こんにちは! フォトグラファーのKoichi(@Kfish1882)です。普段は、風景に人を溶けこませるような写真やアート写真など「心に響く写真」をコンセプトに日常を切り取っています。
「リフレクション」をはじめ、これまでさまざまな被写体の撮り方を紹介してきましたが、今回は私の作品の中でもよく登場する「マジックアワー」について紹介したいと思います。
マジックアワーとは?
日没や日の出の前後に空が幻想的な色に染まる限られた時間帯のことで、写真や映像の業界で「マジックアワー」と呼ばれています。空だけでなく、地上の景色も人もあたたかい光に染まり、ドラマチックな写真を撮ることができる魅力的な時間です。
私がはじめてマジックアワーの写真を撮影したのは、カメラをはじめたばかりの今から7年ほど前。広角レンズを使って空のダイナミックさを表現することにハマり、夕焼けと都心のビル群などを合わせて撮る美しさに魅せられたことがきっかけです。以来、海や田んぼ、街中などさまざまな場所でマジックアワーの写真を撮ってきました。
このマジックアワーについて、見られる条件や撮り方の基本、表現のアイデアなどを詳しく解説していきます。
マジックアワー撮影のための大切な準備
幻想的な空の色を見ることができるのは日没や日の出前後の限られた時間。このわずかなチャンスを逃さないためには、見られる条件を知り、撮影の準備をすることが大切です。
【時間帯】日没後・日の出前15分間を狙う
日没前後・日の出前後に空が染まるマジックアワーですが、太陽の位置によって染まり方が異なります。
- 太陽が地平線近くにあるとき:空全体がオレンジに染まる
- 太陽が地平線の下にあるとき:空全体が青く染まる
左:太陽が地平線近くにあるとき、右:太陽が地平線の下にあるとき
私はオレンジに染まるときに撮ることが多いのですが、経験上きれいに見える時間帯は、日没後と日の出前の約10~15分の間です。撮影の際には、インターネットで日没・日の出時刻を調べ、その時間の前後でマジックアワーを狙っています。
【場所】オススメは見晴らしのいい海
マジックアワーはどこで撮影するかも大切です。ポイントは、見晴らしがよく視界をさえぎるものがないこと。空を広々と写すことで、幻想的な美しさを伝えることができます。
特にオススメなのは、海です。視界をさえぎるものがなく広々としているため、さまざまな角度から撮影できます。潮の満ち引きによって色づく空の映りこみ方が変わるのも魅力です。関東では、九十九里浜や江ノ島海岸などが高確率で見られます。
海の他には、田んぼなどもマジックアワーの撮影場所に適しています。特に水が張られた時期の田んぼは、マジックアワーを映し圧巻の美しさです。
撮影場所の探し方
SNSやGoogleマップを活用すると撮影に適した場所を探しやすいです。遠くて下見に行けないような場所は、Googleマップのストリートビューを使うと見晴らしのよさなどを確認できます。
【天気】高温多湿なときほど濃く染まる
経験上、高温多湿のときにより色濃く空が染まり、さらに太陽から離れたところに適度な雲があると光を受けて空全体が焼けます。中でも筋雲や鱗雲など光を通す雲は、マジックアワーの色づき方がはっきりします。
上の写真のように太陽の沈む方向の低い位置に厚い雲があるときは、光がさえぎられ空全体が染まりにくくなることが多いです。
くもりでもあきらめない!
くもりの日や夕焼けがきれいに出ていないような日でも、あきらめずに待ってみることが大切です。太陽が沈みきった後に、きれいなマジックアワーが見られることもあります。
【機材】暗部の描写性に優れたカメラ+レンズ
- カメラ:マジックアワーは暗めに撮影して白とびを防ぐため、暗部のディテールまでしっかり描写できるカメラがオススメ。今回は Z 7IIをメインに使用しました。Z シリーズは暗部の描写性能に優れ、撮影後の編集でもディテールがしっかり表現されています。
- レンズ:空をダイナミックに表現するには、14~24mmの広角域のレンズが理想的です。マジックアワーに人を入れて撮影する際には、F値が小さいほど寄りで背景をぼかすことができるため、表現の幅も広がります。広角ズームのNIKKOR Z 14-24mm f/2.8 Sであれば、画角も即座に変えられて便利です。
- 三脚:日没や日の出前後は日中に比べて暗いため、風景メインで撮る場合には三脚を使用します。焼けた空が明るく、露出を確保できる場合には手持ちでもOKです。夕焼けをぼかして人物をメインにするなど、自由度の高い撮影を楽しめます。
- その他:海でマジックアワーの撮影をする際は、砂の上に機材や荷物を置くことも多いため、レジャーシートがあると役立ちます。
基本編:マジックアワー撮影のポイント
ここから撮影のポイントです。短い時間で、空の様子が刻々と変わっていきますので、以下のポイントを押さえた上で撮影に臨みましょう!
