フィーチャーアカウント運営の裏側―セレクト基準から今後の展望まで

フィーチャーアカウント運営の裏側―セレクト基準から今後の展望まで

フォトライフの楽しみ方は十人十色、さまざまなストーリーがあります。今回はInstagramを中心に活動されている「フィーチャーアカウント」をピックアップ。NICO STOP読者層に人気がある3つのアカウント設立者に、運営の裏話や、運営を通して感じた写真の楽しみ方・可能性について、語っていただきました。

 

#1 好きでつながる、好きが広がる―フィーチャーアカウントと写真の可能性

 

フィーチャーアカウントとは?

Instagramにおいて、フォロワーの指定ハッシュタグがつけられた投稿をピックアップして紹介するアカウントのこと(「ハブ」とも言う)。設立者をFounder、選者(運営)をModeratorやSelector、Memberなどと呼んでいる。

  

 

Good Portraits World
photo by @hakuchuu1882
(右)photo by@hakuchuu1882
photo by @maddestroy
photo by @hiro_photograph
(左)photo by @maddestroy、(右)photo by @hiro_photograph

 

Good Portraits World(以降、GPW)
@good_portraits_world
テーマ:ポートレート
タグ:#good_portraits_world

 

 

Today's Blue Collection
photo by @wa.mu.ba
(右)photo by @wa.mu.ba
photo by @__awo_
photo by @doi_natsumi_
(左)photo by @__awo_、(右)photo by @doi_natsumi_

 

 Today’s Blue Collection(以降、TBC)
@todays_blue_collection
テーマ:青
タグ:#todays_blue_collection

 

 

 

 

日々
photo by @kouya_matsushita
(右)photo by @kouya_matsushita
photo by @kamo_san2
photo by @satohikarumando
(左)photo by @kamo_san2、(右)photo by @satohikarumando

 

日々
@hibi_jp
テーマ:フィルムカメラで撮影された“日々”
タグ:#HIBI_jp、#日々フィルム

 

フィーチャーアカウント運営の実情とは?

まず、フィーチャーアカウントを作ろうと思ったきっかけを教えてください。

GPW:TRANSFER VISIONSという海外のフィーチャーアカウントをはじめて見たときに、衝撃を受けたことがそもそものはじまりです。VSCOなどのフィルターを多用したオシャレな作品をフィーチャーしていて、「こういう写真を見たかったんだ!」「日本でもこういう世界観を!」と思い、2015年にAS_ARCHIVE(Atmosphere Shot Archive)を立ち上げました。

 

Lucyさん@happylucy69

Lucyさん
photo by Lucy

「AS_ARCHIVE」や「Good Portraits World」を含むArchive Familyの設立者。ローキーでオシャレな写真が好みだが、固定観念にとらわれず、さまざまなテイストを取り入れた作品を撮影している。

 

GPW:AS_ARCHIVEは雰囲気や空気感がテーマのフィーチャーアカウントで、その他に空や日常、夜…とテーマごとにアカウントを作っていくうちに必然とポートレートにたどり着きました。
GPWはスタート当初、クール系やモノクロもセレクトしていましたが、現在は透明感のある作品などをメインにセレクトしています。

日々:AS_ARCHIVEやGPWはよく見てました!

TBC:GPWは運営の参考にもしたり、勝手に先生だと思ってます(笑)
TBCは、自分を含めていろんな人の投稿の中で「青い写真」にLikeが集まることを不思議に思ったのがきっかけです。収集癖があるせいか、「青い写真を集めるとどうなるのかな」って妄想が広がって…! 自分なんかが立ち上げていいのか悩んだんですが、「誰もやらないなら、私が!」と思ったんです。

 

櫻子さん@sako_photo

櫻子さん
photo by 櫻子

「Today’s Blue Collection」設立者。自身もフォトグラファーとして積極的に活動。右の写真をはじめ、花と水族館の多重露出作品を作っていた頃に「青の世界」に目覚める。

 

日々:僕は、みなさんのように「フィーチャーアカウントを立ち上げたい」という考えはなかったんですが、「いろんな日々を見たい」という想いとフィルム写真好きが重なって、フィルムで撮った日々を集めるアカウントをはじめました。

 

翔さん@_aeiua

翔さん
photo by 翔

「日々」設立者。自身もフィルムカメラを手に、じっくりと対話するように日々を記録している。右の写真は、情景や感覚が今でも鮮明に残る、自分自身の大切な「日々」。

 

