こんにちは、フォトグラファーの酒井貴弘(@sakaitakahiro_)です!
先日公開したフォトグラファー5人による横浜スポット記事では、横浜港観光船「マリーンルージュ」で撮影した、特にお気に入りのポートレート作品を掲載しました。実はこの作品、もともと2月27日から開催予定だったCP+2020用に撮影したものです。
※CP+2020は開催中止となりました。
横浜で、船で撮影した理由は
- 青い空ときらめく海
- 船の上に吹く海風
- 旅の情景を感じさせてくれる船内
…と、ポートレート作品に生かせるシチュエーションが詰まっていると以前から思っていたからです。
実際に撮影してみると、写真表現のさまざまなチャレンジができて、とてもオススメ! 今回は写真とともに、クルージングならではのポートレート撮影のポイントをご紹介していきたいと思います。
※掲載写真は2020年1月21日に撮影したものです。
クルージングらしい、旅感のあるポートレート
海の上という特別な空間で過ごせる船は、日常から離れてちょっとした旅気分を味わえます。旅感が伝わる表現を目指して、まずは船内のレストランで撮影しました。
窓辺は、自然光が横からきれいに入り、海を眺める情景を演出できるので、必ず押さえておきたい場所。椅子に座ったり、テーブルを使ったりと動きを出すことで、臨場感やその場の空気感を表現できます。
角度を変えて、窓の外を背景に。海のきらめきが入ることで、一気に爽やかな旅の情景に変わります。画の中に加えたドリンクもストーリーが生まれるアイテムです。赤色をアクセントに、光が透過して輝く瞬間を狙いました。
窓際では、物思いにふける表情も画になります。引いて景色を入れた写真に加えて、表情のアップを入れることで、感情のこもった旅写真にすることができます。
Point レンズの焦点距離
今回は50mmと85mmの2本のレンズで撮影しました。
- 50mm:背景をしっかり画角に入れながら、モデルさんの存在感を出しやすい
- 85mm:特に水面に反射する光などの玉ボケをきれいにつくりたいとき
船内ではモデルさんとの距離がとれないことも多いので、50mmや85mmの場合は寄って表情やバストアップを狙うカットのほうが生きてきます。24mmや35mmくらいの広角レンズがあると、また違った世界観を切り取ることができるので、持っている方はぜひ活用してみてください。
デッキで風や海のきらめきを利用したポートレート
この日は天候に恵まれ、雲ひとつない青空と気持ちのいい海風が吹いていました。船のデッキに広がる壮大な空、きらめく水面、爽やかな白い船体など、ポートレート写真を彩る要素に溢れています。
海風を生かして、モデルさんの凛とした芯の強さを表現
少し引いて海沿いの風景や、船の特徴的な白い手すりが入るようにしました。シチュエーションが伝わり、“旅感”が出てこれはこれでいいと思います。ですが、強い風の中で凛と佇むモデルさんの芯の強さをとらえたいときは、もう少し寄って髪の動きや表情に集中します。
コントロールが難しい風になびく髪をそのまま生かすことで、普段は出せない“自然が生み出す動き”がアクセントになりました。
刻々と変わる髪の動き、そして顔の向きによって、まったく異なる瞬間を切り取れます。想像を超えた写真になるので、シャッターを切るのがとても楽しかったです!
Point 強風の中での配慮
デッキでの撮影では、かなり風が強い場合も。帽子などが風で飛ばされる可能性もありますし、目を開け続けると乾いてしまうので、注意が必要です。
海のきらめきを生かした、透明感のあるポートレート
今度は“海”を主体に。開放F値により、玉ボケをきれいにつくることができました。背景に水面のきらめきを大きく配置することで、透明感のあるポートレートになったと思います。風の動きも加わり、いろんな表情や仕草を切り取れました!
