夜の街角で映画のようなワンシーンを切り取る – 孤独と静寂が漂う写真の撮影方法

はじめまして、Nao(@Naonox_photo)です。
写真を見た人が「映画の主人公」になったように感じられる写真を撮り、それをSNSに投稿しています。孤独を背にして一人で生き抜く映画の主人公を頭の中にイメージしながら撮影をしています。

 

Zf、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

 

夜を覆う暗闇とその中に浮かび上がるおぼろげな光。その対比が、より孤独な感覚を表現しつつも、希望は失われていない様子をこれらの写真から感じ取れると思います。例えば信号機の写真では、右折だけは許されていることから、まだ残された道があるという希望。また、街灯の明かりしかない暗い道路を走っていく車の写真には、未来に対する不安を感じ取れるのではないでしょうか。

深夜は昼間に見る世界と同じ場所でも空気が一変しますし、写真を見た方を日常から異世界に引き込んでしまうような面白さがあります。忙しい毎日から離れ、静かな世界に浸れるのが、日常の風景を「映画のワンシーン」のように撮影する最大の魅力だと感じます。

今回は、このような写真に仕上げる撮影方法や編集など、実際に撮影する時の順番に沿って紹介します。

 

私が映画のワンシーンのような写真を撮り始めた理由

Zf、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

 

もともと写真を撮ることが趣味だったのですが、忙しい日常とは別の時間がほしくなり、自分自身と向き合うためにも孤独で静かな夜の時間に撮影することが増えていきました。プライベートでは、うまくいかないことが重なった時期でもあり、「映画の主人公のようにどんでん返しをしてやりたい…」という気持ちもどこかに存在したのだと思います。

SNSに投稿をするうちに共感のコメントもいただけるようになりました。見てくださっている方々の心を癒すことができればと思い、今も続けています。

撮影の事前準備

まずは「映画のワンシーン」のような撮影をするために事前準備していることを紹介します。

【機材選び】人の視点に近い50mmの単焦点レンズで落ち着いた自然な描写を映し出す

  • カメラ:暗い場所での撮影が多いので、高感度で撮影してもノイズが出にくいものや、長めのシャッタースピードに耐えられるような手ブレ補正が強力なものをおすすめします。
  • レンズ:人の視点に近く、落ち着いた自然な描写を映し出す50mmの単焦点を使うことが多いです。深夜や夜明けの時間帯に撮影することが多いので、光を多く取り込んでくれるレンズを選ぶようにしています。撮影では動き回るので、軽いレンズを選ぶと撮影に集中できると思います。

 

また、街灯などの光源を程よくにじませつつ、滑らかでシネマティックな表現のできるKenkoのブラックミストプロテクターを使用しています。

【時間帯】静寂で孤独な空気感は、深夜が作り出す

Zf、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

 

明るい部分と暗い部分の差が、より孤独な印象を引き立たせるので、誰もいない深夜帯の撮影がおすすめです。人の気配がほとんど無くなるので、静寂で孤独な雰囲気をそのまま写真に残せます。また、人の少ない時間帯だからこそ、街灯の光と暗闇のコントラストが強調され、写真を見る人が写真に入り込む余地が生まれます。

【撮影場所】街並みを見渡せるような小高い場所から撮影すると、心の距離を感じる描写に

Zf、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

 

撮影前にマップアプリやストリートビューで、どのような建物があるか、どういった場所があるかは確認することが多いです。上からのアングルになる場所や街並みを見渡せるような小高い場所から撮影すると、自分だけが世界から取り残されてしまったような、心が遠ざかるような孤独感を描写できます。

その他の事前準備としては、天気予報をよく確認するようにしています。一期一会の風景との出会いを大切にしていますが、雨の日はより孤独が際立つような写真を撮ることができます。

孤独な世界を捉える撮影ポイント

撮影時に大切にしていることは、夜道を歩きながらその空気に浸り、景色を眺めている時の自分の心が揺れ動いた瞬間を見逃さないことです。心が揺れたその風景こそ、まさに撮りたい映画のようなワンシーンそのものになるからです。

ここからは、撮影の際のポイントを紹介します。撮影時の視点や、光や影、アングル、構図によって世界観を表現します。

【撮影時の設定】

  • F値:少しでも明るく低感度で撮影するため、ほとんどの場合、F値は開放気味で撮影しています。
  • シャッタースピード:1/15~1/25(もしくはブレない限界まで)
  • ISO感度:6400を上限に設定します。 

【構図】手前から奥に向かって撮影すると、立体感のある写真に

Zf、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

 

