撮影の基本を解説する『写真家と学ぼう! カメラ初心者ガイド』。今回は「夜景」の撮り方です。暗い場所で撮るときに起こりがちな「ブレ」や「ノイズ」の失敗を防ぐ設定や、夜景を魅力的に写すポイントを、フォトグラファーの相沢亮さんに教えていただきます。
Photo by 相沢 亮
ナツキちゃん
スマホで写真を撮っていたが、「もっと素敵な写真を撮りたい」とカメラを購入。相棒はAPS-Cサイズのミラーレス「Z fc」と単焦点レンズ「NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)」。モットーは「とりあえずやってみる」。好奇心旺盛で、少しうっかりやさんな女の子。相沢亮さん
東京在住のフォトグラファー。光と影を生かし、暖かいオールドシネマの世界のように日常を撮ることを得意としている。
夜景って、なかなかうまく撮れないなぁ…。
撮った写真、見せてみて!
ナツキちゃんが夜に撮った写真
あ~、手持ちで夜景を撮影するときにやりがちな、二つの「あるある」失敗だね。
夜景撮影でやってしまいがちな失敗
- ブレブレな「手ブレ写真」
- ザラザラと荒れている「ノイズ写真」
ダブルでやってますね。
まずはこの二つを起こさないようにどうすればいいか、覚えていこう!
なにとぞ、お願いします!
ブレとノイズを抑えよう
きれいに夜景を撮るときの基本の考え方は、露出の3要素だよ。
これは、前に教えてもらいました!
※露出の3要素についてはこちら
Sモードで、ブレないシャッタースピードに設定
ナツキちゃんは普段「A(絞り優先オート)モードで撮る」って言ってたけど、夜景撮影はS(シャッター優先オート)モードにして、シャッタースピードを設定したほうがいいと思うよ。
Sモードにすればよかったんですね!
手ブレを抑えるにはシャッタースピードを「1/焦点距離」秒(フルサイズで50mmの場合、1/50秒)が目安になるんだ。
私が使ってるのは28mmのレンズです。
ナツキちゃんのカメラはAPS-Cサイズだから、1.5倍した42mm相当の焦点距離になるね。
…つまり1/42秒より速くすれば、手ブレしないってことですね。
左:1/4秒、右:1/15秒
これはあくまで目安の数値で、実際の機材の重さでも変わってくるから、試し撮りしてみるのが確実だね。Z fc+NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)の組み合わせなら、しっかり構えれば1/15秒程度でもブレずに撮れたよ!
ブレを抑えるカメラの構え方
右手でカメラ右側を握り、左手でレンズの下を支え、カメラを持つ手がグラつかないように両脇をしめます。このとき、脚を軽く開くと安定を保てます。機材が重いほど/レンズが長いほどブレやすく、機材は軽いほど安定させやすくなります。
正しい構え方をして、自分の持ってるカメラでブレないシャッタースピードを把握するんですね。
撮影した後は、液晶モニターで拡大して確認することをオススメするよ!
どうしてですか?
液晶モニターの小さな画面ではきれいに見えても、後から大きな画面で見るとブレてるってことがよくあるからね。
忘れずに確認します!
ノイズ抑制のために、ISO感度はなるべく低く
次は「ノイズ」だね。これはISO感度の上げすぎが原因なんだ。
でも、ISO感度をオートにしてたんですが…。
暗いと自動で高くなっちゃうこともあるんだ。ノイズが出そうな場面ではオートをやめて、自分で設定したほうが確実だね。
まず「シャッタースピードをブレない程度に遅くして明るさを確保する」、それでも暗い場合には「ISO感度を少しずつ上げていく」という調整の仕方だよ。
※ Z fcの場合、ISO感度ダイヤルではなくメニューからオート(感度自動制御)を設定します。設定の仕方はこちら。
ISO感度はいくらまで上げても大丈夫ですか?
カメラや撮影場所の暗さにもよるけど、ナツキちゃんのカメラだとISO1600くらいを目安に、少しでも低く設定できるといいね。
左:ISO1250
わかりました!
でも「手ブレしないシャッタースピードにして、ISO感度も1600に、F値もいちばん小さい」けど、露出が確保できない場合もあるよね。そういうときはどうしたらいいと思う?