【設定】白とびを防ぎ、見せたい部分に露出を合わせる
特に注意すべきは「白とび」です。これを防ぐために暗めに写し、後から編集で持ち上げることを前提に設定をしていきます。
- 撮影モード:マニュアルに。太陽の位置や、空の中でも部分ごとに大きく露出が変わるため、マニュアルで見せたい部分の露出をしっかりと合わせこみます。
- F値:風景をメインに撮る場合は、全体にピントが合うようF4~8を基本にします。
- ISO感度:撮影後の編集で暗部を持ち上げる前提で、最低感度に。
- シャッタースピード:F値とISO感度を設定し、シャッタースピードで露出を調整します。
- ピント合わせ:Z シリーズはフォーカス性能が優秀なので、普段はAFで撮影することが多いです。AFで厳しいときはMFに切り替え、ライブビューで確認しながら正確にピントを合わせていきます。
- ホワイトバランス:JPEGで撮る際、「曇天」などを選択すると全体が暖色に仕上がり、あたたかみが出ます。
左:ホワイトバランス「オート」、右:「曇天」
【構図】空と地上の比率1:1を基準に
マジックアワーの空だけでなく地上風景も見せたい場合、空と地上の比率を同じにすることで、見る側が気持ちよく写真の情報を整理できます。そのため1:1を基準に考え、空の表情や地上風景をどう見せたいかで調整していくと、最適な比率を見つけやすいです。
左:空1:地上1、右:空2:地上1
また、焼けの広がり方によって寄り引きを使いわけるのもポイントです。撮影位置を変えられない場合は、焦点距離で調整しています。
左:引き(焦点距離14mm)、右:寄り(焦点距離24mm)
真上まで真っ赤に染まった空を撮るときには、より広範囲を写せるように引きで。前景を入れることで奥行き感が生まれ、風景を立体的に浮かび上がらせることができます。また、どんな場所なのかを伝えられるのも引きで撮るメリットです。
一方、一部だけが染まっている場合にそこを強調したいときは、寄って撮影します。右の写真のように情報量を制限することで、朝焼けに染まる空と海を際立たせることができました。
中級編:人を入れたマジックアワー撮影
続いては、マジックアワーで染まる風景に人を入れたい場合です。カメラを手持ちにすることで、自由度高く撮影できます。
【設定】露出を確保しながら手ブレを防ぐ
- F値:基本は風景をメインで撮るときと同じですが、背景のマジックアワーをぼかしたい場合はF2.8以下に設定。どれだけ被写体を際立たせたいかでF値を調整します。
- シャッタースピード:手ブレしない速さ以上で、可能な限り速くします。この際、露出の確保を忘れないように。
- ISO感度:極力低くして撮るのが理想ですが、手持ち撮影の限界を感じたときにはISO200程度まで上げることもあります。
【光の向き】逆光と順光による表現の違い
人を一緒に撮る場合、逆光で焼けた空を背景にすると明暗差で人はシルエット気味になります。それをうまく生かすことで、さまざまな表現ができるのもマジックアワー撮影の魅力の一つです。一方で、順光で撮影すると、被写体がオレンジ色に照らされ、ドラマチックな表現ができます。
逆光で、シルエット表現
ポイントは、空の焼けている部分に人がくるようにローアングルで撮ること。また、被写体に横向きになってもらうことで、身体のラインが出て動きのあるシルエットになります。右の写真のように黒い雲が多い場合でも、空の明るい部分に人を入れると際立ちます。
さらに、特徴的な形の小道具や服を合わせると、目を引く写真に。浴衣や、ボリュームのあるスカート、麦わら帽子、風船…等々。そして、手を上げたりスカートを広げたりと動きをつけることで、ストーリーを感じる1枚に仕上がります。
順光で、被写体をあたたかく照らす
撮影者が太陽を背にする順光では、被写体がマジックアワーで照らされ、あたたかみと立体感のあるポートレートを撮ることができます。理想は、被写体の背景まで染まる爆焼け空。ですが、上の写真のように爆焼けでなくても、雲や地上が暖色に染まり優しい雰囲気を表現できます。
応用編:マジックアワー写真の表現のアイデア
ここからは、マジックアワーをより魅力的に写すためのアイデアを紹介していきたいと思います。基本の撮り方に慣れてきたら、ぜひ試してみてください!
