「フォトグラファーのルームツアー」で作業部屋やカメラなどの機材を収納する棚など、自室の様子を動画で紹介していただいたFujikawa hinanoさん(@nanono1282)。この記事では、動画のなかでも少しだけ触れた「部屋で撮影すること」にフォーカス。「引っ越しを機に部屋をスタジオのように使って写真を撮るようになった」というFujikawaさんは、自室をどのように活用して素敵な写真を生み出しているのでしょうか?
- コロナ禍で感じた「お部屋スタジオ」の良さ
- お部屋スタジオ撮影術①:自然光を調整して撮りたいイメージに近づける
- お部屋スタジオ撮影術②:背景布で世界観をつくる
- お部屋スタジオ撮影術③:小物を活用してイメージを広げる
フォトグラファーのFujikawa hinanoです。私は普段、オールドレンズやフィルムカメラでポートレートやスナップ写真を撮っています。すでに公開されているNICO STOPの動画コンテンツでも少しお話したのですが、私は引っ越しをきっかけに、自分の部屋をスタジオのように使って撮影することが増えました。
この記事では、私がどのように自分の部屋で写真を撮っているのかを中心に、部屋をスタジオにするメリット、部屋で写真を撮る際のちょっとしたアイデア、撮影に使うアイテムや工夫していることなどをご紹介します。
コロナ禍で感じた「お部屋スタジオ」の良さ
私が自室で撮影を行うようになったきっかけはコロナ禍で外出がしにくくなったことでした。ちょうどそのタイミングで引っ越した新しい部屋は以前より広く、リビングの白壁がフラットで撮影に使いやすかったんです。「これを使わない手はない」ということで、そこから部屋で撮影するようになりました。
私にとって、自室をスタジオとして撮影することのメリットは2つあります。1つめはカスタマイズのしやすさ。ライティング機材やバック紙などの撮影に使う資材をわざわざ持ち運ばずにその場でセットできるのはすごく便利。
もう1つは撮影に関する実験がしやすいことです。自室だけにその時々の光の入りかたや質感が把握できているので仕上がりがある程度予想できますし、写真のアイデアがひらめいたときにその場で撮影に入れるので、新しい試みに自由自在にトライすることができるんです。それが楽しいです。
お部屋スタジオ撮影術①:自然光を調整して撮りたいイメージに近づける
まず最初に部屋で撮影で撮影するときに試してもらいたいのが「窓からの光を取り入れる」こと。私は自然光での撮影が好きで、デジタルで撮ることもあるのですが、おもに使っているネガフィルムはやわらかな自然光と相性がいいんです。
自然光は、ストロボやライトを使った人工光と違って、コントロールが難しいです。でも、自分の部屋なら時期や時間帯ごとの光の入りかたを把握できるので、撮影時間を変えることで安定して撮ることができます。夏場に比べて秋から冬に向かうこれからの季節はいい光が入るシーズン。室内であれば、寒くて外に出たくないときでも撮影できるので、これからの時期は部屋撮りが多くなりそうです。
ブラインドで光の差し込みを表現する
窓からの光はそのままでも心地いいのですが、工夫ひとつでさらに表現を広げることができます。たとえばブラインドの利用。ブラインドを通すと光と影に表情が生まれるので、写真にアクセントを加えることができます。
私は「光」と「影」が交差する写真が好きです。引っ越しの際に「ここにブラインドを付けたらいい写真が撮れそう」という予感がして、実際に取り付けみたらその通りになりました。
たとえばこのチューリップの写真。はっきりとしたチューリップの影にブラインドの影を加えることで雰囲気のある写真になりました。
タバコを吸う女の子の写真はチューリップとほぼ同じ光環境で撮ったもの。光が煙に当たった美しい瞬間を写真にしたいと思い、光と影、煙を目立たせるために不要な情報をなるべく除いてシンプルに撮ろうと考え、撮影はモノクロフィルムで。モデルさんの服もモノトーンでお願いしました。
色や素材、スラットの幅など、ブラインドには様々な種類があって、数千円から購入できます。普段の生活にも関わるインテリアですから、ご自身にとって使いやすいものをお財布と相談して選んでみてください。私の場合はシンプルな白色のものを選びました。スラット幅が太いものだと影が入り過ぎてしまうので細いものにしています。
