってフィルムの需要が増えてほしいなって。
kim・Kanai:同感!
Kanai:SNSでいろんな人の写真を見れるので参考になったり、交流が生まれることもありますよね。
うめざわ:実は私とKanaiさんはSNSがきっかけで知り合った仲でして…。私がまだ人を撮っていない時期だったんですけど、「人を撮ってみたいな」とつぶやいたときに声をかけてもらって。
kim:そうなんですか!
Kanai:もともとお互いフォローし合っていて、「じゃあ出かけよう!」ってなったんです。写真仲間に同年代があまりいなくて…それで仲良くなったんです!
うめざわ:SNS上で仲良くなったり、友達の友達で知り合ったりとか、写真仲間が増えていくのも楽しいですよね。
フィルムカメラの好きなところ
―みなさんブーム前からはじめていたんですね! 撮りはじめてみて、どんなところにはまりましたか?
kim:私は仕事ではデジタルカメラがメインなんですが、ざらっとしているフィルムの風合いが断然好きですね! みなさんはどうですか?
うめざわ:フィルム独特のやさしい雰囲気はいいですよね。あと、手軽に撮れないのが逆に好きです! フィルムだと自然と丁寧にシャッターを切るようになりませんか? シャッタースピードや露出、ピント位置を1枚1枚考えて…という撮る行為自体が楽しいんです。フィルムと現像にお金も時間もかかるんですけどその分記憶に残りやすくて、そこもいいなと思っています。
Kanai:私は…フィルムは“自由”なところが好きです。全部撮った後にわざと裏ブタを開けて、フィルムに光を当てたりするんです。モデルのときにフォトグラファーさんがやっているのを教えてもらったんですけど、こんな感じでいろんな光が入るんです。
Kanai:どの写真にどんなふうに影響するのかわからないところがおもしろいと思っていて。他にもあえてブレブレの写真を撮ったり、“偶然の産物”を楽しめるところが「1周回って自由だな」って思うんです。
kim:私は仕事の撮影のときに数カットだけフィルムで撮るときがあるんですけど、“おまけ”という感じのせいかモデルさんも気が抜けていい表情が撮れることって結構あります。フィルムだともしかしたら、撮る方も撮られる方も“遊び”みたいにリラックスして楽しめるのかもしれませんね!
撮影した後はどうしてる?
―撮ること自体が楽しいフィルムですが、現像した後はみなさんどうしてますか?
kim:プリントは全然しないです。データ化してSNSにアップしたりですね。
うめざわ:私もデータ化ですませてしまっています。以前は定期的に、1年の中で気に入った写真をプリントしてアルバムにまとめていたんですけど、徐々にやらなくなってしまって…。
Kanai:私は結構プリントしますよ! データを自分のパソコンでレタッチして印刷して、ポートフォリオを年に1回は作るんです。普段はあまり人に見せることはないんですけど、展示のときにそのポートフォリオを置くことはあります。
kim:展示もやってるんですね、すごい!
Kanai:グループ展とか結構ありますね。大学でOBOG展を毎年やっていて、そこによく出します。展示やポートフォリオのために見返していると、「しっとりとした質感がいいなぁ」って自分で思うんですよね。それを画用紙っぽいマットな用紙に印刷するとさらにしっとりして、自分の写真に酔いしれたりして(笑) ぜひプリントして楽しむことを、声を大にして推奨したい!
kim・うめざわ:(笑)
kim:自分の写真を見返すのはいいですよね。今回、昔撮った写真を見て思ったんですけど、窓とか四角いものを撮ってることに気づいて…。
Kanai・うめざわ:本当だ!
