家族を撮り続ける写真家 浅田政志さんインタビュー – 家族は奇跡。ありふれた日々にこそ価値がある

家族を撮り続ける写真家 浅田政志さんインタビュー‐家族は奇跡。ありふれた日々にこそ価値がある

自身の家族がさまざまな職業やシチュエーションになりきる姿を写した作品「浅田家」で、新しい家族写真の形を世に送り出した、写真家・浅田政志さん(@asadamasashi)。

4人でスタートした「浅田家」シリーズは今では9人となり、また自身の子供を撮影した写真集『浅田撮影局 まんねん』を出版するなど、常に家族写真の形を進化させています。

 

家族を撮り続ける写真家 浅田政志さんインタビュー‐家族は奇跡。ありふれた日々にこそ価値がある
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家族を撮り続ける写真家 浅田政志さんインタビュー‐家族は奇跡。ありふれた日々にこそ価値がある

浅田さん本人も入り、家族でさまざまなシチュエーションになりきる「浅田家」シリーズ。

 

2020年には、写真集『浅田家』と震災時の写真洗浄活動を取材した『アルバムのチカラ』が原案の映画『浅田家!』が公開され、さらに注目を集める浅田さんに、家族写真に対する想いや写真を形として残すことの大切さについてお聞きしました。

「家族写真」作品の原点は父親の年賀状撮影

―セットアップ写真のような作りこまれた家族写真が、とてもおもしろいですね! この写真を撮りはじめたきっかけは何だったのでしょうか?

 

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浅田:大阪の写真専門学校に通っていたとき、「1枚で自分を表現する」という課題がきっかけです。それまでは組写真を発表することが多かったので、1枚で完結させなきゃいけないことにけっこう悩んでいて…。その中で、「もし一生に1枚しか写真が撮れなかったら」という発想が生まれたんです。「それなら僕は家族を撮りたい」とすぐに思い浮かびました。

みなさんも考えてみてもらえると、おもしろいんじゃないかなと思います。一生に1枚で「野良猫を撮りたい」とはならないですよね。きっと「身近なもの」になると思いますよ。家族なのか、親友なのか、一番好きな人なのか…。一番好きな風景という方もいるかもしれません。

―浅田さんは「家族」がすぐ思い浮かんだとのことですが、それまでにも家族写真は撮られていたんですか?

浅田:いいえ、当時はかっこいい写真や誰も見たことがないような写真を目指していたので、いつでも撮れる家族写真には興味がありませんでした。「一生に1枚の家族写真」を考えたときも、家の前やリビングにただ並んで撮るだけじゃつまらないから、自分たちらしい思い出を再現してみることにしたんです。

 

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3人がケガをして母親の働く病院で治療を受けた日のことを再現した、「浅田家」シリーズ最初の1枚。

 

浅田:それがこの写真です。僕が一番印象に残っている、父と兄と3人でケガをした日のことを再現するため、母に頼んで職場の病院を使わせてもらいました。「一生に1枚」を表現するには、自分も入るべきだと思ったので、ここから自分を含めた家族全員で撮るシリーズがはじまったわけです。

―周囲の反響はいかがでしたか?

浅田:この作品を学校で発表したらまわりがすごく興味を示してくれて、手応えを感じましたね。「それまで撮りたいとも思わなかったもの」で評価されたというギャップが大きくて、家族写真を撮ることにハマっていきました。

 

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写真専門学校卒業後は、「過去の出来事」から「あるかもしれない未来」にシフトし、さまざまな職業やシチュエーションを演じた作品に。

 

―シーンを作り上げて撮影する写真は、それ以前も撮られていたんですか?