カーテンで光と影を表現する
暗所になりがちな室内の性質を逆手に取って、窓から入る光を一部さえぎって限定的な光を作ると、スポットライトのように光を調節したり、光と影の模様を被写体に重ねたりと、意図的に演出することができます。遮光カーテンと光を通すレースカーテンを組み合わせることで、さまざまな種類の光を作ることができるんです。
この写真はモデルさんに部屋の暗所に立ってもらい、肌にレースカーテンで作った光を重ねるようなイメージで撮影しました。カーテンで光をコントロールすることはポートレート撮影の時によく使っています。
オーロラフィルムなどのアイテムで表現を広げる
ブラインドやカーテンを利用することで光の強さや影の形を変えることができますが、荷物の梱包などに使うフィルムのような素材を使って撮影するのも好きです。工夫次第で撮影表現を広げることができます。
私が部屋で撮影をするのは、おもに、徹底的に作品を作り込みたいときや写真で遊んでみようと思うときですが、モデルさんのパーソナルな部分まで入り込んだポートレートを撮りたいときにも部屋を使います。その際、フィルムのような素材を活用し、世界観を作ることで、よりモデルさんは入り込みやすくなる効果があるような気がします。撮影をし始める時はお互い距離があるので、モデルさんが撮影に没入できるような世界観をつくることで、距離を縮めることができると思います。
この写真は、窓から入る光をオーロラフィルムに当てて、反射した光をモデルさんに重ねて撮影しています。被写体そのものをシンプルに撮りたい、でも、ただそのままを撮るだけでなく、思うようなニュアンスを写真に載せたい。そう考え、モデルさんの体の一部に控えめにオーロラ光を当てて撮影しています。片手でカメラを操作しながらフィルムを調整するのもあれば、モデルさんに持っていただいたりもしています。
ミラーシートやサンキャッチャーを使ったアイディア
オーロラフィルムのほかにはミラーシートが気に入っています。表面が鏡になっている素材です。こちらの作品はライティングを組んでいますがミラーシートに水を垂らしています。また、塩化ビニール素材でラメ入りのような特殊な加工のシートも使うことがあります。
フォトグラファーのルームツアーでは外に撮影に行く際に持ち歩いているサンキャッチャーを紹介していますが、光を屈折させることで被写体にアクセントを加えることも好きです。
お部屋スタジオ撮影術②:背景布で世界観をつくる
次におすすめなのは「背景を作る」こと。私は布を使って背景を作り、被写体を引き立てることで写真の世界観を作ることも多いため、さまざまな布を準備しています。背景布を変えることで写真の印象は大きく変わります。背景の色彩を変えて色遊びをするのも楽しいです。
男の子の写真は、着物姿の男の子を撮る企画でロケの時間帯に雨が降りそうだったため私の部屋で撮ることになったときのもの。生成りの白い布をバックにシンプルな世界観で撮影しました。横に積んだ本などの小物も全部私の部屋にあった私物を使っています。自室であれば着付け場所も小物も即興で準備できるので便利です。
女の子を撮った写真は、モデルさんが鮮やかな色味の服を持ってきてくれたので、遊びながら撮った1枚です。水色の服とオレンジの花瓶の対照的な色がより映えるように、背景を青い布にしています。バストアップの写真は、服に合わせた色味の柄物の布を使ってポップな印象に。鎖骨のシールは、想定できないところに貼ることで色のバランスと違和感を作りだすことができて、お気に入りの写真です。
スタジオやロケでの撮影の場合は持ち物が多くなるタイプなのですが、荷物が多くて重くていつも大変。その点、家での撮影では持ち運ぶ必要がないので快適です。布は、写真機材店で売っている背景紙専用のポールとスタンドのセットを使って固定しています。
お部屋スタジオ撮影術③:小物を活用してイメージを広げる
身近にある小物を使うことで、主役である被写体を引き立てることもできます。私がよく使うのはお花やフルーツ。花瓶に生けてみたり、お花の種類を変えるだけでも写真の雰囲気が変わるので、撮影をしながら組み合わせを試しています。