kim:四角や直線に惹かれるみたいで、そこに差し込む光や映り込みも好きです。見返すうちにそういうのに気づくので、「もう少しこういうものを撮っていこうかな」って思いましたね。
うめざわ:私も見返していて気づくことってあります。データ化した写真は全部スマートフォンに入れているんですけど、たまに眺めて「懐かしいな~」と。今は人を撮ることが多いんですけど、「最初のうちは景色を撮ったりしてたな」と思い出したり。
うめざわ:一番最初に撮った写真は今も覚えていて…これです。
うめざわ:窓辺の光と陰影の雰囲気がすごくいいなと思って撮った写真です。「はじめてのフィルム」というワクワク感を覚えてますね。
Kanai:私も1枚目は覚えてます! 桜の写真で、現像して「うわー楽しい!」って。最初の感動がすごくて、それが今も続けているきっかけかもしれません。
kim:はじめた頃の写真は私も記憶に残ってます。学生時代に友達をモデルに撮ったモノクロ写真なんですけど、いろんな人から「いいね」と言ってもらって、「写真を撮りたい」と強く思ったきっかけになってますね。
うめざわ:撮った当時はお気に入りでもなかったけど、後から見たら「意外とよかった」というのもありますよね。実家で「部屋の中に差す光と影がきれいだな」と撮った写真があるんですけど、一人暮らしになった今見返すと“実家の懐かしさ”とか“そのときの感情”が湧いてきて、じんときたりしますね。デジタルで撮った写真だと大量にあるので見返すこともしないんですけど、フィルムの雰囲気も相まってそう思うのかもしれません。
Kanai:気持ちや感情が写ることって私もすごく感じますね! 見返したときに「これ、すごくしんどいときに撮ったんだろうな」とか。逆に、「この日よっぽど楽しかったんだろうな」っていう写真もあります。これは友達とボウリングに行ったときに撮った一枚です。
Kanai:あまり人を撮るのは好きじゃないんですけど、楽しすぎて「残しておきたいこの瞬間」と思って衝動的に撮りました。1本のフィルムの中にいろんな気持ちが入っていて、そういうのがよみがえって楽しいです!
どんなものを撮るのが好き?
kim:Kanaiさんは人を撮るのはあまり好きじゃないんですね。
Kanai:そうなんですよ。自分が撮られる側をやっている分、余計にいろいろと考えてしまって…。それよりも一人で撮る方が、純粋に楽しめるなって思っています。うめざわさんは人を撮る方が多いですよね?
うめざわ:Instagramには最近、ポートレート写真しかアップしてないですね。写真好きな友達と一緒に撮りに行って、お互いに撮り合ったりしています。顔をしっかり写すよりも、少し見えてるくらいが好きですね! 目元だけ、手元だけとか。
kim:素敵な雰囲気ですね!
うめざわ:見る人の想像の余地がある写真が昔から好きなんでしょうね。顔のアップだけじゃなくて、風景も入れつつとか、見てくれた人が何かしらのストーリーを感じられる写真を撮りたいと思ってます。
kim:私は撮る専門なんですけど、Kanaiさんは撮られる側の経験が自分で撮るときに生きることってありますか?
Kanai:かなり生きてますね。その人の撮り方と実際に撮った写真を見たときに、「あーやって撮った写真がこうなるんだ!」とか、「このレンズは何なんだろう?」って機材のことを教えてもらったり…そういえば、みなさんレンズって何を使ってますか?
kim:私はフィルムのときは50mmを1本だけですね。最初はズームレンズだったんですけど、学生の頃に先生から「ズームしないで自分の足で歩いて」って言われたのがきっかけで。単焦点の方がいい写真を撮れると思ってます。
うめざわ:私も50mmですね。使いやすいですし、自分が動けば寄りも引きも撮れるので。
Kanai:私は35mmなんですよ! 最初は50mmや24-70mmを使ったりいろいろ迷走したんですけど、4年前に35mmと決めたんです。スナップで50mmを使ったときに、写るものがすごく近くに感じちゃったんです。35mmの一歩引いた感じが自分の気持ちにマッチしてますね。
kim:この写真も35mmですか?
