「色」は写真を構成するものの中で、自分らしさを表現できる要素の一つ。
フォトグラファーそれぞれが「自分らしい色」を持つ。
今回は3名のフォトグラファーに「自分らしいオレンジ」を表現した写真について伺いました。
SHUNさんの「自分らしいオレンジ」
ノスタルジックなオレンジの夕日が差し込む電車内
この写真は、夕方に撮影した「小湊鉄道」の電車内です。
レトロな電車の中で、「なんだか懐かしいな」と物思いにふけってしまうような雰囲気を表現しようと撮影しました。ポイントは、ノスタルジックなオレンジの夕日が差し込んでいるところです。まるで懐かしい気持ちを後押しするかのように、車内を温かく照らしています。
窓から差し込むオレンジ色の夕日が電車内全体に当たるタイミングをとらえ、写真にしっかりと明暗差が出ています。構図は、電車内の広さがわかるように横型で撮影し、奥行きが感じられるように工夫しました。
沈みゆく夕焼けの儚さと夕焼け色に染まった日常の一瞬
こちらは、夕暮れ時の多摩川に架かる丸子橋手前の信号です。沈みゆく夕焼けの儚さと夕焼け色に染まった日常風景の、まるで一瞬しか存在しないかのような世界観を表現しました。
この写真は、夕日の沈む5分前に撮影したもので、自然な夕日の色合いが出ている絶好のタイミングで撮影しました。空のグラデーションが綺麗に分かれていて、オレンジの色味をより鮮やかに際立てていると思います。
オレンジに染まった夕暮れの帰り道
これは、荒川区にある都電荒川線付近の路地を夕暮れ時に撮影した1枚で、夕日がちょうど綺麗に差し込む場所を選んで撮影しました。仕事終わりや学校帰りなどの帰り際にふと目にする、何気ない瞬間をとらえました。
構図は、建物を両側面に配置し、差し込む夕日の光に人のシルエットを入れることで、「帰る」という物語のワンシーンを演出しています。
SHUNさんの思う「自分らしいオレンジ」とは?
私にとって「自分らしいオレンジ」とは、夕方の優しくて、温かみのあるノスタルジックな雰囲気のオレンジだと思います。夕暮れや夕焼けを撮影するときは、自分が目にしている瞬間を大切にしながら、ノスタルジックな色味になるよう表現しています。
夕方という短い時間の中でしか存在しない景色を、どう表現するかを追求してきた結果が、今の自分らしさにつながっているんだと思います。
ノスタルジックな優しいオレンジを引き出すレタッチ
・色味:ノスタルジーなオレンジになるよう、色温度を少し上げ、オレンジの色相を下げるようにしています。不自然にならない程度まで色の強さを上げることで、「夕方らしさ」を表現しています。
・明暗:夕日の当たっている部分とそうでない部分をくっきりと分けるために、ハイライトを抑えてシャドウを上げ、優しい夕日の雰囲気に。さらに、コントラストをつけることで暗さに深みが増し、引き寄せられる感じを表現しました。
・効果:かすみの除去を下げ、露光量を上げることで、優しく温かみのある質感のノスタルジック感を表現できます。
今後の活動について
夕焼けや夕方の風景が大好きなので、これからも夕方という短い時間の中でしか出会えない景色を撮影していきたいです。そして、さまざまな場所の夕焼けや夕方の風景を撮影して回るフォトグラファーになりたいと思っています。
蜜柑さんの「自分らしいオレンジ」
すすき野原とオレンジのコントラストが生んだノスタルジーな瞬間
すすき野原を背景に被写体を撮影しました。
被写体の表情から感情を想像させる1枚が撮りたいと思い、単焦点レンズを使用し、被写体の表情に注目が集まるようにしました。また、風を利用し、被写体を追い風の向きに立たせ、背中を押されているような構図にしています。
風に揺れてゆるいカーブを描くすすきの柔らかいシルエットが、自分の作風にマッチしていると感じます。曇りの日の撮影だったのですが、被写体の肌には光が当たり、背景との明暗差がノスタルジックな雰囲気を生み出していて、気に入っています。また、写真全体の色数は少ないものの、メインとなる被写体のオレンジ色の彩度が高く、暗いすすき野原とのコントラストが効いているため、暖色の印象が強く感じられる1枚になりました。
