みなさん、はじめまして。saizou(@saizou4)と申します。
私は、2012年にはじめての一眼レフ「D5100」を購入してから、本格的に写真を撮るようになりました。今では Z シリーズを愛用しています。
撮る被写体は、主に風景や自分の興味のあるものを撮影していて、特に北アルプスを中心に四季の移り変わりを楽しんでいます。
風景の中でも「星空」はよく撮る被写体の一つです。
はじめて星空を撮ったのは9年前。満天の星空の下、目では見ることのできない世界を、カメラを通して表現できることに感動しました。今でも仕事終わりに行くほど、よく撮影しています。
今回は、はじめての方向けに星空写真の中でも地上風景を絡めた「星景」撮影の基本ポイントを解説、さらにオススメの美しい星景スポットを紹介したいと思います。
星空撮影の基本の5ポイント
星空の写真には、代表的なものとして「天の川」や「スタートレイル(日周運動)」をとらえたものがあります。
左:天の川、右:スタートレイル(日周運動)
今回紹介するのは、はじめての方でも撮りやすい「天の川」について。もちろん、天の川以外の星空撮影にも共通しています。
【場所や天気】星がはっきり見える条件を知る
- 場所:高台や海・湖など開けた、街の光の影響が少ない場所を選びます。街明かりなどが障害となり悪影響を及ぼすことは「光害」と呼ばれていますが、光害が少ない場所ほど撮りやすくなります。
※場所ごとの光害の程度は、「Light pollution map」から確認できます。
なお、山奥は野生動物もいるため整備されていない場所には行かないように、危ない場所や人気のない場所は避け、安全に注意して楽しんでください。 - 天気:雲が極力少ない晴れの日を狙います。
- 月の状態:月の光が強いと星が見えにくくなるため、月の満ち欠けや出入り時刻を事前に確認しましょう。月が出ていても、新月の前後2~3日は影響が少なく撮影しやすいです。また、満ち欠けによらず、月が沈んでしまえば十分撮影可能で、12時以降など時間が遅くなるほど街明かりが少なく好条件になります。
※月の満ち欠けや出入り時刻は、アプリ「Ephemeris」や「シンプル月齢カレンダー」で確認しています。
- 星の位置と撮影開始時間:天の川の方向はスマホアプリで確認(「Sky Guide」というアプリを使っています)。夜の撮影はセッティングに時間がかかるため、星がしっかり見える2時間前には到着するようにして、アプリで事前に位置をチェックするようにしています。
星空撮影は防寒も忘れずに!
夜は想像以上に冷えこみ、長時間の撮影になるためかなり寒いです。場所によりますが、春〜GWくらいまでは真冬と同様の防寒具を準備していきます。なお、トイレがないところも多いので、水分のとりすぎも要注意です。
【機材】レンズは14~24mmの焦点距離域が最適
- カメラ:高解像のフルサイズで、高感度性能がよいもの 。最高常用感度ISO51200の Z 6IIを使用しました。
左:20mm、右:14mm
- レンズ:14~24mmの焦点距離域が適しています。特に20mmが地上風景とのバランスがよく、そこを中心に星や場所に応じて焦点距離を調整するといいでしょう。今回はNIKKOR Z 20mm f/1.8 Sをメインに、NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 Sと2本で撮影に臨みました。
- 三脚:長時間露出をするために必須です。ブレないよう、剛性が強くがっしりと動かないものが理想で、私はジッツオの「GT5562GTS」を愛用しています。山などで可搬性を重視したい場合は、しっかりしつつもコンパクトなRRS「TFC-14 Mk2」を持っていきます。
- レリーズ:指でシャッターボタンを押すと振動でブレてしまうため、遠隔でシャッターを切ります。レリーズがなくても、スマホに「SnapBridge」をインストールすればリモート撮影ができて便利です。
- ヘッドライト:真っ暗な中での機材セッティングにはライトが必要ですが、頭に装着できれば両手を使えます。なお、白色の光は瞳孔が開き目に負担がかかる可能性があるため、赤色灯がついたライトがオススメです。
【設定】露出を確保しながら星をクリアに写す
夜の撮影では【F値を小さく・ISO感度を高く・シャッタースピードを遅く】するほど明るく写せますが、星が流れてブレてしまったり、ノイズが発生してしまったりと、失敗しやすいので以下を目安に設定していきましょう。
