レンズフィルター10種を撮り比べ – ブラックミスト、色彩効果、手作りフィルターの特徴と使いこなし方

レンズフィルター10種を撮り比べ – ブラックミスト、色彩効果、手作りフィルターの特徴と使いこなし方

はじめまして、フォトグラファー&ライターの三谷飾屋(@kazariya330)です。

私的写真やスナップのような「二度とない一瞬」をとらえた写真に魅力を感じ、人物や都市風景などをジャンルレスに撮影しています。

その中で、私が光をコントロールするために使っているのがレンズフィルターです。光の強さや反射、色味などを調整でき、手軽に表現の幅を広げてくれるところに魅力を感じています。

 

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/撮影地:淀川河川公園
Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S
Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/撮影地:淀川河川公園
Z 5、NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S/撮影地:淀川河川公園
Z 5、(上・左下)NIKKOR Z 35mm f/1.8 S、(右下)NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S/(左・右下)撮影地:淀川河川公園

左上:ブラックミスト No.1、右上:ブラックミスト No.05、左下:ノスタルトーン・ブルー、右下:OPF 550-L

 

今回は、市販のソフトフィルターから身近な材料で手作りできるものまで合計10種のフィルターを撮り比べ、それぞれの特徴やどんな表現が可能かをお伝えしたいと思います。

 

ソフトフィルター「ブラックミスト」とは?

最初に紹介するのは「ブラックミスト」です。使ったことがなくても、名前を聞いたことのある方も多いのではないでしょうか。

ソフトフィルターの一種のブラックミストは、元々は映像用だったものを写真向けに製品化されたフィルターで、ハイライトとシャドー部のコントラストが抑えられ、やわらかい質感を表現できます。

 

Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S
Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S
Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

左:フィルターなし、右:フィルターあり

 

自然光が入る場所で使用してみると、フィルター効果によって、優しいベールに包まれたような印象に仕上がりました。

 

ブラックミストの特徴

このフィルターは以下の特徴があります。

  • 種類によってソフト効果の度合いが異なる
  • F値が小さく、焦点距離が長いほどソフト効果が大きい(ボケの関係と同様)
  • 一般的なソフトフィルターでは全体が白っぽくなるのに対し、ブラックミストは白くなりすぎず、暗い背景での撮影にも向いている

「ブラックミスト」の種類と持ち味を撮り比べ

「ブラックミスト」という名前のフィルターは、さまざまなメーカーから発売されています。その中で今回は、国内メーカーであるケンコーの「ブラックミスト No.1」と「ブラックミスト No.05」を紹介したいと思います。

 

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/撮影地:淀川河川公園
Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/撮影地:淀川河川公園
Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/撮影地:淀川河川公園
Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/撮影地:淀川河川公園

左:フィルターなし、中央:ブラックミスト No.05、右:ブラックミスト No.1

 

No.1はソフト効果が大きいフィルターで、No.05はNo.1の効果を半分に抑えたもの。同じシチュエーションで比較してみると、効果が大きいものほど光を拡散し、No.1(右)では被写体が光に包まれるような写真に仕上がりました。No.05(中央)では光が拡散しながらも、被写体の質感を残すことができ、背景と被写体がバランスよく描写されています。

この特徴を理解した上で、自分の表現に合ったフィルターを使うのがポイントです。

 

ここからは、さまざまなシーンでの描写やどんな表現に適しているのかを詳しく見ていきましょう。

「ブラックミスト No.1」エモーショナルな雰囲気を表現

レンズフィルター10種を撮り比べ – ブラックミスト、色彩効果、手作りフィルターの特徴と使いこなし方

 

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/撮影地:淀川河川公園

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/撮影地:淀川河川公園

 

光をより拡散する「ブラックミスト No.1」は、特に逆光時には温かく、エモーショナルな雰囲気を表現できます。

絞りこんでもソフト効果があり、ズームやマイクロレンズでもフィルターをつけるだけでソフト効果が得られるのが魅力的です。

 

