雪の妖精シマエナガを撮り続ける写真家が教える、出会う秘訣と撮影のポイント

雪の妖精シマエナガを撮り続ける写真家が教える、出会う秘訣と撮影のポイント

はじめまして、北海道在住の写真家・やなぎさわごうです(@daily_simaenaga)。

みなさん、「シマエナガ」ってご存じですか? 主に北海道に生息する小さな鳥で、冬は白い体がまん丸になり、特にかわいいです。“雪の妖精”と呼ばれるその姿に魅了され、撮影をはじめて6年ほど。より多くの人に魅力を届けるために、自分で撮った写真やシマエナガに関する情報をSNSで発信しています。

 

シマエナガってこんな鳥

Z 7II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S

Z 7II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S

 

体長約14cm・体重8~10gほどの小さな鳥。冬は寒さに耐えるため白い羽毛に空気を含み、大福のように丸くてモフモフでとてもかわいいです。短いくちばしで小さな虫や木の実をついばみ、木から木へと素早く移動するため、姿を見るのが難しく撮影にもコツがいります。

 

この記事では、シマエナガ撮影で大切な出会う方法と、撮り方のポイントをお伝えします。冬はスズメなども冬毛でまるまるとしていてかわいいので、ぜひ身近な野鳥でも試してみてください!

 

シマエナガの習性と出会う秘訣

シマエナガ撮影の第一歩は出会うこと。私の場合、撮影をはじめて1か月ほどは姿を見ることすらできず、シマエナガの習性や行動パターンを学んで、やっと出会うことができました。

ここでは、シマエナガを見つけやすい時期と探し方のコツを紹介します。

【場所・時期】ふわふわの姿が見られる冬が狙い目

本州で観測されることもあるようですが、生息地は主に北海道全域。暖かい時期は山奥の森で暮らし、山の木々が葉を落とす11月頃から(網走など特に寒い地域は1~2月を除いて)私が住む札幌の木が多い公園や街路樹でも見られます。白くてまん丸な姿になるのは、冬のはじまりから3月頃までです。

 

 

木の低い位置にとまる時期がベスト

Z 7II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S

Z 7II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S

 

シマエナガは動きがとても俊敏なため、基本的には木にとまっているところを撮影します。撮影の難易度は地域の植生によって変わり、札幌市内では12~1月中旬頃まではカラマツの高い位置で採食していることが多いので、見つけるのが難しいです。1月下旬頃には、イタヤカエデの樹液を目当てに木の低い位置にいるので、比較的見つけやすくなります。

 

 

早朝&積雪中のシマエナガがいちばんかわいい

Z 7II、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR

Z 7II、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR

 

シマエナガは天候に関わらず日の出から日の入りまで活動していますが、特に早朝は活発なので出会いやすいです。また、朝は気温が低いので、防寒のためにいっそう丸くなっています。雪が積もっていると、レフ板効果でお腹まで光がまわって真っ白な羽毛が際立ち、まさに「雪の妖精」です。

 

移動コースを把握してチャンスを増やす

シマエナガは、木から木へとある程度決まったコースを群れで飛ぶ生きものです。姿を見かけたら行動をしばらく観察して、飛んでいく方向へ歩いていき移動コースや採食する場所を把握。そこに先回りすると撮影のチャンスが増えます。また、シマエナガの好きなイタヤカエデの樹液が流出しているところを見つけたら、木の前で待ち構えるのも効果的です。

 

【探し方】シマエナガの鳴き声を覚える

Z 7II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S

Z 7II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S

 

シマエナガはとても小さく、枝が入り組んだ場所にいることが多いため、視覚だけで探すのはとても難しいです。まずは耳を澄ませて、シマエナガの鳴き声のする方へ近づいて探してみましょう。

鳴き声の種類はいくつかあり、定番は「ジュリリ、ジュリリ」というもの。人間やカラスなどの生きものと遭遇したときに発する鳴き声と言われていて、バードリサーチ 鳴き声図鑑や動画サイトでも聞くことができます。

その他にも、採食時の「チッチッチッ」や仲間に危険を知らせる「チリリリリリ」などがあり、私は観察を続けていくうちに自然と覚えていきました。

シマエナガのかわいい姿を撮るコツ

Z 7II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S

Z 7II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S

 

シマエナガに出会えたら、次はいよいよ撮影です。撮影に適した機材と設定、光の向き、構図のポイントをお伝えします。シマエナガは人間の姿を見るだけで飛び去るほど警戒心は強くないので、静かに落ち着いて撮ることが大切です。

