独学で写真を撮りはじめ、高校在学中に写真家として見出された、石田真澄さん(@8msmsm8)。愛おしさを覚える光や瞬間をとらえたフィルム写真には唯一無二の魅力があります。
『GINZA』をはじめとする雑誌や「カロリーメイト」「ソフトバンク」などの広告でも目覚ましい活躍をしている石田さんは、同世代の多くのフォトグラファーからも支持を得ており、NICO STOPでおなじみのフォトグラファーFujikawa hinanoさん(@nanono1282)も石田さんの作品が好きだという1人。
大塚製薬「カロリーメイト」2018年夏季キャンペーン『部活メイト』
今回はhinanoさんをインタビュアーに迎え、撮影者の視点で5つのキーワードを軸にお聞きしました。
- フィルムで記録する日々
- 光を追い求める
- 独学で進んできた写真の道
- 広告・雑誌での撮影
- 写真への揺らがない想い
キーワード1「フィルムで記録する日々」
「忘れたくない」
だから撮ったものは全部覚えている
hinano:私は3年前に、渋谷駅地下に貼り出された「カロリーメイト」の広告『部活メイト』を見たときにすごく衝撃を受けて、石田さんとずっとお話ししてみたいと思っていたんです!
石田:うれしいです!
hinano:お仕事については後ほど改めてお聞きしたいのですが、まずは写真をはじめたきっかけから教えていただけますか?
石田:中学校に入ったときに、はじめてガラケーを持ったのがきっかけです。それまでは使い切りフィルムカメラやデジカメで、修学旅行や体育祭といったイベントごとに撮るくらいで。毎日撮れるようになったのがとても楽しかったんです!
hinano:その当時はどんなものを撮っていたんですか?
石田:最初は景色や食べ物といった、今みなさんがスマホで撮るような、いわゆる日常を撮っていました。それが変わったのは、高校に入ってからです。
中高一貫の学校だったので、高校に入った時点で「もうあと半分しかないんだ」と思ったんです。1クラスだけでクラスメイトがずっと同じだったこともあって、「もう最後の文化祭…最後の体育祭…」「終わっちゃうのが悲しい」と感じて、そのときから撮るようになりました。
hinano:高校生の頃に撮られた写真を拝見すると、走っていたり話していたり、「途中の写真」にすごく青春を感じていたのですが、長い関係性がある中で「もう終わっちゃう、撮っておかなきゃ」という感覚だったんですね。このときの撮影も携帯のカメラですか?
石田:校内では携帯を使ってはいけなかったので、最初の頃はデジカメで撮っていました。フィルムで撮るようになったのは、高校1年生のときに海外へ行くタイミングです。デジカメ以外にも何か持っていきたいと思っていたときに、昔使っていた使い切りフィルムカメラのことを思い出したんです。安くてすぐ入手できたので、買って持っていったのがきっかけですね。
滞在期間が短かったのと、使い方を思い出せなくて、実はフィルムではあまり撮れなかったんです。帰国後にそのまま学校に持っていって、フィルムでも撮るようになりました。
hinano:私もフィルムカメラをメインで撮っているのですが、フィルムメインにシフトした理由はありますか?
石田:見返したときに「何を撮ったか覚えてなかったけど、こんなの撮ってたんだ」というのも写真の楽しさだと思うのですが、私はフィルムで学校生活をはじめて撮ったときに36枚何を撮ったか全部覚えていたんです。「忘れたくない」「この瞬間が終わってほしくない」と思いながら撮っていたので、全部覚えていたのがうれしくて…。楽しいというより安心しました。
hinano:1枚1枚に強い想いが詰まっているんですね。
撮るときは、赴くままにたくさんシャッターを切るというより、「ここを撮りたい」という瞬間だけシャッターを切る感じですか?
石田:楽しくなると、ずっとシャッターを切っていますね(笑) それでも36枚全部覚えています。
hinano:それはすごいですね!
写真集『everything will flow』の中に書かれている「全部消えてしまうから残しておきたい」という言葉がすごく頭に残っているのですが、石田さんにとって写真は「記録」の意味が強いですか?
