写真で変わった日常、生まれたつながり - 写真家nichiiroさんインタビュー

f:id:nicostop:20200423110110j:plainフォトコンテストやSNS投稿など、これまでNICO STOPでピックアップした読者の方(NICO Grapher)を紹介していく新企画。

第1回は、「#夏の思い出」フォトコンテストで入選されたnichiiroさんです。生活の中にある何気ないものや瞬間を淡い記憶のように残していく、nichiiroさんのフォトライフをうかがってみましょう!

 

nichiiroさん

nichiiroさん(@nichi_iro

大阪在住のフォトグラファー。デジタルカメラとフィルムカメラの両方を愛用し、日常の何気ない光景を日々撮影している。

「#夏の思い出」フォトコンテスト入選作品。

誰の日常にもある“当たり前”を残したい

―「#夏の思い出」フォトコンテストの作品は、見る人自身の記憶がよみがえるような、鮮やかでどこか懐かしい素敵な写真でした! 普段はどんな写真を撮るのが好きなんですか?

nichiiro:僕は…特別ではなくて、ありふれている日常を感じられるようなものを撮りたい、誰の毎日にも存在する “当たり前”を残したいと思っています。近所の公園に生えている何でもない植物や、ただ佇んでいるものに惹かれることが多くて、そんなものたちばかりを撮っていますね。

 

FE2、AI Nikkor 50mm f/1.4S

FE2、AI Nikkor 50mm f/1.4S

FE2、AI Nikkor 50mm f/1.4S

FE2、AI Nikkor 50mm f/1.4S

 

nichiiro:あとは余白感のあるシンプルな写真だったり、淡い記憶のような色味が好みです。街を歩いていて自分の好きな瞬間に出会うとすごくワクワクして、1秒でも早く撮りたくなります!

 

FE2、AI Nikkor 50mm f/1.4S

FE2、AI Nikkor 50mm f/1.4S

まだ使われてない扇風機なんですが、「使ってもらえる日を待ち望んでたりするのかな〜」なんて、撮った後に想像していました(笑)

写真で変わった日常、生まれたつながり - 写真家nichiiroさんインタビュー

フルーツサンドを作る途中で撮った写真です。白いまな板の上にポツンといるみかんがかわいくて撮りました。こういうシンプルな写真も好きです。

写真で変わった日常、生まれたつながり - 写真家nichiiroさんインタビュー

後ろの桜と公衆電話のバランスに物語性を感じて撮りました。

 

―身のまわりの何気ない光景に、魅力を見出しているんですね!

nichiiro:旅行先でも、そういう光景に惹かれてしまうんですよ。

 

FE2、AI Nikkor 50mm f/1.4S

FE2、AI Nikkor 50mm f/1.4S

FE2、AI Nikkor 50mm f/1.4S

FE2、AI Nikkor 50mm f/1.4S

 

nichiiro:これは滋賀に旅行に行ったときの写真です。青空にポツンと出ている建物がかわいいな〜と思ったり、朝の光と窓の結露がきれいだな~と感じたり。些細な魅力を大事に写すことを心がけています。

―nichiiroさんの写真は、見ているこちらもそういう日々を過ごしている感覚になります。「記憶の断片」という感じで…。

nichiiro:記憶という意味では、友達と過ごした日の写真も好きです。ここ1~2年で、友達とも撮影に出かけるようになりました。

 

写真で変わった日常、生まれたつながり - 写真家nichiiroさんインタビュー

風が強くて友達が「髪の毛が飛ぶ!」と言っておさえていて、すごく楽しかった記憶も写真と一緒に残っています。

写真で変わった日常、生まれたつながり - 写真家nichiiroさんインタビュー

SNSのつながりでできた友達と桜を撮りに行ったときのものです。「写真を撮っていなかったら出会えなかった人ばかりだな〜」と写真を見るたびに思います!

 

nichiiro:写真がきっかけで、いろんな人たちと出会うことができました。多くはないですが、どれも大切なつながりばかりで。自分の写真を見て、撮ってほしいと思ってくれる人も増えましたし、それは本当にうれしいです!