【機材】動きに対応する性能と超望遠が必須

体が小さく動きが素早いため、かわいい姿をとらえるには機材選びが重要です。

  • カメラ:正確で速いAF性能と、いい瞬間をとらえる連写性能を重視しています。 Z 7IIは、入り組んだ木の枝の中のシマエナガにもピタッとピントが合い、連写速度が速いのでかわいい姿も逃さず写してくれました。また、早朝は冷えこみが厳しく雪が降る場合もあるので、堅牢性の高いカメラが安心です。
    今回はフルサイズでしたが、野鳥撮影は望遠であるほど有利なので、焦点距離が1.5倍になるAPS-Cサイズのカメラでも十分にチャレンジできます。

 

Z 7II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S

Z 7II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S

Z TELECONVERTER TC-2.0xを使用して、焦点距離800mmで撮影。

 

  • レンズ:小さな姿をとらえるため、焦点距離300mm以上は必要です。鳥は注視するときに片目で見る習性があるので、近づきすぎて撮影者に気づくと横向きになってしまい、いちばんかわいい正面顔を撮ることはできません。距離を十分にあけて焦点距離750mm程度で寄ると、かわいい表情をとらえやすくなります。また、機動性を重視して手持ちで撮るので、手ブレ補正機構を備えたレンズを選びましょう。

【設定】高速シャッターと連写で写し止める

手持ち+望遠なので、手ブレを防ぐためにシャッタースピードを速めにするのがポイント。そのため、ISO感度は昼間でも少し高く設定します。白いくもり空や雪の中では、白とびしてシマエナガが背景に紛れないように、少し暗めに撮るのもコツです。

 

Z 7II、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR
Z 7II、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR
Z 7II、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR

シャッタースピード1/1000秒、F7.1で撮影。木の上でも1秒たりともじっとしていることはなく、何かをつついては枝から枝へと移動します。

 

  • シャッタースピード:手ブレ防止のため、1/1000秒程度に設定します。
  • レリーズモード:木の上でもせわしなく動いているので、連続撮影で一連の動きを写し止めます。
  • F値:ピントを合わせやすくするために、F7程度に設定。望遠なので、このくらい絞っても周囲の枝をぼかして、シマエナガを際立たせることができます。

 

Z 7II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S

Z 7II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S

くもっていたのでISO10000に上げて撮影しましたが、クリアに描写できました。

 

  • ISO感度:明るさはISO感度で調整します。晴れた日の日中はISO500~640程度が目安。くもりの日や影になっている場所では、ISO2000以上に設定することもあります。
  • フォーカス:シャッターを半押ししている間、ピントが固定されるシングルAFサーボ(AF-S)で、シマエナガにフォーカスしながら構図を調整します。

【光の向き】順光で色や形をしっかり描写する

Z 7II、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR

Z 7II、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR

くもりで全体的に日差しは弱い状況でしたが、シマエナガに影や枝葉が被らない位置に移動してから撮影しました。

 

シマエナガの白さとフォルムが際立つ順光で撮影します。斜光は、枝の影が被ってしまうことが多いので、なるべく避けましょう。姿を見ると焦ってその場で撮影してしまいがちですが、落ち着いて順光で撮れる位置に移動してから、シマエナガがこちらを向くまで待ち構えることが大切です。

【構図】日の丸構図で背景はシンプルに

せわしなく動き回るため、構図を整えるのはなかなか難しいです。手ブレしないように脇を締めて横位置でしっかり構え、シマエナガを中央に写すことに集中して、余裕があれば背景にも意識を向けてみましょう。

 

 

目視→ズームの手順で画角に収める

Z 7II、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR

Z 7II、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR

 

はじめからレンズをのぞいていると、姿を見つけにくく見失いやすいです。鳴き声がしたら立ち止まり、声がした方を目視して、動くものが見えたらレンズを向けます。はじめは広くとらえて、少しずつズームしながら撮影しましょう。このとき寄りすぎると、シマエナガが移動したときにすぐ画角から外れてしまうので、余白を残してフレーミングします。

 

 

余分なところは後でトリミング

編集をする際に、シマエナガが目立つように余計な部分をトリミングします。基本的には日の丸構図で、シマエナガの視線の向きや背景・枝の流れによって上下左右のスペースを微調整しましょう。

 

Z 7II、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR
Z 7II、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR
Z 7II、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR

左:トリミング前、右:トリミング後

 

上の写真は、カラマツの枝にとまるシマエナガ。せっかく正面顔が撮れたのですが、画角に対して小さく手前の枝に積もった雪が目立っていたので、大幅にトリミングしました。枝の流れと松の実で右側に視線が向きやすいので、左側の空間を少し広めにあけてバランスをとっています。