写真集『everything will flow』(TISSUE PAPERS、2019)
石田:その気持ちは、学生時代も今もずっと変わらないです。
「英単語帳」みたいに、今日見て…1週間後見て…1か月後にチェックする感じ。そうやって期間をあけて確認すると、記憶が濃くなっていく気がして。
石田:この写真は高校で撮ったものですが、よくサプライズで紙吹雪を持ってくるようなクラスだったんです。ロッカーに入れていたら中身が全部出ちゃって、それをテスト用紙でかき集めてる様子(笑) 何年も前の写真ですが、今見ても鮮明に覚えています。
hinano:フィルムは現像で少し間があくので、必然的にもう一回見直しますよね。
石田:そうなんです! 撮ったきりにならないのが自分にちょうどよかったんです。友達を撮って記録するのにちょうどよくて、楽しさや安心感があってフィルムで撮っています。
キーワード2「光を追い求める」
人に言われるまで
「好き」だと気づかないくらい、
無意識に光を追っていた
hinano:石田さんが撮る「光」にはいろんな種類の表情があって、とらえ方が素敵だなと常々思っていました。写真を撮る人はみんな光好きだと思いますが、何よりも「光」に注目をしているんですか?
石田:昔から光を撮るのがすごく好きです! …でも、最初のうちは意識していなくて。
大学入学後すぐに写真展をした際に、見に来てくださった方から「光を撮るのが好きなんだね」と言われて、そのときはじめて自覚しました。
hinano:本能的に光を追っていたんですね!
人によって「順光でパッキリするのが好き」「ゴーストやフレアが好き」…と、好きな光の種類があると思うのですが、石田さんはいかがですか?
石田:いろいろ好きで…、シャワーみたいに真上から差す光も好きですし、透明なグラスやペットボトルに当たる光、水面に反射する光や水を透過する光も好きです。いい光があるとずっと見ています。
『メトロミニッツ』2018年11月号より(モデル:村上虹郎)
石田:人を撮るときも、いい光があるとそっちを優先してしまうくらい!
仕事でも、「こういう表情をしてください」というより「こういう位置に光が当たってます」「この光の位置にいてください」とお願いするほうが多いです。俳優さんは光が見える方々なので、「光がどう当たっているか」を感じ取ってくださっていると、撮影していてとても楽しいです。
hinano:光がいいとテンションが上がる気持ちわかります! 今日もいい光ですよね…。
石田:「光を見てください」とお願いしますよね。すごくまぶしいと思うんですけど…実際やってみると、まぶしいですね(笑)
hinano:ちなみに、光がない日は撮らないですか?
石田:あまり気持ちが上がらないので 、撮る気分にならないですね。外に出るときも、晴れていなかったらカメラを持っていかないかもしれません。
hinano:やっぱり撮りたいのは「光」なんですね。
その瞬間瞬間の光を大事に、
光や色味には手を加えない
hinano:今回持ってきていただいた、光を写したお気に入り写真は室内が多かったのですが、お家でもよく撮られるんですね。
石田:昼間に家にいるときはよく撮っています。家の中には日中にいい光が入ったりして、外出しにくい今だからこそ「こんなにきれいなんだ」と気づけました。
hinano:すごくきれいな光ですね! カーテンで光を細めたり、自分で意図して光を作ることもありますか?
石田:意図的に光の状態を作ったりはしないです。これはカーテンの隙間から入る光で、そこにペットボトルを持っていきました。光はいじらないのですが、こういうのを重ねたら…というのは好きでよくやります。
hinano:その時々の光を大事にしているんですね。光として好きな季節や時間帯もあるんですか?
石田:夕方の色がついた光よりも、朝や日中の青白っぽい光が好きです。なので、日が長い夏のほうが撮りやすいですね。
hinano:「青」は、一貫してぶれずに「石田さんの色」だなと感じていました! 私は気分や季節で色も変わってしまうので…、写真を見たときに「石田さんの写真」とわかるのがすごいなと思っていたんです。
石田:本当ですか、うれしいです! そうありたいと思っていたので。でも、好きなものが変わるのはいいと思いますよ!
hinano:そう言っていただけるとありがたいです…!
