写真をデザイン的思考で分析 - 写真家ENOさん流、視線を誘導する撮影&レタッチ術

写真をデザイン的思考で分析 - ENOさん流、視線を誘導する撮影&レタッチ術

こんにちは、フォトグラファーのENO(@eeeno1218)です。普段は、スナップや風景、ポートレートを中心に撮影しています。

以前の記事で少し触れましたが、僕はデザイン的な思考が身についているせいか、写真の「どこを見せたい、際立たせたい」という“視線誘導”を自然と気にするようになりました。


その視線誘導の方法は、大きくわけると3つです。

  • 色(配色)
  • 明暗の対比
  • 構図による方向づけ(レイアウト)

これらを意識するかしないかで、同じ被写体を撮ったとしてもまったく印象の異なる写真になります。今回は上の3つのポイントについて、どんなことを意識して写真を撮影&編集しているのか、お話ししたいと思います。

 

色による視線誘導

1つ目のポイントは「色」です。みなさんそれぞれ、好きな色やなぜか惹かれる色があると思いますので、それを写真に取り入れてみましょう。

シンプルな配色の中にアイキャッチとして色を入れる

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僕の好きな色の一つに赤があります。上の写真では、横断歩道に目がいった瞬間、赤い車が走ってきたので反射的にシャッターを切りました。グラフィック的な白黒のライン上に赤がアイキャッチになったと思います。

 

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このときは出会い頭で急だったので、広めに撮りました。上の写真がこのとき撮ったオリジナルです。基本的にはベストな画角を狙いますが、SNSをはじめ使用先がさまざまなので、広めに撮るときもあります。

 

これを編集によって、自分が惹かれた光景に近づけていきます。僕の編集の流れは以下です。

【編集フロー】

  • 水平垂直の補正
  • トリミング
  • 露出や色味、肌などの補正

 

編集ポイント

水平垂直を補正して横断歩道だけにトリミングし、色味を微調整します。編集前後の写真で比較してみましょう。

 

BEFOREBEFORE
AFTERAFTER

 

色はいじろうと思えばいくらでも変えられますが、自分がいいなと感じた赤へ近づけるイメージで微調整しました。BEFOREはわずかな傾きに意識が奪われてしまうので、AFTERではしっかり水平垂直を補正しています。

ちなみに、編集ソフトを使えばマンホールをなくすこともできます。消すべきか残すべきか悩みましたが、あったほうがアクセントになると思い残しました。

色の組み合わせのコントラストで、被写体を際立たせる

Z 7、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S

Z 7、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S

 

僕がモデルさんを撮るときは「何か色の入った服」をお願いしていて、このときの服の色は青でした。歩きながらその色が際立つ場所を探すのですが、通りかかったところに赤い柱があったので、色の対比を生かして画づくりをしました。

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この図は色相環のイメージで、対極の組み合わせではコントラストが生まれて色が際立ちます。特に正反対に位置する関係の色の組み合わせを「補色」と呼びます。

僕の場合は、赤⇔青や緑、黄色やオレンジ⇔青などの組み合わせが好きで、それにプラスで白や黒を合わせることが多いです。補色関係を厳密に再現するというより、あくまで「自分の好きな色の組み合わせを探す」という感覚でいいと思います。

 

編集ポイント

BEFOREBEFORE
AFTERAFTER

 

白飛びしないように少し暗めに撮るようにしているので、撮影のときに感じた明るさや色味をイメージして調整します。発色のいい青が、柱の赤との対比でより際立ちましたね。

 

【色の組み合わせを生かした他作例】

僕は無意識に色を探すクセがあるのですが、色の組み合わせを知っているだけで、風景の見方が変わってくると思います。

 

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これは山に登ったとき、山頂から見つけた光景です。緑の中にポツンとある赤い建物で、まさに補色対比になりました。

 

撮影地:SHIBUYA SKY(渋谷スカイ)

撮影地:SHIBUYA SKY(渋谷スカイ)

 

渋谷スクランブルスクエアの展望施設「SHIBUYA SKY(渋谷スカイ)」の屋上で撮影した写真。周囲のガラスや鏡に反射することは知っていて、この日は鏡の反射を狙いました。マジックアワーのオレンジと濃紺の対比、人のシルエットがポイントです。

明暗の対比による視線誘導

2つ目のポイントは「明暗」です。その時々で光と影の状態は変わりますが、明暗差を生かすと被写体を際立たせることができます。

明暗対比で人物を際立たせる

Z 7、NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S/撮影地:ランドマークプラザ

Z 7、NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S/撮影地:ランドマークプラザ

 

上の写真で意識したのは、左右で明暗をわけることです。光と影の境界、スポット的に光が当たるところに立ってもらい撮影しました。明暗差をつけると、モノクロで見た場合でも被写体がしっかり際立ちます。

 

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ちなみに、モデルさんの撮影では表情やポーズを指定することはほとんどなく、それよりも光の状態が一番いい位置に顔や体の向きを調整することが多いですね。

 

編集ポイント

BEFOREBEFORE
AFTERAFTER

 

この写真のポイントは、トリミングです。右側を明るく強調するために、人物より左側に明るいところのある下部を取り除きました。

また、すべての写真を通して気をつけているのは、暗部をつぶさないことです。暗闇の中にもいろんな情報はあって、それを残すことで写真に深みのようなものが生まれると考えています。

明暗+光の現象を生かした表現

Z 7、NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S/撮影地:ランドマークプラザ

Z 7、NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S/撮影地:ランドマークプラザ

 

スポット的な光でも、ガラスの反射を生かしたのが上の写真です。左右対称の構図にし、どちらが実像か反射か曖昧にしました。視線の動きとしては、左右を往復するイメージです。