―仲間が増えると、写真を撮るのがまた一段と楽しくなりますね。

 

写真で変わった日常、生まれたつながり - 写真家nichiiroさんインタビュー

 

nichiiro:上の写真はすごく大切な友達との“大切な日”を残したくて撮りました。もう一度この日に戻りたいと思うことがあって…それは後悔ではなくて、今の自分の写真の雰囲気でもっと素敵に残したいという想いからで。でも時間は戻せないので、「写真という形になったものでもいいから、もっと素敵に、忘れないように」と思ってシャッターを切りました。

―「思い入れのある写真」を被写体にして撮る…という残し方も素敵ですね!

デジタル写真のレタッチに悩んで、好きな色味だったフィルムのことを思い出した

―ところで、カメラは何を使っているんですか?

nichiiro:今は、デジタルカメラとフィルムカメラの両方を愛用しています。

写真自体は3年前くらいにバイクの免許を取ったのをきっかけにはじめたんです。いろんな場所へ出かけては撮るようになって、最初はスマホだったのが「せっかくだからカメラで撮ろう」とミラーレスカメラを買いました。

フィルムカメラは約1年前にコンパクトカメラを中古で買ったのが初ですね。新しいことをはじめようと思ったんですが、フィルムがうまく巻けなかったり、使いこなせずに挫折して。3~4か月ほどでやめてしまいました。

 

写真で変わった日常、生まれたつながり - 写真家nichiiroさんインタビュー

 

―一度フィルムから離れる時期があったんですね。

nichiiro:しばらくデジタルonlyだったんですが、写真編集に迷うようになってしまって…。PCの編集ソフトで調整しても自分好みの色味がなかなか出ず、レタッチ作業がおっくうになっていったんです。ふと「フィルムだったら、現像から戻ってくるときには好きな色味になってるのになぁ」と思い出して、気分転換にフィルムカメラを再開することにしました。

―コンパクトのフィルムカメラに再チャレンジしたんですか?

nichiiro:せっかく再開するんだったら本格的に一眼レフを手にしたいと思って、「FE2」を手に入れたんです。シャッターの感覚と音がすごく好きで、「撮ったぞ!」という実感が強くて撮るのが楽しくなります!

 

写真で変わった日常、生まれたつながり - 写真家nichiiroさんインタビュー

 

nichiiro:もともとは「フィルムカメラといえば銀色の機体!」というイメージが勝手にあって、その中でロゴなどのフォントを含めて自分好みのものを探していたんですが、ピンとくるものに出会えず…。そんなときにFE2のブラックを知って、「真っ黒のフィルムカメラなんてあるんだ!これにしよ!」と直感で決めました。レンズは、明るさがほしいので「AI Nikkor 50mm f/1.4S」を使っています。

 

FE2、AI Nikkor 50mm f/1.4S

FE2、AI Nikkor 50mm f/1.4S

 

nichiiro:これはFE2で撮影して、はじめて現像した写真です。すごく好きな青色が出て、「またフィルムで撮りたい」と思うようになりました。

―一眼レフのフィルムカメラが写真にさらにはまるきっかけになったんですね。「フィルムのほうが出しやすい」というnichiiroさんの好きな色味をぜひ教えてください!

nichiiro:暖色とも寒色とも言えない中間の色味にこだわっています。ぱっと見て青!緑!という色がわかりやすい写真も好きなんですが、最近はナチュラルさを軸にしながら、でも「どこかいつもの日常とは少し違う雰囲気」を目指しているんです。感覚的なものなので、うまく説明できないんですが…。

 

写真で変わった日常、生まれたつながり - 写真家nichiiroさんインタビュー

「“記憶”ってこんな感じなんじゃないかな?」と思えるような写りが、お気に入りの1枚です。

 

nichiiro:フィルムと並行でデジタルはずっと使っていて、試行錯誤するうちにデジタルでもその色味を出せるようになってきました。少し落ち着いた雰囲気があって、心地よさを感じる色味です。