私はフィルムを現像に出すときにオーダーもするのですが、石田さんは「この色味で」とオーダーしているんですか?
石田:オーダーも編集もほとんどしていなくて、お店におまかせで頼んで、本当に来たままです。
いろんなカメラを使って一つの仕事をすることもあって…。カメラごとに写りが違うので、仕上がりの色合いや質感によって、依頼するお店を変えています。お店ごとの質感がどのように違うかを気にしていて、今でも新規開拓していますよ。
hinano:お店によって仕上がりがかなり違うので、いろいろ試されているんですね。
カメラを使いわけているとのことですが、今はどんなカメラをお使いなんですか?
石田:仕事にはNikon F3などの一眼レフ、スナップにはコンパクトフィルムをよく使います。F3は「一眼がほしい」と思って買ったうちの1台で、シンプルで使い勝手が一番よくてずっと使っています。
石田:それと、写りも好きです 。光が鮮明すぎず、光の粒の具合がちょうどいいと思っていて。
石田:カメラによって光の写りが違って、荒く出るのも好きですし、細かい線になるのも好きですし、その時々で使いわけています。
hinano:フィルムを現像に出すお店を変えるのもそうですが、光へのこだわりを強く感じました!
石田:でもまだ全然で…、これからもっと光のことがわかってくるのかなと思います。
キーワード3「独学で進んできた写真の道」
「雑誌や広告を作りたい」
その想いが今の写真につながる
hinano:石田さんは、写真の専門学校に行かれたわけではなく、独学で写真を撮られているんですか?
石田:そうです。写真家の方もあまり詳しくなかったですし、参考にする人も特にはいなくて…。なので、フィルムを変えてみたり、カメラを変えてみたり、場所を変えてみたり、トライ&エラーの連続でした。
hinano:2018年に初の写真集『light years -光年-』を出版されたのが、その後の写真の仕事に大きくつながったと思うのですが、どういったきっかけで作ることになったんですか?
石田:当時、高校で撮った写真はInstagramにアップしているくらいでしたが、写真を見た編集者の方から連絡をいただき、お会いすることになって。一度その方にインタビューをしていただいて、同時並行で写真集を作ることになりました。
写真集『light years -光年-』(TISSUE PAPERS、2018)
hinano:高校の写真はかなり枚数があったと思いますが、どのようにセレクトをしていったんですか?
石田:実は、写真を全部編集者にお渡ししたんです。
2冊目の写真集を作ったときもそうでしたが、自分の写真はどれも平等に好きなので、冷静な目線で見比べることができません。写真集の編集をお願いしている編集者の方には「セレクトからおまかせしても大丈夫」という気持ちがあったので、すべての写真をお渡ししました。
hinano:理解してくれる方との出会いは大きいですよね。
写真集としては、第三者がまとめたものを見ると、写真の見え方も変わりますか?
石田: 変わりますね。組み方で印象が全然違うんだなって。友達や学校での楽しい瞬間だけで構成もできたと思うのですが、この写真集では「二度と戻らない時間」と「光年」が紐づいていて、抽象的な写真が織りこまれているんです。
写真集『light years -光年-』より
石田:そうすることで他の写真が引き立ちますし、楽しい瞬間が連続しないので、いい意味で温度が上がりすぎないんだなって。
写真集『light years -光年-』より
hinano:高校生が撮った「青春」というより、温度や生っぽさを感じるのはそういうところかもしれませんね。この写真集を出版した後は、写真を仕事にしていこうと思われたんですか?
石田:写真集を出す前、高校1~2年の頃までは写真家になりたいと思っていたのですが、周囲にそういう人もいなかったので誰にも言わず、「さすがになれないだろう」と1人でさっと諦めて大学を受験しようと思っていました。
大学に進学してなりたかったのは、編集者か広告代理店のプランナーです。雑誌や広告が昔から本当に好きだったのですが、仕事も想像上のものでしかなくて、知り合いもいなかったですし、「編集者やプランナーじゃないとページやビジュアルのイメージは作れない」と思いこんでいたんです。
hinano:実際に、雑誌や広告の仕事をしてみていかがでしたか?
