写真が大好きなジュンくんが、写真をやっている人なら気になるアレコレを専門家にインタビュー。今回は、友人や知らない人が写った写真をSNSにアップするときに気を付けたいポイントや、考えられるトラブルについて、弁護士の船越雄一さんにうかがいました。
何気なく投稿した1枚が、トラブルを招くかも
今日はよろしくお願いします! そもそも、友人や他人の写った写真を無断で投稿することは法律に違反しているんですか?
「肖像権」と「プライバシー権」、「名誉権」の主に3つの権利を侵害する可能性があります。
こんなにたくさんの権利があるんですね! どんなトラブルになる可能性があるんだろう…。
あるファッション団体が街で撮影した写真をウェブサイトに掲載したら、そこに写っていた女性が着ていた服に特殊な意味の英語が書かれていたことでネット上に拡散され、その女性は不特定多数から誹謗中傷を受けてしまったという事例があります。
悪意なく気軽に投稿した写真が、意図せず誹謗中傷に繋がってしまうこともあるのか…。
その訴訟では、団体に対して慰謝料30万円の支払い命令が出ました。私のところにも、この事例のように「自分の写真がインターネット上で転載され、不特定多数の人から誹謗中傷を受けて困っている」とか、「学生時代の黒歴史の写真が友人のブログにアップされていて、削除してほしいけど友人がパスワードを忘れてしまった」などの相談がありますね。
いろんなトラブルがあるんですね。
友人同士では訴訟にまで発展する事例は少ないし、他人の場合も個人のSNSで掲載されていても気づきようがないという点で、トラブルは少ないです。また、訴訟に発展したとしても、影響力・拡散力などを踏まえてそこまで高い金額にはならないと思いますが、こういうトラブルに発展する可能性はあると覚えておいてほしいです。
友人同士でも、きちんと同意を得ることが大切
こういったトラブルを防ぐには、どうすればいいですか?
許可や同意をとっておくことが大切ですね。それから、撮影時から何のために撮るのかを明らかにしておくと良いでしょう。個人的に撮影するのか、LINEの限られたグループに投稿するのか、SNSに投稿するのかによって、撮られて良いと思えるかどうか変わってきますから。
親しき中にも礼儀あり。ですね! 例えば親が子どもの写真を撮って、SNSなどにアップするのはどうですか?
違法性があるとは言えませんし、すぐさま問題になるようなことはないと思います。ただ、その写真を見た第三者によって、子どもや投稿者自身への誹謗中傷に繋がったりする可能性もあるので、公開範囲や写真の内容など、注意して投稿するようにしたほうが良いと思います。
子どもの写真はついシェアしたくなりそうだけど、まずは安全を考えることが大切ですね。
その子が大きくなったときに、自分の公開されている写真を見てどう感じるかも想像してあげると良いですね。これは海外の特殊なケースかもしれませんが、18歳の女性が、赤ちゃんのときの写真の削除を求めて、両親を訴えているという事例もあるんですよ。
そんな事例があるんですね! でも確かに、小さな頃の恥ずかしい写真がずっとみんなに見られるのは嫌かも…。
ちなみに掲載の許可を取った場合、有効期限はどれくらいだと思いますか?
え? ずっとじゃないんですか?
実は、許可が得られても、それは一生使って良いという同意ではないんです。身近なケースでは、カップルが別れた後に「元恋人が付き合っていた頃の自分の写真をアップしていて、消してほしいが相手が取り合ってくれない」という相談が多いです。
確かに撮った側からすると「一度許可しているのに…」と思ってしまうかも。
裁判所でも議論になることがあるのですが、肖像権は「人格権」と呼ばれる、人間の権利の中でも非常に重要な権利なんです。なので、一度許可したとしても、その人が削除を望んでいるならその権利が優先されるべきと考えられるんですよ。
どこまでOK? 許可が取れない状況でトラブルにならないためには?
街中で撮った写真に写った知らない人は、後から許可を取れないですよね…そういった場合はどうしたらいいですか?
私は基本的にはアップすべきではないと思います。しかし、どうしてもアップする場合はその人だと認識できないようにボカしを入れたり、その人をトリミングするなど加工してからアップするのが良いですね。
そうした配慮が自分を守ることにも繋がるんですね。顔が写っていない写真ならOKなんですか?
じゃあここで問題! ジュンくん、この中で肖像権を侵害する可能性がある写真はどれだと思いますか?
2番は横顔だけど、よく見るとはっきりと顔が写っているので許可がなければダメですよね。それ以外は誰なのか判断がつかないしOKなんじゃないですか?
そうですね。2番は誰かが判別できてしまうのでダメですが、その他の後ろ姿や体の一部が写っているものは、基本的に顔が判別できないので問題ないと思います。横顔は、どれだけ画像を拡大しても顔が判別できない写真であれば問題ありません。ただ、1番の写真は背景に女性が写っていますよね。
ほんとだ! メインの被写体に気を取られがちですが、背景にも注意ですね…! この写真のように背景に人が映り込んでいる場合は、どうしたらいいですか?