浅田:実は写真をはじめた頃から、こういうスタイルでした。

写真は中学3年生ぐらいに、父のフィルムカメラ・ニコンFEで撮りはじめました。その頃から「何気ない瞬間を撮る」というより、場所や服装・ポーズを自分で決めて、友達をモデルにして撮るのが好きでしたね。当時流行っていた古着を着てファッションっぽく撮ったり、夜に友達と洋風の墓場に行って黒いマントを着てもらって撮ったり(笑)

この撮り方は、よくよく考えてみると父の影響が少なからずあるんじゃないかなと思います。

 

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浅田:僕が生まれてから毎年、父が年賀状用に兄弟や家族の写真を、地元の名所で撮るという恒例行事があって…。兄とおそろいの服を着せられて「肩組んで」「手つないで」って、セットアップに近い感じだったんです。だから自分が撮るときにも、そういう考え方が自然に芽生えていきました。

―小さい頃の家族の習慣が、今に生きているんですね!

 

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早朝に起こされ、眠い中で朝日をバックに撮られた特に思い出深い年賀状。

毎年恒例の「浅田家」撮影が、実は一番難しい

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―浅田さんご自身やお兄さんに新しい家族ができて、どんどん進化している「浅田家」ですが、今はどのくらいの頻度で撮影されているんですか?

浅田:年に1回で、浅田家の年賀状にもなっています!

最初は三重県内で撮影していたんですが、どんどん形を変えていきたかったので、僕の奥さんが加わったタイミングで「全国バージョン」になりました。いろんな県に行って、その場所らしいものを1枚撮って帰ってくるというものです。

 

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浅田さんの奥さんが加わったタイミングでスタートした「全国バージョン」。スタートは地元・三重県から。

 

―みなさん完璧になりきっていて、おもしろいですね!

浅田:でも、シーンを作りこむことよりも、「どうやったら自然に見せられるか」に力を入れています。1~2時間かけて30枚…40枚と撮って、より自然な1枚を目指すんです。「本当にそういう家族がいるかもしれない」と思えるくらい、生き生きとした様子を写真にする…そこが僕の腕の見せどころです。

 

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―撮影のアイデアはすべて浅田さんが考えているんですか?

浅田:大枠は僕が決めて、事前に家族とLINEでやり取りしたり、現場で話して決めていきますね。頭の中で考えたことが100%いいとは限らなくて、当日の天気や家族のテンションにもよりますし。イメージよりいいものを撮るために、まずは予定通りにやってみて、そこからはヒラメキで予定からどんどん変えていきます。

 

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鳥取砂丘では写真家・植田正治の作品をオマージュ。さらに、鳥取県出身の作者にちなんで『名探偵コナン』の眼鏡と蝶ネクタイ、『ゲゲゲの鬼太郎』のちゃんちゃんこを着ています。

 

浅田:1年中仕事でいろんな撮影をしていますけど、実はこの年1回の撮影が一番難しいんですよ。仕事では時間・場所・カット数などいろんな制限がある中で「何ができるか」を考える作業になるんですけど、家族写真はどこに行っても何を撮ってもいいわけですから。

 

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静岡県のお茶畑で、令和元年にちなんで「令和」湯飲みでお茶を飲む子供たち。背景に富士山、手前にバイク、みかん、サッカーと静岡ならではのものが詰まっています。

 

浅田:自由な分、すべて自分で何とかしなきゃいけないんです。自分で撮影地に交渉しますし、家族だけなので撮影を手伝ってくれる人はいないので。だからこそ、「自分が試される」というか「修行の場」ですね。手間のかかるフィルムで撮り続けているのもその理由からです。

―想像以上にストイックな撮影なんですね。

浅田:仕事で、デジタルで撮影するときも「浅田家」で撮ったものが基本になっていて、「あのときこうしたらよかったな」と思ったことがいろんなところで生きています。家族写真をフィルムで撮ることは、「本当におもしろいもの」が撮れているのか…1年に1回自分を見つめなおす機会にもなっているんです。

―そういったプロセスを経て撮られた家族写真で、見る人にどういったことを伝えたいですか?