日々:大きなアルバムを作るイメージで、タグをつけて投稿してくれたみなさんの「日々を集める・記録する」ことが目的です。日々、大切にしているものをどう記録しているか、特に匂いや音など「五感」を大事にしています。

 

現在のセレクト基準

  • GPW:見て温かい気持ちになる、「雰囲気のあるポートレート」をセレクトする傾向。フォロワーが見て、こういう写真、ロケーションやアングルで撮りたいという参考にもなるように。
  • TBC:「青くてきれいで素敵な写真」という大きなくくり。日々の中にある青や季節を感じられる青など、さまざまな青色。
  • 日々:フィルムカメラで撮影された「日々」の写真。特に五感を見て取れるか、なおかつ、日常に即してるか(落としこんでいるか)を注目。どういう想いで残した日々なのか、というキャプションで写真を選ぶこともある。

 

みなさん「好き」からはじまったんですね。立ち上げた当初はどうでしたか?

日々:僕は、自分のフィルム写真のアカウントもない状態ではじめたので、1年半前は誰も知らないアカウントだったと思います。そこから関連タグを探して、いいなと思う写真をひたすら探してフィーチャーして…というのをやっていくうちに、1人、2人、3人とフォロワーさんが増えていった感じです。

TBC:最初は地道ですね。私も1人でスタートして、知り合いから写真を選ばせてもらったり、宣伝してもらったり。どうしたらフォロワーが増えるか…とか、そのためにはギャラリーとしての美しさを追求しよう…とか、そういうことを試行錯誤していくうちに、少しずつ少しずつ認知されていくようになりました。

GPW:やっぱりそこは通る道ですよね。僕が4年前にフィーチャーアカウントを立ち上げたときも、投稿してくれる人がほとんどいなくて、毎日のように自分のフォロワーさんに「タグつけて!」ってお願いしてました(笑)

 

#1 好きでつながる、好きが広がる―フィーチャーアカウントと写真の可能性

 

そこから投稿やフォロワーが徐々に増え、運営に関わる人も増えていったんですね。

GPW:運営はあくまで無償で、普段の仕事をしながらやっていることです。毎日投稿をチェックしてセレクトして…というのは、投稿数が増えるほど1人ではどうしても難しくなるので、一緒にやってほしい方をスカウトしてチーム体制を取るようにしています。

TBC:TBCもそうです。素敵な投稿をよくしてくれるフォロワーさんにお声がけして、選者になってもらいました。関わる人が増えていく上で、運営しやすい方法を模索するのに少し苦労しましたね。

日々:うちは今年になって8人体制になりました。「いろんな地域の方を」と思ってお声がけしているんですが、その分、相談したくても簡単には会えないのがはがゆかったりしますね。でも、それ以上に複数人でやるメリットの方が大きいと思っています。選者1人1人の個性が出て、よりいろんな「日々」を集められるなって!

TBC:それ、わかります! もちろん作業量の分散もあるんですが、他の人が選ぶのもおもしろい展開になりそうだなって、ワクワクの方が大きかったと思いますね。

 

#1 好きでつながる、好きが広がる―フィーチャーアカウントと写真の可能性

 

フィーチャーアカウントの運営方法

  • GPW:3人体制(現在、設立者はセレクトせず)/1日3枚/曜日で分担し、各自セレクト&投稿。
  • TBC:4人体制(設立者もセレクト)/1日1枚/日ごとの選者がLINEグループ内のアルバムにセレクト写真をアップし共有、選者が投稿。
  • 日々:8人体制(設立者もセレクト)/不定期/それぞれが自由に選んだ写真を、意見交換などはせずに設立者が投稿。

進化するフィーチャーアカウント

1年以上続けてきて、選者が増えると、アカウントの方向性も変わってきませんか?

日々:人が増えるほど価値観が広がっていると思いますよ! はじめの頃は「日々の美しい部分」を切り取った写真が、今は「日々をそのままの形」で切り取った写真やその瞬間の温度感・空気感を淡くやわらかく撮っている写真が多いような気がします。人が写っていなくても、植物や食品とか、「こういう日々もあるんだな」って教えてもらっていますね。

 

初期初期
現在現在

 

TBC:テーマや「好き」という気持ちは変わっていませんが…徐々に「青」の種類が増えてきました。私の好みもあって最初は淡い写真が多かったんですが、夜や影の暗い青、物が生み出す青など、まだまだ青の可能性を感じますね。青い髪の色=ファッションの青という切り口も新しい気づきでした!