そうですね…。あ、フラッシュを使うんじゃないんですか? でも、私の持ってる Z fcはフラッシュがないんだった。
フラッシュも、夜景撮影でよくある失敗だねー!
フラッシュだと当たった部分しか明るくならないし、狙ったところまで光が届かない場合もあるんだ。
フラッシュを使ったものの、手前の太陽のモチーフまで光が届かなかった写真
ホントだ…、手前は暗いままですね。
そんなときはこれだよ…三脚!
三脚でしたか~!
三脚で露出を確実に確保する
三脚は前に1本、撮影者側に2本の脚がくるように立てる。2本の脚側に重心がいき、万が一バランスが崩れても後ろに倒れるため、三脚を受け止めてカメラを保護できる。
三脚を使うとシャッタースピードをかなり遅くできるから、ISO感度は最小値に設定してノイズが出ないようにできるんだ。
それはいいですね!
でもシャッターボタンを指で押してしまうと振動でブレが発生するから、リモート撮影がオススメだよ。
たしか、アプリの「SnapBridge」にそんな機能があったような…。
よく覚えてたね! ニコンのアプリ「SnapBridge」でスマホと連携すれば、カメラに触れずに撮れるからブレなくきれいな夜景写真が撮れるよ。
SnapBridgeで連携中のスマホ画面
それなら、私にもできそうです!
シャッタースピードをもっと遅くすると、こんな表現もできるよ。
三脚に固定し、シャッタースピード4秒で撮影した写真
車が消えて、光の線ができてますね!
肉眼で見るのとは違う景色が撮れるのも、おもしろいよね!
ちなみに、私は三脚を持ってないんですけど、はじめて買う場合はどんなものがオススメですか?
重さや持ち運びやすさ、価格を考慮して選ぶことが大切だよ。
耐荷重や安定性によって、小型(記念撮影や料理向き)/中型(風景や夜景向き)/大型(プロ向き)と大きくわけられるんだけど、風のある外でも夜景を撮るなら中型がオススメだね。僕は軽いカーボン製の中型を使ってるよ。
そういう種類があるんですね! 参考にしてみます。
夜景撮影にオススメの撮影場所と時間帯
高い位置ほど街全体を撮れる
ブレとノイズを抑えるポイントを覚えたら、早速撮影に行ってみよう!
私は普段、歩道から撮ってるんですけど、どういう場所がいいんでしょう?
空を撮るときと同じで、歩道橋・展望台のように目線を高くしていくと、夜景の見え方が変わるんだ。レインボーブリッジのような橋なんかも、オススメだよ!
歩道から撮影
歩道橋から撮影
展望スペースから撮影
上にいくほど、街全体を写せていいですね!
展望台は暖かくて快適に撮れるんだけど、注意しなきゃいけないこともあるんだ。
入場料がかかるってことですか?
それもあるね。…えっと、展望台はガラス張りになってると思うんだけど、そこで反射が起こっちゃうんだ。
反射ですか?
右上に建物の照明が反射して写りこんでしまった写真
こんなふうに中の照明とか、あとは自分の姿が写ってしまうことがあるんだ。
本当だ! でもこれは防げるんですか?
レンズをガラス面と平行にして、できるだけガラスに近づけると、余計な光が入るのを防げて写りこみも抑えられるんだ。それに、暗い服を着ると自分自身の反射を抑えられるよ。
服の色でも変わるんですね!
レンズをガラスに近づけるときは、ぶつけて展望台のガラスを傷つけないように注意してね!
はいっ!
日没の約30分前にはスタンバイ
夜景を撮る時間だけど、真っ暗じゃなくて日没の30分前には撮影場所に行くといいよ。
どうしてですか?
その時間帯にスタンバイしておけば、夕焼けから徐々に青く染まっていく空、そして夜景と、いろんなパターンが撮影できるんだ。
左:日没30分前、中央:日没直前、右:日没30分後
空の色味を生かすなら、太陽の沈む西側を向いて撮るのがポイントだね。
空でこんなに雰囲気が変わるんですね。「西側を向く」覚えておきます!
