こんにちは。長野県出身のフォトグラファー、Daisuke Uematsu(@daisukephotography)です。「四季の美しさ」をテーマに、さまざまな地で風景を撮影しています。
これまで富士山や桜の撮り方を紹介してきましたが、今回は寒暖差が大きくなる秋冬によく見られる「雲海」についてです。
私の住む近くに「高ボッチ高原」という富士山を撮影できる場所があり、そこで見た雲海の美しさに魅了されたのが、雲海撮影をはじめたきっかけです。雲海にはさまざまな表情があり、深夜の街明かりに浮かび上がる雲海や、夜明け前から朝焼けの美しい空と雲海、日の出後の太陽光に照らされた雲海など、時間や天候次第で姿をガラッと変えます。
この記事では、私が雲海撮影にハマったきっかけでもある地元・高ボッチ高原で撮り下ろしてきた写真をメインに、雲海を撮る上で知っておくべきこと、感動的な雲海をより魅力的に写すコツを紹介します。
雲海撮影のために知っておくべきこと
雲海は見られたらラッキーという偶然性のあるものですが、場所や天候など発生しやすい条件を知ると、撮影のチャンスが格段にアップします。
【場所や天候】雲海を撮りやすい条件を知る
- 場所:標高が高く高低差があり、湿度の高い空気が留まる地形(盆地・山間部・湖など)が発生しやすいです。地元・長野の雲海スポットで言うと、高ボッチ高原は諏訪湖との標高差が900m程度、新道峠は河口湖との標高差が700m程度…と、経験上700m程度の標高差は必要だと感じています(奈良の吉野山など300mもない場所でも発生する特殊な雲海もあります)。
標高が高すぎてもたどり着くまでが大変なので、まずは低めでアクセスしやすい場所がオススメです。今回は車で撮影地点まで行ける「高ボッチ高原」で撮影を行います。
なお、はじめての方はWEBやSNSで情報収集をしてから臨みましょう。私は、三菱自動車が提供している「雲海出現NAVI」を利用していて、ここでは全国のスポットや雲海の発生確率をチェックすることができます。
- 天候:湿度が高く、晴れていて、風がほぼない、そして、前日の日中と夜間の気温差が大きい(目安は10℃以上)ときに発生しやすくなります。天気予報サイトの1時間ごとの気温や風速は必ずチェックしましょう。ただし相手は自然、現地に着いて発生していなくてもいつの間にか大雲海になっていることもあります。何度もチャレンジする気持ちも大切です。
なお、高ボッチ高原では経験上11月に雲海の発生確率が高く、12月に入ってしまうと確率は少し低くなると感じています。
※高ボッチ高原は、冬季は路面状況によって閉鎖されます。
- 時間帯:ぐっと冷えこむ夜明け前から早朝が出現しやすい時間帯です。特に空が明るくなりはじめる日の出1時間前からが、露出を確保できて撮影しやすい時間帯。日の出後に雲海となっている場合は簡単には消えず、1時間以上いい条件が続くことが多いです。一方、深夜から日の出前は雲海が出たり消えたりしやすく、風があると雲海が成長しにくいため、構図を決めて狙った位置に雲海ができるまで待機する必要があります。
【持ち物】暗さと寒さに備えたアイテム選び
- カメラ:暗い時間からの撮影になるため高感度性能に優れ、急な天候変化にも備えて防塵防滴に優れたカメラが安心です。徒歩移動もある場合は軽いミラーレスが◎。フォーカスはマニュアルで合わせるため、ピントが合った位置の輪郭がわかる「ピーキング表示」機能があると便利です。この条件を満たしている Z 6IIを使用しました。
- レンズ:雲海以外の風景をどこまで入れるかによりますが、全体を写すために24~70mm、部分的に切り取るために70~200mmの焦点距離域があると万全です。