 

―nichiiroさんの写真を見て自分の記憶とリンクするのは、この色味が大きいのかもしれません。

フィルムのよさは撮ってもすぐにはわからないところ

―デジタルとフィルムの両方を使っていて、それぞれどんなところに魅力を感じますか?

nichiiro:フィルムは、ピントが合っているかどうか毎回すごく楽しみで! 狙い通りに撮れていなくても、「こういう残し方も悪くないんだ」と学べるのも魅力です。それに、わからないからこそ「ためらわずに撮ろう」と、自分にとって“撮ることへのハードル”が下がってくれていますね。

 

FE2、AI Nikkor 50mm f/1.4S

FE2、AI Nikkor 50mm f/1.4S

高い位置のミラーに自分も写りたくて、ノーファインダーでしたが手を伸ばしてシャッターを切ってみました。ちゃんと写るかわからないものを撮るのも、フィルムの楽しさの一つだと思います。

FE2、AI Nikkor 50mm f/1.4S

FE2、AI Nikkor 50mm f/1.4S

小さいですが、きれいな形の月と、まだ青色が残っている空との組み合わせが素敵で撮影しました。うまく写るか不安でしたが、想像以上にしっかり撮れていてうれしかったです!

 

―偶然性も楽しんでいるんですね! 一方で、デジタルのよさはどんなところに感じますか?

nichiiro:やっぱりその場で確認できることです。いい感じに撮れていたら気分も上がってきますし、友達と帰りに一緒に見返す時間も楽しいですよね!
それと、テーブルフォトを撮るときは基本デジタルです。配置を見ながら「ここがダメだな」「こうしたらもっといいかも」と考えながらできるので。

 

写真で変わった日常、生まれたつながり - 写真家nichiiroさんインタビュー

テーブルフォトは、コンビニスイーツや出来合いのホットケーキなどを撮ることが多いです。料理を作ったりはしないんですが、撮るのは好きですね。

 

nichiiro:使いわけはそれくらいです。機材に限らず、何気ない日常を撮るのが好きなんですが、その中でも「これはフィルムがいいな」って感じるときもあります。自分でも境界線ははっきりしていなくて、光や影だったり、そこに「何かが存在していた」ということを強く感じたときにフィルムで写したくなるのかな…と思いますね。

 

FE2、AI Nikkor 50mm f/1.4S

FE2、AI Nikkor 50mm f/1.4S

はっきりしていない輪郭と壁との色合いに惹かれてフィルムで撮りました。

FE2、AI Nikkor 50mm f/1.4S

FE2、AI Nikkor 50mm f/1.4S

まばらにいるハトたちと右下のハトの伸びた影が印象的でした。

写真は日々を変えてくれる、だから日常を残したい

―nichiiroさんにとって写真やカメラはどんな存在ですか?

nichiiro:自分の日々を変えてくれた存在です。写真をやっていなかったら、何となく淡々と日々を過ごしていたと思います。目の前の当たり前の光景に心動くこともなければ、今ある人とのつながりも絶対になかっただろうな…と。少し重いのかもしれないんですが、写真は“自分の命”みたいな、エネルギーみたいな、生きる上で欠かせないものです。

 

FE2、AI Nikkor 50mm f/1.4S

FE2、AI Nikkor 50mm f/1.4S

早朝の光でできた自分の影がきれいで、ピースしたらさらに好きな雰囲気になりました。少し落ちこんでいたときだったんですが、この瞬間を見つけて元気になったのを覚えています!