一番上の写真は、撮影したのが春だったので、春をイメージして撮ったカットの一部。真ん中の写真は、「泣くという感情」を写真にしたいと思い撮影していたときのアザーカット。モデルさんが号泣するタイミングを待ちながら、リラックスしている瞬間をリンゴと一緒に切り取ったものです。一番下は、撮りたい写真のイメージのメインのモチーフがイチゴだったときに、モデルさんの髪色がちょうどイチゴのヘタと同じ緑だったのがかわいくて思わず撮ってしまいました。
たとえばポートレートの場合、メインの被写体である人だけでなく、写っている空間や空気感も含めて1つのポートレート作品として撮影すること多いんです。その際、写真の一部として小物類を入れて、そこを中心に切り取ることで、同じ空間で撮った写真であっても見る側の想像力をより掻き立ててイメージを膨らませることもできます。
Photographer's Voice 〇〇×〇〇の組み合わせで多彩な表現を
部屋で作品作りをする際の「光」、「背景」、「小物」の3つの要素を組み合わせることで、写真のアイデアが生まれ表現の幅が広がることをお伝えしました。私は普段から「これとこれを組み合わせたらどんな写真になるだろうか?」と考え実験するように撮影することで、新しい作品を生み出しています。
窓の光×白と緑の布×花の組み合わせ
柄の背景×花×ポートレート
部屋で写真を撮るようになって、外のスタジオや野外での撮影とくらべて自由度は増しました。イメージに近い写真を撮ることも可能ですし、家にあるさまざまなものを組み合わせるなかで、予想もつかなかった写真が生まれることも。あれこれ遊びながら実験的な撮影に挑戦しやすいので、「お部屋をスタジオ」は写真の幅を広げるのにいい環境だと思います。実際に、撮るもののバリエーションは目に見えて多くなりました。
最近は仕事で頼まれる写真の傾向も変わってきたんです。ありがたいことに、Instagramに載せている自室で撮った写真を見てくださった方から「こんな写真を撮ってほしい」と依頼されることも増えましたし、部屋の雰囲気を活かした仕事も増えました。映画「愛のくだらない」のビジュアル撮影も行いました。私の部屋ではないのですが、実はこれも家で撮影しています。
写真作品の構想を考える際に参考にしているものはいろいろありますが、1番多いのはPinterestです。Pinterestでは新鮮なものが探せるので、撮りたいテーマを検索して参考にしています。ほかには紙の本や雑誌。資生堂のフリーマガジン「花椿」や、ファッション雑誌の「lula」はよく見ます。もちろん写真集も気になったものは買いますし、写真展に行ったり、音楽や映画からのインスピレーションも多いです。
こちらの写真はお部屋で撮影した写真ではありませんが、過去に鑑賞した映画や音楽から「二人の少女の世界観を写真で表現してみたい」と思って撮った作品です。
また、最近はお散歩からの発見も多いです。私の家は包装紙専門店や梱包材専門店、造花専門店のような問屋さんが多い地域。散歩がてらお店を覗いては「これと一緒に撮ったらどんな風になるだろう?」と、気になった素材を買ってきては試しています。
ここでお伝えしたほかにも、みなさんそれぞれのアイデアを自由に取り入れて、部屋での撮影を楽しんでみてください。新しい発見や作品作りにつながるとうれしいです。
最後に・・・
最近はレンタルスペースも多くなり、様々な場所をスタジオとして利用することが出来るようになってきました。自宅をスタジオとして活用することは自由度も高いですし、撮りたいイメージに近づけやすい一方で、お互いにリスクもあると思っています。
私も自宅を撮影スタジオにする場合は、以前から連絡をとっている方や何度かお会いしたことがある関係性ができている方と、相談しながら決めています。
あくまで撮影場所の一つの選択肢として参考にしていただき、撮影場所はモデルさんとよく相談しながら決めていただきたいと思っています!
Model:MiYaBi(@myb__611)、雛子(@shuji_gallery)、星子(@__ks_se_)、Yukie(@__yukie_)、上野一稀(@itsuki1158)、高千 真穂(@__maaho__)
STYLIST:村田テチ(@murata___techi)
F3
FE2
Fujikawa hinano
Instagramで作品を投稿。グループ展やメディア執筆など、幅広く活動中。「日常と非日常の中にある曖昧さ、そして感情を丁寧に表現したいと思っています」