日常風景の中にある明暗対比

光と影による対比は、日常の中のさまざまなシーンで見つけることができます。

 

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紅葉の奥に見える横断歩道と人影。スポットライトのように差す光で生まれた明暗差によって、その間を行き来する人の存在が際立ちました。このとき、光のラインに入る人の配置を少し時間をかけて観察しています。

 

編集ポイント

BEFOREBEFORE
AFTERAFTER

 

何かを際立たせたいとき、どう切り取るかも重要です。光は路地の奥から差しこんでいますが、横断歩道を際立たせるようトリミングしました。撮影した時期が秋だったこともあり、手前の紅葉をアクセントにしています。

 

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こちらは、雷が落ちた瞬間をとらえた写真です。この日は、雷を含め荒れた天気になる予報だったので、狙って撮影に行きました。

黒い雲に覆われて暗くなった街並み、そこに落ちた雷で明暗対比が生まれ、1本の落雷が際立ちました。こういった自然現象でも明暗対比を見い出すことができます。

構図による方向づけで視線誘導

3つ目のポイントは、「構図による方向づけ」です。ラインを取り入れたり、ものの向きを考慮した構図にすることで、写真の中に方向性が生まれます。

写真の中にラインを取り入れる

Z 7、NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S/撮影地:ランドマークプラザ

Z 7、NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S/撮影地:ランドマークプラザ

 

エスカレーターに光の筋ができている光景を見つけ、そのラインを取り入れて構図を決めました。

 

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先ほどの明暗対比でモデルさんを際立たせる写真とは違い、光と影でできた形自体に視線を誘導しています。このとき、構図のアクセントになるようモデルさんにエスカレーターを下ってもらいました。光が一番いい状態で当たる位置でシャッターを切っています。

 

Z 7、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

Z 7、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

 

上の写真は影のラインを取り入れたものです。

 

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左上からの流れを意識し、その先にモデルさんに立ってもらいました。モデルさんが左側(Aの位置)では、見どころがすぐ終わってしまうため、影のラインでつくる方向の先に配置しています。

人間の視線移動は、左上から右や下に流れていくという考え方があり(縦書きの文章や右側にアイキャッチ要素があるものは別ですが)、上の写真でも左上からの流れを意識しました。

 

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試しに、同じ写真を左右反転してみるとどうでしょう? モデルさんにまず目がいき、右側はあまり見ないと思います。

 

編集ポイント

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今回のようにラインが写真の端にかかる場合、写真の角とラインの始点/終点が合うように気を配ります。

 

BEFOREBEFORE
AFTERAFTER

 

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その考え方で言うと、左下の影のラインも気になるところ。ですが、写真の角とラインの終点を合わせると、下の写真のようにモデルさんの足が切れてしまいます。

 

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優先度はモデルさんのほうが高いので、写真の角とは合わせない…という判断をしました。「何を優先させるか」を自分の中で明確にすることも、編集では大事なポイントです。

顔の向きと余白による方向づけ

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被写体が人や乗り物の場合、顔の向きがあります。電車の場合は、前後の先端部分です。

 

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そして、この顔の方向の手前に余白を空けると、方向性をつくることができます。上のシーンでは、電車が左下に進む方向性を持たせたくて、左側が空いているカットをセレクトしました。

 

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左側が空いていないものと比べるとどうでしょう? 実際の電車は右方向に進んでいるかもしれませんが、左の写真では「これから左方向に来そう」という印象があると思います。写真は静止画ですが、前後の動きを想像できるのもおもしろいですよね。

写真の広がりを考えた、縦位置と横位置の選択

これまで視線誘導についてお話ししてきましたが、意識するポイントはもちろんそれだけではありません。例えば、縦位置と横位置の使いわけひとつとっても意味があると思っています。

 

Z 7、NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S/撮影地:ランドマークプラザ

Z 7、NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S/撮影地:ランドマークプラザ

 

みなさんも自然にしていることだと思いますが、あらためて言語化すると“写真としての広がり”が最大限生きるように縦か横かを決めています。上の写真では、背景にグラフィック的な影のラインが入っている光景に惹かれて、縦位置で収めました。

 

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こちらは、モデルさんを背景との明暗対比で際立たせた写真です。背景の灯りをポイントにするため、広がりを生かせるよう横位置で撮影しました。

Photographer's Note

色や明暗に目を向けるだけで、世界の見え方が変わる

写真の視線誘導は、撮影するときにじっくり精査しながらやっているというより、クセとして無意識レベルで実践しているような感覚です。これはおそらく、デザインの勉強をしてきたからなのかもしれません。

今回の内容を全部すぐに覚えるのは難しいので…

  • 好きな色の組み合わせを探してみる
  • 光と影の明暗差が大きい場所を切り取ってみる

…など、普段の撮影の中に少しずつ取り入れてみてはいかがでしょうか。

それだけでまわりの世界の見え方が変わってくると思うので、ぜひ一度試してみてもらえたらうれしいです!

 

 

Model:れいちょる(@reis_1024
Supported by L&MARK

※撮影協力: ランドマークプラザ(横浜ランドマークタワー)

 

Z 7

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20190523173951

NIKKOR Z 35mm f/1.8 S

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NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

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NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S

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ENO SHOHKI

ENO SHOHKI

プロフォトグラファー。東京都在住。多摩美術大学に入学し、2014年卒業。 在学中に、プロダクトデザインを専攻すると同時に、以前より興味があったグラフィックデザインの知識も習得。 スナップショット・風景・ポートレートを中心とした、ユニークな視点で切り取ることを得意とする。