左:70mm、右:135mm
今回の高ボッチ高原の場合は、背景に入れたい富士山との距離が離れているため、望遠ズーム70-200mmをメインで使用します。
- 三脚:悪路の場合も多いため、重量感のあるしっかりと固定できるものを選びましょう。場所によっては植物が生い茂っていて写りこむ可能性もあるため高く調整できるものを。私は堅牢で背の高いジッツォの「GT5543LS」を使用しています。
- レリーズ:深夜帯に長時間露出撮影をする際にシャッター押下時のブレを防ぐために必要で、ない場合はセルフタイマーを2~5秒ほどに設定して撮影すればOKです。なお、意図的に雲海の動きを流して撮りたい場合は、30秒以上のタイマー設定が可能なレリーズが理想です。
- バッテリー:撮影時間にもよりますが予備が1〜2個あると安心。寒いとバッテリーの持ちが悪くなることを想定しておきましょう。
- ヘッドライト:あたりは暗いので歩行時や撮影準備のために装着します。他の撮影者がいる場合、ライトの消し忘れや長時間の点灯は避けましょう。
- レンズヒーター:レンズの結露を防ぐために持っていくことをオススメします(撮影が日の出後からなどの短時間であれば、ヒーターはなくても大丈夫です)。
防寒対策は特に念入りに
秋以降の山間部は、日によって氷点下になるため防寒・防風対策は必須です。また、機材の取り扱いにも注意しましょう。
- 服装:保温性の高いものを重ね着します。私の場合、メリノウールや化学繊維など保温性の高いインナーを上下に1~2枚、ダウンジャケットとアウトドア用またはダウンのズボンを履いた上で防水透湿性の高いアウターを着ます。綿素材は汗を吸って身体を冷やしてしまうので避けましょう。
- 機材の結露対策:外で冷えたカメラを暖かい車内などに持ちこむと結露しやすく、長時間湿度の高い場所で撮影しているとレンズも徐々に結露していきます。レンズヒーターを使う以外の対策として、外から車に入るときにレンズキャップを付けて機材をバッグの中に入れるなど、急激な温度変化を避けましょう。また、車のアイドリングはせず、車内温度が上がりすぎないように注意しています。
美しい雲海を魅力的に写すためのポイント
ここから実践! 感動的な雲海をより魅力的にとらえるためのポイントを紹介していきます。
現地に到着したらするべきこと
このときの日の出は6時前のため、4時には現地入りしました。着いたら、撮影場所の下見や機材の準備を進めます。
なお、到着時には濃霧に包まれていてまったく前が見えない状態で、諦めて帰る撮影者もいました。ただ、以前もこのパターンで朝日と同時に大雲海となったことがあり、日の出30分前からチャンスが来ると読み待機していました。自然が相手なので、諦めずに粘ってみる気持ちも大事です。
【設定】黒つぶれ・白とびに注意して適正な露出に
左:黒つぶれ、右:露出OK
限られた光量で雲海を撮影すると、黒つぶれ・白とびが起きやすいので、適正露出になるようマニュアルモードで慎重な調整が必要です。F値は雲海全体を写すために少し絞り、ISO感度はノイズを抑えるために可能な限り低く。三脚にカメラを固定して、シャッタースピードを遅くして露出を確保します。
- F値とISO感度:深夜から日の出前の暗い時間はF2.8〜6.3程度でISO250~1600、日の出後明るくなってからはF8〜18程度でISO400以下を目安にします。
- シャッタースピード:適正露出になるようにシャッタースピードを遅くして調整します。
なめらかな雲海を写したい場合
意図的に長時間露出にすると、なめらかな雲海をとらえた印象的な写真を撮ることもできます。
