やわらかい描写が特徴的なオールドレンズとデジタルカメラの組み合わせを、フィルムカメラユーザーとデジタルカメラユーザーの2人のフォトグラファーに体験してもらうこの企画。前回のフィルムカメラユーザーのnanoさんの記事はいかがでしたか?
※本記事では、もともとはフィルムカメラ用に作られた、マニュアルフォーカスのレンズをオールドレンズと呼んでいます。
今回は、デジタルカメラユーザーの嵐田大志さん(@Taishi_Arashida)です。フィルムライクな写真が好きな嵐田さんにとって、オールドレンズの描写はどのように映るのでしょうか?
嵐田大志さん
- 作風:家族写真、都市光景・ミニマル写真
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こんにちは、フォトグラファーの嵐田大志です。
僕はデジタルカメラで撮影した写真を編集ソフトでフィルムライクに仕上げるのが好きなので、オールドレンズで撮るとどこまでフィルムライクになるのか、普段の撮影の中に取り入れてみました。
インタビュー記事では「最近はもっぱらフルオート」とお話ししたんですが、オールドレンズはマニュアルフォーカスなので、そこがネックになるのかどうかも大事なポイントです。
オールドレンズの不確かな描写の魅力
まず注目したのは、描写です。
開放F値でのホワホワとしたやわらかい描写や個性的なボケ、ドーンと落ちる周辺光量など、デジタルカメラ用のレンズでは味わえない楽しさでした。
やわらかい描写と個性的なフレアやボケ
都市光景をバックに撮影した写真です。フレアも入り人物のまわりが非常にやわらかい描写になりました。ピントが合っている部分のやわらかさに対して、ボケは輪郭がかために出るレンズのクセもおもしろいです。
逆光の水面ではオールドレンズらしいにじみとフレアが発生して、エモーショナルに仕上がりました。
しっとりと湿り気のある暗部の質感
光をレンズに取りこむと独特のやわらかい描写になるオールドレンズですが、暗部の描写も特徴的です。上の2枚の写真は暗いシチュエーションで撮影したものですが、どこか湿り気のあるしっとりとした写り方をするような気がします。
ドーンと落ちる周辺光量
周辺光量がズドンと落ちてドラマチックになりました。見せたい部分が強調しやすくなったと思います。
絞り次第で、すっきりした描写にも
開放F値では少し曖昧なやわらかさがありましたが、絞ればクセが薄まります。上のようにF値を大きくしてミニマル写真を撮ると、現代的なすっきりとした描写になりました。この描写の幅広さはオールドレンズ×デジタルカメラの組み合わせならではだと思います!
現行レンズとの写りの違い
オールドレンズでも絞ると現代的なキリリとした描写になりましたが、解像感や色収差の少なさを求めるのであれば、やはり現行レンズのほうがオススメですね。
意外と苦にならないマニュアルフォーカス
家族を撮るときなど今は基本オートフォーカスなので、マニュアルフォーカスは少し不安だった部分でもあります。
動く被写体のピント合わせは難しいけど…
マニュアルフォーカスでは、動く被写体にはなかなかピントが合いません。ですが、ピンボケすらも画にする懐の深さを感じました。
静物とゆったり向き合える
マニュアルフォーカスで撮ると、いつもよりゆっくりしたテンポになる側面があります。道に咲く花などがいつも以上に目に入りますし、家の中で静物をゆったりしたペースで撮影できるのがむしろよかったです。
オートフォーカスが迷うような場面では、ピント合わせがむしろ早い
上の写真は、オートフォーカスが迷うような暗い場所でしたが、一瞬でピント合わせができました。意外にも、オートフォーカスより早くピントを合わせられる側面が同居するという発見がありました!
また、撮影中に感じたのは、オートフォーカスよりも自分がピントを合わせたいところに意識が向くということでした。そういう意味では、マニュアルフォーカスのほうが「何を見せたいか」を意識しやすくなるかもしれませんね。
マニュアルフォーカスでのピント確認
マニュアルフォーカスは少し不安だった部分でもあります。そういうときに便利だったのは、「ピーキング表示」です。これを設定すると、マニュアルフォーカスでピントが合っている部分の輪郭を色付きで表示してくれます。
少ないプロセスで、よりフィルムライクに仕上がる
今回は、撮って出し自体がすでにフィルムライクな雰囲気だったので、編集は「Lightroom」で最低限しかしていません。オールドレンズで撮影した写真は編集の手間が少ないにもかかわらず、よりフィルムライクに仕上がると感じました。
日常写真をオールドレンズで撮ると、よりフィルムライクなトーンに仕上げやすかったです。
無限遠のピントが少し怪しいですが、それも相まって郷愁を覚えるフィルムライクな写真になりました。
オールドレンズの描写を生かした編集ポイント
上の写真2枚も含めて、露出やホワイトバランスなどの微調整が中心です。青と緑のそれぞれの色相を青緑より(青の色相をマイナス、緑の色相をプラス)に振るとフィルムっぽさが出るので、今回はすべてその調整をしています。
「Lightroom」のカラーミキサー編集画面。
左:BEFORE、右:AFTER
写真はNikonのアプリ「SnapBridge」でスマホに取りこんで、モバイル版の「Lightroom」を使うので、いつもの編集プロセスで気軽にできます。
Photographer's Voice
今回オールドレンズのAI Nikkor 50mm f/1.4Sを使ってみて、少し曖昧な描写が“記憶そのもの”のような気がしました。人の記憶っておぼろげなので、それを映像化したような印象です。
旅行やイベントなどピントを外したくない場合や、動きまわる子供を撮るときなどピント合わせが難しい場合は、やはりオートフォーカスが使えるレンズがいいと思います。ですがそれ以上に、日常の中でオールドレンズを使うと、ひと味違った見え方が撮影時[ゆったりとした撮影ペース]も撮影後[アウトプットとしての写真]も楽しめて、とても魅力的に感じました!
Supported by L&MARK
AI Nikkor 50mm f/1.4S
製品ページ※Z シリーズカメラでNIKKOR Fレンズをご使用するにはマウントアダプターFTZを装着する必要があります。
嵐田大志
本業の傍ら、東京をベースにフォトグラファーとして活動。LightroomやVSCOを活用し、フィルム風の空気感を表現。家族や身近なものを中心にしつつ、頻繁に旅する海外でのスナップを撮り続けている。