 

 

背景はなるべくシンプルに

Z 7II、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR

Z 7II、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR

 

シマエナガは枝が入り組んだ場所にいることが多いですが、上の写真のように木の頂上付近に出てきたときはシャッターチャンスです。撮影位置を調整して背景を空にすると、シマエナガの存在が際立ちます。この日はくもりだったので空が白いですが、雲一つない青空が理想のシチュエーションです。

かわいいシマエナガギャラリー

ここからは、私が今回撮影した中で特に気に入っている写真を紹介したいと思います。シマエナガのいろんな表情やフォルムのかわいさに注目していただけるとうれしいです。

 

Z 7II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S

Z 7II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S

 

焦点距離400mmでとらえた正面顔。模様が眉毛のようで、キリッとした表情に見えるのがとてもかわいく、少し首をかしげたようなポーズもたまりません。太い枝とのコントラストで、妖精のようなシマエナガの小ささが際立っています。

 

Z 7II、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR

Z 7II、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR

 

カラマツの枝にとまっているシマエナガです。このような細い枝にとまれるのも、身軽なシマエナガならでは。枝にしっかりとつかまる足がかわいらしく、全身の半分を占める長い尾もしっかりと写っています。

 

Z 7II、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR

Z 7II、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR

 

「チッチッチ」という小刻みな鳴き声が聞こえたので、近くのカラマツの木に目を向けると、1羽が夢中で何かを食べていました。小さな口でついばむ様子が愛おしいですね。この日は天気がよかったので、青空を広めに入れて切り取りました。

 

Z 7II、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR

Z 7II、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR

 

カラマツの枝から枝へと飛び移る様子。動きが素早く画面中央にとらえることはできませんでしたが、広げた羽が光に透けてきれいです。このように羽を広げた姿は、狙って撮るのが難しい分、写真を見返したときに写っているとうれしくなります。

Photographer's Note

シマエナガを知ったことをきっかけに写真をはじめましたが、最初は出会うことすらできませんでした。鳴き声や習性を学び、ひたすら歩いて群れの移動コースを把握してはじめて間近で観察できたとき、大げさではなく本当に「妖精だ」と思いました。撮影は難しいですが、この感動をみなさんにも体験していただけたらうれしいです。

 

今回紹介した撮り方は、スズメなど全国にいる野鳥にも共通する部分が多いので、まずは身近な場所で試してみてください。冬はどの鳥もまん丸で、普段よりもかわいいですよ。

 

Z 7II、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR

Z 7II、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR

 

上の写真は、全国に生息しているヤマガラという鳥で、体長14cmほどとスズメと同じくらいの大きさです。少し頭でっかちなフォルムがかわいらしく、黒い頭と喉、赤茶色のコントラストが目を引きます。シマエナガより体が一回り大きく、動きもあまり素早くないので、はじめての野鳥撮影にオススメです。

 

野鳥撮影に Z 7IIを使ってみて

私のカメラはAPS-Cサイズなので、フルサイズをしっかり使ったのは今回がはじめてでした。 Z 7IIは、AF性能・連写性能は申し分なく、大幅にトリミングしても高画質で野鳥撮影にもってこいのカメラです。さらに、軽量で長時間歩き回っても疲れにくく、機動力が高いところも気に入りました。

 

野鳥撮影のマナー

  • 鳥の巣に近づかないようにしましょう。子育て中の親鳥は神経質になりやすく、身の危険を感じると子育てをやめ、巣を捨ててしまうことがあります。
  • 近づきすぎたり追い回したりするなど、鳥のストレスになる行為はNGです。ストロボなどの強い光も、鳥を驚かせてしまいます。
  • 撮影場所の情報公開は控えましょう。珍しい鳥や人気の鳥の居場所が拡散すると、撮影者が殺到して周囲の人に迷惑がかかる恐れがあります。
  • 餌づけをしたり、周辺の自然に手を加えてはいけません。野鳥本来の暮らしが損なわれてしまい、生きられなくなる可能性があります。

 

 

※新型コロナウイルスの感染症対策に十分にご留意いただくとともに、政府、自治体など公的機関の指示に従った行動をお願いいたします。

Supported by L&MARK

 

 

NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S

NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S

製品ページ ニコンダイレクト
※ Z シリーズカメラでNIKKOR Fレンズをご使用するにはマウントアダプターFTZを装着する必要があります。
やなぎさわごう

やなぎさわごう

北海道在住の写真家。北海道に多く生息する鳥・シマエナガを撮り続け、その魅力を発信している。写真集に『ゆきのようせい』『ぼく、シマエナガ。』『空飛ぶ豆大福』がある。