モデルの気持ち -フォトグラファーと作り上げるポートレート作品-

はじめまして、モデル・女優として活動しているイトウハルヒ(@as_sakana.dot)です。以前、こちらの記事(“写真の面白さ”の発信拠点―写真総合施設「REMINDERS PHOTOGRAPHY STRONGHOLD」)にてモデルとして登場しました!

普段は、フォトグラファー側からポートレートのコツやアイデアをご紹介している”キミと彩るポートレート”ですが、今回は写り手のモデル側の視点からより良い作品づくりのためのアイデアや気に留めていることをお伝えしたいと思います。

これからモデルを始めたいなと考えている方や、ポートレート写真を撮る方の役に立てたら嬉しいです…!

 

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イトウハルヒ

イトウハルヒ

『ミスiD2019』文芸賞を受賞後、広告、MV、CM、映画出演など幅広く活動中。SNSで独特の世界観を表現し、エッセイの連載をもつなどコラムニストとしても活動の幅を広げている。

 

今回はフォトグラファーの酒井貴弘さん(HIROさん)と撮影しました。もともと透明感のある素敵な作品を撮られる方だなあ、と思いつつ、作品を眺めていたのですが、今回撮影していただけることに…!もともとしっかりと作り込んだ作品が好きな私は、細部まで作り込まれているHIROさんと作品が作りたいと思い、今回私からお声がけさせていただきました。とうとうHIROさんの世界観に入れることが嬉しく、撮影をとっても楽しみにしていました。

※本撮影は2020年2月に実施したものです。



フォトグラファーと作品撮りのイメージのすり合わせ

HIROさんの過去の作品。Instagramでフォトグラファーさんの過去の作品もみつつ、イメージを膨らませます。


まず最初のステップでもっとも大切なのがフォトグラファーさんとイメージをすり合わせることです。どんな作品を作るのかをSNSのDM(ダイレクトメッセージ)などを使って相談します。

勝手ながら、HIROさんには特徴的な服をつかったファッション風の作品の印象があり、「モードな服でファッションスナップっぽく撮ってもらえないかな」と相談しました。HIROさんからは、「ファッションに寄ってしまうとポートレートとしての撮り方もかっこよく偏ってしまう。今回はいろんな表現を出すためにやわらかい雰囲気も足せないか」とイメージを膨らませてくれました。

撮りたいイメージを固めていくときには、言葉で伝えるだけでなく、雑誌の切り抜きやイメージに近い画像を見せ合って固めていきます。今回もお互いのInstagramに上がっていた過去の作品やPinterestで見つけた作品を見せ合って話した結果……3月の時期ややわらかさを含めた「春」をテーマに撮影することにしました!

今回は室内で春っぽいイメージを作るために、写真のような光や明るさ、ポージング、やわらかい表情などを参考にしました。


作品の方向性が決まったら、場所やモデルの雰囲気…などを詰めていきます。今回は「春」のイメージが撮れるよう、場所を太陽の光がきれいに入るスタジオにし、撮影時間もちょうど南向きの窓から日が差し込む10時〜としました。

私はHIROさんとの撮影ははじめてですが、DMなどで事前に打ち合わせをすることによって、人柄やキャラクターなどがわかるので、緊張もほぐれ、撮影がどんどん楽しみになります。



自分の外見をチェック!

さて、作品の方向性も決まり、髪型や服装のイメージなども固まったら、次はモデル自身のチェック。具体的には、自分が作品のイメージにどうやって近づけられるかを考えます。

「春らしさを演出したい!」とテーマを決めても、すべてフォトグラファーさんの指示にしたがっているだけでは良い作品にはなりません。自分の特徴を一番わかっているのは自分自身。「春らしさ」のテーマの中に自分という人物モチーフが配置されたときにどういう身なり・雰囲気の方がいいかを考えていきます。

まずは服装から。今回であれば、「春らしさ」のテーマと私自身の骨張った男性的な外見とのギャップを出した方が面白いのではないかと思い、服装をガーリーなワンピース、メイクもナチュラルなものを提案してみました。

ただ、写真でいくらスタジオを確認しても、実際に現場にいくと雰囲気が思っていたものと違うことも……。私は、不安なときは、似たようなお洋服を何パターンか準備して、現場でフォトグラファーさんと相談して決めるようにしています。今回もアイボリーやベージュのお洋服を3種類くらい準備して、いちばん春らしいワンピースにしました!