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/撮影地:淀川河川公園

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/撮影地:淀川河川公園

 

上の写真は、夕暮れ時のノスタルジックな光景を切り取った1枚。強い斜陽を撮るときにブラックミスト No.1を使用すると、まぶしい光も拡散されてやわらかく描写できます。

 

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/撮影地:淀川河川公園

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/撮影地:淀川河川公園

 

この日は本当に光が強い1日でした。人が光の中に溶けこんでいくシーンは、温もりと同時にどこか寂しさも感じます。太陽と輝く葉に手を伸ばしてもらい、ブラックミストの特徴を生かすことで光で包むように撮影しました。

「ブラックミスト No.05」夜を映画のように切り取る

レンズフィルター10種を撮り比べ – ブラックミスト、色彩効果、手作りフィルターの特徴と使いこなし方

 

「ブラックミスト No.05」は、No.1のソフト効果を半分にすることで、光が拡散しすぎるのを抑えたフィルターです。

 

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S
Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S
Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S

左:ブラックミスト No.1、右:ブラックミスト No.05

 

No.1ではソフト効果が強すぎる場面や、色を残しつつ光をやわらかくしたいときなどで活躍し、特に強い逆光や夜景でシネマチックな世界観を写し出すことができます。

 

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S

 

No.05は、レンズにつけたままでも多くの場面で違和感のない写真を撮影できるため、スナップにも便利です。

 

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S

 

こちらも街を歩きながら撮影した1枚。「OPEN」のネオンが赤く輝き、かっこよかったです。光は拡散していますが、赤色はしっかり残っていますね。

色味表現にこだわれるレンズフィルター4種

先ほどは、光の拡散を調整できるフィルターでしたが、色味を調整できるフィルターもあります。後から編集をしなくても、撮影時点で理想の色味に近づけることができるかもしれません。

Akine Cocoさん監修の「ノスタルトーン」

ケンコー製の「ノスタルトーン」は、国内外で人気のフォトグラファー・Akine Cocoさんが監修しています。温かみのあるノスタルジックな情景を表現できるフィルター。「ブルー」と「オレンジ」の2種類あり、ガラス表面に施されたコーティングによって、ドラマチックなフレアやゴースト効果を写真に添えることができます。

 

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/撮影地:淀川河川公園
Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/撮影地:淀川河川公園
Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/撮影地:淀川河川公園
Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/撮影地:淀川河川公園

左:フィルターなし、中央:ノスタルトーン・ブルー、右:ノスタルトーン・オレンジ

 

比較してみると、特に空がブルーは寒色系、オレンジは暖色系に。そして、被写体を包む光の色にノスタルトーンの効果が強く作用しているように感じます。シャドー部に注目すると、ブルーは若干シャドーが持ち上がり、オレンジはシャドーが締まり、コントラストにも違いがあります。

「ノスタルトーン・ブルー」アニメのワンシーンを表現

レンズフィルター10種を撮り比べ – ブラックミスト、色彩効果、手作りフィルターの特徴と使いこなし方

 

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/撮影地:淀川河川公園

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/撮影地:淀川河川公園

 

全体的に青みがかった色味に仕上がる「ノスタルトーン・ブルー」は、空をより青く、太陽の光を少し暖色寄りに表現してくれて、まさに「アニメのワンシーン」のような写真を撮りたい方にぴったりです。

 

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/撮影地:淀川河川公園

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/撮影地:淀川河川公園

 

こちらはノスタルトーン・ブルーを装着してすぐに撮影した写真。フィルターをつけるだけで、空と光が郷愁を誘う色に変わり、グッと来たのを覚えています。

 

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/撮影地:淀川河川公園

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/撮影地:淀川河川公園

 

月と雲が印象的な1枚。月が鮮明に写し出され、光を受ける雲の影も美しく描写できています。編集で色相などを調整しなくても、フィルター効果だけでこの色を表現することができました。