シャッタースピード240秒で撮影。街明かりに照らされて色づく雲海が、水のようになめらかに動いています。
左:白とび(F8・1/640秒・ISO100)、右:編集前提で露出OK(F8・1/2500秒・ISO100)
迷った場合は、編集する前提でアンダー気味に撮影しましょう。カメラ機能の露出(AE)ブラケティングを使い、ローキーからハイキーまで数パターン撮影するのも手です。
※Z 6IIの「オートブラケティング」機能についてはこちら
時間帯で意識するポイント
- 夜間:夜景が入る場合、街明かりの白とびと暗部の黒つぶれがないよう最適なバランスを探す。
- 日の出後:太陽の光が入る部分などが白とびしないように。
特に日の出後は雲海に太陽の光が入ると白とびしやすくなるので、こまめにヒストグラムなどを確認しましょう。
- フォーカス:マニュアルフォーカスでライブビューにし、ピーキング表示を活用して認識できる対象に合わせます。夜なら街の明かりや星など。ない場合は、ピント位置を変えながら自動的に連続撮影を行うフォーカスシフト撮影をします。時間はかかりますが、前景から後景までそれぞれ合わせることができます。
※Z 6IIの「フォーカスシフト撮影」についてはこちら
【構図】地上2:空1の比率を基準に壮大さを表現
雲海写真は、周囲の環境や空など絡める風景によって印象が大きく変わります。
自然光がある場合や星が出ていて空に表情がある場合は、上の写真のように地上2:空1の割合で撮るとバランスがいいです。右のように縦構図にすると、雲海と富士だけを強調することもできます。
こちらは、日の丸かつ二分割構図で富士山のシルエットを美しく表現しました。雲海の奥の風景を生かしたり、雲の表情が特徴的な場合に二分割が有効です。
【時間】色づく空によって変わる雲海の表情
雲海は、太陽の光の影響を大きく受けます。朝焼けで染まる雲海や、日の出前に青く染まる「ブルーアワー」やピンクや薄紫に染まる「ビーナスベルト」が発生すると、幻想的な雲海風景を見せてくれます。
こちらは過去に新道峠で撮影した写真ですが、ブルーアワーの空と雲海が織り成す光景は実に美しいです。
【編集】黒つぶれ・白とびを防ぎながらディテール調整
編集も大切なプロセスです。朝焼けの色を保持するためにアンダー気味で撮影した上の写真を例に、色づく空と雲海のディテールをしっかり表現できるように仕上げていきます。
※編集はLightroomを使用しています。
Lightroom編集画面
- 明るさ:雲海風景はコントラストが強く出やすいため、ハイライトを下げてディテールを浮かび上がらせ、白レベル・黒レベル・トーンカーブでメリハリをつけていきます。
Lightroom編集画面
- 色味:ホワイトバランスは自然光オートで撮影していましたが、編集時はややオレンジに寄せています。その上でブルーの色味を落として、見たときの印象に近づけています。
Lightroom編集画面
- ディテール:フォーカスピーキングなどで気を使って撮影しても、拡大すると細かいディテールが多少ぼやけていることがあるため、そのときは画像を拡大表示して注意しながら調整します。
左:編集前、右:編集後
以上の編集によって雲海の存在感が増し、朝焼けに染まる美しい風景に仕上がりました。雲海写真は“雲海”を強調しがちですが、空など周囲の風景とのバランスを意識することで全体の美しさを引き出すことができます。
多彩な表情を見せる雲海写真ギャラリー
最後に、今回撮り下ろした写真に加えて、過去に撮影した中でお気に入りの写真をピックアップしました。天候や時間帯、周囲の風景などによってさまざまな表情を見せてくれる雲海の魅力をご堪能ください!