今回の服装イメージ。ひらひらとしたワンピースやシースルーのトップスで、軽やかな空気感を出せるようにしてみました。

 

メイクも服装のナチュラルな印象に合わせて、ブラウンのアイシャドウを使ったシンプルなものに仕上げています。

また、作品に映る部分をケアすることも必要なこと。背中を出す衣装だったら見えるところをケアするなど、実際の撮影をイメージして事前にお手入れしておくことも大切です。今回は丈が短いワンピースなので脚や顔周りのマッサージなどを行い準備をしました。



ポージングをストックする

撮影前に私がやっているもう1つの準備……それは、「ポージングのストック」です。

モデルは写真のなかの動く人物モチーフ。その動きだけで作品の雰囲気がガラッと変わってきます。例えば、構図が同じでも、表情の違いや、立ち・座りを変えるだけで……ほら、ぜんぜん印象が変わってくるんです。


引き、寄り、表情の違い、小物のある無し、立ち、座り……などのいろんなバージョンでどんな表現ができるか考えます。時にはフォトグラファーさんにも相談しながらポージングを考えていきます。

たとえば、過去の撮影のときには、逆光から入る光で肌をやわらかく女性的にみせたい、とのことで、身体を軽くひねったポージングを考えたり、室内の雰囲気を事前に見せてもらって、ドレッシーな衣装をいくつか用意したりしました(事前の準備はこのくらい大まかです(笑))。

イトウの過去の作品(撮影:鈴木啓太/urban)


ポージングを調べる時に使うのは主にPinterest。「ポートレート」「モデル ポーズ」などといろんなキーワードで調べて、お気に入りの作品をまとめておきます。

私がお気に入りにするのはなんとなく”違和感”があるもの。たとえば、「食べる」「起きる」「走り出す」などのなんらかのシーンの途中を切り取った動きのあるものだったり、日常の風景の中でモデルが「寝る」「もたれかかる」などの不思議なポーズをしていたり。手の使い方や視線の使い方が不思議で、「おっ?」ともう一度見直してしまうようなポーズが好きでまとめています。

ポージングのためにストックしていた作品たち


また、フォトグラファーさんが作品を公開しているSNSなどをみて、どのような作風なのか、モデルさんのポージングの好みなどをチェックします。

時には鏡の前で、いろんな作例を見ながら練習してみたり。撮影前に、ストックした作品たちを見直して、すぐ雰囲気を変えられるようにいろんなポーズの引き出しを確認します。



撮影当日。とにかく楽しむこと。

ついに撮影当日。
私自身HIROさんと作品をつくるのがはじめてなのでどきどきです……!

ここまできたら、準備は万端。最後のポイントは、撮影をとにかく楽しむこと!楽しむことで、いろんな表情を作ることができます◎

プロのモデルの方ならどのような状態でも場にあった最適な表情をつくることできますが、アマチュアにはなかなか難しいところ……。

最初は誰でも緊張するもの。でも、緊張がつづくと表情や動きなどが固くなってしまうので、柔らげるためにも撮影の空気を楽しみましょう。また、最初に撮影のリズムや雰囲気をつかむためにテストシュートのように何枚か撮ってもらえると、空気感がつかみやすいです。今回もHIROさんが「まあ、やってみよう!」と最初に数枚撮ってから始めてくださったので、緊張もすぐにほぐすことができました。

最初のテストシュート。もっとも自然な表情から徐々に崩したり、発想を変えたりしていろんなカットを撮っていきます。


また、音楽をかけたりフォトグラファーさんと話したりすることで自然な表情を作ることができるはず。今回も、HIROさんが撮影の雰囲気にあった曲をかけてくれて(「春」がテーマなので、少しアップテンポの曲でした)、いろんな動きをした時にフォトグラファーさんから「いい!」などのリアクションがあるととても動きやすいです。