- 露出モード:マニュアル。
- F値:レンズによりますが、F2~F2.8は安心して使えます。小さいほど明るく写りますが、開放にするとにじみのような収差が発生する場合があり、多少絞るようにしています。なお、今回使用したNIKKOR Z 20mm f/1.8 Sはにじみが少なく、開放からでも十分使えました。
- ISO感度:ISO2400~3600を目安に、ノイズが発生しないよう極力低く。なお、「長秒時ノイズ低減」というカメラ内でノイズを低減する機能もありますが、ONにすると撮影~記録までに倍の時間がかかってしまいます。OFFにして、気になる場合は後から編集ソフトでノイズ低減処理を施すのがオススメです。
- シャッタースピード:遅くするほど星が流れますが、20秒までは許容範囲だと考えています。
- ホワイトバランス:オートにすると撮影のたびに色味が変わってしまうため、固定します(私は「晴天」に固定)。RAW現像時に改めて好きな色味に変更するので、撮影時は何かに固定されていれば大丈夫です。
設定:F1.8・20秒・ISO3200
上の写真は20秒で撮影したものですが、これくらいの広さであれば星の流れはほとんど気になりません。
なお、星空撮影では「500ルール」と呼ばれている、露出時間を決める目安があります。「500÷焦点距離(35mm判換算)=上限露出時間(秒)」という計算式で、20mmなら約25秒、14mmなら約35秒に。あくまで目安ですが、設定値を決めるためのとっかかりとしては有効です。
【ピント】MF+拡大表示で明るい星に合わせる
星撮影で特に失敗が多いのが、「ピント合わせ」です。星にピントを合わせたいとき、無限遠にすればいいわけではありません。MFにしてモニターで拡大表示で合わせこむのですが、「特に明るい星」を目印にします。
星にピントを合わせる方法
①フォーカスをMFに設定し、ライブビューにする。
②星空の中から特に明るい星を探し、それを目安にする。
左:ピントが合っていない状態、右:ピントが合った状態
③ライブビューで拡大してピントリングを回し、右の画面のように明るい星の輪郭が一番小さくなるピント位置にする。
④撮影後に拡大して、ピントが合っているか確認。
なお、撮影中にカメラや三脚を触ったり、ピントリングやズームリングを触ってしまいブレる…という失敗がよくあります。撮影がはじまったら気になっても触らないようにしましょう。また、撮影はリモートでシャッターを切るため、不要な補正がかからないよう「手ブレ補正」はOFFにすることを忘れずに!
【構図】星空が際立つように地上の比率を考える
星空のみを写してももちろんきれいですが、地上を絡めることで、より印象深い星景写真になります。私自身、星空を撮るときは、地上風景に何を入れたいかで場所を決めるくらいです。
天の川は時期や時間で位置や角度が変わりますが、構図はまず空2:地上1から当てはめてみると調整しやすいと思います。
上の写真は春に撮ったものですが、この時期は低い位置に横たわるように伸びるため、空2:地上1がバランスよくはまりました。
7月に撮影したこちらの写真では、天の川と山を絡めました。天の川が高い位置で角度もあったため、星空のバランスを考えて地上の割合を減らし、左側には山がくるようにしています。
星空写真をよりクリアに仕上げるコツ
先ほど紹介した方法では、完全に星のブレをなくせるわけではありません。そこで、星空写真をより美しく描写するためのアイテムや編集について紹介します。
あると便利…星を流さずに撮るための「赤道儀」
「赤道儀」は日周運動と同じ速度で回転する機構を持った機材のことで、長時間露出撮影をしても星がブレません。友人が使用して撮影していたのを見たとき、星が点で止まり天の川のクオリティがまったく違い、とても感動したのを覚えています。
左:赤道儀なし、右:赤道儀あり(露出時間:左右とも120秒)
上の写真は、赤道儀なし/ありで120秒の長時間露出撮影をして、一部を拡大したものです。赤道儀がないと露出時間が長くなるほど星が流れてブレてしまうのですが、赤道儀を使うと同じ時間でもしっかり止まって写せます。
なお、赤道儀の注意点は、星が止まる分、地上がブレること。赤道儀を使って地上まで写す場合は、地上をぶらさずに撮った別の写真とPhotoshopなどで合成して、星と地上それぞれブレのない星景写真に仕上げます。
編集はコントラストを高めて星の輝きを強調