浅田:僕の家族写真を通して、みなさんの写真を思い返してもらいたいというのが一番です。写真は批評性や共感できる部分があるからこそ「作品」になると思います。「うちの家族だったらこう撮りたいな」「家族で撮影会をしてみようかな」「家族の写真を見返してみようかな」と、僕の写真がそういったことを考えるきっかけになってくれたらうれしいです!

「家族」は奇跡の連続でできている

―写真集『浅田家』を出版した後に、全国の家族を撮影する活動をはじめられていますが、どのように撮られるんですか?

※現在は不定期の募集です。

 

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浅田:応募されたお宅に必ず事前に打ち合わせに行ってどんな写真にするかを決めて、当日撮影した写真の中から1枚だけを額装してお渡しする…という取り組みです。打ち合わせではそれぞれの「家族らしさ」を知る必要があるんですが、自分たちの家族らしさを説明するのって難しいんですよね。そこで活躍するのがアルバムです。アルバムの中には家族を象徴する写真があるので、それを見ながらイメージを探っていきます。

 

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―このアフロの写真も、アルバムにヒントがあったんでしょうか?

浅田:このご家族のアルバムをめくったときに、アフロをかぶった写真がいっぱいあったんですよ! 聞くと「3姉妹が小さい頃にお父さんが用意して、正月に姉妹で楽しくかぶった」という思い出があって。ユニークで素敵な話だなと思ったので、アフロ姿で撮ることにしたんです。昔は毎年飾っていたというひな人形を十数年ぶりに出して、撮る場所も家の中で一番好きだという縁側にしました。

―楽しそうな衣装なのに、神妙な表情なのが気になりました。

浅田:ピンクのアフロの方がもうすぐ結婚するということで、撮影の最後に「サプライズで手紙を読むこと」を提案したんです。ご家族にとって、これまでの出来事を振り返ったり、打ち合わせを含めた撮影自体が思い出になるような写真を目指しています。

―1枚の中にいろんなストーリーが詰まっているんですね。下の写真は対照的に笑顔がとても素敵ですが、いい表情を引き出すためにどんなことをされていますか?

 

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浅田:笑わせるの、めっちゃ不得意なんです(笑)

―それは意外です!

浅田:笑わせるのが得意だったら、ピエロのようにふざけて僕を見て笑っている写真を撮ることができたかもしれません。でも、そういうことが得意じゃないからこそ、ご家族の中から笑いが生まれるように工夫していきました。この写真はみんなで食卓を囲んでいるシーンなんですけど、一番小さなお子さんに「いただきます」を言ってもらったんです。すると、自然とまわりが笑顔になるんですよ。そういう、ご家族の中から生まれる表情を大切にしています。

―だからみなさん、自然ないい表情をされているんですね!

 

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―ご自身の家族はもちろん、いろんな家族を撮影する中で、「家族」の存在について考えることはありますか?

浅田:「同じ家族はいない」ってよく耳にする言葉ですが、本当にそうだなと実感しました。だからこそ家族写真は1枚ずつ違う写真になるし、どういう写真になるのか撮るときすごく楽しみなんです。

 

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浅田:家族って不思議ですよね。他人同士が惹かれ合って、家族を築いて一生過ごしていくわけですから。たくさんの人たちによって今の家族が構成されて、そのうちの1人でもいなかったら、きっと僕は「僕」として生まれていないんです。そうやって考えると、今の家族を撮れることって、ものすごい奇跡だと思いませんか?

―あらためて考えてみると、すごい確率で今の自分がいるんですね!

何気ない写真の価値がわかるとき

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―2020年4月からの緊急事態宣言中は、ご自宅で撮った家族写真をInstagramで公開されていましたが、どんな心境で撮影されたんでしょうか?

浅田:新型コロナで仕事がなくなってずっと家にいたんですけど、「こんなに家族といることってないな」と思って撮りはじめました。緊急事態宣言が出なかったら、きっと撮らなかったですね。

 

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緊急事態宣言中に撮影された「#家族写真おうち編」。

 

―このときのシチュエーション決めも浅田さんが?

