こんにちは、NICO STOP編集部(@nicostop_editor)です。
6月13日に開催した一周年記念イベント「NICO STOPオンラインフェス2020」は、ご覧いただけましたか?
ご要望にお応えして、オンラインイベントの動画をアーカイブいたしました。
そのコンテンツの中から、コハラタケルさんと酒井貴弘さんのインタビューをリポート。『キミと彩るポートレート』で連載しているお二人に、記事の撮影の裏側やこの一年で特に印象に残った撮影についてうかがいました。視聴された方も見逃してしまった方も、ぜひチェックしてみてください!
※この記事は、オンラインイベントの内容を再構成しています。
Photographer
左上:コハラタケルさん、下:酒井貴弘さん
コハラタケルさん(@takerukohara_sono1)
作品撮りでは女性ポートレート、仕事では家族写真をメインに撮影しているフリーのフォトグラファー。酒井貴弘さん(@sakaitakahiro_ )
東京在住のフォトグラファー。ポートレートを中心に作品を発表し、写真教室やオリジナルプリセットなども手掛ける。
【コハラタケル】刻々と変化する朝方の空に魅せられた横浜での撮影
―「この一年で特に印象に残った撮影」というテーマで、お二人の撮影の裏側をお聞きしていきたいと思います。まずはコハラさんの作品です。
―こちらは、先日公開した記事「Yokohama Stories」のアザーカットですが、なぜこの写真を取り上げようと思ったのですか?
コハラ:今回選んだ作品は、1枚目から「ポートレートじゃない」って思うかもしれませんが、「ポートレートは人が写っているだけでは完結しない」と僕は考えているんですよね。
そのときに見ている景色の写真…それは写っているモデルさんが見ている景色もそうですし、撮っている僕自身が見てる景色を切り取ってあげるのが重要だと思っています。
注目してほしいのは空のグラデーションなんですが、1月の早朝30分くらいの間にいろんな表情を見せてくれたんですよね。「これだけ空の色が刻々と変わっていったんだよ」という気持ちを伝えるために、少し空の色は誇張して見せていますが…。でも、本当にきれいだったんですよ。
酒井:コハラさんって、よくきれいな空に出会うイメージありますよね!
コハラ:もちろん天気勝負で「難しかった」っていうことはあるんですけど、この日はかなり恵まれたと思います。
酒井:ビルから煙が出ているような写真もおもしろいですね。
コハラ:これも撮っている途中でふと見たら、ちょうど雲が煙突の煙みたいな形でビルの上に出ていて、これは残しておきたいと思ってシャッターを切りました。
―この傘をさしている写真ですが、雨が降っていたわけではないんですよね?
コハラ:「Yokohama Stories」でも紹介しましたが、100円ショップで買える霧吹きの先端部分だけを持っていけば、現地で買ったペットボトルに装着して使えるんですよ。いつでも好きなときに雨粒の表現ができるのでオススメです。
酒井:傘に水を付けて、こういう世界観で撮ろうって、はじめから決めてたんですか?
コハラ:前日の夕方に、撮影場所の横浜港大さん橋国際客船ターミナルを下見したときに決めました。行ってみると、想像以上に手すりが入ってしまって…。ビニール傘を持って、手すりも入るとなると情報量が多くなりすぎちゃうんですよ。なので、手すりを写さない表現に切り替えました。
酒井:いい意味で、大さん橋感がないですね。
コハラ:そうなんですよ。手すりを写さないと大さん橋らしさがなくなる問題に直面して。どうやって見せようかというのはすごく悩みました。
―「Yokohama Stories」の記事では組写真で構成されていますね。
コハラ:早朝に見た景色を写した写真と、ローアングルで月とモデルさんをフレーミングした写真と。朝陽の写真は大さん橋のロケーションを生かしたカットなので、二つを組み合わせることで「大さん橋じゃないと撮れない写真なんだよ」っていうメッセージを伝えたかったんです。
コハラ:この朝陽の写真は撮影を終えて帰ろうとしたときに撮った1枚で、太陽が少しだけ顔を出して上下の余白も美しかったので「これは撮らないと」って!
上部のラインが左に行くほどなだらかに下がっていて、よく見ると右端は少し上がっているんです。トリミングしてしまうと今ひとつな感じで、この絶妙なバランスがいいなと思っています。
―コハラさんはポートレートを撮るとき、いつも周辺環境も撮影されているんですか?
コハラ:必ずしますね! 最終的にデータをモデルさんに渡すときに、人物の写真しかないとちょっと落ちこむくらいです…。「失敗したな~」「これじゃ伝わらないな」って。そのときの情景とかを思い出すためには、人物写真だけだと成立しないと思っていて。
酒井:僕は人物だけになっちゃって、「もっといろいろ撮っておけばよかったな」ってなるんですけど。コハラさんはそのときの思い出とつなげるために、人物以外も撮るんですかね…?