異なる色で奏でる、心地良い距離感の3人
こちらは、三者三様のリラックスした様子を1枚に収めたくて撮った、ピクニックの作品撮りです。それぞれの個性を尊重しながら、どこか心地の良い距離感が感じられる様子を表現しました。
同じ場所で近くにいながら、それぞれが思い思いに過ごす様子を演出するべく、配色やバランスにこだわりました。それぞれ異なる色の服を着ていますが、全体的にウォームトーンでまとめることで統一感を持たせています。
黄色やピンク、緑といったオレンジ以外の色を取り入れたものの、オレンジの印象を保っているところがこの写真のポイントです。異なるカラーをまとめるとき、自分らしい表現を活かす方法として、私はカラーグレーディングを活用しています。中間色やハイライトにほんのりオレンジを加えることで、直接オレンジ色のものを写さなくても、写真全体に自分らしいオレンジの色味を表現できます。
明るい西日の光をバックにした友達とのかけがえのないひととき
友達との会話で元気をもらったり、気分が高揚したりする。そんなかけがえのない日常のひとときを追体験できたら、という想いを込めて撮影した1枚です。私の好きな、太陽の光の色温度が高い夕暮れ時に撮影しました。
明るい西日の光をバックに、伸びる影や光に透ける髪が温度感を演出しています。太陽が背中側にあることで、髪が明るく光に透けていて綺麗です。撮影時には、光をどう写し込むかで印象が大きく変わるので、とくに光を意識して構図を考えています。
さらに、西日の光をバックに影を落とし、色相のコントラストを強調しました。一面がオレンジの光に包まれるのも好きですが、明暗差をしっかりつけることで、より深みのある写真になったと感じます。また、撮影場所の歩道の色が真っ黒ではなく朱色だったことが、影の表現に味わいを加えてくれました。
蜜柑さんの思う「自分らしいオレンジ」とは?
私らしいオレンジとは、人工的で派手な色ではなく、柔らかく温かみのあるオレンジだと思います。とくに、町並み全体を温かく染める夕暮れ時のオレンジが好きで、私の写真表現にもよく表れているかなと思います。
また、オレンジは、「赤」と「黄」の両方の意味合いがあり、色彩心理的にも明るい気持ちや親しみを与える効果があると言われているようです。そんな見た人の心が温まるような、どこか共感できるような、柔らかさのあるオレンジが私の好きな色です。
夕方の光をイメージした温かい雰囲気の「Sunset Glow」
今回、私が作った「Sunset Glow」という「イメージングレシピ」を使って撮影しました。「Sunet Glow」は、夕方の光をイメージした温かい雰囲気を表現したレシピです。中間色の緑色を含む風景ととくに相性が良く、町並みや自然の中でも、優しく温もりのある写真に仕上がります。また、ポートレートに使う際は、肌に光が当たるシーンを意識して撮影すると、色のコントラストがより引き立つのでおすすめです。
今回私が使用したカメラは、2024年12月に発売のフルサイズミラーレス「Z50II」です。
イメージングレシピが特徴的なカメラで、専用のボタンも付いているので、簡単にレシピの切り替えができます。オートフォーカスも早く、撮りたい瞬間を逃しません。コンパクトで持ち運びやすいところが気に入っています。
最初から自分のイメージしている写真表現をのせて撮影ができるので、完成形にぐっと近づきながら撮影を楽しめます。どのような写真表現にしたいのか、被写体の方と同じイメージを共有しながら撮影に臨めるので、被写体の方とのコミュニケーションをより活発に、より正確に行えるところがとっても魅力的だと感じました。
今後の活動について
今後もオレンジをはじめとした、大好きな暖色系の色を生かした写真を撮り続けたいと思っています。
オレンジは、太陽だったり火だったりと熱を持った色です。小さな火でも、だんだんと周囲の温度を高めていくように、温もりは伝播していくものだと思います。そんな柔らかなオレンジ色の持つ温もりを活かした写真を通じて、見た人の心をじんわり温かい気持ちにできるようなフォトグラファーになりたいです。