 

初期初期
現在現在

 

GPW:最新を伝えることも役割なので、変わるのは必然だと思いますよ。GPWは「かっこいいポートレートをフィーチャーしたい」と思ってはじめたんですが、最近はやわらかいイメージが多くなりましたね。2年9か月前に運営をjunさん(@pppeluche)に引き継いでから、僕自身はセレクトしていないんですが、どういう写真がフィーチャーされるのかすごく楽しみです。

 

現在初期
現在現在

 

変化も楽しいんですね! その中で、今こだわっていることってありますか?

TBC:「いろんな青色を紹介していきたい」ということが大前提なんですが、フィーチャーするのは1日1枚と決めています。昔は1日3枚だったんですが、 “貴重な1枚”というのが今のスタイルです。

GPW:うちは1日に3枚フィーチャーするんですが、フォロワーさんが見て「こういう写真、ロケーションやアングルで撮りたい」と、参考にもなるような写真をセレクトしています。
最近は、3作品を組んだ1枚のストーリーズ画像としての美しさにもこだわっています。「おしゃれなストーリーズにのせてもらうのが夢でした」というDMもいただいたり、やりがいを感じますね。

日々:日々ではキャプションにもこだわっています。写真の紹介ではなく、日常の記録として「The days, the record」と入れるんです。1枚見て終わるのではなく、投稿者のアカウントに飛んで「その人の日々を見てほしい」と思っています。

 

#1 好きでつながる、好きが広がる―フィーチャーアカウントと写真の可能性

 

日々:それともう一つ。ハッシュタグを使う方は少なからず「誰かに見てほしい!」と思っているはずなんです。そのために僕らがいて、少しでも見逃さないように記録していきたいと思っています。

GPW:僕もそう思います。フォロワーさんがまだ少なくても、素晴らしい作品をたくさんポストしている方もいるので、世の中に紹介していきたいです。

TBC:感謝のDMがくるとうれしいですし、運営としてもやりがいを感じますよね!

大事なのは、愛着ややりがいを持ち続けること

運営を続けてきて、どんなところに楽しさややりがいを感じますか?

GPW:自分が選んだ写真の評価が高かったときはうれしいですね! 逆に評価が低かったときは「みんなわかってないな」って思っちゃうときも(笑)…でも、根底にあるのは「こういう写真を撮る人がいるんだよ」って紹介したいということなんです。それがきっかけで新しいつながりが生まれてくれればさらにいいなって思いますね。AS_ARCHIVEでは毎年「ミート」という撮影会を実施していて、最大50人ほど集まったときもありました。

 

2018年に開催したミート

2018年に開催したミート

 

GPW:関東では葛西臨海公園や代々木公園などの他、今年6月には正式な許可を取って大学のキャンパス内でも行ってかなり盛り上がりましたね!
10月には大阪で、事前にいくつか撮影ポイントを決めて散歩しながら撮影する「ウォークラリー形式」のミートを開催しました。僕が応援しているプロeスポーツ選手にモデルとして参加してもらったんです! 純粋なインスタグラマーだけではなく、異なる趣味を持つ人たちが参加して、それを機会につながってくれたらうれしいと思っています。ですので、これを機に「一緒にやりませんか!」とお声がけがあったらとてもうれしいです!

TBC:TBCでも、オンラインだけではなくオフラインも大事にしたいという想いで「TBC Meet UP!」という撮影会を実施しました。「フォロワーさんは嗜好性も似てるんじゃないかな」と思って、まずは関東限定で。30人近く集まり、とても盛り上がりました!
これがきっかけで、フォロワーさん同士で撮影に行ったり、私も来てくださった方の展示会におじゃましたり、新しいつながりが生まれましたね。自分の企画でそういうことができるって本当にやりがいを感じます!

 

2019年に開催したTBC Meet UP!

2019年に開催したTBC Meet UP!

photo by @nanono1282
photo by @curumu27

参加された方の作品(左:@nanono1282さん、右:@curumu27さん)

 

TBC:毎日のセレクトの中でも、選者さんたちが積極的にいろんな青色を探してくれるので、新しい発見ばっかりです!

