はじめまして、ミニチュアアーティストの田中智(@miniature_MH)です。
さまざまなミニチュアを制作して個展をしたり、愛用しているD610とマイクロレンズで写真を撮ってSNSへ投稿したりしています。
大切に作りこんだミニチュアを多くの方に見ていただくために、写真に撮ることはとても重要です。
高画質なフルサイズのカメラと、肉眼で見る以上に細部まで鮮明に描写できるマイクロレンズで撮影することで、ミニチュアの魅力をより伝えることができます。特に中望遠は、指先程度のサイズのものから少し大きいハウス型のミニチュアまで撮影することができるのでオススメです。
この記事では、いつも多くの反響をいただく食べ物のミニチュアをメインに、フルサイズのZ 5と中望遠マイクロレンズNIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR Sで、魅力的に撮影する方法を紹介します。
また最後に、はじめて制作したカメラのミニチュアについても紹介しているのでお楽しみに!
大切なのはリアリティとミニチュアらしさ
ミニチュアを撮影する上で大切なのは、リアリティとミニチュアらしさの両方を表現することです。そのために、主に3パターンの撮影を行っています。
1.ミニチュア全体を写す:まずは、少し余白を入れた引きの画角でミニチュアの全体像を写します。実物を撮るときと同じようなアングル・ボケ感を意識するのがポイントです。
2.作りこんだ部分に寄る:特に作りこんだ部分をクローズアップして、肉眼ではとらえきれないディテールや質感を写し出します。わっぱ弁当の場合は、お米の粒やシソふりかけの緻密さ、梅干しの質感を強調するために画面いっぱいに切り取りました。
見せたい部分が際立つ画角でトリミング
写真は撮影後にトリミングしています。比率はあまり気にせず、見せたい部分に目がいくように画面を整理することが大切です。特に寄りのカットはこだわったところだけに注目してもらうため、撮影時の画角から余分な要素をどんどんそぎ落としていきます。
3.サイズ感を表現する:指先や米粒、コーヒー豆など、誰でも大きさを想像しやすいものとミニチュアを並べてサイズ感を表現。小ささを強調するために余白を広めにつくって、繊細さが伝わるようにミニチュア全体にピントを合わせます。
ミニチュア撮影は、100円ショップなどで売っているミニチュアでも気軽に楽しむことができますが、自分で作りこむほどマイクロレンズで見たときのわくわく感が大きいです。機会があれば、ぜひミニチュア作りにも挑戦してみてください。
ミニチュア撮影の3つのポイント
続いて、ミニチュアの撮り方を紹介します。ポイントは色や質感、凹凸をしっかり伝えること。そのために、以下の3つを意識しています。
- 光
- ピント
- アングル
【光】影をコントロールして繊細さを写し出す
ミニチュア撮影で一番重要なのは「光」です。光でミニチュアの光沢や凹凸を表現することで、シズル感や細部の作りこみを伝えることができます。
部屋での物撮りは自然光で行うことが多いと思いますが、ミニチュアの場合は光の向きや強弱の変化が写りに大きく影響するのであまり向きません。部屋のカーテンを閉めてLEDライトで照らすと、光が安定してコントロールしやすいです。
撮影の様子。
光の向きは基本的に立体感が出る「斜めからの光」で、影は濃すぎないほうが細部までディテールを表現することができます。そのために被写体を白い紙(レフ板)などで囲い、光を反射させて全体を明るく写すことが重要です。
左:レフ板なし、右:レフ板あり
上の写真は、ケーキのミニチュアに左斜め上からLEDライトを当てて撮影しました。光を反射させていない左に比べて、レフ板で囲んだ右は手前まで光がまわり、マットな質感や細かな凹凸まで伝わります。
透け感のある被写体は逆光で
上の写真のような透け感のあるミニチュアは、「逆光」気味に光を当てることで立体感を出しつつ、透明感とツヤも表現することができます。手前が暗くなりやすいので、レフ板を通常よりもミニチュアに近づけて撮影しましょう。
シンプルで影を調整しやすい環境づくり
私は普段、下のような環境でミニチュア撮影を行っています。簡単に位置を変えられる道具を使うことで、影の角度や濃さの微調整がしやすくなります。
撮影環境。
- レフ板:スチレンボードをL字型に貼りつけて自作したもの。手前は撮影しやすいように小さめのものを用意します。影を薄くしたい場合は、レフ板をミニチュアに近づけて反射光を強めます。
※スチレンボード:適度な強度がありながら加工しやすく、ネットや100円ショップ、ホームセンターでも手に入ります。 - LEDライト:広範囲を照らせる面発光タイプで、なるべく明るいものがオススメです。トレーシングペーパーをかざすとより光を拡散することができます。移動しやすく伸縮可能なスタンドに取りつけて、光を当てる位置や影の角度を調整します。
- 背景素材:主に文具店で購入した紙と、ネットや100円ショップでも購入できる木材(背景ボード)を使用しています。紙は表面に凹凸や毛羽立ちがあるとクローズアップしたときに目立ってしまうので、なるべく表面が滑らかなものを選びます。色はいくつか組み合わせを試して、一番イメージに合うものを採用。木材は比較的どんなミニチュアとも相性がいいです。
【ピント】ミニチュアの“顔”を際立たせる
「顔」とは、ミニチュアの魅力が一番際立つ角度のことです。私のミニチュア作品は細部まで作りこんでいるので実物をいろんな角度から見てほしいのですが、写真の場合はそういうわけにいきません。撮影するときはファインダー越しに作品を観察して、最も配置のバランスがよく精細さが伝わる「顔」を正面にして切り取ります。
このプレートの「顔」は、ベーグルを正面にしたこの角度。ローストビーフの質感と立体感、ソースのシズル感を特に見てほしいので、一番目がいく手前にしています。スープやサラダなど高さのあるものは、他のミニチュアを遮らないよう奥にすることで、全体がバランスよく写りました。