 

―生きがいになっているんですね! 日々その写真をSNSで発信することについては、どのようにお考えですか?

nichiiro:写真のよさを伝える上で、SNSは大切だと思っています。特にフィルム写真は、実生活の中で触れる機会ってなかなかありませんよね。だからSNSに投稿することは、フィルム写真を残すことにつながるんじゃないかなって。自分もSNSと深く関わって、いろんな人に写真へ興味を持ってもらいたいですね。個人的には、昔からある「フィルム写真」と新しい「SNS」が合わさって、「人の心に残るもの」が生まれるって素敵なことだなと思います。

ー写真の発信として、2019年に写真展も開かれましたね。これはどういうきっかけだったんですか?

nichiiro:以前、友達の展覧会で自分の写真を展示してもらう機会があって、みんなが集まって楽しそうに写真を見ている風景がいいなと感じたんです。そのとき、「自分の写真展をやろう」と決めました。ちょうど「nichiiro」と名乗るようになって1年がたつタイミングで、1年間で変化した自分の写真、日常に隠れている素敵な風景を見てもらいたいなって!

 

写真で変わった日常、生まれたつながり - 写真家nichiiroさんインタビュー

2019年9月に兵庫で開催した写真展。

 

―初写真展、やってみていかがでしたか?

nichiiro:実際に来てくれた人たち、「行きたかった」と言ってくれる人たちがいて、すごくうれしかったです。SNSでも写真は見られるのに、愛知や東京から兵庫まで来てくれた人もいて。写真をはじめた頃は、自分の写真のために実際に動いてくれる人がいるなんて想像もしていませんでした。続けてきてよかったと思えましたし、これからも続けようと励みになりました。

 

写真で変わった日常、生まれたつながり - 写真家nichiiroさんインタビュー

展示で並べた写真と差しこむ光の組み合わせが好きな光景でした。写真を印刷して形にするのはすごく楽しかったです。

写真で変わった日常、生まれたつながり - 写真家nichiiroさんインタビュー

展示作品の一つで、タンポポを写した写真です。

 

nichiiro:この展示ではカフェをお借りしたんですが、お客さんの中に小さいお子さんもいて…。展示の中のタンポポの綿毛のシルエット写真を見て、「妖精が踊ってるみたいだっ」と言ってくれたのがすごく印象的でした。自分にはなかった発想が新鮮でしたし、いろんな世代の方が写真を楽しんでくれているのがうれしかったです。見てくれる人への感謝の気持ちも含めて、また展示をしたくなりました!

―写真のモチベーションアップにもなったんですね。nichiiroさんはこれから、写真、カメラとどのように付き合っていきたいですか?

nichiiro:今は自分の好きなものを好きなように撮っているんですが、もっといろんな場所に出かけて、誰かが「そこに行ってみたい」と思えるような写真も撮っていきたいですね。あとは最近、デジタルカメラ用のマイクロレンズを買ったので、日常のさらに細部へ目を向けて“より小さな特別”を発掘するのも楽しみです!

 

写真で変わった日常、生まれたつながり - 写真家nichiiroさんインタビュー

雨の日に車の中から撮った写真。「マイクロレンズって、こんなに寄れるのか」と、めちゃくちゃ感動しました!

写真で変わった日常、生まれたつながり - 写真家nichiiroさんインタビュー
マイクロレンズで撮る少し引いた写真も好きです。寄り引きバランスよく写せるので、デジタルカメラには最近ずっとマイクロレンズをつけています。

 

nichiiro:それに、これからは“誰かのため”になる写真も撮っていきたいと思っています。具体的には人を、その人の地元で撮ることです。

仕事の都合などで地元から離れる人って多いじゃないですか? 「その人だけの記憶がある地元で写真に残すことで、思い入れが深まるし、新しい場所でがんばる気力にもなるんじゃないかな」と、この間友達がアドバイスしてくれたんです。きっとその写真を目にするたび、地元を思い出すことができますよね。自分の写真のテーマとしてぴったりな気がして、すごくワクワクしています。

写真には、まだまだ可能性があるなって!

 

写真で変わった日常、生まれたつながり - 写真家nichiiroさんインタビュー

 

 

Supported by L&MARK

nichiiro

nichiiro

大阪在住のフォトグラファー。日常をテーマに、スナップやテーブルフォトなど、誰にもでもあるありふれた日々の何気ない瞬間を写真に残している。2019年に写真展を開催するなど、積極的に写真活動を行う。