 

#1 好きでつながる、好きが広がる―フィーチャーアカウントと写真の可能性

 

日々:日々ではタグを使い続けている方がたくさんいて、日々の移り変わりが見られるのも楽しみの一つです。

 

photo by @ainonhal

@ainonhalさんの日々(左から2018年2月、2018年12月、2019年7月にフィーチャー)

 

日々:上の写真はすべて同じ方の投稿なんですが、はじめてフィーチャーしたのが「日々」を作ってまだ半月も経っていない頃です。そこから1年半ずっとタグを使い続けていただいて、何度もフィーチャーさせていただきました。この方のアカウントを見ると特に感じられるんですが、子供の成長やかけがえのない日々を大切に、愛をもって残されているのがわかります。
「日々で残したいのは、そんな写真だ」と、一つの答えが出た気がしました。これは、続けてきたからこそ得られたものだと思います。

GPW:大切なのは、続けることですよね。無償で、限られた時間の中でやってることなので、苦痛を感じてしまうと続かない。途中で更新が止まってしまったアカウントもありますし。大変ですけど愛着を持ち続けることが大事だと思います!

 

#1 好きでつながる、好きが広がる―フィーチャーアカウントと写真の可能性

 

フィーチャーアカウントを立ち上げたい方に向けて

  • GPW:誰もやっていないようなテーマがオススメ。人気が出るほどにやりがいもあり、続ける意欲につながります。
  • TBC:大事なのは「好き」の熱量。自分のフォロワー数は関係なくて、まず一歩踏み出してみることからです。
  • 日々:「これが好き」というものがあれば、はじめてみるのがいいと思います。好きな気持ちを、信念を曲げずに!

フィーチャーアカウントのこれから

最後に、フィーチャーアカウントを通じて、今後どんな活動をしていきたいか教えてください!

GPW:影響力のあるアカウントが続々登場する中で、何か新しいことを発信し続けることが大切だと思っています。TwitterやnoteなどInstagram以外のタッチポイントでの発信も継続していきたいですね。
あとは、コラボです!

日々:コラボ、すごくやりたいです! 相乗効果で広がりが生まれて、最高のプラットフォームになりますよね。

GPW:以前は新しいフィーチャーアカウントができたら、よくお声がけしてました。コラボするアカウントと特定のお題を決めて行う「ジョイントチャレンジ」というイベントで、フォロワー数アップや投稿の活性化にもつながるんですよ!

日々・TBC:やりたいです!!

GPW:ぜひぜひ!

 

#1 好きでつながる、好きが広がる―フィーチャーアカウントと写真の可能性

 

日々:それと、写真展をやりたいです。記録の最高峰が写真展だと思っていて、写真1枚とじっくり向き合う機会を作りたいなって。

TBC:写真展やイベントは、TBCでもやっていきたいです!
他には、「青」は青でも、「海」「空」などの自然の青だったり、「群青色」「浅葱色」などの伝統色だったり、それぞれの青をフィーチャーする「Blue Collection」もおもしろいかなって。やりたいことがたくさんあるんです!

GPW:モチベーションアップのアクションを起こして、フォロワーさんに何かを提供していくこともフィーチャーアカウントの役割ですよね。なので、今回のこの企画も大きなアクションかなって思います!

日々・TBC:そう思います!!


  • 同じ“好き”を共有、共感できる
  • 新しい発見、気づきがある
  • つながりが生まれる

…と、写真の楽しみ方が大きく広がるフィーチャーアカウント。投稿するもよし、見るだけでもよし、自分で立ち上げるもよし。“好きでつながる、好きが広がる場”をぜひ活用してみてください!

 

インタビュー写真:jun(@pppeluche
Supported by L&MARK

Lucy

Lucy

AS_ ARCHIVE」や「Good Portraits World」などArchive Familyの設立者。どんなシーンを表現するかというクリエイティビティを重視した撮影スタイル。セレクトにも反映されている。



櫻子

櫻子

埼玉県本庄市出身のフォトグラファー。透明感のある、儚い雰囲気をテーマに作品を制作。地元や旅した地域の魅力発信にも力を入れている。青くて素敵な写真をフィーチャーする「Today’s BLUE Collection」の運営や、講師活動なども行っている。


翔meg

日々を記録する「日々」の設立者。「Green Film Magazine」の設立者でもある。自身もフィルムカメラで、じっくりと対話するように日々を大切に切り取っている。