星空写真の編集では、コントラストを高くすることで星々の輝きを強め、天の川をあぶり出すのがポイントです。
※編集はLightroomを使用。
編集前
「Lightroom」編集画面
- コントラスト:今回の写真は撮影時点できれいに星が出ていたので、基本補正でコントラストを調整しました。星のみを編集する場合など、強めに調整したい場合はトーンカーブを使用します。
- ホワイトバランス:一般的に夜空はグレーですが、好きな色に調整していいと考えています。私は少し紫がかった色が好きなので、寒色寄りです。
- 明るさ:撮影時点で適正になるようにしていますが、星が際立つように微調整します。
- ノイズ軽減:ノイズが気になる場合、Lightroomとは別で、有料ですがノイズ軽減のかかり方が自然なソフト「NIK Collection」を使用しています。写真の使用用途によりますが、気にならなければそのままで問題ありません。
左:編集前、右:編集後
こちらが編集前後の写真で、右の編集後は星の輝きが際立ちました。ノイズはかなり少なかったため、ほとんど後処理はしていません。
撮影にオススメな星景スポット5選
ここからは、今まで撮影してきた中で、特に美しい星景スポットを紹介します。日中の風景とは表情が一変し、夜だけの絶景に出会えます。
なお、星景スポットは街明かりが届かない暗い場所が多いため、必ずライトを持っていきましょう。
※以降の写真は、赤道儀を使って星空を撮影し、別撮りの地上風景と合成したものが主になります。
【鳥取】名峰「大山」との雄大な星景
設定:24mm・F1.8・15秒・ISO2500(空と地上を合成)
鳥取県は光害が少なくどの市町村からも天の川が見え、「星取県」と呼ばれています。その中でも大山付近は空を隔てるものがなく、大山の雄大な姿と星空を眺めることができるスポット。春は天の川、冬はオリオン座などが撮影できます。
〈POINT〉
- 場所:植田正治写真美術館付近は、目の前に遮るものがなく大山を狙いやすい場所。開けていて三脚も立てやすく、はじめての方でも撮りやすいです。なお、アクセスは車で、美術館の駐車場を利用します。美術館は17時が閉館時間ですが、一般の方が夜に駐車場を利用するのは問題ありません。マナーを守って利用してください。
- 撮影:広角すぎると山が小さくなってしまうため、大山の存在感を生かすために24mmを選択。天の川と大山のバランスを見て空:地上の割合を決めます。
- 編集:大山の立体感を出すためにコントラストを上げています。
設定:24mm・F4・120秒・ISO2500(空と地上を合成)
大山は、冠雪すると富士山のようにフォトジェニックです。
なお、上の写真の撮影時点では大山と天の川の方向が違っていたので、別撮りで合成しています。
【和歌山】「立巌岩」から垂直に立ち昇る天の川
設定:19mm・F4・120秒・ISO2500(空と地上を合成)
水面からそそり立つ巨大な岩と、垂直に立ち昇る天の川が撮影できる場所です。上の写真は5月に撮影したものですが、6〜7月頃が垂直に立つ天の川が撮りやすいと思います。
〈POINT〉
- 場所:岩手前の道路の路側帯で三脚を立てて撮影します。ガードレールは背が低いため、目の前に遮るものがなく立巌岩がよく見えます。夜間の車の通行は少ないですが、注意は必要。海沿いなので、落とし物にも気をつけましょう。なお、アクセスは車で、近くに数台駐車できるスペースがあります。
- 撮影:岩をしっかり入れながら、縦に伸びる天の川を広く写すため焦点距離は19mmに。奥の輝きは偶然いた漁船なのですが、それを生かすように構図を調整しました。
【兵庫】空を映す水田「別宮の棚田」
設定:16mm・F4・60秒・ISO2500(空と地上を合成)
天の川と棚田を撮影できるスポットです。特に5月頃には水が張られた棚田が水鏡となり、非常に美しいです。
〈POINT〉
- 場所:棚田の上部にある但馬アルペンロードの路側帯で撮影します。路側帯は広いため、三脚を立てやすいです。ただし、害獣よけの電気柵があるので接触しないように注意を。高さもあるため、三脚も高く調整できるものが必要です。アクセスは車で、近くにある駐車スペースを利用します。
- 撮影:天の川と棚田をしっかり画角に入れるには、16mmと超広角にします。空の下側は黄色になっていますが、これは光害です。それにより濃紺とのグラデーションになりました。
【富山】テント明かりと星空のコラボ「雷鳥沢キャンプ場」