三分割構図で捉えることを意識しています。また、道路や橋、建物の線を手前から奥に向かって撮影すると、立体感のある写真になります。

【アングル】与えたい感情によって高さを変えるに

Zf、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

 

水平かつ目線ぐらいの高さで撮影することで、落ち着いた描写になります。心細さを演出したい場合などは、腕を挙げてカメラを掲げて、ややレンズを下に傾けるようなハイアングルで撮るのがおすすめです。

風景が奥まで伸びているような場合は、ややローアングル気味に撮ることがあります。このアングルでは、夜空が広がる構図となり、自分が夜空に吸い込まれていくような、少し心細さを感じる描写になります。

【光と影】暗闇に浮かび上がる灯りで、光と影のコントラストを演出に

街灯や信号機の光で、光と影のコントラストが活きるように撮影しています。1つだけの点光源であれば、写真を見る人の視線が自然と光の方を向くように仕上がりますし、暗闇に浮かび上がる灯りが、より孤独な心情や寂しさを表現してくれます。

 

Zf、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

 

また、写真に余白をつくるために、光が地面や建物の壁に当たって、広めの面積を照らしている場所を探すことが多いです。そうするとシーンに広がりが生まれます。 

仕上がりを左右する設定やレタッチのポイント

撮影後のレタッチのポイントについて紹介します。

レタッチでは、映画のカラーグレーディングでよく使われる「ティール&オレンジ」を参考にしつつ、やや青色に寄せた色にするようにしています。

※ ティール&オレンジ:写真を青緑(ティール)とオレンジ色に偏らせること

 

  • 色味:シャドウ部分と中間調には青色を加えます。青色を加えることで、明るく照らされた部分を取り囲むように彩られたシャドウと中間色が、より一層孤独な空間を演出します。また、寒々とした写真に仕上げたい場合は、ハイライト部分にも青色を少しだけ加えます。

 

  • 明るさ:シャドウはできる限り持ち上げます。一方で、黒レベルは少し引き締めます。そうすることで、写真全体が引き締まった印象になります。ハイライトと白レベルは白飛びしすぎない程度に、好みで調整します。コントラストは、柔らかすぎず締まりすぎないよう適度に調整します。

 

  • 効果:落ち着いた写真になるよう、明瞭度とかすみの除去はややマイナスにし、テクスチャは少しプラスにします。


それ以外のポイントとして、SNSに投稿する写真はすべて、スマートフォンで一度確認するようにしています。これはモニターとスマートフォンでは画面の大きさがまったく違うため、同じ写真でも見る印象が大きく変わるからです。

また、SNSなど解像度をそこまで重視しない場合は、必要であれば思いっきりトリミングすることもあります。性能の良いレンズであれば、むしろ繊細な描写が際立つことがあるので、意外とおすすめです。

映画のような世界を写真に落とし込むためのアイデア

Zf、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

 

やはり、映画を参考にすることが多いです。特に、登場人物の心情を表すような孤独なシーンの構図や音楽、カラーグレーディングに注目して見ます。

よくゲームもするので、ゲーム内に出てくる風景や色彩、ライティングから学びます。ゲーム内はダイレクトにインスピレーションを得ることが非常に多いです。最近はフォトモードが搭載されているゲームもあるので、ゲーム画面を撮影することもおすすめです。

他には、世の中で流れているニュースも必ず見るようにしています。自分の世界観をしっかりと持ちつつも、世の中と自分が乖離し過ぎないようにするためです。

写真を通じて届けたいもの

Zf、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

 

最近よく考えるのが「つながりと孤独のバランスの在り方」です。家族、恋人、友人、職場、SNS。現代に生きる我々にとって多くの「つながり」を持つことはとても大切ですが、一人の時間をつくり、冷静になってみることも、また大切だと思うのです。

早すぎる世の中からほんの少しだけ距離と時間を取り、夜風に当たるように頭を少し冷やし、傷ついた心を癒す。そして静けさの中から、また自分の人生を見つけ出して前に進む。

誰にとっても「映画の主人公のように」生きてほしいと思いますし、私はその先にある「孤独の肯定」のメッセージを、あえてつながりの権化とも言えるSNSの中で届けていきたいと思います。

他人の人生に影響を与えようと試みること自体が間違っているかもしれませんが、少なくとも世の流れに孤独の力を持って少し反逆をしてみたいと思い、シャッターを切っています。

Nao

Nao

福岡県在住のフォトグラファー。静かな夜や夜明け、雨の日の風景を「映画の主人公のように」をテーマに撮影している。

 

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