石田:写真集の出版や最初に言っていただいた「カロリーメイト」の2018年の広告『部活メイト』を機に、いろんなお仕事をいただくようになったのですが、フォトグラファーとしていざ参加してみると、自分の意見ももちろん伝えなければいけないですし、その上で他のスタッフの方と話し合い、作ることができているので、「やってみたいと思っていたことができている」と感じています。
大塚製薬「カロリーメイト」2018年夏季キャンペーン『部活メイト』
hinano:結果的に、写真も雑誌や広告も、好きだったものが今できている状態なんですね!
石田:はい、 特に雑誌の『GINZA』が好きだったので依頼が来たときはうれしかったですね。
hinano:仕事では自分の意見が言えないことや、意見がわかれることもあると思うのですが、そういうときはどうされるんですか?
石田:自分とは違う意見が出たとしても、まずは一度試してみようと思って取り組んでいます。
でもそれは、その人が「いい」と思ったことを「信じてみよう」「一回やってみよう」と思える方々と出会えているからなんですが…。
hinano:そうじゃない場合も?
石田:写真の希望レイアウトを事前に提出するときもありますし、時と場合によって対応の仕方を変えています。
撮るときも思い通りの環境とは限りませんし…。それでも仕上がった「写真」には作る側の環境は関係ないので、仕上がりがいいものになることを第一に考えています。
プライベートと100%同じ感覚で撮ることは難しいですが、できる限り「同じようにありたい」と思っていて。そういうテンションになるように、光を探したり、きれいだなと思う瞬間を探して…。自分が「好きだな」「楽しいな」という撮影に持っていけるようにしています。
hinano:考え方がすごくかっこいいですね! だから、どんなシチュエーションでも石田さんの写真だとわかるんでしょうね。
キーワード4「広告・雑誌での撮影」
はじめての広告で追求できた、
自分の好きな光
hinano:先ほども話に挙がりましたが、私が石田さんの写真ですごく印象に残っているのが、渋谷駅地下の壁一面に貼られた「カロリーメイト」の2018年の広告『部活メイト』です。当時は、私自身写真をはじめたての頃だったんですけど、「うわっ、なんだこれ!」「めちゃめちゃいい!」と思わず立ち止まってしまったんです。
大塚製薬「カロリーメイト」2018年夏季キャンペーン『部活メイト』(矢印をタップすると、30競技すべての広告ビジュアルをご覧いただけます)
石田:うれしいです!!
hinano:もともと駅の広告が好きだったのですが、作りこまれた世界観のものが多い中で、『部活メイト』は「今まで見た広告と違う」と思って1枚1枚じっくり見たんです。部活に励む、その人たちの関係性がすごく伝わってきて、「なんでこんなに刺さるんだろう」って…。
写っているのは、実際の学生さんなんですか?
石田:そうです。30競技ありまして、候補の学生さんの映像をすべて見て、オーディションで決めていきました。でも場所は、学生さんが通う学校とは違うところもあって…。
hinano:違うんですね! 空気感を含めてあまりに自然だったので、いつも部活をしている場所だと思っていました。
石田:学生さんが通う学校では撮影許可が下りない、現代的すぎる、古すぎる、といろいろな課題がありまして。撮影イメージに合った場所を探すために、ロケハンを重ねました。
hinano:30競技全部ですか…! 一つずつ「この時間、この光で撮ろう」と決めて?
大塚製薬「カロリーメイト」2018年夏季キャンペーン『部活メイト』
石田:このなぎなた部の撮影では光のいい体育館を見つけて、「なぎなた部はこの場所の光で」と決めました。体育館の中に入る斜めの光がすごく好きだったので、立ち位置を指定して撮影しました。
hinano:2人の関係性がちゃんと生きているのが伝わってきます! 「自然に楽しんでる状況」は撮るときにどう引き出されるんですか?
石田:実は、あまり話しかけないんです。他の方の撮影現場に行ったことがないので知らなかったのですが、私は全然しゃべらないみたいで…。静かに撮っています。
私自身、 急に距離を縮めるのが苦手で。相手側に拒否反応が起きることが一番よくないので、無理につめようとはしません。
hinano:話しかけないのは意外でした…。でも、無理につめると空気感も不自然になりますよね。距離感はつめずに、どういうことを意識して自然な雰囲気を引き出すんでしょうか?