「ノスタルトーン・オレンジ」まさにノスタルジックな世界観

レンズフィルター10種を撮り比べ – ブラックミスト、色彩効果、手作りフィルターの特徴と使いこなし方

 

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/撮影地:淀川河川公園

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/撮影地:淀川河川公園

 

全体的に暖かい色味になる「ノスタルトーン・オレンジ」は、少し抑えた光の拡散具合がちょうどよく、やわらかくなりすぎないところがノスタルトーン・ブルーとの違い。日中に撮影しても夕暮れのような光を感じさせ、ノスタルジックな表現を叶えてくれます。光を魅力的に表現してくれるフィルターですが、影の魅力も引き出し、シックで少し重厚感のある描写に仕上がるのも特徴的です。

 

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S

 

空が見せる印象は、ブルーとオレンジで大きく変わります。ブルーは雲に当たる暖色がより強く表現されていましたが、オレンジでは白を残しつつ、空の青の輝きを少し抑えてくれているように感じます。

 

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/撮影地:淀川河川公園

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/撮影地:淀川河川公園

 

長い髪に透ける光が、フィルター効果で赤みを帯びてドラマチックに。夕暮れの真っ赤な空をそのまま撮ると白とびしてしまうこともありますが、ノスタルトーン・オレンジで「透ける光」を撮影することで、空の赤さを想像させることができます。

光の色を強調できる「OPTICAL PRESET FILTER」

70年以上レンズフィルターを製造しているTOKYO GRAPHERの「OPF(OPTICAL PRESET FILTER)」は、高性能レンズのシャープな描写を保ちつつ、光の波長ごとにラインアップがあり、それぞれの色を引き出してくれます。

 

Z 5、NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S
Z 5、NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S
Z 5、NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S
Z 5、NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S

左:フィルターなし、中央:OPF 550-L、右:OPF 650-L

 

今回は、550nmの波長(緑)をターゲットにした「OPF 550-L」と650nm(赤)の波長をターゲットにした「OPF 650-L」をピックアップしました。比較してみると、OPF 550-L(中央)は緑がより濃く・白にやや青みが足され、OPF 650-L(右)は赤みが強調され・全体が暖色寄りになっているのがわかります。

「OPF 550-L」緑や青が際立つ

レンズフィルター10種を撮り比べ – ブラックミスト、色彩効果、手作りフィルターの特徴と使いこなし方

 

Z 5、NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S

Z 5、NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S

 

「OPF 550-L」は緑や青を鮮やかに写し出すのが特徴です。夜景との相性がよく、シネマチックな描写に魅力を感じます。

空のグラデーションがなめらかな上の写真では、シャドー部に青みが加わることで、全体が重たくなりすぎない印象に仕上がりました。

 

Z 5、NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S

Z 5、NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S

 

コンクリートにおおわれて色が少ない環境であっても、フィルター効果でシャドー部に青が、街灯に照らされたハイライト部に緑が少し乗っているように感じます。

 

Z 5、NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S

Z 5、NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S

 

夕暮れ時の空も、緑や青が乗ることでより赤みが際立ちます。手前の公園の街灯が優しくふんわりと浮かび上がり、子供の頃に時間ギリギリまで遊んだ「帰り道の記憶」がよみがえりました。

「OPF 650-L」自然な暖色と優しい光の拡散

レンズフィルター10種を撮り比べ – ブラックミスト、色彩効果、手作りフィルターの特徴と使いこなし方

 

Z 5、NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S

Z 5、NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S

 

赤や黄色を鮮やかに写し出す「OPF 650-L」は、ほのかで自然な暖色と優しい光の拡散が特徴的なフィルターで、フィルムのような描写になります。個人的には最も汎用性があると感じていて、光源にとらわれず装着したまま、スナップ撮影など日常的に使いたいと思いました。

