色とりどりの草花や出会いと別れのシーンなど、春は自然とシャッターを切る回数が増える季節です。今年の春、どんな写真を撮りましたか?
今回は「春」をテーマに、ロケ―ションや光と影を生かした撮り方、ドラマチックに切り取るコツに加え、新しいことにチャレンジしたい方向けにオールドレンズを使った表現を紹介します。ぜひ、これからの季節で応用したり、来年の撮影の参考にしてみてください!
桜風景を魅力的に写す基本と編集のコツ
「四季の美しさ」をテーマに、さまざまな地で風景撮影を行うフォトグラファー・Daisuke Uematsuさん(@daisukephotography)。日本の春の象徴である「桜」を魅力的に写すコツと、桜本来の美しさを引き出す編集についてうかがいました。
事前のリサーチと桜風景撮影の基本
撮影の準備
- 事前リサーチ:市や観光協会のHPの開花情報やSNSで直近の開花具合を確認し、行けるタイミングとエリアから撮影場所を決定します。
- 持ち物:レンズは標準ズーム24-70mmを軸に、広角ズーム14-24mm、望遠ズーム70-200mm。その他、夜の撮影では三脚も持参します。
撮影地では、まず風景をどんなふうに撮りたいか考えることが大切です。目指す写りに応じて、レンズと焦点距離、カメラの設定、構図を決めていきます。
- レンズと焦点距離:標準ズーム24-70mmを基本に、奥行きのある桜並木を圧縮したい場合は望遠レンズ、風景の広がりを生かしたい場合は広角と切り替えます。
左:100mm、右:200mm
望遠域でも撮りたいイメージによって焦点距離を調整します。
100mmで切り取った左の写真は、散歩する人を小さく写したことで桜の木の並びやスケール感が表現されています。一方で、200mmで切り取った右の写真は、ズームすることで散歩する人が引き立ち、日々の暮らしの中にある桜というイメージが強くなりました。
- F値:風景全体をとらえるときはF8が目安。
- シャッタースピード:日中であれば露出はシャッタースピードで調整します。このとき、1/200秒以上であれば、風で桜が多少揺れてもブレなく撮ることが可能です。
- ISO感度:極力低くしますが、シャッタースピードで露出をカバーできない場合は上げていき、夜はISO800程度が上限目安です。
- ホワイトバランス:イメージや光の状況と合っているか確認しながら設定します。
- 構図:見せたい部分を際立たせ、さらに視線の流れを意識します。
上の写真は、川の奥が見えなくなるほどの桜の密度を伝えるため、川の流れと桜の流れの曲線が重なるようにフレーミング。光が差す手前の桜から奥に視線が抜けるように切り取られています。
桜本来の美しさを引き出す編集
Lightroomで明るさをメインに調整し、見たときに感じた桜本来の美しさを表現します。
左:編集前、右:編集後
1.露光量を上げて全体の明るさをイメージに近づけます。
2.白とびしないようにハイライトを抑え、黒つぶれがある場合は黒レベルを上げて暗さを解消。シャドウをマイナスにして、本来の影を生かしてメリハリをつけます。
Lightroom編集画面
3.コントラストはトーンカーブで調整。緩やかなS字を意識して、明部の明るさを少しずつ上げて自然に仕上げます。
記事では、オススメの桜撮影スポット9選をじっくり紹介しています。一度は行きたい圧巻の桜風景から夜桜が美しいスポット、穴場のスポットまで。きっとあなたの撮りたい桜が見つかります!
桜ポートレートの基本と表現のアイデア
ポートレートも桜ロケーションで撮ると春らしい雰囲気に。フォトグラファーの酒井貴弘さん(@sakaitakahiro_)に、「桜ポートレート」撮影の基本と表現のアイデアを教えていただきました。
機材・服装・撮影場所の事前準備
レンズ:メインは50mm単焦点。圧縮効果を生かして背景を桜で埋め尽くしたい場合は、中望遠85mmを使います。
服装:桜のやさしい色が引き立つものを選びましょう。ふんわりとした白いワンピースは、春らしく爽やかで、風で動きも出るのでオススメです。
場所:光が入り、背景に余計なものが写りにくい場所を選びます。 ある程度密度のある桜並木は、背景を桜で埋めやすく、モデルさんの立ち位置で画変わりも狙えます。
人を際立たせる寄りのポートレート
桜ロケーションでポートレートを撮るときは、「寄り」と「引き」を意識します。ここでは、桜の木が1本でも実践できる「寄り」の撮影ポイントを紹介します。ポイントは「ボケ」「アングル」「光」です。
- ボケ:寄りの撮影では、モデルさんが主役。F2.8程度にすると、背景のディテールを残しつつ人を際立たせることができます。
左:F8、右:F2.8
- アングル:桜の咲く位置によってアングルを変えて、効果的に桜を背景に取り入れます。低い位置まで咲いている場所では、モデルさんと同じ目線で一緒にいるような雰囲気に。桜が高い位置にある場合は、ローアングルで空への抜けを生かすと、桜と人の情景を切り取れます。
左:アイレベル、右:ローアングル
- 光:光の当たり方で桜の表情が大きく変わります。サイド光は、色味がはっきりして明暗差で立体感が出るので、凛とした雰囲気や桜の華やかさを出したいときに効果的です。逆光は、全体がふわっと明るくなり、透き通る桜の花びらで透明感を演出できます。ソフトフィルターを使うと、さらに儚さを表現できます。
左:サイド光、右:逆光(ソフトフィルター使用)
桜風景の奥行きを生かす引きのポートレート
続いては、桜並木など広い風景を生かした「引き」のポートレートの撮り方です。
上の写真は、85mmの圧縮効果で桜並木を引き寄せて、背景を桜で埋め尽くしています。手前と奥をぼかし、手前/モデルさんがいる場所/奥とレイヤーを意識して構成することで、桜の美しさを際立たせながら奥行きのある写真になりました。
記事では、風景と人の両方を生かす撮り方や、桜の魅力を引き出すアイデアを紹介しています。ロケーションの魅力を生かすポートレートの考え方は、いろんな季節やシチュエーションで応用できそうですね!