コハラ:写真は連続性があるものだと思っていて。だから1枚で完結じゃなくて、10枚20枚30枚と、「写真集的な組み方」って言ってもいいと思うんですけど、その感覚で撮っているのが大きいですね。
矢印をタップすると他の写真を見ることができます。
【視聴者の方からの質問】
―素敵だと思う写真は“余白の美”を感じるものが多いのですが、お二人の余白の美学を教えてください。
酒井:写真1枚の画角としての余白と、見る人が写真から想像する意味での余白があると思うんですが、後者について話しますね。実は自分の中の課題で…。いつもばちっとハマりすぎた写真を撮りすぎていると思っていて、もう少し見る人が入りこめるような余白を取り入れていきたいなって。美学というより課題ですね。
コハラ:技術的な「画角」の話をすると、僕は意識的に空を入れるようにしています。日本の街並みって看板が多かったり、自動販売機とか電柱もあったりしてごちゃごちゃしていますよね。空を入れることは、僕にとって大きな余白につながるので、すごく気をつけているんです。
【酒井貴弘】チームワークから生まれた想像を超える瞬間
―続いて、酒井さんの「一年間で特に印象に残った撮影」についておうかがいしたいと思います。
酒井:これは「NIKKOR Z スペシャルコンテンツ」で撮影した写真です。NIKKOR Z 85mm f/1.8 Sの描写性能を紹介する企画だったんですけど、これまでの中で一番規模の大きいお仕事で、光栄だったなと思い選びました。
ちょうどフリーランスとして活動しはじめた直後で、しかもプロモーションの参加フォトグラファーの中で、SNSメインで活動していたのは僕くらいだったんです。なので、ただの作例じゃなくて作品性の高いものを撮りたいなと…。場所は、地元・長野県にある「霧ヶ峰」という高原を選んで、非日常なところで撮ってみようと気合を入れた撮影でした。
酒井:僕は普段、撮影後に「Lightroom」で編集することを前提に露出を設定したりするんですけど、レンズ性能を紹介するために“撮って出し”の条件だったんです。なので、テスト撮影も3~4回して、1か月間くらいかけてしっかり準備しました。
1回目のテスト撮影
2回目のテスト撮影
酒井:こんなふうに本番と同じように布を使って、光による写り方の変化を実験しましたね。それから、「Picture Control Utility 2」というアプリでピクチャーコントロールを自分なりにカスタムして、夕日用と日中用、コントラストがつきやすい設定などいくつか登録しておいたんです。
酒井:当日一番大変だったのが、このレンズの逆光耐性を生かす撮影ですね。そのためには絶対晴れなきゃいけなくて。山の天気は変わりやすいんですが、幸い晴れてくれました。途中、曇ったときもあったんですが、そのときは車に戻って映画『天気の子』の主題歌「グランドエスケープ」を流したら、だんだんと晴れはじめて…。みんなで「今から晴れるよー!」って映画のワンシーンみたいに祈っていたら本当に晴れて!
コハラ:(笑)
酒井:この夕日撮影のときも大変で…。太陽が傾くまで少し離れたところで休憩していたら、みるみる曇り出して。大慌てで戻って1分くらいでこの状況をつくり出して、バババッとシャッターを切って撮った写真です。少しポーズを変えてたら暗くなって終わっちゃいました。本当に最後何とか撮れた写真で、神がかった撮影でしたね。
コハラ:写真を見ると、これがべストな天候だったんじゃないかなって。晴れすぎても難しいですよね。
酒井:そうなんですよ。でも、後ろのほうを見てもらえると、雲がそこまで来てるんです。山の中なので、このまま雲の中に入っちゃったんですよ。その後はまったく撮れない状況だったので、本当にギリギリでした。天気や一緒に撮影したチームみんなで勝ち得た成功という感じで、すごくうれしかったです。
―酒井さんは普段からチームで撮影することが多いんですか?
酒井:今まではモデルさんと1対1が多かったんですけど、これからはチームで撮影していきたいなと思っています。写真ももっとつくりこんだものに挑戦したいです。
酒井:この写真は、ヘアメイクさんのアイデアから生まれました。赤い布を頭に巻くという発想は、僕にはなかったんですけど、やってみたらバッチリはまって! そういうチームプレーから想像以上の写真が撮れるのは、チームだからこそのおもしろさだと思いますね。
【視聴者の方からの質問】
―瞳AFはいつも使っていますか? 瞳AFの必要性についてお聞きしたいです。
酒井:作品撮りのときはマニュアルでピントを合わせるんですが、仕事でファッションのルック撮影などでは使いますね。動いているモデルさんを撮ることが多いので、瞳AFは便利です。
コハラ:僕も時と場合によるんですけど、特に仕事で使っていますね。仕事のときはなるべく機材の性能に頼りたくて(笑) よければよいほど助かります。予期せぬアクシデントや難しい条件のときでも正確に写してくれるから、撮影しているときの安心感につながるんです。
コハラ:例えば、上の作品撮りのときは瞳AFを使っていません。空のグラデーションを見せるために、あえてピントをゆるくしたかったので。
世界観づくりのインスピレーションと、モデルさんとのコミュニケーション
―お二人の写真を見ていると、すごく世界観を感じるんですが、どこからインスピレーションを得ているんですか?
