はじめまして、フォトグラファーの北村佑介(@KEY8969)です。花がとても好きで、その魅力を表現した「ドリーミーフォト」の撮影を続けています。
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— 北村 佑介 ~花の写真~ (@KEY8969) 2021年5月13日
ドリーミーフォトとは
前景と背景が溶け合うような大きくなめらかなボケで主役の花を包み、そのやさしさや美しさ、力強さがシンプルに伝わるように表現した写真を「ドリーミーフォト」と呼んでいます。
ドリーミーフォトは、花のかわいらしさを伝えるために、中望遠単焦点レンズで前後を大きくぼかしながら画面の中に主役を小さく写すのが基本のスタイルです。
今回はマイクロレンズNIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR Sで、中望遠を生かした撮り方に加えて、小さい花の形や色をクローズアップして魅力を表現するコツをお伝えします。
マイクロレンズだからこそ撮れる、ドリーミーな花の世界をお楽しみください!
マイクロレンズで撮るドリーミーフォトの6つのポイント
ドリーミーフォトで重要なのは、花の魅力をシンプルに伝えること。そのためには、以下の6つのポイントが大切です。
- 機材:中望遠マイクロレンズで撮る
- 被写体:主役を見つける
- 背景:個性的な色を入れる
- 画づくり:花のかわいらしさを伝える
- 光:逆光で撮る
- 編集:明るくやわらかに
【機材】中望遠マイクロレンズで魅力を引き出す
マイクロレンズは、花にぐっと寄って細部の形や色のグラデーションを表現できます。中でも中望遠は、花畑など近寄れない場所に咲く花の肉眼では見えないかわいさも写し出せるため、ドリーミーフォトの表現にぴったりです。マイクロレンズは中望遠単焦点レンズよりも最短撮影距離が短く、これまで小さすぎて思い通りに撮れなかった花をイメージ通りに写せるのも大きなメリットだと思います。
小さい花が集まっているアジサイは、クローズアップ撮影にオススメです。
上の写真は、アジサイのしべを主役にして撮影しました。前後の花びらをにじむようにぼかすことで、かわいらしいしべの形を際立たせています。
実はこのアジサイは全体的に枯れ気味で、引いて撮ると全く違う印象に。一部分だけを切り取って美しさを表現できるのもマイクロレンズの魅力です。
手持ち&AFで気軽にクローズアップ撮影
クローズアップも手軽さを重視して手持ちで撮影するのですが、NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR Sは手ブレが気にならず画づくりに専念できました。また、寄って撮るときはMFが基本ですが、このレンズはAFの精度がかなりよく、しべなどの細かい部分にピントが合って驚きました。
また、カメラはフルサイズで、可動式液晶モニターがついているものを選びます。
フルサイズは解像度が高く精細に描写でき、編集においても表現の幅が広がります。上の写真のように、花の高さまで目線を下げた撮影が多いので、可動式液晶モニターもとても重要です。
【被写体】前後のボケで主役を包み際立たせる
ドリーミーフォトの基本は、F値を開放にして主役の前後をやわらかいボケで包み、主役の花の形や佇まいの魅力を際立たせることです。
左:F8、右:開放(F3.2)
※開放F値は撮影距離∞でF2.8~、最短撮影距離でF4.5と近づくほどに大きくなります。
草むらの中に咲いていた小さな花。左のように絞ると草の形が少し残るためそちらにも目がいきますが、右のように開放で撮るとまわりがきれいにボケて、主役の花だけに目がいく写真になりました。
たくさん咲いている場所では、以下のことを意識して主役にする花を決めます。
- 形がよく色がきれいな花:私が花に惹かれる大きな理由の一つが形の美しさ。“その花らしい”形や色をした1輪を主役に選ぶようにしています。
- 横のラインに他の花がない:ピントが合う範囲に複数の花が咲いていると主役がわかりにくいので、他の花が横に並んでいないことも重要です。その点、マイクロレンズなら被写体に寄ることができるため要素の整理がしやすく、まわりにたくさん咲いている状況でも主役を際立たせることができます。
シロツメクサが数十本咲いているエリアで撮影した1枚です。花の形や並びを観察し、このときは横に他の花がなるべくないことを最優先にして主役を決めて、AFでピントを合わせました。
緑や白のやわらかなボケの中で1輪だけがポツンと際立ち、かわいらしさと小さな花びらの繊細さを表現できたと思います。
【背景】色で花を個性的に演出する
何をぼかして背景にするかも、主役を魅力的に演出する上で大切です。
花の咲く場所は自然の中が大半なので、背景が緑に偏りがちです。緑でももちろんいいのですが、意識的に他の花の色などが入るようにすると、主役を個性的に写すことができます。そのとき、主役よりも濃い色や同じ色が背景にならないように気をつけましょう。