浅田:いえ、ほぼ息子と奥さんで、特に息子が考えたのが多いです。家の中にあるもので工夫して、何ができるか考えていました。毎日何もすることがない中で、「明日は何を撮ろう」「今日はいいのが撮れたな」って、一日一日の目標にもなっていきましたね。

この写真を息子が大きくなってから見て、大変な時期でも写真でポジティブに転換できるようなイメージだったり、家族でいることの大切さが伝わればいいなと思います。

 

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―ご自宅で家族を撮影するのははじめてだったそうですが、新しい気づきはありましたか?

浅田:みなさんも、旅先やきれいな景色に比べて、家の中はなかなか撮らないと思います。でも、いつもくつろぐソファや食事をするテーブルに、実は一番思い出があるはずなんです。散らかっていたり、当たり前すぎて「いつでもいいや」と思ったりして、本当は一番いい写真になるはずなのに撮らないんですよね。そのことに気づけた機会でもありました。

 

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外出自粛期間中に最初に撮影された、いつも家で過ごすソファに定位置で並んだ写真。浅田さんにとって最も家族らしい1枚。

 

浅田:コンパクトフィルムカメラに36枚撮りのフィルムを入れて、記録として毎日1枚撮ることを7年前から続けているんですけど、寝る直前に思い出して家の天井や玄関を慌てて撮ったりしています(笑)

なかなか玄関って撮らないじゃないですか? でも、玄関には「そこから何年間も通った」という思い出があるんです。家族が普段過ごす場所にこそ記憶が詰まっていて、後で見返したときにぐっとくるものがあるので、みなさんにも家の中ををぜひ撮ってもらいたいですね。

 

家族を撮り続ける写真家 浅田政志さんインタビュー – 家族は奇跡。ありふれた日々にこそ価値がある
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コンパクトフィルムカメラで家の中を撮影した写真。

 

―確かに家の中で生活感のあるものはなかなか撮らないです。SNSに投稿することがセットになっていると、人に見られることを意識しますからね。

浅田:今は「シェアしたい」という理由で撮る部分もあると思うんですけど、写真は基本的に「将来見返すために残すもの」ですよね。今は整理できていない気持ちに、10年後20年後に写真を通じて気づけることもあるんじゃないかなと思います。

写真は動かないし変わらないけど、自分の状況や環境によって見え方が変わる。例えば、結婚式でスライドショーを作るとき、誰かが亡くなったとき、予期せぬ災害に遭遇したとき…。そんなときに、何気ない写真の価値がわかる瞬間があるんです。

―浅田さんは、震災の津波で泥だらけになった写真を洗浄するボランティアに参加されていたそうですね。写真の価値を実感したのは、その活動が大きいですか?

 

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浅田:そうですね…。津波で家が流されて街が変わり果て、近しい人の安否がわからなかったり、先の見えない不安な日々が続く中で、「日常が写っている写真が見たい」「写真だけでも戻ってきてよかった」と写真が支えになっていることに驚きました。こんな非常事態においても、写真にできる役目があるんだと…。

それは誰かが撮った絶景写真ではなくて、みなさんが日々撮ってきた何気ない写真なんです。他人から見たらつまらないものかもしれないけど、その人にとっては何ものにも代えがたいものなんだと、「写真の力」を強く感じた経験でした。

写真を形に残す大切さを伝えたい

家族を撮り続ける写真家 浅田政志さんインタビュー – 家族は奇跡。ありふれた日々にこそ価値がある

 

―「写真は将来見返すために撮る」というお話がありましたが、浅田さん自身は家族の写真をどのように保管されているんですか?