今回の撮影だけではありませんが、私は撮影中にいろんな表情やポーズを出すように心がけています。ただ、当たり前ながら、自分の動きは完全には自分からは見えないんです……。とくに、顔のフリの角度や目線のあるなし、体・顔への光の差し込み具合、ポーズと背景の相性…などはシーンをカメラで切り取っているフォトグラファーさんから教えていただけるととっても嬉しいです。モデルがポーズのベースを作り、フォトグラファーさんに微調整いただく。それをくり返して、一枚ずつ作品を作っていきます。


たとえば、この写真は当初片目を隠したポージングをしていたのですが、HIROさんが両目見せた方がいいとアドバイスをくださってこのような作品に仕上がりました。
モデルとしては、いろんな引き出しをフォトグラファーに見せて、フォトグラファーが作品自体を調節していく、そういうコミュニケーションができれば、より良い作品が作れるのではないかと思います。

今回は春っぽい軽快な音楽を背景に、楽しく撮影することができました!お互いにアイデアを出し合ったり、試行錯誤を重ねたりしていろんな空気感のある作品を作ることができたと思います。

そんな撮影の結果、このような作品ができました!

 

 

 

 

いちばん話し合った、「春」のモチーフとして使ったガーベラの持ち方。手で自然にもったり、肩に沿わせてみたり、後ろ手に持ったり…。事前にストックしてあったいろんなポージングを参考に、どのように持ったら「春」を差し込むことができるかを2人で考えました。

 

この時は教室で授業をサボりながらうたた寝をしている女の子という設定を勝手に作って「その子だったらどんな動きをするかな」と考えて遊んでいました(笑)


お昼ごろにお天気に恵まれたので、外でも数枚撮影しました。外はあくまでも公共の場。普通の歩道などでは、通行の人の迷惑になったり、気も散りやすかったりします。慣れていない方は、人通りの少ないところや公園などで撮影すると集中してできるのでいいと思います。

 

 

 

 

外でもお散歩しながら撮影しました!あまり他の人の迷惑にならないように、人通りの少ない路地裏などを選んで撮りました。


撮っていただいたお写真は一度確認させていただき、NGなものがないか確認します。その後SNSヘ掲載したり、自分のブックに使わせていただいたりしています。また、メディアなどに掲載する場合は、フォトグラファーさんに確認してから使用します。お互いにどこに露出するかは事前に話し合っておくと、スムーズです。



最後に

作品撮りはフォトグラファーさんとモデルの二人三脚で成り立つもの。お互いのいいところを引き出しあって最高の作品を作れるといいですね。

いろいろと書いてきましたが、私もまだまだ発展途上。モデルとしての引き出しを増やして、もっともっとすてきな作品が作れるようになりたいと思います。

最後に、HIROさんからもコメントいただきました。

今回の撮影では、いとうちゃんの方からこういうイメージで撮りたいというイメージを持ってくれていたので、そこに合わせながら自分自身の発想を掛け合わせていくことができて、よりスムーズによりクリエイティブに作品を作り上げられたと思います。実際にお互いの相乗効果でテンポ良く撮影できたり、アイデアも多く出せて撮影で切ったシャッターの数も普段の倍くらいになり、編集の際の写真のセレクトが大変でした。笑

今回の作品では「春らしさ」というテーマの中でいとうちゃんの持っている表現力や世界観という魅力を引き出せるようにこだわりました。例えば撮影場所も動きのバリエーションを作りやすくいろんな表現をしやすいベッドがある部屋を選んだり、いとうちゃんのアート性のある世界観を春らしさの中に表現するために1輪の花をキーポイントの小物に選んだりしています。いとうちゃんとの掛け合わせで自分が思い描いてた想像とは違った写真を撮ることができたり、個人的にはとても満足の撮影となりました。

 


Model:小山モモ(@nekura_ganbaro)、yukino(@yk_____.jp
Edit:高澤けーすけ(@saradaregend
Supported by CURBON

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製品ページ ニコンダイレクト
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NIKKOR Z 35mm f/1.8 S

製品ページ ニコンダイレクト
20190523173952

NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

製品ページ ニコンダイレクト
hiro

酒井貴弘

長野県生まれ。東京在住のフォトグラファー。ポートレートを得意とし、広告写真や企業案件、ポートレートなどの撮影案件から雑誌掲載、WEBメディアでの執筆、写真教室やプリセットのプロデュースなど幅広く活躍。SNSでは約2年間で総フォロワー10万人を超えるなど、SNSでの強みも持っている。