フィルムカメラで撮る多重露光写真 – 基本の撮り方と設定のコツ、表現のアイデア

フィルムカメラで撮る多重露光写真 - 基本の撮り方と設定のコツ、表現のアイデア

はじめまして、ナミダ。(@akizuki_namida)です。

日常の中で出会う感動を、フィルムカメラで撮影しています。少し曖昧なやわらかい写り、優しい光の描写、温かい気持ちにしてくれるところ…。フィルムが好きな理由はたくさんありますが、特に現像から帰ってきたときの“贈りもの”をもらうようなワクワク感がやみつきで撮り続けています。その気持ちをより味わえるのが、今回紹介する「多重露光」という撮り方です。

 

多重露光とは?

複数の写真を1枚に重ねる撮影法。異なる要素を組み合わせて、絵を描くように自由に世界観や物語を表現できます。フィルムで多重露光をするときは、デジタルカメラのように1枚目の画像を表示しながら撮れないので、どんな仕上がりになるかは自分の記憶と感覚が頼りです。
※Nikonではこの機能を「多重露出」と呼んでいます。

 

フィルムカメラで撮る多重露光写真 - 基本の撮り方と設定のコツ、表現のアイデア
フィルムカメラで撮る多重露光写真 - 基本の撮り方と設定のコツ、表現のアイデア

1枚ずつ撮影した写真

FE、AI Nikkor 50mm f/1.4

FE、AI Nikkor 50mm f/1.4

多重露光で2つの光景を1枚に重ねた写真

 

カメラの操作ミスで重なって撮れたのがきっかけで魅力にハマり、今では多重露光じゃないと物足りないと感じてしまうほど。狙って完璧に撮ることができない分、予想外の発見や好きな写りに出会えます。

 

FE、AI Nikkor 50mm f/1.4

FE、AI Nikkor 50mm f/1.4

 

この記事では、フィルムカメラで多重露光をする方法と撮り方のコツ、表現の幅を広げるアイデアをお伝えしたいと思います。

 

多重露光に必要な機材

まずは、使用する機材についてです。すでにフィルムカメラをお持ちの方は、多重露出機能がついているかご確認ください。これから購入される方は、ぜひカメラ選びの参考にしていただけるとうれしいです。
※フィルムカメラの各部名称・基本の使い方はこちらをチェック。

 

フィルムカメラ:多重露出機能なしでも撮影できますが、はじめは機能がついたもので撮ることをオススメします。私の愛用しているFM10のように、手動でフィルムを巻き上げるタイプの場合は、フィルム巻き上げレバーの近くに「多重露出レバー」があることが多いです。

 

フィルムカメラで撮る多重露光写真 – 基本の撮り方と設定のコツ、表現のアイデア

FM10のフィルム巻き上げレバーと多重露出レバー

 

Nikonの主な多重露出機能つきカメラ

Fシリーズ(F、F2、F3、F4、F5、F100、F6)、FMシリーズ(FM、FM2、NewFM2、FM10、FM3A)、FEシリーズ(FE、FE2)など。フィルムカメラは、多重露出機能がついたものが多いです。

 

レンズ:人物や花と風景などを重ねて撮ることが多いので、どちらもバランスよく撮れる標準レンズがオススメです。私は50mmをメインで使用しています。

フィルムカメラでの多重露光の方法

続いて、多重露光をするときの操作と露出設定についてです。

 

 

【操作】多重露出レバーを引いて同じコマに複数の画を重ねる

多重露光する際の操作方法を、FM10を例に紹介します。

 

フィルムカメラで撮る多重露光写真 - 基本の撮り方と設定のコツ、表現のアイデア

 

1.通常通りにフィルムをセットして1枚撮影します。このとき、フィルムカウンターの数を確認しておきましょう。

 

フィルムカメラで撮る多重露光写真 - 基本の撮り方と設定のコツ、表現のアイデア

 

2.①多重露出レバーを引きながら、②フィルム巻き上げレバーを引きます。手順1とフィルムカウンターの数が変わっていなければ準備OKです。2枚目を撮影し、さらに重ねる場合は手順1~2を繰り返します。

 

 

【設定】重ねるほど明るくなるため、暗めの露出を意識する

多重露光の露出設定は、少しコツが必要です。写真は重なるごとに全体が明るくなっていくため、適正露出に仕上げるなら一段暗く、明るめに仕上げるなら適正露出で撮影していきましょう。