Kanai:そうです! 「車の中から外の世界を撮る」というのを継続的にやっていて。
うめざわ:たしかにちょっと引いた感じが出てるかも。中と窓と外の多層的な組み合わせがおもしろいですね。
Kanai:車窓に雨がついた状態でライトが反射したり、窓のリフレクションが好きだったり、すごいスピードでぶれるのが楽しかったり。でも、車の窓シリーズは行くまでが楽しくて、着く頃には満足してしまっていることが多いんです(笑) あと撮影したい気持ちが強くなるのは旅行ですね。
Kanai:これは「水の都」と呼ばれている中国の紹興で撮った写真です。家の間に水路がある風景にテンションが上がって、普段はコストバランスのいいフィルムを使うんですけど、思い切ってPORTRA 400を使いましたね! 繊細な光を描けるこのフィルムはちょっと高いので、ここぞというときに使うんです。
うめざわ:テンションでフィルムの種類を変えるんですね。私はいろいろ試してみたんですけど、今は業務用を使ってます。安いので心配はあったんですけど使ってみたら全然問題なくて、どんなシーンにも合うので今はすごく気に入ってます。
kim:コストバランスは大事ですよね。私が学生の頃は全体的にフィルムが安くて、色鮮やかに撮りたいときは、バンバンPORTRAを使っていました。このフランス旅行の写真は全部そうですね。
Kanai:旅先でも窓を撮るんですね(笑)
kim:スナップするにしても窓や建物にどうしても目が行ってしまうみたいです。部屋の中で撮るのも好きで、ガラスやカーテン越しの光に惹かれたときにシャッターを切っていますね。
Kanai:私も部屋の中もよく撮ります! これは自宅なんですけど、ふとした瞬間に差す光が「すごく好きだな」って思うと撮っちゃいますね。
私たちと写真の関係
―フィルムの楽しみ方は人それぞれなんですね! みなさんフィルム歴も長いと思うんですが、今の自分と「写真」ってどんな関係になってきましたか?
うめざわ:昔、誰かが言っていた言葉で今も覚えているのがあって。「写真を撮る行為が、本にしおりをはさむ行為に似ている」という言葉がすごくしっくりきています。
kim・Kanai:おー、いい言葉!
うめざわ:日常生活の中で誰かと遊んだり、素敵なシーンがあったり、そういう瞬間を撮っていくと、見返したときにふと「そのときあんな気持ちだった」と思い出せるので…。しおりをはさむことに似ていると思いますね。フィルムカメラだとそのことをより実感できるかなって。
Kanai:私にとって写真は、“鏡”みたいな存在ですね。自分を知るツールの一つだと思っています。kimさんが言っていた「自分の写真を見返してこういうものが好きなんだ」って気づくことが私もあって。車の中から撮った写真が多かったんですけど…。そのとき好きだったものや撮ったときの心情が写真に写っていて、あのとき楽しかったんだなとかちょっとつらかったのかなとか。自分を知ることができて、写真から教えてもらう方が多いですね。
kim:私は今の生活が写真で成り立っているので、おおげさですけど“人生そのもの”かな。写真って見返すうちにいろいろよみがえってくるところも好きで、思い出としても仕事としても、これからもやっていきたいですね!
熱く語り合った約2時間。お互いの作品や写真に対する想いにインスピレーションを受けたり、機材や現像の情報交換をしたり(ストラップは首からかける派か手に巻く派かで分かれたり)。新しいつながりが生まれたみたいです。
NICO STOPではこれからも、フィルムカメラの魅力をお届けしていきます!
インタビュー写真:nano(@nanono1282)
Supported by L&MARK
kimJu
韓国生まれ、2006年来日。日本写真芸術専門学校卒業後、出版社の写真部でアシスタントを務める。2014年からフリーランスとなり、東京をベースに活動中。フォトグラファーとして精力的に作品発表を続けている。
うめざわ
学生時代からカメラの魅力にはまり、現在も本業の傍らフォトグラファーとして活動。光と影を生かしたストーリー性のあるポートレート作品が魅力。
Kanai meg
フォトグラファーとしてだけでなく、モデルとしての表現にも力を入れている。「冷たさや暗さの中に前向きな感情がのっている作品を作っていきたい」