春の光と影を生かして風景と人を魅力的に撮る
風景と人が織り成す物語を感じる光景を切り取るMASAKIさん(@masaki_photograph)に、春の光と影のとらえ方について教えていただきました。
光で風景の色を引き出す
春の陽気を表現するには、被写体の色を引き出す光の向きが重要です。日当たりによって、人の存在も際立たせることができます。
左:順光、右:逆光
上の2枚は同じ場所ですが、左は順光、右は逆光でとらえています。風景と人を一緒に写す場合は、空や桜の色がきれいに写る順光で撮るのがオススメです。人の背中に差す木漏れ日もアクセントになっています。
影の表情を生かして画づくりをする
影の表情を意識すると、切り取り方や人の立ち位置を考えるときの視野が広がります。
上の写真のシチュエーションでは、梅の花を見上げるように写す構図も考えられますが、木の影に着目してあえて高い位置から撮影しています。くるくる回って広がったスカートも効果的に見せられ、春のうきうき感が伝わる写真になりました。
また、光と影はワンセットで写すことを意識します。左の写真は人の影の形が写っていませんが、右のように座る位置を奥に少し移動するだけで影に表情が生まれ、壁に差す木漏れ日も生かせています。
NICO STOPでピックアップした読者の方(NICO Grapher)を紹介する記事として、MASAKIさんのフォトライフにも注目。写真仲間との交流や自分の好きを突き詰めることの大切さなど、カメラを通じた世界の広がりを感じます。
他のNICO Grapherのフォトライフもチェック!
1人目のNICO Grapherとしてインタビューした、nichiiroさん(@nichi_iro)。日々の中で好きな瞬間を見つける視点や、フィルムにはまったきっかけなどをうかがいました。お話を通じて、毎日の“当たり前”を残すことの魅力に気づけます。
出会いと別れの春をアニメチックに切り取る
地元・福井県の風景を撮り続けるAkine Cocoさん(@akinecoco987)の連載「日本の四季を届けるフォトレター」。第3回は、「アニメのワンシーンのような春」をテーマに撮影していただきました。ここでは、春の華やかさやはじまりへの期待が伝わる画づくりと、別れの切なさを感じる描写について解説します。
ミニマルに切り取り、春の華やかさを強調する
春らしい色合いの被写体を、視線の流れや構図を意識してミニマルに切り取るのもオススメです。色の魅力が強調され華やかさが際立ちます。
角度やアングルを工夫して躍動感を出す
新たな出会いへのワクワク感は、あえてカメラを傾けたり大胆なアングルで切り取ると表現しやすいです。見慣れた風景が新鮮に写り、自然の躍動も表現できます。
奥行きを生かした構図で門出を表現する
奥行きを出した部分にメインの被写体を配置することで、「離れていく」「手が届かない」という切ない雰囲気を演出できます。
船が去っていく光景に感じた切なさを表現した1枚。桜の前ボケをつくることで風景に奥行きが生まれ、船の後ろ姿がより遠く離れていくような印象になりました。
扉の内と外の明暗差を生かして額縁構図で切り取ることで、外の景色の鮮やかさが引き立っています。「新しい世界」へ導くようなイメージで、光と木の影を手前にフレーミングするのがポイントです。
「出会い」や「別れ」などサブテーマを決めて被写体を探すと、自分なりの撮り方が見つかるはずです。記事では、春にまつわる記憶を写真と言葉で綴る「フォトレター」をお楽しみいただけます。
青春をドラマチックに表現する秘訣
春といえば、入学や卒業など学生時代の思い出が浮かぶ方も多いのではないでしょうか。フォトグラファーのtomosakiさん(@photono_gen)に、多くの人が共感する“青春”を表現する秘訣と、ドラマチックに写すコツを教えていただきました。
青春を感じる写真の3要素
青春を写真で表現するために、多くの人の思い出にリンクする要素を写真の中にちりばめます。特に大切なのが、「構図」「時間帯」「光」の3つ。被写体の感情を想像しやすいように、表情がわからないように写すのもポイントです。
- 構図:「客観」と「主観」の2つの視点でとらえることでシーンに奥行きが生まれ、写真を見る人が世界観に入りこみやすくなります。
左:客観、右:主観
「客観」では、前景・中景・背景の3層を意識して画づくりするとさらに臨場感が出ます。右の写真では菜の花、主人公、桜のレイヤーを意識して、空間を立体的に写しています。一方で「主観」では、実際に目で見ている自然な印象になるようにパンフォーカス気味で撮影します。