浅田:すべてプリントしていますね。アルバムにしたり、お気に入りのものはフレームに入れて、並べて飾っています。家からヨットハーバーが近いんですけど、息子と行った海や初日の出、花火の写真を並べて、好きな写真に囲まれているんです。

 

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写真を飾っている浅田さんの自宅の様子。

 

―気軽に写真を撮る方が増えた一方で、デジタルカメラやスマホで撮った写真はデータのままということが多いですよね。

浅田:データのままだと写真が将来必要になったとき、古いスマホやハードディスクが見つかるかわからないし、データが読み取れる保証もないですよね。プリントならきっと保管場所は覚えているし、汚れてしまっても洗えばもとに戻る可能性があります。震災のときに「形に残すことの大切さ」を痛感したからこそ、プリントして残す意味を伝えていきたいです。

 

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―データをプリントするための第一歩に「セレクト作業」がありますが、浅田さんなりのコツはありますか?

浅田:運動会や旅行などに行ったらたくさん写真を撮ると思いますが、その後に10枚でいいのでお気に入りを選んでフォルダに入れる。そして、1年に1回そのフォルダからベスト30や10を選ぶ…ということをやってみてください。僕はセレクトの作業が一番好きで、「どんなふうに撮れたんだろう」ってワクワクします!

選んだ写真はプリントして、大きな缶に入れておくでもいいんです。そこからステップアップして、アルバムにしたり、額に入れて飾ってみたり。まずはセレクトして、プリントにすることが大切だと思います。スマホから作れるフォトブックサービスを利用するのもいいと思いますよ。

シャッターを切る人の数だけ「いい写真」がある

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―これまでいろいろな家族写真を撮影し、他の家族が撮った写真もたくさん見てきたと思います。浅田さんにとって「いい写真」とはどんなものですか?

浅田:僕にとっての「いい写真」は、モノクロで撮ったケガした様子を再現した写真ですね。家族写真のはじまりであり、今インタビューしてもらっているのもここからはじまったことだと思うので、大きなきっかけになった1枚です。

 

家族を撮り続ける写真家 浅田政志さんインタビュー – 家族は奇跡。ありふれた日々にこそ価値がある

 

浅田:「いい写真」って、撮る人によっていろいろありますよね。何気ない空の写真は、撮った人が何かを決意したときに見上げた景色かもしれない。自分にとっていい写真が人から見ていいとは限らないけど、それでいいと思うんです。

SNSでは「いいね」や「リツイート」の数が気になってしまうと思いますけど、「自分にとってそれがいい写真か」ということを大事にされたほうが、きっと写真が楽しくなりますよ。

―それを聞いて、すっと肩の力が抜けた気がします。もっと純粋に自分のいいと思った写真を撮りたいと思いました!

家族写真のさらなる可能性を求めて

―浅田さんは、今後こういう写真を撮りたい…というのはありますか?

浅田:先ほどお話しした「浅田家」全国バージョンは11県撮り終わっていて、あと36県なんです。つまり全国制覇するのは36年後、77歳のとき(笑) それだけ長い年月が入ると、家族写真の表現というか、作品としておもしろみが増すと思うので楽しみです!

 

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浅田:それに、最近の写真集では息子と父をそれぞれ撮りましたが、奥さんや母は手つかずなので、いつかしっかり撮りたいと思っています。

家族に関わるもので考えると、実家や地元を撮ったり、まだまだ挑戦したいことはたくさんありますね。家族写真にまつわるいろんなことを経験してみたいなと思っているので、家族にはこれからも「実験台」になってもらいます(笑)

 

 

※この記事は、2020年12月1日に取材したものです。

インタビュー写真:塩川雄也(@yuyashiokawa
Supported by L&MARK

 

 

 

浅田政志

浅田政志

三重県出身。2007年に写真家として独立。2009年、写真集『浅田家』で第34回木村伊兵衛写真賞を受賞。現在も「浅田家」シリーズの撮影を続けている。2020年には『浅田家』と『アルバムのチカラ』の2冊を原案とした映画『浅田家!』が公開。