石田:何かをやってもらうことが多いです。このときは、ずっとしゃべってもらったり、変顔をしてもらっていました。使えないカットも結構ありましたね(笑)
hinano:そうやって引き出されているんですね!
大塚製薬「カロリーメイト」2018年夏季キャンペーン『部活メイト』
hinano:広告の撮影では、なかなかご自身の意見を反映するのも難しいと思いますが、この制作ではいかがでしたか?
石田:当時19歳で広告は未経験だったのですが、「作品」を見て、候補の1人としてお声がけいただきました。
「作品」から声をかけていただいたこともあり、撮影のときに「石田さんは光が好きだから太陽を待とう」「この光好きでしょ」と言っていただくこともありました。お互いに「どういうものを作りたい」や「好き」をこんなに理解し合えるお仕事はなかなかありません。
大塚製薬「カロリーメイト」2018年夏季キャンペーン『部活メイト』
hinano:素敵なチームワークですね!
この広告が、渋谷の中にあるのがめちゃめちゃかっこよくて…。それを見た人たちはきっと、学生の頃に部活に励んだり、応援したり、昔の記憶に何かしら引っかかったと思います。
石田:朝早かったり、毎日ロケでずっと回ったり。大変でしたが、すごく充実していました。私自身楽しめましたし、日常を撮るときと同じように「楽しい瞬間」を記録できたと思います。
チームでなければできない
120%の作品作り
hinano:広告だけでなく、雑誌の撮影も多いと思いますが、こちらもチームで撮られるんですか?
石田さんが撮る雑誌やファッションの写真は、いつもモデルさん自身が楽しそうだなと思っていて、ぜひ裏側をお聞きしたいです!
石田:ファッション誌は特にそうで、スタイリストさんと一緒に考えることが多いです。
石田真澄さんが『GINZA』2020年3月号で撮影を担当した記事(©マガジンハウス)
石田:私の場合は「服を見せる」撮影よりも「人」にも同じくらい焦点が当たった撮影のほうが多いのですが、『GINZA』で杉咲花さんを撮ったときは、「“ひとり遊びが得意な、家に1人でいる女の子”というイメージにしたい」とスタイリストさんと編集者と私とでずっと話をしていて。屋上でシャボン玉で遊んだり、トランプをまいたり、紙飛行機で遊んでる…という設定でした。
撮影中はあまり話しかけないのですが、「小道具を持って遊んでみてください」と最初にお願いして、動きの中で好きだなと思える瞬間を撮影していったんです。
hinano:チームでイメージを作っていくと、1人だけでは思い浮かばなかった発想も出てきますよね!
石田:スタイリストさんや編集者が入ったときに相乗効果がすごくあって、みんなの「いいよね」が一致したとき、1人ではできなかった「120%のもの」が出来上がるんです。
メイクを足してみる/引いてみる、衣装を変えてみる…をその場でどんどんやっていくのも楽しいですし、出来上がりを見たときに「スクラップしたくなるようなページになったね」とみんなで言い合うときは「いいものができた」と思える瞬間です。
キーワード5「写真への揺らがない想い」
いい写真とは
「写っている以外のものも思い出せる」
見返したくなる写真
hinano:プライベートで撮る写真に関しては、映画や音楽など、何かからインスピレーションを受けることはありますか?
石田:観たり聴いたりはしますが、創作物から写真の参考にというのはないですね。
「こういう光が見たい」と思うときは、自然に触れるために旅行に行くことが多いです。湖や湧き水…水のある場所が好きですね。「ここきれいそうだな」と場所をチェックして行くんですけど、最近行ってよかったのは富士山の近くにある忍野八海です。すごくきれいで「帰りたくない」と思いました。
自然豊かな場所に行ったときに、「こういうところで撮りたい」「こういう光を撮りたい」と撮影意欲が湧いてくるんです。
hinano:そこで湧いたインスピレーションが、石田さんの写真に生きているんですね。
創作物から影響はあまり受けないとのことでしたが、他の方の写真から影響を受けることはありますか?