こちらの女性の顔がしっかりと写ってしまっていた場合は、ボカしたり、別の写真を投稿するなどしたほうが良いですね。今回のように、シルエットや正面を向いているけれどボケていたり、何かで顔が隠れているなど、顔が判別できないものであれば基本的には問題ないと思いますよ。
なるほど。他にも、肖像権について撮影するときに気を付けないといけないポイントはありますか?
肖像権を侵害しているかどうかに関わらず、そもそもカメラを向けられたくないという人も中にはいます。だから、街中や公園など人が集まる場所での撮影は、周囲の人の快適さも考えて慎重にするのが良いですね。
意外な落とし穴も! 写真に個人情報が写っていないかチェックを
ジュンくん、人の写真をアップするときは、背景の人だけでなく、個人情報や位置情報の映り込みにも注意が必要なんです。友人が「写真を投稿していいよ」と言ったとしても、プライベートまで公開したいとは思っていないはず。
そこで、再び問題! この写真の中でプライバシー権の侵害になり得るものはどれだと思いますか?
ミナちゃんと2人でお茶したときに撮った写真だ! やっぱりミナちゃん、かわいいなあ〜!
ふふふ、いい笑顔が撮れたね。だけど、この写真にはプライバシー権で注意が必要なポイントがたくさんあるんです。ミナちゃんのためにも考えてみて。
うーん、どうだろう…。店員さんの顔は写っていないし、問題がある部分ってあるんですか…?
実は、こんなに注意ポイントがあるんですよ。
ええ〜! こんなにたくさん…! それぞれ、どうして注意が必要なのか教えてください…!
まずは、テーブルに置いてある社員証。本名や勤務先情報が写っている場合はプライバシー権の侵害になり得ます。
気づかなかった…! ミナちゃんの個人情報が流出しちゃったら大変だ…! 店員さんの名札は、顔が見えていなくてもNGなんですか?
顔がわからなくても、お店の住所と名前がわかれば個人を特定することも可能なので、名前がはっきり写っている場合はNGでしょう。また、例えば許可を得て顔が見える写真の場合は、名札が写らないよう注意したほうが良いですね。
なるほど…。外の車のナンバープレートはなぜNGなんですか?
ナンバープレートは住所との結びつきが強い情報です。ナンバーからすぐに個人情報を調べることは難しいですが、何かあった際、所有者の情報が特定されるおそれもあります。マナーとしてボカすなどの処理をするのが好ましいでしょう。総務省もインターネット地図・画像検索サービスへ、ナンバープレートはボカすなどの配慮を求めているんですよ。
そうなんですね…! ナプキンの住所も注意したほうがいいんですね。
そうですね。あと、外の自販機にも小さくですが住所が書いてあります。もしアップするときに「友だちの家の近くにあるカフェ」などとコメントを入れていれば、ミナちゃんの生活圏がわかってしまう可能性があります。他にも、街中ではマンホールなどからもだいたいの住所がわかってしまうので気を付けましょう。
最近のカメラは性能が良いので注意が必要ですね。あと、後ろに学生が写っていますが、制服は大丈夫なんですか。
顔が見えていなければ街中で撮った写真に写り込む分には問題ありませんが、友人の部屋でポートレートを撮影した場合などに背景に制服が写っていると、その人が通っている学校がわかってしまうので、プライバシー権の侵害になりますよ。
撮影状況によって、いろいろな配慮が必要なんですね。
トラブルにならないために。一歩立ち止まって考えよう
先生、今日はとても勉強になりました。いい写真が撮れると、ついついアップしたくなるけど…! 気を付けて写真を楽しもうって思いました。
そうですね。勢いで投稿する前に「写真に写った人が嫌な気持ちにならないか」と、立ち止まって考えることができればトラブルを防ぐことができると思います。人の権利を守る行為は、撮る側である自分自身を守ることでもありますので、これからも、最低限のポイントを守って写真を楽しんでくださいね!
はい! 今日はありがとうございました!
[まとめ]友人や他人が写っている写真をアップするときのチェックポイントをおさらい
●友人の場合
1)撮影前に同意を取ろう
2)どこでどんな風に使うか事前に伝えよう
3)住所などの個人情報が特定されないか気を付けよう
4)投稿後、「削除してほしい」と言われたら素早く対応しよう
●他人や許可が取れない場合
1)極力他人が写り込まないように注意しよう
2)写り込んでいる場合は顔が判別できないものを投稿するか、判別できてしまう場合は顔をぼかしたりトリミングするなどの処理をしてから投稿しよう
3)カメラを向けられたくない人もいるので、人が集まる場所での撮影は慎重に
illust:冨田マリー(@tomitamary_)
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