設定:24mm・F4・20秒・ISO2500(空と地上を合成)
剱岳登山や立山縦走などを目指す登山者の拠点になっている他、室堂周辺を散策する家族キャンプとしても利用されています。特に8月は登山シーズンのピークで、色とりどりのテントが夜には照らされ、絶好の撮影スポット。山の星空は美しく、非日常感もあり新鮮です。
〈POINT〉
- 場所:キャンプ場内であればどこからでも撮影できます。ライトは必須ですが、次の日に備えて就寝している登山者も多いので、ライトでテントを照らさない、大きな音をたてないなどのマナーのある行動が必要です。アクセスは、立山黒部アルペンルート室堂ターミナルから徒歩約45分かかりますが、キャンプ慣れしている方にはオススメです。
- 撮影:8月では、テントが灯り空が暗くなる8時頃が撮影チャンスです。実は、偶然にもペルセウス座流星群が見られ、流れ星がアクセントになりました。
このときは赤道儀と広角レンズを持っていなかったので、星空と地上部をそれぞれ撮影し、縦にパノラマ合成して仕上げています。
【山梨】富士山と星のリフレクションが美しい「精進湖」
設定:52mm・F4・30秒・ISO800(30枚を比較明で合成)
精進湖は富士五湖の中で一番小さく、風の影響が比較的少ないため、リフレクション撮影に向いています。夜には富士と星が反射し、とても美しい星景を撮影できます。
〈POINT〉
- 場所:他手合浜あたりからなら、富士山を真正面にとらえられます。湖畔はぬかるんでいることがあるのですが、近づきすぎず、安定した足場のところに三脚を立てれば撮影しやすいです。なお、アクセスは車で、近くの無料駐車場を利用します。
- 撮影:富士山をしっかり大きく写すために50mm程度に。30秒で複数枚撮影し、Photoshopで「比較明」で合成して、星の流れを描いています。
- 編集:色温度を調整して、ピンクがかった空に仕上げています。
Photographer's Note
天の川がはっきり写るような環境は、空が真っ暗でないといけません。街明かりさえ届かないような場所で星を見上げると、本当に空一面が星で埋め尽くされます。特別な日でなくても星が流れるのを見ることができますし、地上も真っ暗でまるで“空に浮かんでいる”ような感覚になることがあるので、ぜひ体験していただきたいです!
私が今後チャレンジしてみたいのは、海外の星の撮影です(当分は難しそうですが…)。以前ウユニ塩湖を訪れましたが、天気に嫌われ撮影できずじまいでした。天の川のアーチが湖面にリフレクションし、円を描くような写真を撮影するのを夢見ています。
星空撮影に適したNikonの機材
はじめて購入した一眼レフからNikonのカメラをメインで使い続けていますが、最大のメリットは操作性です。スペックとしてなかなか数値化できない部分ですが、手に持ったフィーリングや細かな部分にまで配慮された各ボタンの配置など、撮影していて“しっくりくる”“楽しい”というのが最も気に入っています。暗い中でも直感的に操作できるので、星空撮影にも持ってこいです。
描写については、Z システムに移行してから“長秒時ノイズ”の発生が著しく抑えられるようになったと感じています。高感度に強い Z 6IIでは、ISO感度も躊躇なく上げることができました。
また、Z マウントレンズは星撮影における収差が効果的に抑えられており、開放からでも十分使っていくことができます。特に今回使用したNIKKOR Z 20mm f/1.8 Sは、明るく・収差が少なく・構成しやすい画角で、星撮影に関してこのレンズ以上のものに出会ったことがないと思えるほど。NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 Sについては、非常に高い逆光性能と解像感で、1本あれば星空・風景などあらゆるシーンで使えるレンズだと感じています。
※新型コロナウイルスの感染症対策に十分にご留意いただくとともに、政府、自治体など公的機関の指示に従った行動をお願いいたします。
Supported by L&MARK
※上記以外の機材で撮られた写真は、過去に撮影されたものです。
saizou
島根出身の写真家。全国各地の美しい風景を撮影する他、ポートレートなどさまざまなジャンルの撮影を行う。Zマウントシステムで作品づくりを楽しむフォトグラファーをピックアップする「Zcreators」にて、インタビュー記事が掲載中。