 

Z 5、NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S

Z 5、NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S

 

OPF 650-Lの使いやすさを感じられる1枚がこちら。猫ってかわいいですよね。ちょうど飼い主の方が近くにいらっしゃったので、お声がけして撮らせてもらいました。フィルター効果も相まって全体的に暖色寄りで、くすみ系に統一されています。猫のふさふさ感も残っていて、いい意味でくせが強くないのが気に入っています。

 

Z 5、NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S

Z 5、NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S

 

植物がうっそうと生えているお家を発見。右側に光が当たり、左側は影になっていますが、コントラストが抑えられ、全体的にマットな質感に統一されているように感じます。光と影を感じつつもディテールは残されている、絶妙なバランスです。

 

オールドレンズ×フィルターによる表現の可能性

不確かな描写が魅力のオールドレンズ。フレアやゴーストが発生したり、レンズが変色して色かぶりがあったり。くせのあるレンズもあり、フィルター同様に独自の世界観を表現できるものですが、そのオールドレンズにさらにフィルターを組み合わせました。
※本記事では、フィルムカメラ用に作られたマニュアルフォーカスのレンズをオールドレンズと呼んでいます。

 

レンズフィルター10種を撮り比べ – ブラックミスト、色彩効果、手作りフィルターの特徴と使いこなし方

 

合わせたのは「ブラックミスト No.05」と「ノスタルトーン・オレンジ」(フィルターって、径が同じだと重ねづけできるんです)。「オールドレンズらしい光の拡散を強めること」と「暖色寄りにして黄変したオールドレンズ感を再現すること」を狙ってみました。

 

Z 5、AI Nikkor 50mm f/1.4S
Z 5、AI Nikkor 50mm f/1.4S
Z 5、AI Nikkor 50mm f/1.4S

左:フィルターなし、右:フィルターあり

 

今回使用したオールドレンズ「AI Nikkor 50mm f/1.4S」は、色を忠実にとらえてピント面もきれいですが、強い逆光時は青い色収差が目立ちました。フィルターをつけた写真を見ると、光は拡散されて色収差は見られなくなり、光がふんわりと表現されています。

 

Z 5、AI Nikkor 50mm f/1.4S

Z 5、AI Nikkor 50mm f/1.4S

 

こちらの写真では、ブラックミスト No.05の効果によって後ろから当たる光が拡散され、肌もやわらかく描写できました。

 

Z 5、AI Nikkor 50mm f/1.4S

Z 5、AI Nikkor 50mm f/1.4S

 

水面で反射する光のきらめきが増して、爽やかで温かい空気感を切り取った1枚。ノスタルトーン・オレンジの効果で、ノスタルジックな色合いに仕上げることができました。

オールドレンズとフィルターを組み合わせることで、よりフィルムライクな写真が楽しめます。AI Nikkor 50mm f/1.4Sはくせの少ないレンズでしたが、オールドレンズ次第ではさらにおもしろい描写も期待できます。

身近な材料でできる手作りフィルター4種

フィルターは市販されているものだけでなく、身近な材料で手作りもできます。アイデア次第で表現の幅が広がり、予想もしない描写に出会えるのも魅力です。

 

Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S
Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S
Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

左:食品用ラップフィルム、右:サングラス

「ワセリン」味のあるにじみが生まれる

レンズフィルター10種を撮り比べ – ブラックミスト、色彩効果、手作りフィルターの特徴と使いこなし方

 

ワセリンはソフトフィルターのように光を拡散しますが、塗り方により描写にムラが生まれるのが特徴です。

 

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S
Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S
Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S

左:フィルターなし、右:フィルターあり

 

作り方は、保護フィルターにワセリンを塗るだけ。塗りすぎるとピントが合わなくなるので注意しましょう。全体的に薄めに塗り、真ん中だけ拭き取ると、中央のピントは合いつつも周辺をにじませて遊ぶことができます。

 