例えば、左のようなロケーションでは、薄いピンク色の花が密集している場所を背景にして、手前の濃いピンク色の花を主役にします。引いて撮ると背景に木の影や緑が多く入り、ピンク色の存在感が薄れてしまうためクローズアップして撮影しました。しべと花びらのどちらも見せるため、両方がバランスよく写る位置にピントを決めて、花びらのしなやかさとしべの繊細さを表現しています。
他の花がなく木などの緑だけが背景の場所でも、グラデーションを意識すると単調な印象がなくなります。主役となるべく離れていて、明暗差や色の濃淡がある部分を背景に選ぶと、大きくボケてきれいなグラデーションになるので試してみてください。
【画づくり】小さく写してかわいらしさを伝える
ドリーミーフォトは、花のかわいらしさを伝えるために、主役を小さめに写すことが多いです。クローズアップする場合も、しべなどを主役にしてポツンと際立つように撮影します。
構図法はほとんど気にせず、端っこは窮屈そうなので真ん中寄りに、生き生きと見えるように花の向きに空間をあけることを意識します。
上の写真は、ベンチの隙間からひょっこりと顔を出したタンポポ。雨上がりでベンチが濡れていたので、少しアングルを下げて映りこみも生かして撮影しました。
「何でそこに咲いちゃってるの?」というシチュエーションが好きで、見つけると必ず撮ります。花を引きで小さく写すのは、シチュエーションのおもしろさを生かすのにも効果的です。
【光】夕方の逆光で美しさを際立たせる
朝から夕方まで時間帯は気にせず撮影しますが、光の向きは花びらが透過してより美しく見える「逆光」がドリーミーフォトに合っていると感じます。このレンズは、強い逆光+開放付近で撮影してもフレアが気にならず、色やコントラストのメリハリがついて、イメージ通りに写すことができました。
特にオススメなのが夕方の逆光です。強い光がシロツメクサの輪郭を浮かび上がらせ、美しさが際立ちました。マイクロレンズで寄ると、光が当たった部分をピンポイントで切り取れるため、やわらかくやさしい世界観を表現できます。
また、このように花びらが閉じている花は、横から撮っても形の魅力が伝わりやすく、光の当たり方を優先して画づくりできるので、初心者の方にオススメです。逆に花びらが開いている花は、横から撮ると形のよさがわかりづらくなるので、なるべく花の正面や後ろから撮るようにします。
せっかく夕方の逆光がきれいなのに、撮りたい花が見つからない…。そんなときは、葉に映るシルエットにも注目してみましょう。
上の写真は、アジサイの花が咲いていない部分に葉が重なる位置でカメラを構えて、シルエットにピントを合わせました。奥にある花の色を生かしつつ、形の美しさも印象的に描けたと思います。
【編集】花の色を大切に明るくやわらかく仕上げる
ドリーミーフォトには編集の工程も重要です。編集ソフトはLightroom Classicを使用しています。
編集前
道端の花の写真を例に、主な編集工程を紹介します。花は色がとても大切なので、白とびするところが出ないように気をつけながら、全体的に明るくやわらかいトーンに仕上げるのがポイントです。
1.白とびしないように少し暗めに撮っているので、まずは露光量を上げて全体を明るくします。特に花が白とびしないように、明るい部分に注意を払いながら少しずつ調整しましょう。
2.コントラストとハイライトを少し下げて、トーンカーブでダークとシャドウを少し上げ、メリハリをつけつつやわらかいトーンにします。
Lightroom調整画面
3.まわりに緑が多い環境では緑かぶりしやすいので、カラーミキサーで花の色味を調整して本来の色を引き出します。この作例も緑かぶり気味なので、カラーミキサーでオレンジとイエローの色相をマイナスにして、実際のきれいなオレンジ色に近づくようにしました。
左:編集前、右:編集後
最後にグリーンの色味をやわらかくし、ハイライトにイエローを足すなどの微調整をします。ありふれた場所での撮影でしたが、日差しを受けて生き生きと咲くイメージを引き出すことができました。
Photographer's Note
遠方の花畑や名所に行かなくても、身近に花が1輪でも咲いていれば、いろいろなストーリーを生み出せるのがマイクロレンズのよさです。特に、アジサイのしべを主役にして撮ったときは、新しい世界をのぞいたような気がしてとても楽しかったです!
今回使用したNIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR Sは、すぐれた手ブレ補正機構とAF性能で、気軽にクローズアップ撮影ができました。さらにフルサイズのZ 6IIとの組み合わせで、綿毛のように繊細な被写体も高画質に描写してくれます。上のようにピント部分を切り出すと、解像度の高さがよくわかりますね。
これからの季節は、夏を代表するラベンダーやヒマワリはもちろんのこと、「森の妖精」と呼ばれるレンゲショウマもオススメです。咲いている場所は限られますが、夏の花では珍しく、小さくてかわいらしいので見つけたらぜひ撮ってみてください!
Supported by L&MARK
北村佑介
花の魅力を大切に表現した「ドリーミーフォト」を撮影するフォトグラファー。写真教室を中心に、記事寄稿・写真提供など全国で活動している。著書「花をながめて大切なことに気づく100の言葉」