Point ベストな時間帯
撮りたいイメージによって、ベストな時間帯は異なります。
- 海や空の青を生かし、爽やかな印象で撮りたい場合は、日が傾く前(冬なら14時頃より前、夏なら17時頃より前)
- 情緒がある雰囲気を出したい場合は、夕焼けの時間帯
ぐっと引いて、景観を生かしたダイナミックなポートレート
この船は、大きな橋の下をくぐるので、その瞬間を狙って撮影しました。
こちらは、別の瞬間。青空が爽やかな写真ですが、背景に橋が大きく入るかどうかでダイナミックさが違うと思います。
ポイントは
- 船のデッキや背後の迫力ある橋などの広がりを生かすため、ぐっと引いた構図に
- モデルさんにデッキ中央に立ってもらい、シンメトリーを意識
- 撮影したい場所に差しかかる前に、構図やポーズなどを整えておく
観光船の場合は、そこまでスピードが速くないので連写はしなくても、何枚か撮影しておいて後でベストショットを選ぶのがいいと思います。
Point モデルさんの表情や仕草にも注目
先ほどの写真を寄ってみると、モデルさんは表情もダイナミックな構図に合わせて、かっこよく表現してくれていました。引きの構図でも、表情やポーズで印象が大きく変わります。
思いきり近づき、モデルさんの魅力によりフォーカス
クローズアップ撮影で、風になびく髪の動きを生かしながら力強い表現に。順光により、背景の青色や服の赤色を強く出しています。
寄るときは、瞳の中に光(キャッチライト)を取り入れることが重要です。目線の先に、光るものや白いものがあると入れることができます。今回は、水面の反射や船の白い部分などが入るようにしました。
Point 魅せたいものとピント位置
風に無造作になびく髪をあえてそのままにした上の2枚の写真では、エモーショナルな表現を狙いました。ポイントはピント位置。マニュアルフォーカスに切り替え、1枚目の写真では髪に、2枚目では髪の間からのぞく瞳にピントを合わせています。どこを魅せたいかで、ピント位置をコントロールします。
デッキの手すりを使った、ポーズのバリエーション
船のデッキの “手すり”を生かすと、ポージングの幅が広がります。
手すりに体ごとあずけて、力を抜く
手すりにもたれかかるポーズでは、自然に体から力が抜け、写真にほどよい抜け感が生まれます。特に2枚目では、白い手すりを画面いっぱいにすることで、モデルさんや服装などがより際立ちました。
手すりにひじをかけて、動きとクールさを出す
今度は、手すりにひじをかけてもらい、のぞきこむような動きに。クールな印象になったと思います。船の造形を生かして、奥行きを出せる構図も狙いました。
手すりの光と影を生かして、印象的な1枚に
強い日差しにより手すりの格子状の影が伸び、光と影のコントラストが生まれていました。光と影がモデルさんの顔や体に差しこむ位置を細かく調整して撮影。光と影のひと工夫を取り入れることで、写真をより印象的に変えることができます。
Point 船の揺れ対策
不安定な船の上では、構えをしっかりしていても土台そのものが揺れてしまうので、なるべく速いシャッタースピードに設定することをオススメします。
船内の素材を生かして、ひと味違うポートレートに
実際に船に乗ってみて気づいたのは、船内にはガラス窓のついたドアや鏡、階段など、さまざまな要素があることです。ここでは、船内の素材を生かした撮影アイデアを紹介したいと思います。
上は、ガラス窓のあるドアを生かしてガラス越しで撮影しました。反射で、青やオレンジなどの色を取り入れた画づくりを。ガラス越しの表現を入れると、他のシーンとは違った印象になり、バリエーションが広がります。
レストランの背面には大きな鏡が。これを利用し、外を眺めるモデルさんを鏡越しに狙いました。“反射”という間接的なアプローチで、鏡のくすみなどが入り少し淡い表現に。鏡のふちを前ボケにすることで、奥行き感もプラスしました。
2階建ての船には階段があり、そこも意外な撮影スポットです。螺旋階段とシックな手すり、モデルさんの服装と暖色のライトを利用し、アンティークな世界観をつくりました。
Point 撮りたいイメージと服装
今回は、空や海の青、船体の白に映える服装でモデルさんを引き立てました。ですが、よりクルージングでの旅感・物語性を演出したい場合は、爽やかな白いワンピースなどのほうがいいと思います。自分の撮りたいイメージと服装のマッチングも重要なポイントです。
Photographer's Note
船という非日常空間でのポートレート撮影
今回は“船”という非日常空間での撮影チャレンジでしたが、そのロケーションならではの表現があり、想像力がかき立てられる撮影でした。船だからこそ生かせる光や色は、画づくりにとてもいい条件がそろっていたと思います。
ロケーションを選ぶとき、「どんな景観か」というのも大事ですが、「どんな配色があるか」ということも大きなポイントです。「自分の好きな配色」を意識して撮影場所を選ぶことは、「自分の好きな写真」が撮れる近道かもしれません。
今回の空や海の青色、手すりや船内の白色という配色は、僕の写真ともすごく相性がよくて、自分らしい表現が存分にできたと思います。みなさんもぜひ、さまざまなロケーション撮影に挑戦して、自分なりの表現を見つけて楽しんでください!
船で撮影するときの注意点
ついつい撮影に夢中になってしまうかもしれませんが、クルージングを楽しむ他のお客さんがいることを忘れずに。他の方の迷惑にならないよう配慮しながら撮影しましょう。
横浜港観光船「マリーンルージュ」
出航場所:山下公園/みなとみらい/赤レンガ(撮影では、山下公園発に乗船)
TEL:045-671-7719(窓口営業時間:10:00~19:00)
出航場所ごとの運行時刻は下記よりご確認ください。
https://www.yokohama-cruising.jp/index.php
※運航や他のお客様の迷惑にならないようご注意ください。
※掲載写真は2020年1月21日に撮影したものです。
Model:小山モモ(@nekura_ganbaro)
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酒井貴弘
長野県生まれ。東京在住のフォトグラファー。ポートレートを得意とし、広告写真や企業案件、ポートレートなどの撮影案件から雑誌掲載、WEBメディアでの執筆、写真教室やプリセットのプロデュースなど幅広く活躍。SNSでは約2年間で総フォロワー10万人を超えるなど、SNSでの強みも持っている。