 

露出設定の目安

  • ISO:場所や時間帯を気にせず撮れる、ISO400のフィルムがオススメです。
  • F値:多重露光すると像が薄くなりやすいので、F2.8~5.6程度に絞り、ディテールをくっきり写します。
  • シャッタースピード:1/1000~1/30秒を目安に、明るくなりすぎないように調整します。

 

フィルムカメラで撮る多重露光写真 - 基本の撮り方と設定のコツ、表現のアイデア
フィルムカメラで撮る多重露光写真 - 基本の撮り方と設定のコツ、表現のアイデア

 

上の2枚は、重ねたときに適正露出になるように、それぞれ暗めに撮影しました。

 

FE、AI Nikkor 50mm f/1.4

FE、AI Nikkor 50mm f/1.4

 

重ねると明るい部分が白飛びすることもなく、ちょうどいい仕上がりです。絞りを絞って撮ったため、シルエットもしっかりと残っています。

 

使用フィルムと現像時のオーダーについて

最近はフィルムの選択肢が限られているため、メーカーは特にこだわらず、手に入りやすくて安価なものを使用しています。色味やコントラストは自分で調整するので、後で編集しやすいように、現像時は「コントラストを弱めに」とオーダーしています。

 

多重露光撮影の基本ポイント

ここからは、基本の撮り方を紹介していきます。暗い部分に重なったものがくっきり写るということを頭に入れて、仕上がりをイメージしながら、1枚ずつ撮影することが大切です。

 

 

【1枚目】明暗差がはっきりした写真を撮る

人物のシルエットや逆光の風景など、明暗差がはっきりした写真を撮ります。はじめて多重露光をするなら、夕方の河川敷や海岸など景色が開けた場所での撮影がオススメです。要素がシンプルになるので2枚目を重ねやすく、空の色や雲の表情がアクセントになってくれます。

 

FE、AI Nikkor 50mm f/1.4

FE、AI Nikkor 50mm f/1.4

 

撮影するときは、写真のポイントになる被写体をどこに写すか考えながら、暗い部分の位置を決めるのがコツです。今回は、画面を三分割したラインにポイントを持ってきたかったので、中心から少しずらしてシルエットを配置しました。慣れるまでは、暗い部分を広範囲にして、日の丸構図で撮ると失敗しにくいです。

 

 

【2枚目】暗い部分にポイントが重なるように写す

FE、AI Nikkor 50mm f/1.4

FE、AI Nikkor 50mm f/1.4

 

2枚目は、写真の主役やポイントになるものを撮影します。1枚目でつくった暗い部分の位置をファインダー内で覚えておき、そこに重なるように配置しましょう。このときは、海のきらめきを写しました。

 

FE、AI Nikkor 50mm f/1.4

FE、AI Nikkor 50mm f/1.4

 

完成したのが上の写真です。波が引いて思ったよりもキラキラが上寄りになりましたが、波の位置がシルエット内にバランスよく重なって、満足のいく1枚になりました。

 

暗い部分と主役・ポイントの撮影順は逆でも問題ありません。何より被写体との出会いが大切なので、先に見つけた方を撮っておいて、それにマッチする風景や被写体を探すという流れで撮り進めていきます。

表現の幅が広がる多重露光のアイデア

重ねる写真と重ね方を変えることで、多重露光のバリエーションは広がります。お気に入りのパターンを紹介するので、撮りたいイメージに合わせて活用してみてください。

 

 

引きと寄りで被写体の内面を想像させる

いちばんシンプルな方法で、はじめて多重露光をするときにオススメの撮り方です。まずは、寄りで暗い部分を大きく写して、引きの画を重ねてみましょう。

 

FE、AI Nikkor 50mm f/1.4

FE、AI Nikkor 50mm f/1.4

 

上の写真のように、人物の写真どうしを重ねると、時間の流れや心情を想像させるような1枚に。寄りと引きの水平線がほぼ同じラインに並んだのはうれしい偶然で、仕上がりを見たときは驚きました。

 

 

玉ボケと重ねて幻想的な1枚に

玉ボケ写真を重ねると、全体がキラキラと幻想的になります。明るすぎると重ねた写真の像が残りにくいので、少し絞り気味にして、画面内に暗い部分をつくるのがポイントです。

 

FM10、Nikkor-H Auto 50mm F2

FM10、Nikkor-H Auto 50mm F2

 