濱田祐史『photograph』(lemon books)
石田:純粋に「この写真が好き」「この写真集が好き」というのはありますね。特に好きなのは濱田祐史さんの『photograph』という写真集です。
hinano:光の線がすごくきれいです。
石田:ライブ会場でスモークを焚くのがいい例ですが、煙の中だと光の線が見えるようになります。見たいし撮りたいのに撮れない…そういうものを撮っている。「この写真がほしいな」と思ったんです。参考にして自分でもやってみたいというより、とらえ方や写真自体がすごく素敵だと感じました。
hinano:他の方の写真についてそのように見ていらっしゃるんですね。
ご自身の写真について、仕事やプライベートで今後やりたいことはありますか?
石田:好きな雑誌や広告を続けていきたいのはもちろんですが、展示をやりたいですね。それと、今は難しいですけど、いろんなところに旅に行きたいです!
hinano:早く旅行できるようになるといいですよね。石田さんの旅の写真ぜひ見たいです…。
ちなみに、映像はやってみたいと思いますか?
石田:私はコンテが描けないんですよ。事前に「こういうのが撮りたい」というのを共有できなくて…。映像は尺があり、流れを考えることが重要なのかなと思っているので、向いていないと感じてしまいます。写真は、事前にイメージを考えることはできるのですが…。
hinano:映像は、感性の部分では似ている一面もあると思うのですが、細かい設計図が必要になる場合もあるので、写真とは別物ですよね。
hinano:石田さんにとって、見て感じたものを記録する意味でも「写真」が一番しっくりくるかと思いますが、「いい写真」はどういう写真だと思いますか?
石田:そうですね…写真の前後をすぐ思い出せることですかね。
石田:これは高校の調理実習でサンドイッチを作ったときの写真なんですが、誰かがハムをカットする道具を持ってきていて、友達の班のものを撮ったんですよ。すごく懐かしい(笑)
このとき「どこにいて」「こういう話をして」「誰といた」と、写っている以外のことも思い出せたり話せたりする。1枚の写真からいろいろ話が広がるのが「いい写真だな」って思います。
hinano:言葉で表すのは難しいと思うのですが、そういう写真を撮るにはどういうことを意識すればよいと思いますか?
石田:私は写真を撮ることで「自分が好きなもの」が明確になったと思っています。
1冊目の写真集を作ったときのデザイナーさんに、「石田さんは、目の前の光や食べ物…好きなものを平等に見ている」と言われたのがすごくうれしかったんです。そうありたいと思っているし、「自分の撮りたいもの」「愛おしいと思うもの」が見返せるのも写真ですし。「好きな瞬間」や「楽しい瞬間」しか撮らないからこそ、自分の写真を見返していいなって感じます。
なので、「見返したいと思える写真」が撮れたら、それは「いい写真」だと思います。
石田:自分が「何を撮るのが好き」かわからない場合でも、「楽しいと思える瞬間に撮って、その写真を見返す」を繰り返すと、「自分の好き」がわかってくるんじゃないかなと。
hinano:特にフィルムは枚数が限られていて、シャッターを切る回数自体が限られているので、写真1枚1枚により記憶が残りやすいのかもしれませんね。
石田:そう思います!
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After the interview
…この日はあまりにも光がきれいだったので、インタビュー後に石田さんをモデルにhinanoさんが撮影。お互いにいい光にテンションが上がり、同じ写真好きとして好みの光やとらえ方について盛り上がっていました!
インタビュー&撮影:Fujikawa hinano
Supported by L&MARK
石田真澄
2017年に初の個展「GINGER ALE」を開催し、2018年に初写真集『light years -光年-』を刊行。写真集発表後、さまざまな雑誌媒体にて活動。ドラマや映画のスチール撮影でも幅広く活躍中。大塚製薬の「カロリーメイト」2018年夏季キャンペーン『部活メイト』やソフトバンクの2019年広告「しばられるな」シリーズ卒業編など、広告撮影も手がけている。
Fujikawa hinano
Instagramで作品を投稿。グループ展やメディア執筆など、幅広く活動中。「日常と非日常の中にある曖昧さ、そして感情を丁寧に表現したいと思っています」