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S
Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S
Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S

 

光が透けてきれいな青モミジ。左の写真では、ワセリンによって葉にかかる光がぼやけ、きらめきと揺らぎが合わさったような不思議な描写になりました。右の写真では、思い切って青モミジにフォーカス。葉脈が見えるのでディテールがつぶれてはいないようです。後ろの玉ボケが揺らぎ、オールドレンズのような仕上がりになりました。

 

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S

 

京都を歩いていると人力車が走る場面に遭遇することもしばしば。光が差しこみ、「記憶の断片」のような写真を撮ることができました。

「食品用ラップフィルム」予測不能の光の変化

レンズフィルター10種を撮り比べ – ブラックミスト、色彩効果、手作りフィルターの特徴と使いこなし方

 

食品用ラップフィルムをレンズにかぶせると、シワにより光が拡散します。ただし予測不能、かつ再現不能。暴れ馬な描写ですが、ハマったときの楽しさは格別です。

 

Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S
Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S
Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

左:フィルターなし、右:フィルターあり

 

作り方は、クシャクシャにしたラップを少し開いてレンズにかぶせるだけ。シワに合わせて光が乱反射します。カバンにラップを常備しておけば思いついたタイミングで使える手軽さも魅力です。

デメリットを強いて言うと、街中でラップをレンズにかけるのが恥ずかしいこと(笑)。それさえ乗り越えられれば、独特な写りを楽しむことができます。

 

Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

 

オススメは夜のネオンや都会の光。ラップのシワに呼応するように光が四方八方に伸びたり、玉っぽい光が浮かんだり。狙って撮るのは難しいですが、「奇跡の1枚」的な遊びができます。

 

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S

 

普段何気なく通る夜道も、ラップにより幻想的な光で表現できます。一度この手法で撮影すると、その再現性の低さやランダムな写りの虜になってしまうことでしょう。

「サングラス」セピア調の世界を表現

レンズフィルター10種を撮り比べ – ブラックミスト、色彩効果、手作りフィルターの特徴と使いこなし方

 

サングラスをレンズにかぶせることで、カラーフィルターのように写真の風合いがガラッと変わります。光の抑え具合や色など、自分がサングラスをかけたときの視界をそのまま表現できるのはおもしろいですよね。

 

Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S
Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S
Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

左:フィルターなし、右:フィルターあり

 

今回は暖色系のサングラスを使いました。現像でシャドーを上げると、セピア調でマットな写真へと仕上げることができます。海外風スナップのような写真が撮りたいときに、試してみてはいかがでしょうか。ただ、常に片手でカメラ、片手でサングラスとなるため、扱いの難しさはあります。

 

Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

 

ビルや空、黄色い標識がくすみ、見慣れている色の強い世界が少し褪せた印象に。サングラスなので光が強い場面に当てて見ると、その効果をより実感できるはずです。

 

Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

 

サングラスをレンズにかぶせたまま歩くのは難しいので、場所を決めて止まって撮るのが合っていると思います。上の写真では、光と影が印象的な場所を見つけ、車が通るのをじっと待機。赤い車が通った瞬間にシャッターを切り、全体が暖色で統一された1枚を切り取ることができました。

「セロハンテープ」オールドレンズのような描写に

レンズフィルター10種を撮り比べ – ブラックミスト、色彩効果、手作りフィルターの特徴と使いこなし方

 

手作りフィルターの中でいちばんテンションが上がったのがセロハンテープです。保護フィルター越しにレンズをおおうように貼るだけで、後片づけも楽。テープが光を拡散してオールドレンズのような風合いをつくり出し、現像で色を調整して粒子を足すと、フィルムライクな写真に仕上げることができます。

 

Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S
Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S
Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

左:フィルターなし、右:フィルターあり

 

テープ同士が多少重なっていても問題ないので、レンズ面をしっかりおおうようにテープを貼っていくのがポイント。セロハンテープフィルターは、室内で優しい光の写真を撮影したいときに最適です。