ちなみに、夜遅すぎるとオフィスビルの明かりが少なくなるから注意が必要だよ。平日の、日没30分後くらいがオフィスビルの窓明かりが多くついていて、よりきれいな夜景が写せるんだ。
ビルの明かりの多さが効いてくるんですね!
夜景を魅力的に写すコツ
一通り、夜景の撮り方を紹介してきたけど、他に悩みはあったりするかな?
冬はイルミネーションを撮りたいんですけど、実際に見た感じと写りのギャップが大きいんですよね。
F値の違いによる光の輝き
小さい光源をそのまま写すと、光が少なく感じちゃうんだよね。そういう場合は、F値を小さくして玉ボケを作ると輝きをアップできるよ!
左:F8.0で撮影、右:F3.2で撮影
この、右のように撮りたかったんですよ! F値を小さくして光源をぼかせばよかったのか~。
F値を大きくしても、光の線が伸びて輝きをアップさせる撮り方もあるよ!
左:F5、右: F18
ホントだ! 街灯の光のトゲトゲが伸びるんですね!
そうなんだ。露出を確保するために、三脚に固定してシャッタースピードを遅くする必要はあるけどね。
こういう場合にも三脚は役立つんですね。
夜景のどこを主役にするか
あとは、夜景を広く撮るときなんか、どこを切り取ったらいいか悩むんじゃない?
たしかにどこもきれいで悩みます。今まではとりあえず、見たままを撮ってました。
構図の中に「見どころ」を入れるのがポイントだよ。
見どころ…?
高いビルみたいに目を引く被写体があるときは、構図に入れることで写真のアクセントになるんだ。ピント合わせの基準にもしやすいからオススメだよ。
中央の高いビルを構図のアクセントにした写真
目を引く被写体がないときはどうしたらいいですか?
特に明るいビル群や車通りの多い大きな道路とか、自分が「見せたい」と思う部分を構図に取り入れればいいんだ。
左:ビル群を構図に取り入れた写真、右:橋を構図に入れた写真
まずは「見せたい!」と思うところを探してみます!
夜景写真をドラマチックに仕上げるコツ
夜景は色味によっても印象が大きく変わるから、ホワイトバランスの設定を変えてみても楽しいよ。
左:ホワイトバランス「オート」、右:「電球」
左:ホワイトバランス「オート」、右:「晴天日陰」
同じ写真でもガラッと印象が変わりますね!
クールに仕上げたいときには、青みが強調される「電球」がオススメだよ。
かっこいい夜景写真、チャレンジしてみたいです!
早速、夜景を撮って帰るぞー!!
夜景撮影に使用するカメラとレンズ
- カメラ:センサーサイズの大きいものほど暗所に強い傾向にある一方で、軽量コンパクトなカメラは手持ち撮影では手ブレしにくいメリットがあります。また、可動式モニターがついていれば、ローアングル/ハイアングル撮影でも構図を安定させることができます。
可動式モニターを生かしてローアングルで撮影
- レンズ:明るさを確保するためには、開放F値が2.8以下の小さいレンズがオススメです。NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)の焦点距離はAPS-Cサイズで使うと標準域になり、目の前の夜景をそのままのイメージで写すことができます。また、レンズも軽くコンパクトなほど、手ブレしにくくなります。
相沢さんが教える、夜景撮影のアイデア
- 長時間露出で光跡を写し出す:車のライトなどの光を長時間露出で撮ることで、光跡を写し出すことができます。撮影の際には三脚を使用し、信号が変わって車が多いときにシャッターを切るのがポイントです。
シャッタースピード4秒
- 雨上がりのリフレクション:雨で地面が濡れると、鏡のように夜景が反射します。撮るときのコツは、水面近くにカメラを近づけること。Z fcのバリアングル式モニターが活躍します。水面に映る夜景と地上の夜景を1:1の比率にするとバランスがとりやすくなります。
- ガラスの反射を取り入れる:電話ボックスのガラスに夜の雑踏を写しこむことで、何気ないスナップ写真が雰囲気のある1枚に。ガラス面にカメラを近づけ、小さいF値で背景をぼかすとガラス面に映った像が際立ちます。
Licensed by TOKYO TOWER
キャラクターイラスト:福士陽香(@f___haru)
Supported by L&MARK