酒井:僕は、いろんな雑誌や作品集で写真を見るのが好きなので、そこから自分なりに解釈してやってみることが多いですね。最近はこれまで触れてこなかった、映画を観たり読書をするようになってきて。目で見える部分だけじゃないものだったり、今までなかったような方向で考えられるようになったと思いますね。小説の物語的な発想も取り入れたり、新しい世界観を模索していきたいです。
コハラ:僕は、シンプルに写真から影響を受けることが多いです。ハッシュタグで検索したり海外のフィーチャーアカウントの作品を見て、自分の技術で応用したりチャレンジできないかなって。撮影する場所を決めたら、そこで撮られた写真を1000枚くらいは見て、自分にしか撮れないシーンや切り取り方がないかを考えますね。
―コハラさんには、モデルさんとのコミュニケーションに関する記事を書いていただいていますが、撮影時にはポージングを指示したりするんですか?
コハラ:僕は結構指示を出すタイプです。でもポージングを指定するというより、“行動をしてもらう”という感じ。例えば、ベンチがいくつか並んでいたとして、「あの三つ先のベンチに座って、こちらに手を振ってほしい」とか「空を見上げて、一番好きな形の雲を見つめてほしい」とか。その行動の途中を写すことが多いです。
コハラ:撮っている最中にモデルさんをほめることも大切ですけど、自分の感情を素直に表に出すことも重要だなと思っています。ふいにすごくきれいな表情を見せてくれたり、何気ない仕草が印象的に写ったり。そんなときには思いっきりはしゃぐと、僕の喜びが相手にも伝わるので。
酒井:僕も同じ感じですね。不安な中での撮影で、カメラの前で表現するのは慣れていないと恥ずかしいので、表情を出しやすい環境をつくることを意識しています。安心して、自信をもって写ってもらうことが大切かなって思っていますね。
―撮影する上で、すごく大事なことですね。
この一年で二人が心躍った瞬間
―最後に、#NICOSTOPフェスでも募集した「この一年で心躍った瞬間」について、お二人にもお聞きしたいです!
コハラタケル’s BEST
コハラ:横浜の大さん橋で、この1枚が撮れたときです。1月前半のすごく寒い時期で、撮り終えて急いで帰ろうとしていたとき、ふと振り返ったらこの雲がポカーンと浮かんでました。ピンク色の空と雲がとてもきれいで…。僕、テンションが上がっちゃうと何でも“ちゃん付け”する癖があるんですけど、このときもモデルさんと「そこのピンク雲ちゃんすごい」ってはしゃいじゃって! 無我夢中でシャッターを切った思い出です。
これも「大さん橋と関係ないじゃん」って思うかもしれませんが、都内でこんなに空が広いところはないですし、下のほうを見ると大さん橋、遠くには横浜ベイブリッジも見えていて、やっぱりここじゃないと撮れない写真なんです。僕にとってのポートレートは、モデルさんが見ている世界や僕自身が見ている世界も切り取って完成するものだと思っていて、この写真を見たときにぶわっと撮ったときの情景が思い出されるんですよね。そういった意味合いも含めて、心躍った写真です。
酒井貴弘’s BEST
酒井:僕の心躍った瞬間は、先ほどお話した「NIKKOR Z スペシャルコンテンツ」で撮影した1枚です。これは最後のギリギリの状態で撮ったもので、たまたま風で布が舞ってモデルさんが完全に隠れてしまって。まったくの予想外だったんですけど、撮れた写真は想像を上回るというか、自分の力だけじゃないところで生まれた写真なんです。
レンズの描写性能を生かした作例写真ではないのに、サイトのトップページにも使っていただいて。世界観を大切にして採用してくれたことがうれしかったですし、これからの自分の“写真の可能性”も感じた、ものすごく心に残った1枚ですね。
―貴重な撮影の裏側をお聞きできて、これからのお二人のポートレート作品が楽しみです!
※この記事は、オンラインイベントの内容を再構成しています。
コハラタケル
1984年、長崎県生まれ。フリーライター時代に写真撮影もはじめ、その後、フォトグラファーに転身。企業案件や家族写真を撮影するだけでなく、会員140名を越える月額制noteサークルの運営も行っている。SNSの総フォロワー数は12万人以上。
酒井貴弘
長野県生まれ。東京在住のフォトグラファー。ポートレートを得意とし、広告写真や企業案件、ポートレートなどの撮影案件から雑誌掲載、WEBメディアでの執筆、写真教室やプリセットのプロデュースなど幅広く活躍。SNSでは約2年間で総フォロワー10万人を超えるなど、SNSでの強みも持っている。