 

Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S
Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S
Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

 

朝食のワンシーンの中に、朝の爽やかさと気怠さのようなものを表現したくて、セロハンテープを活用しました。顔を照らす光がやわらかく、「寝起きの視界のにじみ」のような印象を与えてくれます。

 

Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

Z 5、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

 

半逆光でも撮影してみました。テーブルや食器を照らす弱い光もにじんできれいです。朝日が昇り切る前、少し薄暗い部屋の生活感が演出されたように思います。

Photographer's Note

10種のフィルターを紹介しましたが、好きな表現のものはあったでしょうか?

今回紹介したフィルターは、どれも特色があってそれぞれに最適なシーンがありました。その中でも私が特に気に入ったのが「TOKYO GRAPHER OPF 650-L」です。

 

Z 5、NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S/OPF 650-L

Z 5、NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S/OPF 650-L

 

派手さはないものの、ほどよいコントラストの調和と色のバランスがよく、スナップでもポートレートでも使いやすいフィルターでした。

 

現像ソフトは年々進化していますが、光を100%コントロールすることはできません。データの品質がよくなければ、現像だけではまかなえない領域があります。後工程ではどうしようもない「光をコントロールする」という点において、フィルターはとても有効なツールだと考えています。

フィルターの特徴を生かして撮影することで、よりオリジナリティが生まれて愛着が増し、理想の作品へと近づけられる。私には欠かせない相棒です。

 

Nikon機材を使ってみて

今回、フルサイズミラーレスの Z 5を使って撮影しましたが、グリップに安心感を覚えました。親指側の「反り」の高さもちょうどよく、右手に優しいカメラという印象。Nikonのプロダクトデザインへのこだわりを感じました。また、2000万画素台ですが、今回紹介したフィルターの淡さやにじみなどの表現にマッチしています。

 

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/ノスタルトーン・オレンジ/撮影地:淀川河川公園

Z 5、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S/ノスタルトーン・オレンジ/撮影地:淀川河川公園

 

見たままに近い色で撮影したため、フィルターによる色効果をダイレクトに感じることができたのですが、色再現が忠実なNikonだからこそフィルターがつくり出す世界観をそのまま描写してくれたのだと思います。

 

各種フィルターの特徴まとめ

  1. ブラックミスト No.1:光を拡散し、ベールをかけたようなやわらかい質感に
  2. ブラックミスト No.05:光の色を残しつつ拡散し、夜景などをシネマチックに写し出す
  3. ノスタルトーン・ブルー:全体的に青みがかり、アニメのワンシーンのような表現に
  4. ノスタルトーン・オレンジ:暖かい色味で、ノスタルジックな世界観に
  5. OPF 550-L:緑や青を強調し、夜景との相性がいい
  6. OPF 650-L:自然な暖色と優しい光の拡散でどんなシーンにも使える
  7. ワセリン:ソフト効果が得られ、塗り方で光の拡散具合が変化
  8. 食品用ラップフィルム:シワにより予測不能な光の拡散や反射を生み出す
  9. サングラス:カラーフィルターのように色づき、強い光を抑えた落ち着いた描写に
  10. セロハンテープ:オールドレンズのような優しい質感描写

 

 

Model:白川うみ(@umi_photo1)、ERi(@erinichan7
Supported by L&MARK

 

 

※ Z シリーズカメラでNIKKOR Fレンズをご使用になる場合は、マウントアダプターFTZやFTZ IIを装着する必要があります。
※フィルター径とレンズ径が異なる場合は、ステップアップリングで合わせる必要があります。

三谷飾屋

三谷飾屋

関西在住のフォトグラファー/ライター。祖父から譲り受けた1953年製のオールドレンズで撮影した写真を「from1953」と題してSNSなどで発信。人体の美しさを切り取った作品「生命線」を展示や写真集で発表するなど精力的に活動している。