1枚目にきらめく水面、2枚目は斜めに光が差す場所に立ってもらい撮影しました。暗い部分には水面が残り、明るい部分は人物と玉ボケが重なり、ミステリアスで儚い雰囲気になりました。このように光と影の形が印象的な場面を取り入れると、像の残り方に変化が出て作品の奥行きが増します。

 

 

黒い服や髪にポイントを重ねる

逆光(シルエット)以外に、黒い髪の毛や服、影などにも像を重ねることができます。

 

FE、AI Nikkor 50mm f/1.4

FE、AI Nikkor 50mm f/1.4

 

小川のきらめきと流れる桜の花びらを撮ったものに、髪の毛の割合を多く写した写真を重ねました。1枚目は水面が黒くなるように暗めに撮影し、2枚目は青空が映る水面を明るめに写しています。露出を変えたことで、髪の毛に重なった桜と手に持つ桜の色合いや質感に変化が出ているのがおもしろいと感じました。

 

 

カメラの向きを変えて、より非現実的に

横位置と縦位置の写真を重ねたり、カメラを逆さにして撮った写真を重ねると、より非現実的な世界を描けます。風景や人物など、天地が分かりやすい被写体を組み合わせるのがポイントです。

 

FE、AI Nikkor 50mm f/1.4

FE、AI Nikkor 50mm f/1.4

 

上の写真は、縦位置で撮った町に横位置で撮った人物のシルエットを重ね、浮遊感のある不思議な1枚に仕上げました。空の雰囲気とシルエットのどちらも生かしたい場合、空が明るすぎると像が残りにくいので、夕暮れ時の薄暗い空やくもり空などを狙います。

 

 

レンズを覆って2つの世界を表現

レンズキャップなどでレンズの一部を覆って、暗くなった部分に像を重ねると、1枚でまったく異なる世界を写すことができます。レンズを覆う前に、露出とピントを合わせておくのがコツです。

 

フィルムカメラで撮る多重露光写真 - 基本の撮り方と設定のコツ、表現のアイデア
フィルムカメラで撮る多重露光写真 - 基本の撮り方と設定のコツ、表現のアイデア

 

今回は、上のようにレンズの下半分と上半分を覆って、多重露光してみました。

 

FE、AI Nikkor 50mm f/1.4

FE、AI Nikkor 50mm f/1.4

 

半分を完全に黒くすることで、ハーフカメラで撮ったような写真になります。1枚目と2枚目で撮る場所を変えたり、上下逆さに撮ったり、レンズを覆う位置を左右や斜めにしたり。もっと撮り方を工夫すれば、いろんな表現が可能です。

 

 

3枚重ねるときはシンプルな写真で

写真を3枚重ねることで、より物語を感じる仕上がりになります。ごちゃつきやすいので、重ねる写真はすべてシンプルなものにするのがポイントです。

 

FE、AI Nikkor 50mm f/1.4

FE、AI Nikkor 50mm f/1.4

 

この写真、実はカメラを持つ手元を撮っておいたのを忘れて、その上に引きの人物と鳥を重ねてしまったミスショットなんです…。偶然の産物ですが、1枚目がシンプルな写真だったので手元・人物・鳥の3要素がきちんと生きていて、物語がはじまりそうな想像の膨らむ写真になったと思います。

もう一つの多重「セルフフィルムスワップ」

フィルムスワップとは、他の人が一度撮影したフィルムに重ねて撮影していく多重露光の方法で、それを一人で行うのを「セルフフィルムスワップ」と言います。多重露出機能を使う方法は「連続で撮る」という制限がありますが、セルフフィルムスワップはまったく違う時間帯・場所のものを重ねることも可能です。

 

 

セルフフィルムスワップのやり方

フィルムカメラで撮る多重露光写真 - 基本の撮り方と設定のコツ、表現のアイデア

 

まずは1本撮り切ってフィルムを巻き戻し、もう一度カメラにセットし直して、2回目を撮りはじめます。はじめにセットしたときにマジックなどでフィルムに印をつけておくと、コマずれを防ぐのに効果的です。

 

コマずれとは?