- 時間帯:空の表情や時間帯も青春を伝える上で重要で、撮影は晴れた日の昼間か夕方に行います。「青い空」は若さや活発さ、「放課後」は懐かしく少し切ない雰囲気を演出できます。
- 光:撮りたいシーンによって光の向きも意識しましょう。空を大きくフレーミングする場合は、青がきれいに写る「順光」。映画のワンシーンのような雰囲気にしたい場合は、被写体に立体感が出る「斜光」やドラマチックになる「逆光」がオススメです。
見る人の想像を膨らませるアイデア
手元や足元のみのカットは、要素が少ない分、風景の彩りやモチーフの印象を強調することができます。また、4コマ漫画のように数枚を組み合わせて物語を表現する際には、見る人の想像を膨らませる行間の役割もします。
上の組写真は「告白の予行練習」をテーマにした4コマです。引きの写真の間に、手元や足元のみのカットを挟むことで、全体にメリハリがついて物語のディテールが加わりました。
連想ゲームでシーンを具体的にイメージする
表現するテーマは、曲の歌詞やアニメのオープニング映像を参考にするとイメージが膨らみます。テーマが見つかったら、撮影場所や服装、小物などは連想ゲームのように考えていくと決めやすいです。
記事では、青春をドラマチックに演出するレンズやボケ表現の使い分けなど詳しく紹介しています。何気ない日常を映画のワンシーンのように残すヒントが満載です!
学生生活をフィルムで残すのもオススメ
葵さん(@aoii6327)が、学生生活を記録したフィルム写真と言葉で綴るエッセイ。フィルムならではの光の描写や、あたたかい風合いから伝わる教室の雰囲気、当時の感情など、限られた時間を限られた枚数のフィルムに焼き付けた写真に、日々を残す大切さを改めて感じます。
オールドレンズで春の光と影を印象的にとらえる
春は新しいことをはじめるのにぴったりの季節。普段デジタルで撮影されている方なら、レンズをオールドレンズに変えるだけで、どこか懐かしい光と影の描写を楽しめます。フィルムライクな写りが好きなフォトグラファー・嵐田大志さん(@Taishi_Arashida)に、オールドレンズの特徴を教えていただきます。
やわらかい光の描写と個性的なボケ味
オールドレンズとは、フィルムカメラ用に作られたマニュアルフォーカスのレンズのこと。デジタルカメラ用のレンズでは味わえない、いい意味で不確かな写りが魅力です。
光にレンズを向けるとフレアが発生し、手前の被写体の輪郭がやわらかく描写されます。ピントが合っている部分はやわらかく、ボケの輪郭はかために出るという個性的な写りもオールドレンズならではです。
しっとりと湿り気のある暗部の質感
光の写りもおもしろいですが、暗部の描写も特徴的です。暗いシチュエーションを撮影すると、どこか湿り気のあるしっとりとした写りになります。
やわらかい光としっとりとした影の描写は、春の穏やかな気候にマッチします。身近な風景も光と影に着目してオールドレンズで切り取れば、新鮮な魅力を引き出せるかもしれません!
マニュアルフォーカスで静物とじっくり向き合える
マニュアルフォーカスによって、撮影のテンポが自然とゆっくりになるのもいいところです。いつも以上に道端に咲く花などに目が留まったり、家の中で静物とじっくり向き合ったり。オールドレンズだからこそ気づける光景があります。
記事では、さらにオールドレンズの描写の魅力とフィルムライクに仕上げる編集のコツも紹介しています。オールドレンズは安価で入手しやすいので、新鮮な写りを楽しみたい方は試してみてはいかがでしょうか?
オールドレンズで桜と光の情景を描くPhoto Diaryも公開中
フォトグラファーのとどさん(@jump_todo)が、写真と文章で綴るPhoto Diary 。ソメイヨシノと光が織り成す情景をオールドレンズで写し止めました。特有のやさしい描写やゴースト・フレアを生かして、儚く美しい桜の魅力を表現するコツについても触れています。
「春」特集、いかがでしたか?
春は過去を振り返ったり、新たな一歩を踏み出す時期でもあります。この記事を通して、これまでに撮った写真を見返したり、新しい「撮ってみたい!」が見つかったらうれいしいです。
季節ごとに自分らしい表現を見つけられたら、写真がもっと楽しくなりますよ!
※新型コロナウイルスの感染症対策に十分にご留意いただくとともに、政府、自治体など公的機関の指示に従った行動をお願いいたします。
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