蜜柑
2018年にフォトグラファーとしてSNSを開設。次第に写る楽しさにも魅了され、現在は被写体兼フォトグラファーとして幅広く活動している。ポートレートを中心に撮る写真は、温かみのある柔らかなトーンが特徴。展示会やフォトウォークの開催などSNSを越えた企画も手がけている。
Akine Cocoさんの「自分らしいオレンジ」
温かく包み込んでくれるような優しい夕日
夕暮れに染まる田舎の日常風景を撮影しました。普段から、仕事終わりの時間帯に撮影することが多いので、自然と夕暮れの写真を撮影することが多いです。そのため、「自分らしいオレンジとは?」と考えたとき、最初に思い浮かんだのも夕暮れの風景でした。この写真では、仕事終わりの疲れた心と体を癒してくれる、温かく包み込んでくれるような夕日の優しさを表現しています。
流れる川に映る夕空の色合いから温かみが感じられ、かつ川に反射した柔らかなオレンジの光がより温かみを引き立てていたので、それらが収まるように意識して撮影しました。よく見ると、太陽に重なるように鳥が飛んでいるんです。スナップ感覚で撮影することが多いのですが、こういった「遊び心」をしれっとプラスするのが好きです。
編集では、実際に目で見た夕暮れの優しさや温かみを再現できるように、色調を調整しています。
緑豊かな景色の中にあるオレンジ色のポスト
この写真は、田舎の風景に溶け込む郵便ポストです。バックに広がる木々の緑や空の青に、郵便ポストのオレンジがアクセントとして映えています。古びた郵便ポストの隣に古びたバスの待合室があり、その風合いが「田舎らしさ」を引き立てていました。また、無邪気に田舎を走り回る子どもの目線を意識して、低めのアングルから撮影しました。
私の住んでいる福井県では田舎の風景が多く、緑豊かな景色が広がっています。その中で、郵便ポストのオレンジの色味はアクセントになるため、普段からついつい撮影してしまいます。
親子の愛情を彩るオレンジの列車
地元・福井県を走るお気に入りのローカル線「越美北線」の列車と、ホームで列車を待つ母と子を撮影した1枚です。
普段からよく撮影していた温かみのあるオレンジ色の列車が、親子の愛情と重なっているように感じたので、このほっこりとした雰囲気を伝えられるように撮影しました。待合室で待っている親子の元に、ゆっくりと列車が入り、「ほら、列車が来たよ」とお母さんが子どもに話しかけている、そんな一瞬のドラマが伝わればいいなと思います。
今回、親子を主役として撮影したかったので、列車はあくまで脇役として1番奥に配置しましたが、オレンジ色の列車は存在感を残していて、親子と調和が取れていると感じます。編集では、親子の温かみがより伝わるよう、ホワイトバランスを調整して黄色味を加えました。
Akine Cocoさんの思う「自分らしいオレンジ」とは?
派手なオレンジではなく、柔らかく温かみのあるオレンジが自分らしいと思っています。
全体に調和した色味になることを大切にしていて、夕暮れの眩い太陽の穏やかな雰囲気や、安心感をおぼえるオレンジが「自分らしいオレンジ」だと思っています。
カラーミキサーで輝度差を広く表現する
基本的に、赤色はカラーミキサーでオレンジへ寄せるようにしています。輝度差を広く表現するためにハイライトを抑え、シャドウを持ち上げることが多いです。
部分補正を用いて強調したい箇所の質感をより強調し、逆に抑えたい箇所の明瞭度を抑えることもあります。
今後の活動について
オレンジ色の写真からは、どこか温かみが感じられます。見てくださる方にもこの感覚が少しでも伝わるよう表現していきたいです。今後も田舎での撮影がメインになるので、その中で自分だけの「オレンジ」をこれからも探していきます。
Akine Coco
福井県在住のフォトグラファー。身近な風景を「アニメのワンシーン」のようにとらえた作品をXで発表している。どこか懐かしく、物語を感じる情景は、国内のみならず海外での人気も高い。
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