FM10、Nikkor-H Auto 50mm F2

FM10、Nikkor-H Auto 50mm F2

 

フィルムのフレームがずれて、前後の像が写りこむこと。上の写真は、海の風景の次に撮った波の写真が右端に写りこんでいます。

 

フィルムカメラで撮る多重露光写真 - 基本の撮り方と設定のコツ、表現のアイデア

 

1回目は逆光の風景やシルエット、2回目は人物など主役になる被写体というように、撮るものをおおまかに決めておくとうまくいきやすいです。日をまたぐ場合は、何回目の撮影中か忘れてしまうことがあるので、私はカメラにマスキングテープを貼って回数をメモしています。

 

 

セルフフィルムスワップで偶然の出会いを楽しむ

ここからは、セルフフィルムスワップで撮影した作品をいくつか紹介します。その場で多重していくのと違って仕上がりを予想するのが難しいですが、自分では思いつけないような組み合わせが生まれるところが、この撮り方の醍醐味です。

 

FM10、Nikkor-H Auto 50mm F2

FM10、Nikkor-H Auto 50mm F2

 

背景を暗くして撮った枝垂れ梅と、海辺の夕日をローアングルで撮った写真が重なった1枚。1回目に梅を撮ったことを何となく覚えていて、それと重なったらいいなと思いながら夕日を写していたので、まさに理想の仕上がりです。しっかりと枚数を合わせて撮ったわけではないので、本当に運がよかったと思います。

 

FM10、Nikkor-H Auto 50mm F2

FM10、Nikkor-H Auto 50mm F2

 

ススキの丘のシルエットと玉ボケの写真が重なったもの。玉ボケは今となっては何を撮ったのか思い出せませんが、絵本の中のような雰囲気がお気に入りです。

 

FM10、Nikkor-H Auto 50mm F2

FM10、Nikkor-H Auto 50mm F2

 

岩の上に座ってもらい地上を広めに写した写真と、海辺で撮った夕日とシルエットの多重露光。夕日が岩に座ったモデルさんのちょうど下に写り、視線の流れもうまくマッチして、ストーリー性のある作品になったと思います。

 

被写体をメモすれば意図的な画づくりも可能

セルフフィルムスワップでもしっかり画づくりしたい場合は、1回目に撮ったものをすべてメモしておけば、まったく意図しない仕上がりになることはありません。また、1回目はすべて同じものを撮ってしまって、2回目でいろんな被写体を重ねていくという方法もあります。

 

Photographer's Note

今やフィルムは高価で、デジタルのように気軽にシャッターを切ることはできません。仕上がりの予測が難しい多重露光は、さらにハードルが高いと感じる方も多いのではないでしょうか? もし、この記事を見て興味が湧いたら、試しに1枚、多重露光で撮ってみてください。失敗かと思ったら意外と素敵に撮れていたり、イメージ通りじゃないのが逆におもしろかったり、新しい発見があるはずです。

 

私は約2年前から多重露光専用のフィーチャーアカウントを運営しています。多重露光を続けていると撮り方がマンネリ化してしまいがちなのですが、たくさんの方の作品に触れることが刺激になり、新しいアイデアや挑戦心が湧いてくるんです。これからも多重露光写真の発信を続けて、もっと多くの方に魅力を知ってもらい、撮ってくれる方が増えるとうれしいなと思います。

 

Nikon機材の魅力

フィルムカメラで撮る多重露光写真 - 基本の撮り方と設定のコツ、表現のアイデア

 

私はいつも数台のフィルムカメラを持ち歩いていて、その中で欠かせないのがFM10です。軽くて持ち歩きやすく、多重露出機能と露出計がついているのがはずせないポイント。価格も中古で1万円前後~とお手頃で手に入りやすいので、フィルムカメラを検討している方にオススメしたい1台です。今回はじめて使ったFEは、手になじむ感覚があり操作しやすく、ファインダー内でF値やシャッタースピードを確認できるのでスムーズに撮影できました。

レンズはNikkor-H Auto 50mm F2を愛用しています。ピント面はキリッと透明感のある写りで、ボケはにじむようにやわらかく、玉ボケは少しカクカクしたクセのある描写が魅力です。

 

 

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FM10

FM10

FE

FE

Nikkor-H Auto 50mm F2

Nikkor-H Auto 50mm F2

20190627184814

AI Nikkor 50mm f/1.4

ナミダ。

ナミダ。

岡山県出身。看護師の傍ら、フィルムカメラで多重露光作品を中心に撮影し、SNSで発信している。2020年より多重露光のフィーチャーアカウント(@double_exp0sure)を運営。