設定:70mm・F18・1/30秒・ISO100(12月上旬・6時半頃)
湖の上に発生した雲海と、その奥の富士山周辺と上空の雲を照らす光が印象的でした。特にマジックアワーから朝焼けの時間帯まではシャッターチャンスの連続です。
設定:175mm・F8・1/20秒・ISO100(10月中旬・5時半頃)
南アルプス方面の雲海を切り取りました。ここをクローズアップする人は少ないのですが、こんな素晴らしい山並みと雲海のコラボレーションも高ボッチ高原では撮ることができます。
設定:105mm・F8・1/640秒・ISO100(10月中旬・6時半頃)
奥にアルプス連峰を望む場所で、前景にある広葉樹をアクセントとして入れました。雲海の切れ間から、光に照らされた街並みが確認できます。紅葉×雲海×アルプスという贅沢な1枚になりました。
設定:14mm・F18・1/15秒・ISO100(12月上旬・6時半頃)
朝焼けで染まる雲の表情が美しかったので、高い位置から雲海漂う高ボッチ高原の全体を超広角で写しました。右下にある撮影ポイントに集まる車もアクセントになっています。
設定:180mm・F8・1/800秒・ISO100(10月中旬・7時頃)
こちらは高ボッチ高原の山頂から撮影した写真。普段見上げる鉄塔を、雲海をバックに見下ろすとこんなにも壮大な写真になりました。密度も規模も最大級の雲海です。
設定:185mm・F5.6・180秒・ISO250(11月上旬・4時頃)
この日は深夜3時以降に雲海の密度が濃くなりはじめ、湖が完全に見えなくなるほどに。180秒の長時間露出で、星降る空と水のように流れる雲海を写し出しました。
設定:28.5mm・F4・30秒・ISO640(10月上旬・4時半頃)
霧の動きを長時間露出でタイミングよくとらえ、湖にベールがかかったように表現しました。街明かりがやんわりとなじむ幻想的な1枚です。
設定:24mm・F14・1/15秒・ISO100(1月下旬・7時頃)
朝焼けの時間に雲海は少なくなりましたが、富士山の両脇に沸き立つ雲を新雪の銀世界越しに見ることができました。富士山の壮大さを強調しながら24mmで前景に雪化粧を入れこむことで、冬の絶景を写し出しています。
Photographer's Note
雲海撮影は、寒い中で長時間と大変ではありますが、時間とともに表情を変える雲海をとらえるのが何より楽しく、撮れた写真を見るたび感動します。そして、同じ場所でも雲海の状態によってまったく異なる風景が広がっているので、何度もチャレンジしたくなるんです。
こちらは今回撮り下ろした中で一番のお気に入りです。構図のバランスがよく、やわらかい光によって雲海の濃淡を自然なコントラストで表現でき、鳥がいいタイミングで富士山の左右を飛行している瞬間をとらえることができました。
また、たとえ雲海が出なくても、美しい朝日が見られたり、思いがけない光景に出会えるかもしれません。この朝焼けの美しい風景もそうです。大きくプリントしたいくらい好きな作品になりました。
今回撮影で訪れた高ボッチ高原は、その立地や撮影環境から「フォトグラファーの聖地」とも言われており、素晴らしい環境で撮影ができます。はじめての方もぜひ雲海撮影にチャレンジしてみてください。現地でお会いできることを楽しみにしています!
雲海撮影に適したNikon機
今回は Z 6IIにNIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR Sを装着して片手で持ち運ぶ場面が多かったのですが、グリップ形状や素材を含めて手になじみホールド感がよかったです。携行性に関して何も不満がなく、こういった細かい作りこみのよさはNikon機だからだと改めて感じました。写りに関しては解像感が凄まじく、沸き立つ雲海のディテールから街明かりなどの細かい描写、奥に見える山の稜線など、すべてがハイクオリティだと感じました。
特に色再現が自然で、光の描写がとても美しいです。上の写真では手前の低山の稜線に光芒が走っているのですが、撮影者でも気づかないかすかな光をしっかりととらえてくれる、本当にいいカメラだと感じました。
※Z 6II、NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S、NIKKOR Z 24-70m f/2.8 S以外で撮られた写真以外は、フォトグラファーが過去に撮影した写真です。
※新型コロナウイルスの感染症対策に十分にご留意いただくとともに、政府、自治体など公的機関の指示に従った行動をお願いいたします。
Supported by L&MARK
Daisuke Uematsu
長野県在住のフォトグラファー。「四季の美しさ・自然と人の繋がり」をテーマとし、光と影が織り成す美しい瞬間を追い求めている。「二度と同じ写真は撮れない」という考えから、出会った景色の最も美しい瞬間をとらえることを目標としている。