アクリル越しの撮影は映りこみに気をつける
上の写真は破損を防ぐためのアクリルケースに入れた状態で撮影したものです。アクリル越しの場合は、真上や真横からだとカメラや自分が映りこんでしまうので、斜めからのアングルで撮るようにしています。
左:F9、右:F16
次に、ピント位置を決めます。特にこだわった部分や、質感を強調したいところに合わせましょう。ポイントはまわりをぼかしすぎないことです。全体で1つの作品なので、ピントを合わせた部分以外がボケすぎて何かわからない状態にならないように意識しています。
上のおでんの場合は、卵の断面にピントを合わせて撮影しました。F16まで絞りこむことで、黄身の質感を際立たせつつ大根や牛すじの繊維とツヤも感じられ、美味しそうに撮れたと思います。
基本の設定
- 撮影モード:マニュアル。基本的に手持ち撮影なので、手ブレしないシャッタースピードを保ちつつ、F値でピント範囲をコントロールします。
- F値:F13~22の間でボケ具合を見ながら調整します。
- シャッタースピード:1/20~1/125秒程度。手ブレを抑えるために、ひじをテーブルにつくなど安定した姿勢で撮影します。
- ISO感度:シャッタースピードを稼ぐためISO1600に設定。
- フォーカス:AFで思い通りの位置にピントが来ない場合は、MFに切り替えて合わせます。
【アングル】視線をイメージして臨場感を出す
「実際に見るときのアングル」を、ミニチュア撮影で再現することでリアリティや臨場感を伝えることができます。顔を探すときにアングルも意識すると撮るときに迷いません。
こちらは、ベーグル専門店をイメージした作品です。まずはシチュエーションが伝わるように正面から引きで撮影します。見る人の身長をイメージして、やや上からのアングルで切り取りました。
次に棚に近づき、商品を選ぶ目線をイメージ。先ほどよりもアングルを高くし、右斜め上から撮影しました。斜めからとらえることで奥が少しボケてベーグルに視線が集まり、実際にお店に立って選んでいるような臨場感を表現できます。
メカニックなものの撮影ポイント
今回、Z fcとZ 7IIのミニチュアを制作しました。カメラを作ったのははじめてでしたが、出来上がって指にのせると想像以上にかわいくて撮影するのがとても楽しかったです。
ここでは、こだわって作りこんだ部分とカメラならではの撮影ポイントを解説します。
ロゴと背面のデザインも細かく再現
フィルムカメラのようにレトロなデザインが魅力のZ fc。ボディやレンズ側面の質感、特徴的な上面のダイヤル、丸型のファインダーなど、見た目と手触りの特徴を細かい凹凸で再現しました。
撮影ポイント
カメラのような機械系のミニチュアは、高めのアングルから撮るとボリュームを感じにくくミニチュア感が強くなってしまうので、食べ物よりも低めのアングルを意識します。やわらかい素材のストラップは、カーブをつけることでしなやかさを表現しました。
Z 7IIはNikonらしいデザインですが、とてもスマートに感じました。Nikonのロゴはフォントを再現するだけでなく、実物と同じように少しくぼませているところにも注目していただきたいです。
ボディに比べて重厚感のある望遠レンズは、繰り出し部分やリングの溝までしっかりと作ることで実物さながらの迫力を出しています。
撮影ポイント
グリップやレンズ側面などのハイライトとボディの黒、影の3段階で明暗差をつけて立体感を表現。ボディとレンズの先まで距離があるので絞ってピント範囲を広くします。ボディの黒と影の差を意識しつつ、影が黒つぶれしないように露出を決定しました。
Photographer's Note
写真はSNSなどでたくさんの方にミニチュア作品を見ていただくための大事なツールです。はじめはコンパクトデジタルカメラで撮影していましたが、ミニチュアの精度が上がるにつれてもっと高画質に繊細に写したくなり、知り合いのフォトグラファーにオススメしていただいたD610とマイクロレンズを購入してずっと愛用しています。
今回お借りしたZ 5とNIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR Sを使ってみて、AFの精度や描写の精細さなど、すべてが進化していて驚きました。操作もわかりやすくスムーズに撮れるのでとても楽しかったです。
肉眼ではとらえにくい部分がマイクロレンズで鮮明に写し出される感覚は、驚きと正解を見つけたような喜びがあります。これからもミニチュアの魅力をみなさんに届けられるように、作品にも写真にもこだわっていきたいです。
ニコンプラザにて、ミニチュアカメラを展示します!
田中智さんに作っていただいたZ fcとZ 7IIのミニチュア作品をニコンプラザ東京にて、2021年9月10日(金)から10月11日(月)まで展示いたします。撮影も可能ですので、記事でご紹介した撮り方をヒントにして、ぜひ撮影してみてください!
2021年9月14日(火)からはNICO STOP写真展も開催します。ミニチュア展示とあわせてこちらもお楽しみくださいね。ニコンプラザ大阪でも写真展と同時にミニチュアカメラを展示予定です。●ニコンプラザ東京THE GALLERY
2021年9月14日(火)~10月11日(月)
●ニコンプラザ大阪THE GALLERY
2021年10月14日(木)~11月10日(水)
開館時間:10時30分~18時30分(日曜日休館/最終日は15時まで)
Supported by L&MARK
田中智
ミニチュアアーティスト。食べ物や雑貨などさまざまなジャンルのミニチュアを、リアリティを追求して制作。展示会や講座、SNSでの発信などの活動を通して、ミニチュアアートの世界を広めることを目標にしている。著書『田中智のミニチュアスタイル』など他多数。2021年10月に新刊発売予定。