リフレクションを生かして天地を染める
空とつながる海のリフレクション
海のリフレクションは、波打ち際で波が引いた瞬間に空をきれいに反射します。遠くの風景を反射させ、地上の余分なものを写さないよう、より低い位置から撮るのがポイントです。潮の満ち引きや波のタイミングをよく見て、水面ギリギリのローアングルで写すと、鏡のように反転した幻想的な世界を写し出せます。
郷愁を誘う田んぼのリフレクション
5月頃の水を張った田んぼでも、リフレクションが見られます。特にマジックアワーの時間帯はノスタルジックな田園風景を切り取ることができます。ローアングルにすると苗や周囲の植物がシルエットとして効果的に入りますが、風があるとリフレクションが崩れてしまうため、風のないタイミングを狙いましょう。
都市夜景をマジックアワーでドラマチックに
ビルや街明かりのあらゆる光がマジックアワーの色と混ざり合い、ドラマチックな夜景を写すことができます。都市夜景とマジックアワーを撮るときは、空の比率が少ないほうがバランスがよく、主役の夜景が際立ちます。展望台などで撮る場合には、全体にピントが合うようF値を8~11に。シャッタースピードがかなり遅くなるため、三脚に固定して撮ることをオススメします。
ガラス玉に美しい情景を閉じこめる
ガラス製の小物を使うと、マジックアワーの美しい色をその中に取り入れることができます。上の写真ではガラス玉を使いました。夕焼け空がガラス玉の中に収まるように角度を調整すると、美しい風景を閉じこめたような印象的な写真に仕上がります。
マジックアワーを美しく仕上げる編集のコツ
マジックアワーは明暗差が大きく白とびしやすいため、撮影時点でどのような編集をするのか考えながら暗めに撮影をします。Nikonのカメラはシャドウに強いため、夕焼けの撮影時には白とびしないように空の明るさに露出を合わせています。使用するカメラによりますので、試しに暗く撮ってみて、編集で露出を上げたときにディテールが残っているか確認しておくと、感覚がつかめると思います。
※編集にはLightroomを使用しています。
編集前
【基本補正】
Lightroom編集画面
白とびしないようにハイライトをしっかり抑えつつ、シャドウを持ち上げます。このときハイライト-100、シャドウ+100と極端にしがちですが、明暗差がなくなり立体感のない写真になってしまうので要注意。「明るいところは明るい」「暗いところは暗い」とわかるように意識すると美しく仕上がります。
【色の調整】
Lightroom編集画面
色の調整では、極端に色を強調したりせず、できる限り自然な印象になるように心がけています。なお、撮って出しでは色に少し偏りがあることが多いため、自分の目で見たときの色味に戻していく…という感覚です。
例えば、全体が暖色に偏っていたら反対の寒色に寄せたり、朝焼けの光で極端にオレンジ色が強かったらオレンジの彩度を少し下げてナチュラルになるよう微調整していきます。
左:編集前、右:編集後
露出や色味の調整で、空の階調をしっかり出しながら、実際に見て感じた風景の美しさを表現できました。
もちろん、編集は好み次第ですので、真っ赤な空を表現するためにオレンジの彩度を強めたり、地上に差しこむ暖色の光をより明るくしてみたりと、自分がきれいだと感じる色味に整えていくのがよいと思います。
Photographer's Note
世界が幻想的な色で染まるマジックアワー。その美しさは、思わず足を止めて空を見上げてしまうほど。天気や湿度、太陽が沈む方向の雲の厚さなど、さまざまな条件によって染まり方が変わるため、マジックアワー撮影は待つ楽しみと、最高の色に染まったときの喜びを味わうことができます。
例えば上の写真は、雨で思うように撮影できない日が続いた後に見ることができた、見事なマジックアワーの朝焼けです。夜中に8時間かけて車を運転し、やっと到着したというタイミングだったこともあり、最高の気分でした。
マジックアワーは、きれいな焼けが見える日を予想するのは不可能です。だからこそ、想像をはるかに超えた美しい空の色に出会えたときの喜びは格別なのだと思います。
マジックアワー撮影におけるNikon機材の強み
今回は Z 7IIを使用しました。暗めに撮影するマジックアワーですが、編集で暗部を持ち上げるとディテールがしっかり描写されており、細部まで美しい風景を表現することができます。また、レンズは主にNIKKOR Z 14-24mm f/2.8 Sを使用しました。マジックアワー撮影で何より大切な逆光耐性。このレンズはコーティングがしっかりされているため、フレアや像の乱れなどがなく、開放F値からしっかりと隅々までシャープに解像してくれます。マジックアワーの撮影にはぴったりのレンズだと感じました。
Supported by L&MARK
※上記以外の機材で撮られた写真は、過去に撮影されたものです。
Koichi
岐阜県高山市出身のフォトグラファー。東京を中心に風景とポートレートをメインで撮影。「心に響く写真」をコンセプトに、日常を切り取る。デジタルカメラでの作品づくりに加え、フィルムカメラやオールドレンズも収集し、常に新しい写真の楽しみ方を模索している。